AIでつまずいたアップル帝国は終焉を迎えるのか? プロが語る株価が10倍になる逆転のシナリオとは?

Photo:Apple Inc

かつてイノベーションの象徴だったアップルは、いまAI革命の波に乗り遅れている。世界一の投資家とも称されるウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイによるアップル株の大量売却も、不安材料のひとつだ。果たしてアップルは終わりゆく企業なのか、それともいまこそアップル株に投資するチャンスなのか。米国株を知り尽くした2人のスペシャリストが、激動のAI時代におけるアップル株の行方を鋭く読み解く。(今村光博、ダイヤモンド・ザイ編集部)

※株価や業績データは2026年1月30日時点。企業名の後の( )内はティッカー。

AIでの出遅れとバフェット売却で

アップル帝国が揺らいでいる!

 アップル(AAPL)が、いま岐路に立たされている。マグニフィセント・セブン(以下マグ7)の中で、AI革命への対応の遅れが指摘され、株価も軟調な展開が続いている。さらに投資の神様とも呼ばれる、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが保有株の多くを売却したというニュースが市場を揺るがした。イノベーションの象徴だったアップルは、もはや終わりゆく企業となったのだろうか?

 この問いに対し、米国株のプロ2人を直撃した。一人は、注目度が高まっている“フィジカルAI時代”の到来をいち早く予見した、むさし証券の杉山武史さん。もう一人は、エヌビディア(NVDA)ネットフリックス(NFLX)の復活をどん底の時期に的中させた、元フィデリティ投信の投資調査部長、ポール・サイさんだ。アップルが抱える“経営の限界”と、市場がまだ織り込んでいない“逆転シナリオ”。AI革命の裏側で、アップルに何が起きているのかを徹底検証する。

むさし証券・ 杉山武史さん ●名古屋の豊証券入社。東京証券取引所の場立が初仕事。その後、経営企画室室長に就任。2008年 リーマンショックで荒れる米国市場の調査を開始。米国株の未来を確信し、取引拡大に努める。2017年 むさし証券入社。米国、ベトナム、マレーシア等外国株式の情報収集及び分析を行う。

ポール・サイさん ●ストラテジスト。外資系大手資産運用会社フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長を歴任し、12年以上にわたり株式調査に従事。2017年に独立し、40代でFIRE(経済的自立と早期リタイア)を達成。現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用しながら、 メルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」 等で個人投資家への助言を行う。近著に 『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』

株価を23倍にしたクック体制!

だが、“守りの経営”は限界?

 アップルの現状を語るうえで、最も重要な論点が“経営者の資質”だ。杉山さんは、アップルがAI革命において保守的な立ち位置にとどまっている背景には、ティム・クックCEOの経営スタイルがあると分析する。

「アップルはかつては革命を起こす企業でした。しかし、経営トップがスティーブ・ジョブズ氏からティム・クック氏に代わったことで、会社の本質は大きく変わったのです」(杉山さん)

 クック体制は、ジョブズが遺したiPhoneという“世界最高の製品”を軸に、サプライチェーンを徹底的に最適化することで業績を拡大してきた。着実な成長を積み重ね、アップルを時価総額4兆ドル規模の巨大企業へと育て上げた功績は疑いようがない。

チャート提供:マネックス証券

スティーブ・ジョブズの時代には、iPhoneをはじめとする現在の主力製品が相次いで誕生した。一方、サプライチェーン管理の天才と評されるティム・クックは、既存製品の販売を大きく伸ばし、売上高と税引前利益はいずれも約4倍、株価は約23倍になった。しかしこの間、目立った新製品といえるのはVision Proくらいだ

 しかし、その“守りの強さ”が、今のAI革命においては仇となっているという。杉山さんは現在のマグ7各社の経営者のAI投資に対する姿勢を以下のように分類する。

(1)経営者自身がカリスマとしてAIの未来を確信し、即断即決で資源を投入している

 エヌビディア(ジェンソン・ファン)、メタ・プラットフォームズ(マーク・ザッカーバーグ)、テスラ(イーロン・マスク) 

