「こりゃ売れまくるわ…」ダイハツ新型「ムーヴ」の“75点主義”がちょうどいい理由

ポルシェ・カレラT、せっかく買ったのに乗ってない!, デビュー30周年!ダイハツ・ムーヴは軽ハイトワゴンのスタンダード, ダイハツの検査不正問題とは何だったのか, 軽ハイトワゴンとしての“教科書ど真ん中”, 実際に乗ってみると……, 視界がよく、街中で運転しやすい, ターボ仕様なら加速も優秀、高速の安定性も悪くない, ダイハツ「ムーヴ」、ここがイイ!&ここがちょっと……, 「軽自動車といえばスライドドア」は「ムーヴキャンパス」のヒットがきっかけ?, ムーヴキャンパスのライバルとして登場した、スズキ「ワゴンRスマイル」, 両側スライドドア採用のハイトワゴンといえば……

ダイハツ・ムーヴ

軽自動車でホンダとスズキを取り上げたのであれば、ここはやはりダイハツも……ということで、今回はダイハツ「ムーヴ」の試乗記をお送りします。ダイハツにとっては久しぶりの新型車(理由は記事に)となるムーヴ。今年6月に発売されてすぐに売れまくっており、ここ数カ月は、軽自動車の販売台数トップ3の座をN-BOXやスペーシアと争っています。注目のムーヴの乗り心地はいかに?(コラムニスト フェルディナント・ヤマグチ)

ポルシェ・カレラT、せっかく買ったのに乗ってない!

 みなさまごきげんよう。

 フェルディナント・ヤマグチでございます。

 今週も明るく楽しくヨタ話からまいりましょう。

 去年の9月に購入した、ポルシェのカレラT。購入から1年がたちますが、オドメーターはわずか1000kmちょっと。月に100kmも走っていない計算になります。練習嫌いの市民ランナーだってもう少し走りますよね。

 東京にいると平日はほとんどハイエースだし、空いている週末は試乗車がやってくるし、せっかく買ったポルシェに乗る機会がほとんどないんです。どげんかせんといけません。

 そうだ。宮崎の家に置いておけばいいんだ。こちらにいるときは基本的にオフの時間ですから、思い立ったらすぐにドライブに行ける。日南の、海辺のワインディングまでわずか15分。サンライズを眺めながら走れるド直線の一ツ葉有料道路まではわずか3分。こんなにドライブに向いた場所はありません。ということで、宮崎神戸フェリーで宮崎港まで運ぶことにしました。

 土曜日はスパルタンレースがあるので、東京を日曜日に出なければいけません。しかし日曜は渋滞が怖い。6時に出たら東名高速の綾瀬あたりで間違いなく大渋滞に巻き込まれます。5時には東京ICに入っておきたいところです。

 神戸港を出るフェリーの出航時間は午後6時。伊勢道で渋滞に巻き込まれましたが、それでも昼すぎには神戸に着きました。まだ6時間もある。ゆっくりと昼食を取ってからサウナにでも入って時間を潰しましょう。

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昼食を取ったレストランの駐車場。車高の低いクルマはサンダルを挟んでフラップから守ります Photo by Ferdinand Yamaguchi

 神戸港を望むサウナで時間を潰し、6時の出港を目指してフェリーに乗ります。車高が低いので乗り降りに気を遣いますが、誘導の方が親切に下を見てくださったので、安心して乗り込むことができました。

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一気にオドメーターが1500kmになりました。半年分の距離をこの1日で走ったことに(笑) Photo by F.Y.

 しかしこのフェリーは快適です。先ほどサウナに入ったばかりですが、もう一度風呂に浸かり、夕飯を食べて、一杯やって寝て起きたらもう宮崎です。

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宮崎港にて。後ろに停泊しているのが宮崎神戸フェリー。もう10回以上乗っています

 これから宮崎で、たっぷりドライブを楽しもうと思います。

 それでは本編へまいりましょう。

 11年ぶりにフルモデルチェンジが施された、ダイハツの軽ハイトワゴン、ムーヴの試乗記であります。

デビュー30周年!ダイハツ・ムーヴは軽ハイトワゴンのスタンダード

 今回お送りするのは、当代取って7代目のダイハツ・ムーヴの試乗記である。

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ダイハツ「ムーヴ」(広報写真)

