関税だけではない、米利下げの裏に潜むトランプの思惑…FRB独立性喪失が招く「ドル不安とインフレ」

REUTERS/Ken Cedeno、Reuters

10月4日、自民党総裁選があり、高市早苗氏が新総裁に就任した。週が開けると6日には、日経株価平均が大幅に続伸し4万7000円を突破。10日までに4万8000円にまで到達した。為替相場も、1ドル152円と円安に振れるなど、日本経済が大きく揺れ動いている。

ただ、今後の日本経済の先行きを語る上では、アメリカのトランプ政権の金融政策の動向も忘れてはならない。

アメリカ金融政策の「裏テーマ」

9月17日、2024年12月以来となる米の政策金利の引き下げが決定した。

実はこの9月、アメリカの金融政策が方針転換する節目を迎えていた。

9月17日、アメリカの金融政策を決定する連邦公開市場委員会(FOMC)は政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定。利下げ措置はおよそ10カ月ぶりだった。第二期トランプ政権の発足後、FOMCは保護主義的措置がもたらすインフレリスクの程度を見極めるため、利下げを一時停止していたものの、その方針を転換する節目となった。

利下げ再開自体は、アメリカの労働市場が本格的な減速の入口に近づきつつあることを示すデータを受けてのもので、既定路線ともいえる。一方で9月の会合には、見過ごせない裏テーマが存在した。「トランプ政権による干渉の影響力」だ。

日本にとってみれば対岸の火事とも思えるかもしれないが、グローバルな金融市場に絶大な影響力を持つ連邦準備制度の独立性が脅かされることによる影響は多岐にわたる。例えば為替面では、基軸通貨ドルの信認が損なわれることに伴い、2010年代以降に見られた継続的なドル高トレンドが終焉を迎える可能性もある。

揺らぐFRBの独立性

トランプ大統領は、かねてより大幅な利下げの必要性を主張し、自身の意向に反して高金利を維持する連邦準備制度への不満を表明してきた。特に連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長に対しては「Mr. Too Late」と揶揄して名指しで批判し、時には議長職の解任にまで言及することもあった。

FRB理事のリサ・クック氏。住宅ローン申請に虚偽の記載があったとして、トランプ大統領が解任の意向を示していた。

こうした個人攻撃は単に口先に留まらず、人事権を駆使したFRB理事の解任・指名などにも及ぶ。8月には、住宅ローン申請に虚偽の記載があったとしてバイデン前政権下で指名されたリサ・クック氏の解任を試みた。

同氏は解任の無効を訴え、連邦控訴裁も訴訟の進行中は解任を差し止めるとの判断に至ったものの、一方でトランプ氏は自身の腹心であり、政権の閣僚にも名を連ねているスティーブン・ミラン氏を新たにFRB理事に指名した。FRB理事はFOMCでの政策決定に対して投票権を持っているため、ミラン氏の指名は金融政策に政権の意思を持ち込む工作と受け取られかねない。ましてや現職閣僚を直接登用することは、FOMCの独立した意思決定を侵害し得るものとして、その顛末が注目されていた。

就任直後に9月FOMCに臨んだミラン氏は、0.5%ポイントというより速いペースでの利下げを主張して、議決に反対票を投じたが、他のFOMC参加者は同調しなかったとみられる。それでも、影響力を拡大する試みが今後も継続する限り、政策決定にトランプ政権の意思が介在する余地は残る。

とりわけ、2026年5月に議長職の任期満了を迎えるパウエル氏の後任人事は最大の焦点だ。影響力の大きいFRB議長にトランプ色の強い人物を据えられか否かで、金融政策運営に対する市場の信認は大きく左右されるだろう。

トランプ大統領が新たにFRB理事に任命したスティーブン・ミラン氏

執拗な利下げ要求の背景

ところでそもそも、トランプ政権はなぜ利下げに固執するのか。背景には、政権が構想する経済政策の全体像がある。

トランプ政権の経済政策は、(1)関税政策(2)減税(3)規制緩和の三本柱で設計されている。輸入依存の高まりと同時進行した製造業の空洞化を高関税で是正しつつ、これにより得た収入を国内減税に振り向け、同時に規制緩和を進めることでアメリカ経済を活性化させる……、というのが政策の青写真だ。

実際、就任後には対外的な関税措置を矢継ぎ早に打ち出していた一方で、日本で関税合意の話題が大きく報道されていた7月には、大規模な減税措置を組み込んだ「One Big Beautiful Bill Act(以下、OBBBA)」と呼ばれる法案を連邦議会で可決している。ときには金融市場の反応や貿易相手国との交渉次第で政策の細部を柔軟に調整しつつも、大枠では構想に沿った形で政策が実行に移されてきていると言えるだろう。

2025年7月、大幅な減税措置を組み込んだOne Big Beautiful Bill Act法に署名した。

ただし、拡張的財政政策の常として、トランプ式アメリカ再興プランにも一つの問題がつきまとう。財政赤字拡大に伴う政府債務の増大である。

例えば、予算の中長期見通し等を提供する中立的な機関である議会予算局は、OBBBAにより2034年までに基礎的財政収支(利払い費を除いた財政収支)の赤字幅が3.4兆ドル拡大するとの見通しを示している。大幅に増加するであろう関税収入をもってしても、この赤字分を全て相殺できる可能性は低い。さらに、政権が中間選挙を見据えた減税策の第2弾を打ち出す可能性も残る。

ここで、財政の持続性を左右する要素であり、FRBの金融政策と密接に関連するのが国債の「利払い費」だ。

トランプ政権によるFRBへの利下げ要請は、この利払い費を抑制する意図があるといえる。

高金利が続けば、当然ながら国債の利払い費は増えていく。政権にとっての利下げは、財政赤字の拡大を伴う経済政策構想を実現に導くためのコスト抑制策なのである。

とはいえ、こうした構図はトランプ政権以前から存在したものだ。リーマンショック以後のアメリカでは、FRBによる大規模な金融緩和策の効果もあり、政府の資金調達コストが長く低位に抑えられ、党派を超えて財政拡張に傾く力学が続いた。しかし、コロナ禍を経て低金利環境が失われた後は、利払い負担を抑えたい政府と、物価安定のために引き締め気味の金融政策運営が必要と考えるFRBとの間に、潜在的な緊張関係が生じていた。

伝統的な制度・慣行への配慮が薄いトランプ政権は、これまで大前提とされてきた「中央銀行の独立性の尊重」という聖域にも公然と足を踏み入れ、こうした関係を表面化させたともいえる。