(2)創業者からバトンを引き継ぎ、AIへの巨額投資と革新を続けている

 アマゾン・ドット・コム(アンディ・ジャシー)、アルファベット(サンダー・ピチャイ)、マイクロソフト(サティア・ナデラ)

(3)成功が確実視されない限り勝負しないので、AIへの投資に慎重

 アップル(ティム・クック)

「クック氏は投資に対して非常に慎重です。成功が確実視されない限り、巨額の投資には踏み切らない。しかし、現在のAIの世界に“成功が約束されているもの”など存在しません。エヌビディアのジェンソン・ファン氏やメタ・プラットフォームズ(META)のマーク・ザッカーバーグ氏、マイクロソフト(MSFT)のサティア・ナデラ氏といった“確信犯的な革命者”たちが、不確実な未来に巨額の投資をしているのに対し、クック氏の慎重さはアップルにおけるAI導入のスピード感を削いでいる」

アップルが直面するAIでの出遅れ!

グーグルとの提携は危険なのか?

2026年1月にテスラはヒト型ロボット「オプティマス」を訓練するため、従業員からデータを収集する計画を発表した。(Photo:Tesla Inc)

 AI導入の遅れが指摘されてきたアップルは、2024年10月に独自の「Apple Intelligence」を始動させた。しかし2026年1月、音声アシスタント「Siri(シリ)」の抜本的改良に向け、競合であるグーグルのAI「Gemini(ジェミニ)」の採用を発表。この決断に対し、杉山さんは強い警鐘を鳴らす。

「ライバルのAIをiPhoneの中核に組み込むという、かつてのアップルでは考えられなかった妥協を含む戦略的提携だといえます」

 現在、アップルが抱える不安要因は、主に次の3点に集約される。

強力なAI基盤モデルがない・・・自社で強力なAI基盤モデルを構築できず、他社の技術に依存せざるを得なくなったこと。

経営の保守化・・・ティム・クック体制が“革命”よりも“従来からある製品を磨き上げる”ことに軸足を置いてきたこと。

メタは、アイウェアブランドの「レイバン」やスポーツブランドの「オークリー」と提携し、AI搭載のスマートグラスを展開。スマートグラスは、スマホの次を担うデバイスとして急成長している。(Photo :Tetyana/Adobe Stock)

次世代デバイスの出遅れ・・・スマートフォンが成熟・淘汰され、スマートグラスやロボティクスの時代が到来した際、かつてのような破壊的な新製品が見当たらないこと。

「メタがスマートグラスで先行し、テスラがヒト型ロボットの開発を進める中で、アップルはいまだiPhoneのマイナーアップデートに終始しています。ジョブズのような“大ボラ吹きだが天才的な予言者”を失ったアップルは、かつての巨大企業が陥った“成功者の罠”にはまり、2000年代に一世を風靡したノキアやブラックベリーと同じ道を辿りかねません」(杉山さん)

期待値と実力にズレがある時こそ

投資する絶好のチャンスだ!

 一方で、「出遅れているからこそ、アップル株には大きな株価上昇を狙える余地がある」と分析するのが、ポール・サイさんだ。ポールさんは、かつてエヌビディアやネットフリックスが市場から見放されていた低迷期に、いち早く買い推奨し、その後の株価急騰を的中させてきた実績を持つ。

 例えばエヌビディアは、GPU需要の一時的な鈍化や暗号資産バブルの崩壊を背景に株価が大きく下落し、「成長は終わった」との悲観論が広がっていた2022年9月に買い推奨した。ネットフリックスも、会員数の伸び悩みや競争激化を理由に市場の期待値が急低下していた2022年8月末に買い推奨している。その後、エヌビディアの株価は26年1月末までに約15倍、ネットフリックスも約4倍に上昇した。

 こうした投資判断の根底にあるのが、ポールさんが重視する「市場の期待値と長期でみた企業の実力のズレ」という考え方だ。

「多くの投資家は、足元の業績や直近のニュースに一喜一憂します。しかし本当に重要なのは、現在の株価にどれほど将来の成長性が織り込まれているかです。期待値が高すぎる銘柄よりも、過小評価されている銘柄にこそ真のチャンスが眠っています」

