「壱角家」が"真逆タイプ"のラーメン店をM&Aした訳

ガーデンはこれまでも幾度となく手腕を発揮, 「壱角家」×「町田商店」のタッグで急成長, 一等地を「安く押さえる」川島社長の戦略, “効率”と“手間”の両方があってこそ…

「壱角家」を擁する株式会社ガーデンは新たな“挑戦”を始めた(筆者撮影)

横浜家系ラーメン「壱角家」を全国展開する株式会社ガーデンが、味噌ラーメンの老舗ブランド「萬馬軒」をM&Aで傘下に収めた。

【写真】「壱角家」「萬馬軒」の人気メニューや厨房の様子も公開!

外食チェーンの再生・拡大に長けた同社が、あえて“職人性”の強い味噌ブランドに挑む理由は何か。ガーデンの川島賢社長に話を聞いた。

ガーデンはこれまでも幾度となく手腕を発揮

「『壱角家』ではオペレーションを徹底的にシンプルにしました。その次は、逆に“手間のかかる美味しさ”に挑戦したいと思ったんです」(川島社長、以下同)

味噌ダレと野菜、スープを中華鍋で煽りながら作る「萬馬軒」の調理法は、店舗・職人ごとのブレが生まれやすい。一見、チェーン化には不向きだ。しかし川島氏にとっては、それこそが挑む価値のある領域だった。

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「萬馬軒」は看板メニューの『ネギ味噌チャーシュー』を筆頭にファンが多い(筆者撮影)

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厚めのチャーシューや味噌がよく絡んだ極太麺がうれしい「萬馬軒」のラーメン(筆者撮影)

ガーデンはもともとカラオケ事業を中心に成長した企業だ。創業からわずか2年で年商10億円に達し、金融機関や投資家から「外食も再生できるのでは」との期待が寄せられた。

そうして引き継いだのが、当時経営不振に陥っていた外食企業「だるまのめ」などのラーメン・ステーキ業態である。そこから外食事業への本格参入が始まった。

転機となったのは、焼き牛丼チェーン「東京チカラめし」の買収交渉だった。かつて130店舗を誇った同ブランドは急速に店舗を閉鎖していた。川島氏は「今残っているのは立地の良い店だけだ」と見抜く。

「外食店が減るときは、まず悪い立地から消えていきます。残っていたのは、一等地ばかりだったんです。業態を変えれば絶対に蘇ると確信しました」

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真摯なまなざしでインタビューに答えてくれた“敏腕”・川島社長(筆者撮影)

「壱角家」×「町田商店」のタッグで急成長

当時、横浜家系ラーメンの人気が高まってきてはいたが、都心の駅前に本格的な家系チェーンはほとんど存在しなかった。

そこで、牛丼店の厨房設備を流用し、わずか300万円の改装でラーメン店に転換。半年で30〜40店舗が「壱角家」に生まれ変わった。新宿アルタ裏の1号店はオープン直後から行列を作り、業界に衝撃を与えた。

そんな「壱角家」の急成長を支えたのが、「町田商店」で知られる株式会社ギフトホールディングスとの提携だ。

当時ギフトは創業間もないベンチャーで、直営は10店舗にも満たなかった。ガーデンは出店スピードとM&Aでの拡大を得意とし、ギフトはスープ開発と家系ブランド構築に強みを持っていた。

「ラーメンの世界は、スープと麺の相性がすべて。素人が数年でできるものではない。だからこそ“餅は餅屋”なんです」

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「壱角家」の濃厚スープには中毒性があり、多くのリピーターを抱えている(筆者撮影)

1号店の成功をきっかけに、両社は協業体制を築く。ガーデンが物件と資本を、ギフトが味と仕組みを担った。

川島氏は「ギフトさんの手法を学びつつ、自社でどこまで効率化できるかを追求した」と振り返る。やがて「壱角家」は100店舗規模へと拡大。都心部の一等地を次々に押さえ、同業他社が参入しにくい市場構造を作り上げた。