 初代ムーヴの誕生は1995年。今年はデビュー30周年に当たる節目の年である。累計販売台数はおよそ340万台。国内限定という限られた市場にありながら、これだけの数を売ってきたのだからそれはそれは立派なものだ。ムーヴは軽ハイトワゴンのスタンダートとも呼べるクルマである。

 フルモデルチェンジが施されるのは、実に11年ぶりのこと。この手のクルマにしてはモデルチェンジが異常に遅い。本当はもっと早く売ることができたのだが、めでたい30周年に合わせて発売のタイミングを遅らせていたのだ……と言いたいところだが、実情は違う。7代目ムーヴの発売は、今から2年前の2023年7月に向けて準備されていた。しかしその年に出すことができなくなる、「ある事情」があった。

 他ならぬ検査不正問題の発覚である。

ダイハツの検査不正問題とは何だったのか

 2023年4月。ダイハツは側面衝突の認証申請に不正があったことを、自ら明らかにした。

 問題は、個別の過ちから組織的な見直しを要する規模へと広がっていく。年末の第三者委員会の最終報告で、対象は複数の車種に及ぶ“面”の問題であることが確定し、会社は国内外の自社開発車の出荷を全て停止した。

 調査の過程で、ムーヴも「試験条件の相違」という文脈で俎上(そじょう)に載ってしまう。性能適合は確認されたとしても、プロセスの正しさを問い直すという意味ではムーヴも“当事者”に他ならない。年が明けると当局の処分は複数車種の「型式指定取り消し」という非常に厳しい領域にまで踏み込んだ。社長と会長はこの件で引責辞任することになった。

 経営体制が入れ替わり、認証と開発の統治を再設計する“組織の大手術”が施される。

 その結果、2023年7月に発売予定だった7代目ムーヴは、検証工数の積み増しと開発標準の引き直しを織り込んだうえで、2年遅れの復帰戦にようやくこぎ着けた、というわけなのだ。

軽ハイトワゴンとしての“教科書ど真ん中”

 前置きは大概にして、クルマの話に入ろう。

 ムーヴは長らく「右ヒンジの横開きバックドア」をかたくなに守り続けてきたクルマである。先代の6代目で、その伝統を脱ぎ捨て、他社同様の一般的な“跳ね上げ式”に変更する。変更の理由は「伝統よりも実利」。風のあおりや隣車配慮といった日本の日常で、ドアを開ければ後ろに便利な“屋根”ができ(サーフィンをしていると良く分かりますが、この即席屋根はマストです)少ない所作で積み降ろしできる解が、時代の主流になっていたからだ。

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ムーヴは6代目以降、バックドアを跳ね上げ式に変更した(広報写真)

 そして今回の7代目では、これまた他社同様に、後席ドアのスライド化を行い、軽ハイトワゴンとしての“教科書ど真ん中”に座り直すこととなる。

 これには三つの意図が透けて見える。

 一つは軽ハイトワゴンの主戦場、すなわち狭い駐車環境でのストレス源を構造で断つこと。次に、荷さばきと乗り降りの導線を最短化し、雨天でも歩道側片開けで人と荷を素早く移動させること。三つ目はDNGA(https://www.daihatsu.com/jp/dnga.html)の共通化を梃子(てこ)に、“装備は要所で厚く、価格は分別よく”という全方位の最適化をやり切ること。

 奇をてらわず、“暮らしの戦闘力”を上げる方向へ。

 これが7代目の方針だろう。“個性の象徴”を捨て、日常の強さを最優先するスライドへ。プロダクトの合理性と我が国の駐車事情に根ざした選択を、認証不正という重い現実を経てなおやり切ったのだ。だから7代目は、一見「フツーの軽ハイトワゴンの教科書通り」に見えて、その実、「企業の再起動」という重い物語を背負ったダイハツの勝負球とも呼べるクルマなのである。

実際に乗ってみると……

 いつものようにクルマをAD高橋氏から受け取ってクルマのまわりをぐるり一周。

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ダイハツ「ムーヴ」 Photo by F.Y.

 面はよく張り、エッジは必要なだけ立っている。押し出しで驚かせるのではなく、丁寧な継ぎ目とRの処理で説得する実直なタイプ。スライドレールの溝が面の中に上手く沈んでいる。この処理は賢い。前後の造形はボディ同色のバンパーカバーに、ロワグリルやダクト周りのブラック加飾が淡いコントラストをつくっている。“盛る”のではなく輪郭を締める事に徹している。軽らしい、肩ひじ張らない端正さがムーヴの持ち味だ。

視界がよく、街中で運転しやすい

 ドアを開け、クルマに乗り込む。

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運転席に座ってみると、視界がよく運転しやすい Photo by F.Y.

