【世界陸上】汗をかくほど冷却される?女子マラソン銅・パテルナインが頭に着けていた「Omius」の秘密

【“特許”という視点から見る世界陸上】気温30℃近くの中で行われた東京2025世界陸上の女子マラソンでは、レース前はノーマークだったウルグアイ代表のパテルナイン選手が銅メダルを獲得しましたが、彼女が頭に巻いていたバンダナのような冷却アイテム「Omius」の特許技術について解説します。※写真:ロイター/アフロ

連日熱戦が繰り広げられている東京2025世界陸上。実は選手の活躍の裏に「特許技術」が影響していることは、あまり知られていないかもしれません。

今回は9月14日に行われた「女子マラソン」にフォーカス。自身もフルマラソンを走るなど大の陸上好きである弁理士の筆者が、ある冷却アイテムの特許内容について解説します。

【「Omius」を着用して走った選手たち】

銅メダルを獲得した選手が身に着けていたもの

34年ぶりに東京で行われている2025世界陸上ですが、9月14日の早朝に女子マラソンが行われました。

スタートの7時30分時点で気温28℃、湿度82%という過酷な状況の中、日本代表の小林香菜選手が本当に素晴らしい走りで7位に入賞し、金メダルは最後の最後にすさまじいラストスパートを決めたケニア代表のジェプチルチル選手が獲得しました。

しかし、とても過酷な環境だったため、35km付近で3位を走っていたケニア代表のマサイ選手が、急に中央分離帯に座り込んで途中棄権するなど、30km過ぎのレース後半において有力選手の途中棄権や失速が相次ぎ、最終的には10名もの選手が途中棄権をしたというレースとなりました。

今回の東京2025世界陸上は気温30℃以上に達する日も多く、とりわけ長時間の屋外競技となるマラソンや競歩などの長距離種目は、暑熱対策が結果を大きく左右するといえます。女子マラソンでも、気温が上昇した後半には、上位選手らがずっと氷を手に持ちながら走る場面が見られました。

そのような厳しい暑さの中、ウルグアイ代表のパテルナイン選手が暑さをものともせず、レース後半でどんどん順位を上げて銅メダルを獲得したのは、大変驚きでした。

というのも、パテルナイン選手は出場選手全体の中でも持ちタイム(自己ベスト)は遅い方の選手で、スタート前までは全くのノーマーク選手だったからです。

そして、彼女はスタートからゴールまで終始、ヘアバンドのようなものを頭に巻いて走っていたのが印象的でした。

そのヘアバンドのようなものは、「Omius(オミウス)」という冷却アイテム。女子マラソンの翌日に行われた男子マラソンでも、最後の最後まで優勝を争い惜しくも銀メダルとなったドイツのペトロス選手も着用していました。

「Omius」を着用した選手が男女共にメダルを獲得したことから、「Omius」に高い冷却効果があると考えられますが、実際にはどのようなアイテムで、どういった冷却効果があるのでしょうか。

Omiusとはどのようなアイテムなのか

東京2025世界陸上・女子マラソン銅メダルのウルグアイ代表パテルナイン選手が着用していた、「Omius」の冷却ピース付きヘッドバンド ※画像:Omius 公式Webサイト

「Omius」が注目されるようになったのは、2024年に行われたパリ五輪の女子マラソンにおいて、オランダのハッサン選手がこれを着用して金メダルを獲得したのがきっかけです。

女子マラソンは8月に行われたため、パリでも比較的気温が高く25℃近くまで気温が上がるという状況でした。そうした中、オランダのハッサン選手が「Omius」を頭に巻いて暑さをものともせずに金メダルを獲得したことで、このアイテムの注目度が一気に高まりました。

これ以降、夏場のマラソン、競歩、トライアスロンといった屋外での長時間競技において、「Omius」を着用するトップアスリートが現れるようになりました。

今回の東京2025世界陸上はパリ五輪よりもさらに気温が高い状況でマラソンが行われることが予想されたため、おそらく複数の選手が「Omius」を着用してくるだろうと筆者は予想していましたが、実際に女子マラソンでも多くの選手が着用していました。

