「金利2.5%」はもはや新常態か。衆院選の与党圧勝シナリオで迎える「円高・金利上昇」への歴史的転換点

「金利2.5%」はもはや新常態か。衆院選の与党圧勝シナリオで迎える「円高・金利上昇」への歴史的転換点
高市総理による衆議院解散宣言と、突如浮上した「食料品減税」。財政規律への懸念から市場では金利上昇と円安が加速しているが、このトレンドは永続的なものなのだろうか。Jトラストグローバル証券株式会社チーフ・インベストメント・ストラテジストの上田祐介氏は、物価上昇率を加味した「実質利回り」の動向に、市場の流れを劇的に変えるシグナルが隠されていると指摘する。3月末、10年債利回りが「2.7%」という臨界点を超えたときに起きる、為替と金利の地殻変動。投資家が今注視すべきシナリオを解説する。
「2月8日の総選挙」で決まる日本経済の分かれ道
高市首相は1月19日の記者会見で、同月23日に衆議院を解散すると表明した。衆議院選は1月27日に公示され2月8日に投開票が行われる。ここでは、選挙結果次第で生じ得る、2~3年後をターゲットとした国債相場の「新たな常態」について考察する。
●党首討論会などの傾向を見る限り、消費税減税に代表される積極財政についての政策方針に関する各党間での差は小さいように見える。
●財政規律派としての反応を示すことが多い国債相場では、選挙の結果にかかわらず、さらなる弱気相場を織り込んでおかしくない状況だ。
●しかし、もし高市政権が率いる与党が選挙で圧勝し、「増税」と「国債増発」以外の財源、すなわちこれまでの日本政治で困難だった「歳出削減と再配分」という第3の財源を進めることができれば、異なる財政規律のもとで一定の時間をかけつつも高い水準の長期金利を、「信認」を伴った「新たな常態」として市場が受け入れざるを得なくなる可能性がある。
以下では、政権側と財務規律派の意識の違いと、異なる経済モデルへのシフトを起こす前提条件について、ポイントを整理する。
選挙結果が「国債の価値」と「日本への信頼」を左右する
党首討論会などの傾向を見る限り、消費税減税に代表される積極財政についての政策方針に関する各党間での差は小さい。よって、選挙結果による日本経済への影響の差は、代替財源面に起因しやすい。
2月8日投開票の選挙結果は、実際に出ないと確定は難しいが、週末の党首討論を経て公開された政党別支持率情報では、現与党(自民・維新)と与党に近い政策を打ち出している野党(国民・参政)の政党支持率は相対的に高い傾向を示している。一方、反対の立場をとる野党(中道、共産、れいわなど)への支持率は相対的に低い水準に留まっている(図表1)。

【図表1】 出所:日本経済新聞*1、2025/1/26時点
もし、こうした傾向が衆議院選挙の結果に最終的に反映された場合には、今の政権与党である自民・維新に近い財政政策がとられる可能性が高い。一方、与党により強く反対の姿勢を取っている中道などの政党が与党を取ったとしても、ポピュリズム的な財政の拡大方針に大きな変化はない可能性がある。
一方で、現役世代の社会保険料等の負担率の抑制や、そのために必要となる代替財源などの考え方については、政権与党と野党では、そのスタンスに差が存在する。このため、選挙結果は、やはり日本経済の今後や、国債相場が織り込む名目成長にも影響しやすい。
目指すのは「良い金利上昇」が起きる国
高市政権が想定する“成長移行シナリオ”では、2%程度の物価上昇、3%程度の賃金上昇、1%台半ばの実質GDP成長を前提に、10年国債金利も2026年から2035年にかけて約2.5%から約3.5%へと「良い金利上昇」となることを想定。
それでは、政府が実際に想定する「成長移行シナリオ」はどのようなものだろうか。以下の図表には、1月22日に内閣府の経済財政諮問会議が示した経済成長シナリオが想定する経済動向と、その中での財政規律指標の推移を示した。
これまでのデフレ経済下における施策を反映した「過去投影ベース」では、プライマリーバランスの維持目標を設定することで長期金利の上昇を抑制可能であり、名目GDP比での公債等残高比率も維持可能だ。ただし経済は成長せず賃金も上昇しない。これに対し、政権側が想定する、「成長移行ケース」や「高成長達成ケース」では、約2%の物価上昇率を上回る3%前後もしくはそれ以上の賃金上昇率が達成され、経済も成長する。超長期金利の高い水準への上昇は必ずしも国債の「信認」喪失を意味せず、名目GDP比での公債等残高比率も、むしろ改善傾向を続ける想定だ(図表2)。