 シートに座ると、前モデルから視点が一段上がったことがすぐにわかる。ヒップポイントが一段高くなっている。当然視界は良い。Aピラーの抜けと、ボンネット先端の見切りが瞬時に把握できる。縁石の角や歩行者、自転車の動きが明らかに前モデルよりも1拍早く見える”。交差点の左右確認、立体駐車場のスロープ、都会のコンビニの狭い枠。どれも掴みやすい。この“1拍の余裕”が、街中の日常運転を確実に楽にしてくれる。良いじゃないか、ムーヴ。

 都内を抜け、練馬から関越に乗り約170kmを北へ向かう。翌日ガーラ湯沢で開催されるスパルタンレースに出場するためだ。混んだ都内+湯沢ICまでの道のりは、ムーヴの“日常性能”を測るには実に適切なコースだった。

 先に述べた通り、このクルマは視界がとても良い。都内は特にラクだ。この感覚は大いに歓迎したい。ところが高速に乗って50kmほど走ったところで、腰と尻に鈍い痛みが出始めた。シートの造りが悪いのか。あるいはヒップポイント上昇で“椅子的”な姿勢になりやすいのか……この辺りは開発担当者にお話を伺って……と言いたいところだが、ダイハツ広報から「担当者多忙につき、今回はインタビューは受けられない」との連絡があった。ご多忙ですかそうですか。

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ムーヴのシート(広報写真)

 尻痛腰痛発生の原因は、単独ではなく複合だと思う(ちなみに不肖フェルは腰痛持ちではない)。街乗りの範囲では問題になりにくいが、長めの移動ではもう一段の改善が望まれるところだ。

ターボ仕様なら加速も優秀、高速の安定性も悪くない

 試乗車はターボ仕様だったので、高速の合流や料金所を越えた後の加速は実に気楽だ。短い助走でもアクセルを素直に踏めば速度の立ち上がりが早く、合流時に余計な逡巡をする必要もない。高速の安定性も悪くない。直進時の“据わり”はきちんと出ていて、追い越しから走行車線へ戻す一連の動きも、修正舵は最小限だ。CVTのラバー感もほとんど感じない。

 コーナーでスカッと気持ちの良いスポーティさは求めるべくも無いが、車線中央に素直に留まってくれる“従順”さがある。静粛性や乗り味の洗練は“軽として標準”で、一言で言えばフツーである。気になる癖や致命的な欠点は見当たらない。一方で飛び抜けて良いところもない。絶妙なバランスの上に成り立つ「軽のスタンダード」と呼べるクルマである。

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ムーヴの後部座席 Photo by F.Y.

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ムーヴのバックドアを開けたところ Photo by F.Y.

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ムーヴのエンジン部分 Photo by F.Y.

 総じて“80点主義ならぬ75点主義”。突出や過剰は狙わず、必要十分を外さない造り方である。とりわけスライドドアという生活の武器をこの価格帯にきちんと落とし込んで来たことは素直に立派だと思う(スライドドアは高く重く車体剛性の維持が難しくなるのだ)。毎日の所作が確実に軽くなり、合流や巡航で余計なストレスがない。

 その一方で、長距離だけはシートの合わせ込みに工夫が要る。東京から湯沢までの往復を終えて残った印象は、派手さの代わりに安心感を積み上げた一台、ということだ。点数にすれば75点、だが日常の満足度はその数字より少し高い――そんな印象のクルマだった。

 それでは最後に、このクルマの○と×を。

ダイハツ「ムーヴ」、ここがイイ!&ここがちょっと……

●ダイハツ・ムーヴのここが( ・∀・)イイ!!