一等地を「安く押さえる」川島社長の戦略

実は、ガーデンの強さの源泉は、ラーメンだけではなく「不動産」にある。川島氏はカラオケ事業時代から「立地こそが勝敗を決める」と考え、不動産子会社を設立して自社で好立地を確保してきた。

「一等地を“高い家賃で借りる”ことは誰でもできます。でも、うちは一等地を“安く押さえる”んです」

物件を自社保有・長期リース化し、複数ブランドを同ビルに集約することで賃料負担を分散。その結果、「壱角家」は営業利益率22%(高い店舗では40%近く)という驚異的な数字を叩き出す。

背景には、店舗間の距離を近く保つドミナント戦略もある。スタッフや食材の融通が利き、無駄を極限まで削減できるのだ。

「僕らの社員は皆、1都3県の出身。土地勘があるから、絶対に外さない。だからこそ、地の利を活かした商売ができるんです」

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「壱角家」の店舗は一等地にありながら、効率的なオペレーションで「速くてウマくてお手頃」な商品を提供している(筆者撮影)

「壱角家」の高収益は、単なるコスト削減の結果ではない。人件費高騰の中でも、オペレーションの簡略化と価格戦略を巧みに組み合わせている。

まず、駅前の立地ゆえにアルバイトが集まりやすく、タイミーなどの短期バイトアプリとも好相性。複数店舗を持つ新宿などでは、同一エリア内で人員を融通できる。また、深夜営業では人件費上昇分を「深夜料金」として価格転嫁。客数を落とすことなく適正利潤を確保している。

さらに注目すべきは、券売機の多言語設計だ。外国語モードを選ぶと、最初に「ラーメン+ドリンクセット」が表示される。自然なUXによってインバウンド客単価を押し上げているのだ。

「取れるところから適正に取る。お客様からいただいた分は従業員に還元する。“安さを我慢で成り立たせる時代”はもう終わりです」

川島氏はそう言い切る。価格改定も他社が値上げブームに乗る前から段階的に進め、顧客の抵抗感を最小限に抑えてきた。

“効率”と“手間”の両方があってこそ…

「壱角家」で築いたのは、再現性と収益性を極限まで高めた完成された仕組みだった。だからこそ、次はあえて逆の方向──非効率な美味しさに挑む。

「萬馬軒」の味噌ラーメンは、野菜を中華鍋で炒め、香ばしい香りとコクを重ねる手間のかかる製法だ。チェーン展開の難易度は高い。

ガーデンはこれまでも幾度となく手腕を発揮, 「壱角家」×「町田商店」のタッグで急成長, 一等地を「安く押さえる」川島社長の戦略, “効率”と“手間”の両方があってこそ…

「萬馬軒」の厨房の様子。中華鍋で煽りながら一杯一杯、丁寧に仕上げていく(筆者撮影)

しかし、川島氏は言う。

「『壱角家』が効率の象徴だとしたら、『萬馬軒』は熱と手間の象徴にしたい。両方があってこそ、本当のガーデンのブランド群になると思っています」

外食産業の再編が進む中、ガーデンは依然として攻め続ける企業だ。再現性で築いた強固な基盤の上に、次は人の手が生む味という新しい価値を積み重ねようとしている。

「壱角家」で培った立地やオペレーションの勝ちパターンを「萬馬軒」にどう生かせるか。「萬馬軒」の味が多店舗展開でしっかり広がったときに、その答えが見えてくるかもしれない。

ガーデンはこれまでも幾度となく手腕を発揮, 「壱角家」×「町田商店」のタッグで急成長, 一等地を「安く押さえる」川島社長の戦略, “効率”と“手間”の両方があってこそ…

川島社長がどんな手腕を発揮していくのか、今後のガーデンの動きにも要注目だ(筆者撮影)

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