 市場の期待を一身に背負う企業は、好決算を出しても材料出尽くしで売られやすい。一方、現在アップルへの期待値は極めて低く、“AI競争の敗者”といった悲観論が株価に反映されている。ポールさんは、まさにこの状況にこそ投資機会があるとみる。

優れた企業であっても、期待値が低い局面では、株価が本来の企業価値を下回ることがあります。エヌビディアやネットフリックスを推奨した当時も、まさにそうした状況でした。今のアップルは、その時の局面に近い」

 ポールさんがアップルに注目する理由は、大きく2つある。第一に「AIモデルそのものはいずれコモディティ化する」という見方だ。

「AIモデル自体は、将来、水や電気のような汎用品になります。そのとき勝敗を分けるのは、モデルの性能ではなく、どの企業がどんなデータを握っているかです」

 第二にアップルが保有する圧倒的なヘルスケア・行動データである。iPhoneやApple Watchを通じて、消費行動や嗜好に加え、心拍数、睡眠、ストレスといった極めてプライベートなデータを長期にわたり蓄積している。この領域は、他社が容易に追随できない。

「どのAIモデルであっても、iPhoneに搭載されればユーザー体験自体は大きく変わりません。しかし、そのAIを“個人の興味・体調・心理状態”に最適化できる学習データを持っているのはアップルです。AIモデルがコモディティ化すればするほど、デバイスとデータを握るアップルの価値は、むしろ再評価されるはずです」

 エヌビディアやネットフリックスと同様、期待値が極端に低下した局面から株価が大きく動く可能性はあるのか。ポール・サイさんは、現在のアップルを「検討に値する段階にある」と位置づけている。

AI導入の失敗による下値リスクはあるが

株価が数倍になる逆転のシナリオもある!

 では、アップル株を今、買うべきなのか。その判断材料の一つとして、ポールさんはウォーレン・バフェットの投資行動にも注目している。

「バフェット氏は確かにアップル株を大量に売却しました。しかし、それでもバークシャー・ハサウェイの保有株トップは依然としてアップルです。保有比率を調整しただけで、アップルのビジネスモデルが崩壊したと考えているわけではありません」

 また、今後のアップル株の上昇要因として、ポールさんは次の2点に注目している。

 第一にAIの浸透によるiPhoneの買い替えサイクルだ。AI機能をフルに活用するには最新のチップを搭載したデバイスが必要となる。世界中に存在する数億人規模のユーザーがiPhoneの買い替えを迫られれば、業績を押し上げる強力な材料になる可能性がある。

 第二にプライバシーに対する信頼性である。AIの普及とともに情報漏洩や悪用への懸念が高まるなか、「プライバシーを重視するアップル」というブランドは、他社が容易に真似できない強力な“堀(参入障壁)”として機能する。

 株価の見通しについてポールさんは、「2016年1月30日時点のアップル株は259.48ドル。仮にAI戦略に失敗した場合、テクニカル面では120ドル近辺まで下落する可能性がある」と指摘する。一方で、AI分野の出遅れを巻き返すようなスマートグラスなど次世代デバイスの投入といった材料が浮上すれば、エヌビディアのように、数年で株価が数倍に上昇するシナリオも十分にあり得るという。

 これに対し、杉山さんは「10年後にAI競争での勝者として生き残れるか、今最も正念場に立たされているのはアップルかもしれない」と警鐘を鳴らす。ただし同時に、ある条件が整えば株価が10倍になる可能性もあるという。

「もしアップルが、今の保守的な経営を捨て、例えばテスラのイーロン・マスク氏やオープンAIのサム・アルトマン氏のような革新的リーダーを迎える、あるいは大胆な買収に踏み切るなど、劇的な変化を起こせば、世界は一気に変わります。アップルには、それを実行できるだけの莫大な資金力があります」

 アップルが再びイノベーターに戻るのか、それともiPhoneという巨大な既得権益を守る企業にとどまるのかは、まだ不透明だ。ただし、市場が悲観に傾いている局面だからこそ、大きな株価上昇を狙える余地がある。AI時代において重要性が増す“プライバシーを守る”という信頼とブランド力を持つアップルを、改めて評価すべきタイミングに来ているのかもしれない。

本記事は2026年2月4日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。