【図表2】 出所: “経済財政諮問会議 令和8年第1回資料(1/22開催)”*2 よりJTG証券で作成
「頑張って稼ぎたい人」が報われる社会へ
高市政権が考える、過去10年以上停滞してきた日本経済を立て直す処方箋
1.人より多く働くことで成果としての高収入を目指せる選択肢も与える社会を実現、
2.結果としてマクロレベルでは消費先導で経済の高成長を達成、
3.さらにAIなどを活用して生産性の向上を図り、
4.これらを背景に企業による国内投資を促すことで、経済再生に向けた正のスパイラルを起こす。
ただし、ここで最も重要なポイントは、どうすれば、このシナリオ通りの成長を達成し、維持できるのか、という点となる。同諮問会議では「有識者」が指摘した日本の潜在成長率の低迷要因を主に3点挙げている。
1.国内での企業の投資が長期にわたり伸び悩んでおり、資本蓄積が十分に進んでいないこと
2.就業者数が増加する一方で、1人当たり労働時間が減少していること(特に、就業者の約7割を占めるフルタイム労働者の労働時間が減少していること)
3.イノベーション等による全要素生産性が伸び悩んでいること
日本経済の潜在成長力が伸びない原因は、これらの中でも、特に就業者の約7割を占めるフルタイム労働者の労働時間の減少であったことを、同諮問会議ではデータを示して指摘している。となると経済の回復に向けた処方箋についても、一定の道筋が示されやすい。
すなわち、過剰な労働を求めない人に労働時間の圧縮と効率性を求めた労働環境を提供する一方で、(1)人より多く働くことで成果としての高収入を目指せる選択肢を与える社会を実現し、(2)結果として消費先導で経済の高成長を達成し、(3)さらにAIなどを活用して生産性の向上を図り、(4)これらを背景に企業による国内投資を促すことで、経済再生に向けた正のスパイラルを起こすというのが、同諮問会議が示した方向性だ。
昨今の高市首相の演説などにも、こうしたエッセンスは多く取り込まれている。
●財政運営
単年度ごとのPB(プライマリーバランス)黒字化目標の達成の可否より、景気動向も踏まえつつ、PBの黒字とバランスを複数年度で確認。
●危機管理投資・成長投資の実現に向けた仕組みの構築
複数年度にわたる予算措置のコミットメントと新たな財源の枠組みを前提に、官による需要創出(政府調達・規制改革等)を推進。
●労働の選択肢と成果の適切な還元
働きたいとの希望を実現し、働くことが報われる仕組みとして生産性の高い柔軟な働き方につながる労働市場改革、働き方に中立的な制度の構築に向けた点検・見直し(社会保険、企業の配偶者手当等)を推進。
●社会保障と税の一体改革に関する国民的議論
現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくための社会保障改革の実施、中・低所得者の負担を軽減し、所得に応じて手取りが増えるようにするため、給付付き税額控除の制度設計を含め、「社会保障と税の一体改革」を速やかに検討。
政権と専門家の間で真っ向から対立する「未来への信念」
政権サイドと財政規律派の最も大きな違いは、政策運営による経済成長の実現可否に対する信頼感にある。こうした考え方の違いは、もはや主義主張に属するものであって、この前提が異なると、今後の未来に生じ得る「経済スパイラル」も、まったく正負の方向性が真逆のものとなる。
最近の市場では、債券や為替市場の反応を背景に、「日本売り」や「信認」低下を土台とした不景気への負のスパイラルに関する論調が多くみられる。日本国債の市場価格の下落や、ドル円レートの円安傾向を受けた主張の多くは、従来型の財政規律派のスタンスを踏襲した考え方だ。こうしたスタンスは、現政権の考える経済成長や財政規律の考え方とは明らかなずれがある。以下の図表に両者のスタンスの差と、こうした議論の若干外側にいる日銀のスタンスの違いをまとめた。
政権サイドと財政規律派の最も大きな違いは、政策運営による経済成長の実現可否に対する信頼感にある、と弊社は考える。両者間には、下記のスタンスの差が存在する(図表3)。

