NHKの優良ネットコンテンツが9月で公開終了…受信料を払っていても「閲覧の方法はありません」 一体なぜ?

 NHKのインターネット上にあった複数のコンテンツが10月から閲覧できなくなった。ネット配信を「必須業務」とする改正放送法の施行に伴い、ネットサービスが見直されたからだ。コンテンツの公開自体を終了したため受信料を払っていても閲覧できず、その利用者や関係者から嘆く声が上がる。今回の見直しは、公共放送として視聴者を置き去りにしていないだろうか。(山田雄之)

◆「Nスペ」ミャンマー特集のサイトが消えた

 「NHKはミャンマーで起きている悲惨な事態を日本の人々に伝えてくれる貴重な報道機関だったのに。世間の関心が薄れてきている中で、サイト閉鎖にはとても憤っている」

◆「Nスペ」ミャンマー特集のサイトが消えた, ◆専門家が参照するほどのクオリティ, ◆「私たちは記録し続ける」とうたっていたのに, ◆「性暴力を考える」の特設ページも…, ◆公開終了の背景に10月1日施行の改正放送法, ◆番組以外で配信できるコンテンツに制限が, ◆視聴者を置き去りにした「抑制的なネット進出」

駅前でミャンマーの人々への支援を呼びかけるナンミャケーカインさん(左)=4日、東京都千代田区で

 在日ミャンマー人で街頭募金活動などを通じ、母国の人々を支援する京都精華大のナンミャケーカイン特任准教授(53)は10月以降、特集サイト「NHKスペシャル ミャンマーで何が起きているのか」が閲覧できなくなったことを嘆く。

 サイトは2021年、国軍がアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟から政権を奪うクーデターを起こし、それに抗議活動を行う市民への弾圧が続く最中に開設された。

◆専門家が参照するほどのクオリティ

 日ごろのミャンマーに関するニュースだけでなく、クーデターの経緯が「1からわかる」解説などミャンマーの基礎情報も載せていた。現地で市民が撮影してSNS(交流サイト)に発信した映像を分析・検証し、時系列や都市名で整理して公開したコーナーは耳目を集めた。国軍による暴力や市民が傷つけられる瞬間を捉え、内戦の実態を切実に伝えるものだった。

 ナンミャケーカイン氏も「情報統制が強まる状況下で、市民が命懸けで撮影し、発信した映像。NHKが公開することで信頼性を与えていた。SNS上から消えた映像も記録されていた。サイトもまとまっていて便利で、ミャンマーについて講演した際は必ず紹介していた」と評価する。

◆「私たちは記録し続ける」とうたっていたのに

 ところがサイトは9月30日で公開を終了。現在はアクセスを試みても、10月1日に開始されたネット配信サービス「NHK ONE」のサイトに移るだけだ。受信料を払っていても閲覧できない。

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9月30日で終了したNHKの特集サイト「NHKスペシャル ミャンマーで何が起きているのか」(スクリーンショット)

 ナンミャケーカイン氏はサイトのトップ画面でうたわれていた「私たちは記録し続ける」との言葉を紹介し、「ずっと注視してくれると思っていたのに、断念したのかな。映像もどこに行ったのか」と漏らす。

 ミャンマーでは、国軍が7月にクーデター時に出した非常事態宣言を解除し、2012月から来年1月にかけ総選挙を実施する方針を示す。国軍は「民政移管」を演出し、親軍政権樹立を通じた統治の正当化を目指している。ただ国軍に抵抗する民主派や少数民族武装勢力は総選挙に参加せず、公正な選挙の実現は不透明な情勢だ。

 ナンミャケーカイン氏は国内のミャンマーを支援する26団体の賛同を得て、9月30日付でNHKに再度のサイト設置などを求める要望書を提出した。「国軍による統治は決して『正当』ではない。その根拠になるのが、市民が撮った映像だ。映像だけでもネットに残してほしい」と訴える。

◆「性暴力を考える」の特設ページも…

 他にも終了したコンテンツがある。2019年に開設された「性暴力を考える」。子どもやSNS、セクハラなど多様なテーマで被害の声を取り上げて掲載。コメントも多く寄せられ、記事を読んだ人と被害者の交流の場にもなっていた。

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サイト「性暴力を考える」の存続を求める署名サイト

 2022年実施の被害者とその家族への実態調査アンケートは、約3万8000件の回答があった。性犯罪を厳罰化した2023年の刑法改正に寄与したとして、今年の放送文化基金賞も受賞した。

