ローカル線の奇跡? 「通過特急」で稼ぐ黒字鉄道――30年目の“曲がり角”を考える

第三セクター鉄道の異例配当

 智頭(ちず)急行は、兵庫・岡山・鳥取の三県にまたがる第三セクター鉄道として1994(平成6)年に開業した。もともとこの路線は、京阪神と鳥取を結ぶショートカット新線として国鉄時代に建設が進められていた。しかし国鉄の経営悪化により工事は中断され、鳥取県など沿線自治体が出資する第三セクターが工事を引き継ぐ形で完成した。

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 第三セクター鉄道の多くは、国鉄時代に赤字だったローカル線や、新幹線開業でJRから切り離された並行在来線を自治体が肩代わりして運営する路線が中心だ。そのため経営環境は厳しく、廃止された路線も少なくない。

 しかし智頭急行は事情が異なる。路線は兵庫県上郡と鳥取県智頭を結ぶ全長56.1kmで、沿線のほとんどは過疎地である。通勤・通学・通院など地域の生活需要だけでは、経営を維持するのは難しい環境だ。

 だが線形は良好で、単線・非電化でありながら最高速度130kmで走行可能だ。京阪神と鳥取を結ぶ特急「スーパーはくと」や岡山と鳥取を結ぶ「スーパーいなば」がJR線に乗り入れ、第三セクターとしては珍しく高い収益を上げている。

 コロナ禍に一時赤字に転落したこともあったが、長年にわたり黒字経営を維持してきた。株主である自治体への配当も行っており、「第三セクター鉄道の優等生」として知られている。

売上の半分「車両リース料」

第三セクター鉄道の異例配当, 売上の半分「車両リース料」, 車両更新と輸送人員減少の課題, 沿線小駅での特急増収策

右手がJR智頭駅、左手が智頭急行智頭駅(画像:銀河鉄道世代)

 智頭急行が2025年6月に公表した決算によると、2024年度の営業収益は27億4487万円だった。このうち旅客運輸収入は13億5913万円、運輸雑収は13億8573万円を占める。

 旅客運輸収入は、自社路線内の運賃や特急料金などの純粋な売上である。一方、運輸雑収は、智頭急行が保有する特急車両がJR区間を走行する際にJR西日本から受け取る「車両使用料」であり、売上の約半分は車両のリース料に相当する。

 営業費用は24億9868万円で、営業利益は2億4618円だった。コロナ禍での赤字を脱し、前期に引き続き2年連続で黒字を計上したことになる。

 第三セクター鉄道として、在来線の一部区間を高速走行可能な新線でショートカットし、JR直通の特急列車を運行することで高収益を上げる構造は、かつての北越急行(新潟県)に近い。だが北越急行は、北陸新幹線開業により特急列車が消滅し、一転して赤字路線に転落した。

 一方、智頭急行は京阪神と鳥取を結ぶ新幹線の計画自体がほぼ白紙であり、当面は北越急行のような事態に陥る可能性は低い。高速道路、つまり高速バスとの競合も存在するが、現状では影響は限定的である。

 伊勢鉄道(三重県)も智頭急行や北越急行に似た性格を持つが、近鉄という競合があるため状況は厳しい。

車両更新と輸送人員減少の課題

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特急・普通列車の輸送人員の推移(画像:智頭急行)

 第三セクター鉄道の優等生とされてきた智頭急行にも、今後の経営環境には懸念材料がある。

 売上の約半分を占める「車両のリース料」は、開業以来走り続けてきた特急車両の車歴が30年を超えたことにより、今後影響を受ける可能性がある。智頭急行は2024年6月の株主総会で、5年後をめどに新型車両を導入すると発表した。その際、乗車率が平均40%程度であることから、現在の5両編成を短い編成に見直す方針も示しており、リース料収入に変動が生じる見込みだ。

 また、比較的新しい路線ではあるものの、線路設備も車両同様に老朽化が進んでおり、更新が課題となる。

 さらに、特急の輸送人員は中長期的に減少傾向にある。開業以来増加を続けていた輸送人員は、2004(平成16)年の102万7000人をピークに減少し、2010年のコロナ禍で一時31万1000人に落ち込んだ。その後回復したものの、2024年は73万2000人でコロナ禍前の水準には戻っていない。

 減少の背景には少子高齢化や沿線地域の人口減、経済の低迷などがある。智頭急行も他の鉄道事業者と同様に、中長期的には増収策の検討が必要である。

沿線小駅での特急増収策

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恋山形駅にトイレを設置するためのクラウドファンディング(画像:智頭急行)

 智頭急行は線内を通過する特急列車による収入が大部分を占めるが、普通列車しか停車しない沿線の小さな駅でも経営努力を続けている。

 代表例が2013(平成25)年に駅全体をピンク色で装飾した恋山形駅だ。1日の乗客は10人に満たない無人駅で、待合室やトイレも設置されていない。駅名は「来い山形へ」をもじったもので、ピンクの装飾が話題を呼び、全国的に知られるようになった。2025年10月10日にはクラウドファンディングを開始し、集まった資金はトイレの設置に充てられる予定だ。

 同じく沿線にある無人駅、宮本武蔵駅も一風変わった駅名として知られる。宮本武蔵の生誕地は諸説あるが、歴史上の人物のフルネームを駅名にした例は珍しい。ただし、コンテンツやイベントで「宮本武蔵」を積極的に活用している印象はまだ薄い。

 沿線の西粟倉村は近年、林業を軸に地域資源を活用した施策で移住者や起業家を誘致し、村おこしの成功例として全国的に知られる。村と智頭急行は現在、駅のネーミングライツなどで協力しており、今後さらに両者の相乗効果を活かした施策の展開に余地がある。

 こうした小さな駅での取り組みは、ドル箱の特急列車収入からすれば微々たるものかもしれない。しかし、資金的な余力があるうちに、沿線全体で様々な増収策を展開することに期待できる。