「何周も遅れていた」経営トップが集まる国際会議で、日本企業が突きつけられた現実

2025年12月3日と4日に、世界初の障害者インクルージョンに関するサミット「SYNC(シンク)25」が開催された。
12月3日の国際障害者デーにあわせて、世界で初めてとなる「ビジネスにおける障害インクルージョンのアカウンタビリティ・サミット」が東京で開催されました。その名は「SYNC(シンク)25」。世界で影響力のある企業のCEOや経営幹部、政策決定者、当事者、専門家らが一堂に会する、極めて限られた場でした。
私もこのサミットに専門家・障害者リーダーとして参加し、セッションに登壇しました。参加者が限定され、外からは議論の中身が見えにくい場だったからこそ、現地で何が語られ、何が前提とされていたのかを記録しておく必要があると感じています。
SYNC25のテーマは「Synchronized Collective Action(同期した集団行動)」です。 1人や1社の取り組みではなく、体系的な変化を実現するために、これまで欠けていた要素──それは、集団の力を結集し、「同じことを、同じ時間に、同じ方法で実行する力」だと、繰り返し語られていました。
「インクルージョン」は“姿勢”では評価されない

当日は、「Valuable 500」に加盟する500を超える国内外のリーダーが集まり、さまざまなセッションが行われた。
SYNC25の会場で強く感じたのは、「インクルージョン」という言葉が、もはや善意や努力の証としては機能していないということです。
企業や組織は障害のある人を配慮しているか、対話しているか、取り組もうとしているか。そうした姿勢を示す言葉は、もちろん前提として受け止められつつも、それだけでは何も評価されません。代わりに、セッションなどを通じて繰り返し突きつけられていたのは、具体的でシビアな問いや投げかけでした。
「その意思決定プロセスに、障害者は実際に関わっているのか」 「プロジェクトを障害者自身がリードしているのか」 「もし意思決定のプロセスに障害者の声が入っていないのであれば、その業務は一度止め、やり直すべきだ」
この言葉は、会場の空気を象徴していました。世界中のCEOたちがこの言葉が発したときに大きな拍手(ときにスタンディングオベーション)があり、会場にいた全員が同じ方向を向いていることを確かに感じました。
インクルージョンは、評価される“取り組み”ではなく、説明責任を伴うものへ。実行してこそ意味があり、企業においては経営戦略の中核を担うもの。その前提が、全体を通じて共有されていたのです。
日本の専門家として登壇して見えた、前提の違い

写真一番左が筆者。
私が登壇したセッション「Design for Everybody and Customer Experience(すべての人のデザイン、そして顧客体験)」では、日本のインクルーシブデザインや参加型デザインの実践について紹介しました。日本では、当事者と丁寧に対話し、「共に考えるプロセス」を積み重ねていくことが重視される傾向があります。こうした姿勢自体は、海外の来場者からも一定の関心をもって受け止められていました。
しかし、議論はそこでは終わりません。 その対話は、どの意思決定につながっているのか。 権限はどこにあり、誰が最終責任を引き受けているのか。 プロジェクトの成果は、どのように評価され、どのように説明されるのか。
プロセスの丁寧さや熱量はもちろん大事ですが、それ自体が「責任」を保証することはありません。そういった意識の違いが、議論の随所で明確になっていきました。
「何周も遅れていた」──日本企業トップの率直な言葉

Valuable 500
印象的だったのは、日本企業の役員や代表と現地で交流する中で話してくださった、率直な言葉です。
「自分たちは、何周も遅れていた」
「そもそも考え方が間違っていたのかもしれない」
こうした発言は、決して自嘲的なものではありませんでした。むしろ、SYNC25での議論に真正面から向き合ったからこそ出てきた言葉だったように思います。
日本では、DEIや障害者インクルージョンは「良いこと」「やるべきこと」として語られやすく、善意や努力が強調されがちです。一方で、「誰が責任を負うのか」「意思決定はどこにあるのか」という問いは、後回しにされてきました。
SYNC25は、その構造に明確な線を引いていました。善意があるかどうかではなく、責任が明確かどうか。取り組んでいるかどうかではなく、自らの言葉で説明できるかどうかが重要なのです。
国際障害者デーに、この議論が行われた意味とは?

来場した世界の意思決定者たちが一歩踏み出すことを決断したことを示すサインと、一歩目の足の写真。
SYNC25が示していたのは、理想論ではなく“覚悟”の必要性でした。インクルージョンを「評価される活動」から、「説明される意思決定」へと移行させる覚悟です。世界中の13億人の障害者に対する責任を果たす”覚悟”とも言えます。
国際障害者デーに、この議論が行われたことは象徴的です。障害者インクルージョンは、善意の問題ではありません。責任の問題であり、権限の問題であり、社会やビジネスの意思決定のあり方そのものです。
日本の企業や社会は、この問いにどう向き合うのでしょうか。その答えは、もはや「取り組んでいます」という言葉だけでは済まされない段階に来ています。
Mashing Up Allies(Mashing Up 公式アンバサダー)
田中美咲
Misaki Tanaka

田中美咲
東日本大震災を機に気候変動・自然災害に関するNGOを設立し、8年間代表を務める。その後、ソーシャルビジネスを3社創業。DEIやインクルーシブデザインを専門とし、国内外の企業・国際機関のアドバイザーを歴任。著書に『非常識なやさしさをまとう―人とともにデザインし、障がいを超える―』(ライフサイエンス出版)がある。現在はパナソニック デザイン部門 DEIデザイン課の課長も務める。
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