1. スライドドア採用:長すぎた春とは言いますまい。30歳の誕生日プレゼント。それでこの価格ですからね。スズキかダイハツじゃなきゃできません。

2. 良好な視界:ボンネット先端と周囲の見切りが1拍早くなる。出庫や合流、狭い駐車枠での“最初の一歩”が軽くなる安心感。運転が1段階ラクになります。

3. よく効くターボ:必要にして十分。トロい軽だと、高速の合流が怖いんです。

●ダイハツ・ムーヴのここはちょっとどうもなぁ……(´・ω・`)

1. 尻痛腰痛シート:走行距離が50kmを超えると尻が痛くなってくる。ランバー形状の問題か、ヒップポイントアップの弊害か。

2. 微妙なドライビングポジション:ハンドルの位置合わせはもう少し広範囲にしてほしい。なかなか姿勢が決められない。運転中にモゾモゾさせられる。

3. 良くも悪くも“フツーの軽”:飛び抜けた特徴のないところが、ターゲットに据えた「目の肥えた」シニア層にウケるのでしょうか。

 ということで次週は開発者インタビュー……ではなく、他社の試乗記にまいります。またまた電気自動車です。しかしこの連載15年やっていますが、試乗だけでインタビューなしというのは初めてです。

 それではみなさま、ごきげんよう。

 (フェルディナント・ヤマグチ)

「軽自動車といえばスライドドア」は「ムーヴキャンパス」のヒットがきっかけ?

 こんにちは、AD高橋です。

 2025年6月、11年ぶりのフルモデルチェンジを行い通算7代目になったムーヴ。最大のトピックは後席用のドアがスライドドアになったことです。

 スライドドアを採用した軽自動車といえば、タントやN-BOXといったスーパーハイトワゴンやアトレー、エブリイなどの軽ワンボックスが王道。ムーヴやワゴンRをはじめとする軽ハイトワゴンはヒンジ式ドアを採用していました。

 その流れが変わったのは2016年。ダイハツがムーヴの派生モデルとして発売したムーヴキャンパスが大ヒットしたのです。

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ダイハツ「ムーヴキャンパス」(広報写真)

 ムーヴキャンバスはスーパーハイトワゴンより全高が低いスタイルで、軽ハイトワゴンとして初めて両側スライドドアを採用しました。フロントガラスを前方に配置することで室内空間を広く取っているのが特徴。そのスタイルはまるでバスのようなイメージです。

 可愛らしいデザインで、女性を主なターゲットにしている商品と思われますが、地方を車で走ると年配の男性が運転している姿をよく見かけました。

ムーヴキャンパスのライバルとして登場した、スズキ「ワゴンRスマイル」

 スズキはムーヴキャンバスのライバルモデルとして、2021年に「ワゴンRスマイル」を発売。こちらも可愛らしいデザインで、女性をターゲットにしていることが伝わってきます。

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スズキ「ワゴンRスマイル」(広報写真)

 小さな子どもがいるファミリーだと、背の高いスーパーハイトワゴンはとても便利なのです。スライドドアは、子どもをチャイルドシートに乗せるときなどにすごく楽だし、子どもが自分で車から降りるときもドアを思い切り開けて隣の車にドアをぶつけてしまう心配がありません。さらに、ベビーカーのような大きな荷物も積みやすい。

 子育てが一段落するとスーパーハイトワゴンほどの空間は必要なくなりますが、一度スライドドアに慣れてしまうとヒンジ式ドアにはなかなか戻れないもの。買い物などで荷物をリアシートに載せてさっと動き出す。こういう時にスライドドアが便利なのです。そのため、ムーヴキャンバス、ワゴンRスマイルともに、後席に買い物袋を置くのに便利な機能が設けられています。

両側スライドドア採用のハイトワゴンといえば……

 両側スライドドアを初採用した軽ハイトワゴンはムーヴキャンバスでしたが、実はスライドドアを採用したハイトワゴンは以前にもありました。それが2006年に登場した2代目三菱 eKワゴンです。

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2代目三菱 eKワゴン(広報写真)

 一般的なハイトワゴンよりも少し全高が低い設計で、セミトールワゴンと呼ばれたeKワゴン。後席用のドアもヒンジ式が標準でしたが、上級グレードのMSとGSに、助手席側のみ電動スライドドアを採用しています(運転席側はヒンジ式ドア)。

 ただ、軽のスライドドアを世に広めた2代目タントが登場する前だったせいか、あるいは室内空間とスライドドアの利便性がマッチしなかったせいか、eKワゴンのスライドドアはそこまで盛り上がらず、3代目からは再びヒンジ式ドアに戻りました。

 時代は変わり、多くの人がスライドドアの利便性を知った現在、新型ムーヴは多くの人に選ばれています。

(AD高橋)