東南アジア「自動車」戦国時代! タイの日系シェア71%に急落――中国部品で挑むトヨタの勝算は?

東南アジア自動車市場の覇権争い

 日本車が独占してきた東南アジア市場が、大きな転換点を迎えている。タイでは長年にわたり新車販売のシェアが9割を超えていたが、2025年1~5月には71%まで低下した。

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 一方、中国車は16%に伸びている。比亜迪(BYD)や長城汽車などは、低価格の電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)で攻勢をかけている。日本勢も低価格のハイブリッド車(HV)を投入して対抗し、築いてきた牙城を守ろうとしている。東南アジア市場で日本勢と中国勢の対立が鮮明になりつつある。

 こうした状況のなかで、日本経済新聞は2025年8月2日、トヨタ自動車がタイで中国部品メーカーからの調達を拡大すると報じた。これはコスト削減策にとどまらない。東南アジアの自動車産業の構造そのものが、日系企業中心のサプライチェーンから、

「中国系サプライヤーを巻き込んだ混成型」

へと変わり始めていることを示している。

東南アジア市場に迫る中国EV攻勢

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2024年12月に開催されたタイ国際自動車エキスポ(画像:タイ国際自動車エキスポ)

 英国Verdict社が運営するJust Autoによると、2025年の東南アジア自動車市場は311万台に達する見通しだ。2025年1~6月の販売実績は約150万台で、前年同期比2%増となった。

 タイは販売台数でインドネシア、マレーシアに次ぐ3番目の市場だが、生産では域内の約4割を占める。2025年上半期の販売は約30万台で、日本メーカーのシェアは

・トヨタ:37%

・ホンダ:12%

・いすゞ:11%

・日産:6%

・三菱:6%

となっている。

 日本メーカーは長年にわたり、圧倒的なシェアを背景に安定した高収益市場を守ってきた。しかし近年は自由貿易協定(FTA)などを活用した経済環境の整備を追い風に、中国勢のEVが急速に流入している。一部メーカーは現地生産を始め、価格競争力を一段と高めている。

 中国勢の進出に合わせて、部品メーカーの集積も進んでいる。タイには3000社を超える部品メーカーがあり、その半数近くは日系企業だ。中国系は200社に満たないが、2017年の

「4倍」

に増えている。現地のサプライチェーンに中国系が入り込みつつあることが鮮明になってきた。

崩れ始めた日系供給網の独占構造

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広汽トヨタ・BZ3X(画像:広汽トヨタ)

 トヨタは2028年ごろ、東南アジアで新型車を発売する計画だ。EVやハHVなど幅広い動力方式に対応できる「マルチパスウェイプラットフォーム」を採用する。日経によれば、この新型車では中国系部品を取り入れ、従来比で3割のコスト削減を目指しているという。

 具体的には、タイの主要取引先である部品大手サミット・グループに、中国の内装材メーカー「蕪湖躍飛新型吸音材料(Wuhu Yuefei)」を紹介し、2025年1月に合弁会社を設立した。両社はタイに工場を建設し、トヨタに部品を供給する方針だ。日本メーカーが主導して中国部品メーカーの現地進出を後押しするのは初めての例となる。サミット・グループは2009年、自動車用プレス金型で世界最大手のオギハラ(群馬県太田市)を買収し、傘下に収めている。

 トヨタが中国部品調達を広げる背景には、成功体験がある。2025年3月、トヨタと広州汽車の合弁会社「広汽トヨタ」が中国で発売したEV「BZ3X」に多数の中国部品を使い、コスト削減に成功した。販売価格は約11万元(約220万円)と低く、発売1時間で予約台数が1万台を超えた。

 この成果を踏まえ、トヨタは東南アジアでも現地のサプライチェーンを活用し、コスト競争力を高める考えだ。この調達方針の転換は、従来の日系サプライチェーンの枠組みを崩す大きな動きとなる。今後はホンダや日産、三菱自動車といった競合に波及し、地域全体のサプライチェーン再編を促す可能性が高い。

高品質・低価格を兼ね備えた中国供給網

 中国系サプライヤーの脅威はどの程度なのか。最大の強みである価格競争力は、東南アジアにとどまらず世界各国で際立っている。日系メーカーと比べて2~3割安いのが一般的で、製品によってはさらに差が広がる。