 9月に終了が発表されると、署名サイト「チェンジ・ドット・オーグ」で「サイトを消さないで」との署名活動が立ち上がり、10月10日時点で1万6000件超の賛同が集まる。呼びかけた有志の一人で、アンケートに携わった日本女子大の大沢真知子名誉教授は「いろんな人の思いで築かれたサイトだった。人権意識は世界的にも高まっている。貴重な情報だから残すべきだ」と話す。

◆公開終了の背景に10月1日施行の改正放送法

 「ミャンマー」や「性暴力」などのコンテンツが掲載されたサイトが終了した背景には、10月1日施行の改正放送法がある。NHKのネット配信がテレビやラジオと同じ「必須業務」に格上げされた。テレビで受信契約しておらず、ネット配信のみを利用する場合も受信料負担を求められるようになった。

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東京・渋谷のNHK放送センター

 そのため「NHK ONE」のサイトに飛ぶと、最初に「受信契約されていない方が利用された場合は、契約の手続きをお願いします」との表示が出る。

 これまではNHKのネット配信は放送の補完的役割だったため、番組の情報量を超えるコンテンツも「理解増進情報」として無料で提供されてきた。だが法改正で「放送とネットの受信契約は公平」となり、放送とネットの間でコンテンツ内容や費用負担が原則同一となった。

◆番組以外で配信できるコンテンツに制限が

 「理解増進情報」は廃止されることになり、番組以外で配信できるのは「番組関連情報」と新たに定められ、「放送番組に密接に関連する情報」に限るなどの条件が付けられた。

 総務省の担当者は「9月までは番組にひも付いていない独自のコンテンツも配信できる状況だったが、10月1日を起点に『番組と同一』や『番組に密接に関連』した情報に変更された。提供できる範囲が多少狭まり、結果として9月で終了するサイトが出てきたと考えられる」と説明。NHK広報局も「放送法改正に伴い、インターネットサービスを見直した。新しい運用ルールの中で編集判断している。公開を終了したコンテンツを閲覧する方法はありません」などと文書で回答した。

◆視聴者を置き去りにした「抑制的なネット進出」

◆「Nスペ」ミャンマー特集のサイトが消えた, ◆専門家が参照するほどのクオリティ, ◆「私たちは記録し続ける」とうたっていたのに, ◆「性暴力を考える」の特設ページも…, ◆公開終了の背景に10月1日施行の改正放送法, ◆番組以外で配信できるコンテンツに制限が, ◆視聴者を置き去りにした「抑制的なネット進出」

総務省(資料写真)

 今回の放送法改正について、放送レポート編集長の岩崎貞明氏は「テレビ離れが進む中、ネット進出は将来的な受信料収入確保のためにNHKの悲願だった。だが本格進出は、民放や新聞業界からは『民業圧迫』になるとの批判があった」と振り返り、「抑制的に進出を図るために『NHK政治マガジン』など評価されるサービスがいくつも消えてしまった。NHK内で見直す過程で、利用者の声や意見はどのように反映されたのだろうか」との問題意識を持つ。

 元NHKプロデューサーで武蔵大の永田浩三名誉教授(メディア社会学)も「運営の根幹となる受信料収入は大切だが、有用なコンテンツが一律に消えたり、縮小したりするのは大きな損失で、報道機関として本末転倒ではないか。取材する記者の表現の場も激減し、モチベーション低下の恐れもある」と懸念。「公共放送の役割は、民主主義の発展に寄与することだ。社会をよくするために、国民の知る権利に応え、知ってもらうべき情報を伝える使命がある。視聴者を置き去りにしてはならない」と提言する。

◆デスクメモ

 ミャンマー国軍による暴力や市民が傷つけられる瞬間を市民が命懸けで捉えた映像、性暴力被害者らが勇気を出して明かした声を基に築かれた交流の場などは、単なるコンテンツではなく、それぞれが歴史を形作っていく貴重な記録なのではないか。安易に消されるのは残念でならない。(義)

◆「Nスペ」ミャンマー特集のサイトが消えた, ◆専門家が参照するほどのクオリティ, ◆「私たちは記録し続ける」とうたっていたのに, ◆「性暴力を考える」の特設ページも…, ◆公開終了の背景に10月1日施行の改正放送法, ◆番組以外で配信できるコンテンツに制限が, ◆視聴者を置き去りにした「抑制的なネット進出」

NHKの優良ネットコンテンツが9月で公開終了…受信料を払っていても「閲覧の方法はありません」 一体なぜ?

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