【図表3】 出所: JTG証券で作成
1.政策運営の成果に対する信頼感を持つ勢力:政策運営によって放漫財政に陥らず、効率の良い財政運営への移行が可能で、その結果、短期的には個人所得の実質増により消費増大による実体経済成長を達成し、中期的には人口動態の悪化(労働人口の減少傾向)も抑制できるとする考え方
2.財政規律を重視する勢力:政治体制がどの程度変わろうとも日本の政治や経済を抜本的に改善する施策はなく従来と同様の政策を維持しつつ歳出増だけが継続しやすいため、プライマリーバランスなど明示的な財政規律で管理すべき、とする考え方
こうした考え方の違いは、もはや主義主張に属するものであって、この前提が異なると、今後の未来に生じ得る「経済スパイラル」も、まったく正負の方向性が真逆のものとなる(図表4)。

【図表4】 出所: JTG証券で作成
ここで示した通り、両者の間には明らかな断絶がある。その原点は、政治の自浄能力や今後の政策実現性に対する期待値の差とも言えるが、信念の違いともいえる。両者の間を埋めるものは結果しかない、と言えよう。
与党大勝なら4月以降、為替は150円台の円高へ
現役世代の負担を抑制し国家の成長を目指すための代替財源には、「増税」や「国債増発」だけに頼らない第3の財源、すなわち「歳出の見直しと再配分」が必要だ。こうした政策を進めるには、政権与党と政策的に近い政党が大勝するような選挙結果が前提となる。
仮に与党大勝シナリオが実現した場合には、4月以降の為替相場は、一方的な売りとはならず150円台前後までの円高が進みやすくなり、10年国債金利は一旦2.5~2.8%程度までのオーバーシュート後には2%台前半で落ち着きやすくなるだろう。
日本経済には、既に歳出増を際限なく広げる余裕はない。その中で、前述のように現役世代の負担を抑制し、国家の成長を目指すためにはそれに見合う巨額の財源が必要だ。それには「増税」や「国債増発」だけに頼らない財源、すなわち「歳出の見直しと再配分」を一定規模で確保することが重要だ。しかし、既得権益の削減は、日本の政治においてもっとも苦手な分野だ。また、これまでの日本の政治・経済運営を長年見てきた専門家が、口をそろえて実現不可能だと指摘する内容だともいえる。
現政権では、片山財務相の指揮下のもと、租税特別措置・補助金見直し担当室(いわゆる日本版DOGEの窓口)を内閣官房に設置した。同組織は、租税特別措置や高額な補助金、基金などの政策効果を横断的に点検し、効果の低いものは廃止に導くことを目的とする。同室では1月5日から2月26日まで、租税特別措置・補助金見直し担当室を窓口として、租税特別措置等、補助金及び基金を対象とした適正化と見直しに関する提案を募集している。ただし意見募集が終わった後に、現実に補助金等の削減を大幅に進めようとすると、相当な規模と圧力で政治的な障壁が立ちはだかることが予想される。
今回の衆議院選で、連立与党が大勝できるかどうかという点は、現政権が財政拡大だけではなく縮小分野についての十分なイニシアチブを握るために不可欠なものだ。よって、「責任ある積極財政」が実現できるか、「無責任でポピュリズム的な積極財政」に転落するのか、という判断を行う上でも、2026年の衆議院選挙の結果は、今後の相場にも影響する重要な判断材料となる。仮に、すべてが前向きに進むようがあれば、第4の財源となる経済成長が実現し得る。このイニシアチブを与えるかどうかは、本衆議院選挙の大義ともいえる。
もし与党が選挙で大勝すれば、当面は「良い経済スパイラル」を信じて政策が実行される可能性がある。ただし、こうした政策が仮に実施されても、経済政策は失敗する可能性は充分にあり、確実な未来が約束されるわけではない。ただ、異なる経済モデルへと進むためには、与党の大勝は必要条件となる。逆に、充分な議席が得られなかった場合には、与党内野党の反対もあり、歳出削減は進みにくくなるだろう。また野党が勝った場合にも、ポピュリズム的な放漫財政が進みやすい状況には変わりはないと考えられる。
もし政権与党と政策的に近い政党が大勝するような選挙結果が生じた場合、壮大な社会実験ともなる経済のリフォームが進められることになる。この場合には、金利・為替相場も、従来の常識とは異なる「新たな常態」のもとで正常化されることとなる。仮に与党大勝シナリオが実現した場合には、「日本版DOGE」による聖域なき歳出削減が現実味を帯び、これまで「バラマキ」への懸念から売られていた円に対して、財政健全化への期待が先行することになる。その結果、4月以降の為替相場は、一方的な売りとはならず150円台前後までの円高が進みやすくなり、10年国債金利は一旦2.5~2.8%程度までのオーバーシュート後には2%台前半で落ち着きやすくなるだろう。
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