 かつての

「安かろう悪かろう」

という評価は過去のものだ。大量生産で蓄積した技術やEV開発で得た経験が品質向上につながっている。世界で中国製EVが存在感を増す背景には、中国系サプライヤーの支えがある。

 彼らは現地生産を積極的に進めている点も見逃せない。部品工場を設けて輸送コストを抑え、FTAを活用して競争力を一段と高めている。

 さらに、車両メーカーと一体で進出することで、供給網を垂直的に統合し合っている。その結果、日系部品メーカーは現地での撤退や事業縮小を迫られるリスクが現実味を帯びてきた。

東南アジア供給網の混成化

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ASEAN(画像:外務省)

 従来、東南アジアでは日系自動車メーカーと日系部品メーカーによるピラミッド型の供給体制で盤石な基盤を築いてきた。しかし今後は、日系自動車メーカーと中国系部品サプライヤーの「混成モデル」への移行が進む転換点を迎えている。地元部品メーカーの立場も変化し、中国企業との合弁や提携が急増する可能性が高い。

 日系サプライヤーの競争力が低下すれば、淘汰されるリスクは増し、危機感はさらに強まるだろう。東南アジアは、日中の競争が鮮明化する新たな舞台となりつつある。

 では、日系サプライヤーの課題はどこにあるのか。まずコスト競争力の不足が挙げられる。これまでは高品質を武器にしてきたが、現地市場では価格が優先される傾向が強く、価格以外で差別化できなければ立ち行かなくなる。

 さらに、EV関連部品の開発や生産で遅れるサプライヤーもある。特にモーター、バッテリー、パワーエレクトロニクス分野では中国勢が優位に立ちつつある。

 加えて、意思決定の遅さも致命的な課題だ。中国勢は開発、調達、投資などで迅速に行動するが、日本勢は周回遅れになりがちだ。人材や技術の現地移転でも、タイムリーな判断ができず遅れをとるケースが目立つ。こうした課題を早急に克服しなければ、東南アジアでの存在感を維持することは困難になる。

EV部品で差別化進める日系勢

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インドネシア・ジャカルタのショッピングモール内駐車場にあるEV充電サービス(画像:テラチャージ)

 日系部品サプライヤーが取るべき戦略は、現地化の徹底にある。生産拠点にとどまらず、開発や調達も現地に組み込むことで、地域のニーズに即した対応力を高められる。さらに地元企業との連携を強化すれば、より幅広い対応も可能となる。

 EVの中核部品への投資も欠かせない。バッテリーモジュールやモーター制御、熱管理など、自社開発が難しい分野では国際提携による補完も検討できる。耐久性やアフターサービス、リサイクル対応などで差別化を図ることも重要だ。

 第三市場への展開も有効である。東南アジアから中東やアフリカへの輸出ネットワークを拡大することで、新たな需要を確保できる。

 すでに日系企業による成功例も出始めている。インドネシアでは、日本発のグローバルEVベンチャー「Terra Charge」が現地法人「PT. Terra Charge Indonesia」を設立し、2024年8月からEV充電サービスの提供を開始した。日本、インド、タイに続く4か国目で、日系企業として初めてのインドネシア市場参入となる。

 また、日本国内で培った品質保証体制を東南アジア市場に応用する動きも広がっている。日系企業は

「品質と信頼」

という従来の強みを維持しつつ、急速に変化する市場に適応する可能性を示している。

日系優位の供給網終焉示唆

 東南アジア市場は、かつてない「戦国時代」に突入したといえる。トヨタの中国部品採用をきっかけに、日系、中国系、地元サプライチェーンが入り乱れる市場へと変化しつつある。

 トヨタの調達方針の転換は、日系企業による独占構造の終わりを示唆する。しかし、

・柔軟な現地化

・国際提携

・新技術への集中投資

によって、競争力を取り戻す余地は残されている。

 今後、サプライチェーンの再編は避けられない。だが、日本企業には「品質と信頼」を基盤に再構築するチャンスがある。日本の自動車産業が次の進化を遂げるには、早急な対応が求められている。