中国港が「抜け穴」に、米制裁のロシアLNG

中国南部の北海LNGターミナル (2017年)
米政府によるロシア産石油への制裁に効果はあるのか。これはすでに制裁対象となっているロシア北極圏の液化天然ガス(LNG)事業「アークティックLNG2」に目を向ければ、十分に把握できる。
同事業はロシア政府の輸出戦略の中核を成しており、米国のバイデン前政権はこれまで複数回にわたり制裁を発動した。施設周辺の物流、海運、資金調達を機能不全に陥らせ、アークティックLNG2を「完全な機能停止状態」にすることを公に目指してきた。
だが8月以降、ロシアはアークティックLNG2から、LNGを満載したタンカー11隻を輸送することに成功したことが、船舶追跡データから明らかになっている。これらのタンカーを受け入れたのは、美しい海岸で知られ、かつては古代海上シルクロードの重要な寄港地だった中国南部・北海市の港だ。同港は現在、ロシア北極圏からの制裁対象ガス輸出の重要拠点に浮上している。
カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンター所長のアレクサンドル・ガブエフ氏は、これが「中国経済とロシアの戦争機械の双方に恩恵をもたらしている」とし、「中国政府はもはや、米国の反応を過度に懸念する必要性を感じていない」と述べた。

アークティックLNG2は、今後数年でLNG輸出を3倍以上に拡大するとしているロシア政府の戦略のカギを握る
ロシアがウクライナに侵攻して以降、米国と同盟諸国はロシアのエネルギー産業を機能不全に陥らせようとしてきた。だがロシアは何度も抜け穴を見つけており、北海ガスルートはその取り組みにおいて重要な経路となっている。またロシアにとって、中国との関係をさらに深化させる手段でもある。
トランプ政権は先週、最新の制裁としてロシア最大の石油輸出企業2社であるロスネフチとルクオイルに新たな措置を発動した。同じ日には、サッカー場約3面分の長さを持つタンカー「アイリス(Iris)」が、北極圏のロシアガス施設からLNGを積んで中国南部の北海市に入港した。
戦争資金の確保を図るロシアにとって、制裁をかいくぐることは国家的優先事項であり、今年は同国経済が低迷し始めたこともあって喫緊の課題となっている。一方で中国政府にとっても、割安な燃料をロシアから手に入れる機会であると同時に、米国との貿易戦争において反抗の意思を表示する動きにもなる。中国は重要なレアアース(希土類)輸出に関して影響力を維持していることもあり、米政権による制裁への懸念が薄れているとする声も聞かれる。
中国とロシアにこれらの取引を隠そうという様子はほとんど見られず、制裁対象の貨物を運ぶタンカーは、自動識別システム(AIS)送信機信号を通じて位置情報の発信を続けている。
ロシア政府の資金源および地政学的な影響力を支えてきた石油・ガス輸出は、欧州市場の大部分を失って以降、減少が続いている。ロシア政府は船舶で輸送しやすい石油については新たな買い手を見つけることができたが、固定ガスパイプラインを通じたガス供給は喪失分を置き換えることがより困難であることが明らかになっている。
その中で250億ドル(約3兆8200億円)規模のアークティックLNG2は、ロシア政府にとって極めて重要なプロジェクトでもあり、欧米側もこれを制裁の標的とした。LNG施設は天然ガスが液体になるまで冷却し、体積を縮小して船舶による輸送を容易にしている。アークティックLNG2は、今後数年でLNG輸出を3倍以上に拡大するとしているロシア政府の戦略のカギを握る。
この事業の建設には、重力式構造物と呼ばれる巨大なコンクリート製プラットフォームの輸送が必要だが、それぞれ60万トンを超えており、これまでに移動された物体の中で最重量級となっている。2023年12月には、業界で「トレイン」として知られる三つの液化プラントのうち最初の一つが完成した。輸出は昨年の1-3月期に開始される予定だった。
だがウクライナ戦争開始以降、米国はロシアの新興LNG産業に対し複数回にわたる制裁を実施し、今回のプロジェクトに課された米政府による制裁も本格化し始めた。制裁ではアークティックLNG2の運営会社、貯蔵船、プロジェクト向けの専用運搬船購入を目指していると疑われる海運会社、さらに施設で作業するその他の企業も標的となった。
アークティックLNG2はこれによって資金調達と物流が混乱し、韓国の造船会社によるプロジェクトへの納入も停止された。またロシアが国内で代替船舶を建造することも困難となった結果、LNG生産は昨年停止し、施設は既に生産されたガスを主に循環させるだけの状態となった。
そこで重要となったのが、北海市の港湾だ。中国は各都市や工場、そして発電所が石炭から転換し、暖房と電力により多くのガスが必要になる中、2021年には世界最大のLNG輸入国となった。同国税関当局によると、2024年の輸入量は7%増加し7600万トンに達している。
北海LNGターミナルは2016年4月に稼働し始め、それ以降も継続的に拡張されてきた。同港は雲南、貴州、湖南、広東、福建といった中国南部の各省に安定したガス供給を提供している。
アークティックLNG2のガスは、この地域の他のLNGより割安なこともあり、中国にとって魅力的である。さらに米政府による2次制裁のリスクを負うことなく購入するため、中国は北海港を事実上の入り口としている。ロシアからのガス受け入れ開始以降、北海港に入港したLNG運搬船は他にない。
データ調査会社アーガスのアナリスト、マーティン・シニア氏は、同港湾を運営する国有企業の国家石油天然気管網集団について、資産を保有するのは主に中国国内で、ドル建て金融システムへのエクスポージャーが限定的だと指摘。そのため、港とその所有者は米国の2次制裁の影響を受けるリスクが非常に低いとした。
米政府は北海市の港に制裁を発動していないが、英政府は今月初め、同港に制裁を科し、「ロシアのエネルギー部門を支える関連事業体」であるとした。中国外務省報道官はその際、政府として「国際法に根拠を持たない一方的制裁には、一貫して反対している」と述べていた。
中国はまた、ロシアが欧米から入手できなくなっているタービンなどの部品もアークティックLNG2に提供している。
コンサルティング会社ライスタッド・エナジーのシニアアナリスト、ヤンエリック・フェーンリッヒ氏は、ロシアがガス輸送のため他の拠点からタンカーを再配置しているとし、ペーパーカンパニーに依存する「シャドーフリート(影の船団)」を含む古い船も同港で使用しているとした。

ロシア・サベッタ港のガスタンカー(2017年)
一方でアークティックLNG2には課題も残っている。ロシアは現在、さらに多くのタンカーを必要としているものの、新たな船舶が近く納入される可能性は低い。また重要な高効率タービンの注文は制裁下で取り消され、中国製の代替品は出力が劣るため、施設の輸出能力も低下しているとテータ会社ICISのLNG市場アナリスト、ロバート・ソンガー氏は述べた。
さらに買い手の中には、同プロジェクトからガスを購入する法的・物流的リスクを警戒する動きもあると同氏は述べた。
だがテキサス州に本拠を置くエマージング・マーケッツ・オイル・アンド・ガス・コンサルティング・パートナーズの創設パートナー、ロナルド・スミス氏は、中国はそのような買い手ではないとし、こうした現実は、ロシアに対する制裁の効果にとって良い兆候ではないとした。