「高市トレード」の株高で喜んでいる場合ではない 金との比較で見ると日経平均の価値はバブル期のわずか10分の1

ゴールドマンサックスの予想をはるかに上回る急騰, 大手ヘッジファンド創業者は1970年代との類似を指摘, 日本の金小売価格も史上最高に, 高市氏の発言は日銀法から逸脱の可能性との指摘も, 日経平均株価の上昇率は金小売価格の半分以下

株式市場は高市早苗総裁の誕生で大幅高となったか…(写真:共同通信社)

9月に金の記事(「金相場はどこまで上がるのか?ゴールドマン・サックスは5000ドル接近シナリオも」9月11日公開)を書いた時、国際相場はニューヨーク先物市場の中心限月(12月物)で1トロイオンス(約31.1グラム)3600ドルを超えたところだった。そこから、わずか1カ月で金相場は一時4000ドルを超えた。この急騰は何を意味するのか。

(志田 富雄:経済コラムニスト)

ゴールドマンサックスの予想をはるかに上回る急騰

 急騰の背景として指摘されるのは米ドルへの信認低下だが、金価格を押し上げる構図はドルだけではない。日本では高市早苗氏が自民党総裁に就任し、為替市場や株式市場で「高市トレード」が巻き起こった。その円安が国内の円建て金価格の上昇を加速させたのである。10日には公明党が連立離脱の方針を示したことで高市トレードはいったん小休止する形となったが、円安が増幅する金価格の上昇は手放しで喜べないインフレリスクを示している。

 9月の記事で米国の金融大手ゴールドマン・サックスが公表したリポートを引用した。ゴールドマンはトランプ政権が米連邦準備理事会(FRB)の中立性を損なうことになればインフレが再燃し、株価や長期債相場が下落、準備(基軸)通貨としてのドルの価値を劣化させると指摘。中央銀行だけでなく、民間の投資家が対抗手段として金の保有を増やせば金相場は26年半ばには4000ドルに達すると予測した。

 ところが現実は、26年半ばどころかレポートからわずか1カ月ほどで4000ドルを超えた。ゴールドマンもここまで早い4000ドル到達は想定していなかったはずだ。10月6日には来年12月時点の価格予想を従来の4300ドルから4900ドルに上方修正した。

 同社は今年10月を起点に23%の相場上昇を予測しているわけだが、そのうち新興国の中央銀行による金購入の押し上げ効果が19ポイント、米国の金利引き下げを背景にした金ETF(上場投資信託)市場への資金流入効果が5ポイント程度あると分析している。

 9月以降の相場急騰を牽引したのも金ETF市場への資金流入だ。金の調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が10月7日に公表した9月の集計で、資金流入は裏付けになる現物の量で145.6トン、相場も高騰しているため金額では過去最高の173億ドル(2兆6000億円)強に達した。中でも米ヘッジファンドの買いが急増した。

ゴールドマンサックスの予想をはるかに上回る急騰, 大手ヘッジファンド創業者は1970年代との類似を指摘, 日本の金小売価格も史上最高に, 高市氏の発言は日銀法から逸脱の可能性との指摘も, 日経平均株価の上昇率は金小売価格の半分以下

大手ヘッジファンド創業者は1970年代との類似を指摘

 中国人民銀行(中央銀行)が10月7日に発表した9月末の外貨準備の内訳で金保有量は約2303トンとなった。11カ月連続の増加だ。ウクライナ戦争でロシアの積み増しはストップしたものの、新興国中銀の金買いは継続している。

 これだけ短期間に金相場が急騰すれば投機過熱が指摘されてもおかしくはない。ただ、米商品先物取引委員会(CFTC)が毎週公表する先物市場の売買動向(非商業部門)を見ると、最新9月23日時点で買いが33万2808枚(1枚=100トロイオンス)、売りが6万6059枚、買いから売りを引いた「買い越し」はトン数に換算して829.6トン。10年前までの感覚で言えばかなり高水準だが、直近でも900トン超、新型コロナウイルス禍が深刻になった場面では1000トン以上まで買い越しが膨らんだことを思うと過熱とまでは言えない。

 CFTCも政府機関であり、新しい統計が出なくなっている。予算切れによる一部政府機関の閉鎖が起きたからだ。不安定な政治運営もドル不安を誘い、金の国際相場を押し上げる。10月10日にはレアアース(希土類)の輸出規制に対抗し、トランプ大統領が11月1日から中国に100%の関税を上乗せすると表明。利益確定の売りに押されていた金相場は急反発した。米中対立の解消も容易でなく、不確実性の時代が投資マネーを金市場に導く。