銅メダルのパテルナイン選手のみならず、有力選手としては、日本代表の佐藤早也伽選手、中国代表の3選手、ケニア代表のチェロノ選手らが使用していました。

また、女子マラソンの翌日に行われた男子マラソンでも、先述したように銀メダルを獲得したドイツ代表のペトロス選手や、そのほかにも複数名の選手が着用していました。

そうした「Omius」着用者のうち、とりわけパテルナイン選手が今回もたらした結果は驚きです。自己ベストが2時間27分9秒という、日本代表3選手の自己ベストよりも6分ほど遅く、出場選手全体の中でもどちらかといえば遅い方でありながら、気温が30℃近くまで上昇したレース後半に驚異的なペースで順位を上げ、一気に3位まで駆け上がって銅メダルを獲得しました。

後半これほど順位を上げることができたのは、「Omius」の冷却効果があったことが要因の1つではないかと、筆者は考えます。

また、「Omius」を着用していた日本代表の佐藤早也伽選手も、レース前半で先頭集団から脱落し、一時は30位近くを走っていましたが、後半ペースが落ちることなくどんどん順位を上げていき、最後は13位まで順位を上げてのフィニッシュでした。佐藤早也伽選手が後半あまりペースが落ちなかったのも、「Omius」の冷却効果が影響しているのではないかと考えます。

この高い冷却効果があると考えられる「Omius」は、実は「特許製品」なのですが、どのような技術によって冷却効果を実現しているのでしょうか。

Omiusの特許技術とその冷却原理

「Omius」はアメリカで特許(特許番号:US10820652B2)が取得されており、発明タイトルを日本語で端的に訳すと、「熱伝達の分野における有効な皮膚用冷却部品」となります。

実際のOmius製品と同じような図が、特許文献で次のように示されています(図1)。

図1:特許文献にあるOmiusのイメージ ※画像:Google Patents

この特許は、次のような冷却効果を有する技術です。

1:熱伝導性の高いグラファイトが使用されており、そのグラファイトに施した特別なコーティングにより、人体から出る汗などの水分の吸収と蒸発をすばやく行えるようにすることで、蒸発冷却によって着用部分を冷却することができる。

2:冷却ピースを皮膚に接触させることで、着用部分の熱を吸収して空気中に放出できる。汗をかくほど冷却される仕組みとなっており、特許文献の中でも、「着用者の汗の量が増えるほどに冷却速度が高まる」などと記載されています。

「Omius」は夏場のマラソンや競歩、トライアスロンなどの屋外競技のためのアイテムであり、特許文献の中でも想定する利用者として、2時間以上のマラソン競技や、7時間以上の自転車競技をする人が挙げられています。

また、汗をすばやく蒸発させることで冷却するため、皮膚に直接装着するヘアバンドのような使い方が最も効果的だと考えられます。実際に、パテルナイン選手やペトロス選手のいずれも額に冷却ピースが当たるように、直接頭に巻くように使用していました。

水を直接「Omius」にかけて蒸発冷却させることですばやく冷やしたり、額に当ててある冷却ピースを時折少し横にずらすことで、より効果的に熱を吸収したりするといった使い方ができます。

昨今、地球温暖化などの影響により、世界全体でも暑い時期が長くなっているため、今後、夏場の屋外競技ではこのような冷却アイテムの重要性が増していくでしょう。

今後、どのような冷却アイテムが出てくるのか、そういった点にも注目して夏のスポーツを見てみると、また楽しみ方が広がるかもしれません。

▼藤枝 秀幸プロフィール

大手IT企業などでSEとしてシステム開発などに従事した後、2009年に「藤枝知財法務事務所」を開業。以降、IT分野やエンタメ分野を中心に契約書業務や知的財産業務を行う。メディアや企業のコンテンツ監修なども手がけている。All About 弁理士ガイド。