 米ヘッジファンド大手ブリッジ・ウォーターアソシエイツ創業者のレイ・ダリオ氏は今月、米コネティカット州グリニッジで開かれた経済フォーラムで、現在の状況は株価と金が同時に上昇した1970年代に似通うと指摘した。当時、株価も金価格も上昇した理由は、単位である「ドル」の価値が落ちたことにある。

日本の金小売価格も史上最高に

 同じことは日本でも起きている。消費税を含む国内の金小売価格は10月9日に史上最高の1グラム2万1805円に上昇した。高市氏の総裁就任が決まる前の先週末に比べ1597円、約8%もの上昇になる。

 通常、金の国際相場はドル安局面で上昇しやすい。ドル不安の中で代替資産となる金が物色されるからだ。実際、ドルの総合的な強さを示す米インターコンチネンタル取引所(ICE)のドル指数は110に迫った今年1月の高値から9月には96台まで低下した。トランプ政権が相互関税を発表した4月には一時1ドル139円台まで円高・ドル安が進んだ。こうした場面では円高が国内円建て価格の上げ幅を抑制する。

高市氏の発言は日銀法から逸脱の可能性との指摘も

 もっとも、金相場を動かすのは単純な為替の動きにとどまらない。英国、フランスといった欧州でも財政不安は強い。通貨全体の信頼が揺らげば、ドルの回復局面でも金相場は上昇する。主要国の通貨が為替市場で弱さ比べをする間に、金価格は急騰を続ける。

 高市トレードで起きたように為替が円安に振れれば、ドル建ての国際相場の上昇と円安がダブルで国内金価格を押し上げる。

 積極財政派の高市氏は、政府は財政政策とともに金融政策にも責任を持ち、金融政策を決めるのも政府であるという趣旨の発言をしている。

 日本銀行の政策委員会審議委員も務めた野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは10月8日に「日本銀行への政治介入は強まるか」というコラムをまとめた。その中で高市氏の発言は、金融政策が政府の経済政策の基本方針と整合が取れるように日本銀行と政府は十分な意思疎通を図らなければならない、とする日本銀行法第4条が求める点を逸脱する可能性があるとの見解を示した。

 米国ではトランプ政権がFRBへの介入を強めたことがドル安を加速させた。似たような構図が高市トレードにも見える。公明党の連立離脱による政局混迷が円売りを誘う可能性も否定できない。市場では円=安全通貨という従来の考え方を疑う見方が増えている。

 木内氏は、日銀への政治介入が強まれば円安、物価高によって国民生活を圧迫し、経済安全保障と位置付ける高市氏の物価高対策とも矛盾すると考える。

 円安が進めばグローバル企業や輸出企業の収益は膨らみ、株高も正当化される。富裕層は潤うかもしれない。一方、賃上げの動きは広がっても食料品を中心にした物価高に追いつかず、家計は苦しい状況が続く。金融広報中央委員会の調査では、平成のバブル期に10%未満だった「金融資産ゼロ世帯」が28.4%と3割近くまで増えている。インフレに備えた資産運用どころではない世帯は少なくない。

日経平均株価の上昇率は金小売価格の半分以下

 株価の上昇も単位を円から金価格に変えると違った風景になる。昨年末から10月10日までの金小売価格の上昇率は約48%に及ぶ。日経平均株価も上昇しているとはいえ、上昇率は21%と金価格の半分以下だ。

 日経平均が金何グラムに相当するか、金との対比をグラフにすれば足元の株価は平成バブル期やIT(ドットコム)バブル期に遠く及ばず、低迷する絵柄が浮かび上がる。10日の終値も金価格で割ると、金2.2グラム台の低水準にとどまる。トランプ大統領が中国に対し100%の関税上乗せを表明したことで、連休明けの株価急落は避けられない情勢だ。

ゴールドマンサックスの予想をはるかに上回る急騰, 大手ヘッジファンド創業者は1970年代との類似を指摘, 日本の金小売価格も史上最高に, 高市氏の発言は日銀法から逸脱の可能性との指摘も, 日経平均株価の上昇率は金小売価格の半分以下

出所:日本経済新聞社のデータから作成、月末値注:金小売価格は売値、地金商系、消費税込み

 金は原油など他のコモディティー(商品)と異なる特色をもつ。原油価格が急騰すればインフレが世界を襲い、景気が急減速して原油相場も反落する。レアメタルなどの金属価格が高騰すれば他の金属を代用したり、使用量を減らしたりして需要が落ちる。

 ところが金価格は高騰しても実態経済にはほとんど影響せず、工業用途も全体の7%に過ぎないため代替金属の開発も需給全体にあまり影響しない。せいぜい宝飾品の需要にブレーキをかけるくらいだ。相場が急騰しても鉱山大手の新規開発には長い時間がかかる。原油のように上値の目処が立ちにくいコモディティーなのである。

 どの通貨も信頼し得ない時代、金価格の上昇は青天井で続く。

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