「自民が勝とうが負けようが、消費減税は絶対ない」ささやいた財務省OB、高市政権は食料品消費税ゼロを断行できるか

街頭演説で支持を訴える自民党総裁の高市早苗首相=5日、佐賀県白石町(写真:共同通信社)

(渡辺 喜美:元金融担当相、元みんなの党代表)

「切り貼り新党」は成功したためしがない

 自民・維新の与党圧勝、中道惨敗、国民横ばい、参政躍進、れいわ・共産後退――。

 9日の新聞朝刊は、そんな見出しになるのだろうか?

 高市早苗首相の人気はネット上では圧倒的で、切り抜き動画であふれ返る。一方、ジリ貧の立憲民主党の誘いに、組織の疲弊が進む公明党が乗って誕生した新党・中道改革連合は大苦戦を強いられている。創価学会は中盤戦に続き、終盤戦で2度目の指示を108選挙区に出したとされる。中道の命運はこの1点にかかっている。

街頭演説で支持を訴える中道改革連合の野田佳彦共同代表(右)と斉藤鉄夫共同代表=1月30日、名古屋市(写真:共同通信社)

 日本維新の会は、現有34議席を下回っても自維で定数の3分の2に当たる310議席以上を確保するとレバレッジを取り戻す。参議院で否決された法案を衆議院で再可決できるようになるからだ。そこまでいくと高市政権の基盤は盤石になるだろう。

 いずれにしても投票率が高ければ自民に有利、低ければ不利の構造は変わらない。週末に予想される豪雪がどう影響するか?

 サナエフィーバーは世界的な自国ファーストと保守化の流れに乗った上で、日本が経済成長を取り戻す(生活が良くなる)という期待感があるから起きている。ネットのアルゴリズムはそれを増幅する。また、中道が選挙目当てであることに、有権者は強い拒否感を持っている。

 昨年、立憲は国民民主党・玉木雄一郎代表を首班指名で担ごうとして失敗した。公明と組むしか生き残りはないと考えた。

 だが、複数の政党が合併する「切り貼り新党」は成功したためしがない。

 1994年、新生党・日本新党・民社党・公明党・自由改革連合の5党による新進党(衆議院178人)は、小選挙区対応で統一比例名簿を持ち、創価学会と同盟(民社系労組)の全国組織を当てにした。

 しかし、政策の対立を抱えたままの新進党は次の総選挙で惨敗、比例上位には公明・民社候補を載せたため小選挙区落選組が続出し、解党にいたる。野田佳彦氏はその落選組の一人だった。中道は同じ失敗を繰り返しつつある。公明系は公示前24議席から28に議席に増えるだろう。また、自民にすり寄るか?

 安住淳幹事長を始め、自分の当落を心配しなければいけない立憲系幹部も多い。中道は167議席から半分以上減らす予想もある。

 野田氏は総理の時、選挙公約にない消費税増税を、自公を巻き込んでやった。今回、食料品消費税ゼロの恒久化という中道の政策は、いずれ増税に道を開くと感じる人は少なくないと思う。公明系も含めて嘘っぽいのだ。

 野田総理の増税法案の時、与野党党首会談に呼ばれた。民主党からは輿石東幹事長が同席していた。

 私は、「失礼ながら、総理は財務省に良いように利用されているんじゃありませんか。使い捨てにされますよ」と申し上げた。輿石氏は何度も頷いた。

 野田氏は一瞬言い淀んで、「財務省と政局感が違うんだと思います」と答えた。選挙をやっても負けないという意味だと理解した。

 その野田氏は民主党を分裂に追い込み、議員定数削減を条件として衆議院を解散、そして大惨敗を喫した。自民党・安倍晋三総裁との党首討論で解散を宣言した翌日から円安株高が始まる。

財務省OBから政治ジャーナリストに連絡が入った

 今回の総選挙に大きく影響されるのはマーケットであろう。

 高市総理は自ら「悲願」と語った食料品消費税の2年間ゼロ税率について、公示後、発言を封印した。1月19日の解散会見では、日本維新の会との連立合意の「検討する」という事実上の棚上げから「実現に向けた検討を加速する」と表現ぶりを変更した。財務省や麻生太郎副総裁始め、党内財政規律派は当然、反発した。

 ところが翌20日、一時10年物国債が2.38%、超長期債の40年物国債が史上最高の4.215%(価格は大幅下落)をつけるなど債券市場に異変が生じる。

 ダボスにいたベッセント米財務長官は「6シグマ」(5億回に1回起きる標準偏差)というオーバーな例えで、JGB(日本国債)金利が米長期債に波及していると懸念を表明した。同じくダボスにいた片山氏は「責任ある積極財政」の説明で火消しに走る。

 アメリカではその時すでに、トランプ大統領のグリーンランド関税発言を巡って、デンマークの教員年金組合が米国債を売却する計画を発表するなどの報復合戦から長期金利が跳ね上がっていた。ベッセント財務長官はそれをJGBのせいにした。

 JGBの金利が上がっている主要因は、元日の拙稿でも書いたように、植田日銀の量的引き締め(保有長期国債の持ち高圧縮)と利上げである。4回目の利上げを据え置いた1月23日の政策決定会合の総裁会見の後、ドル円相場は突然円高に振れる。その数時間後には更に円が急進。日米の通貨当局が「レートチェック」(介入準備のヒアリング)に入ったと報じられた。

 この日米協調の口先介入は、ドル円が一時152円台に突入するなど急速な円高進行をもたらし、野党が「円安が物価高の元凶」と言って高市政権を攻撃することを困難にした。

 アルゼンチンで親トランプ派のミレー大統領が誕生した後、米通貨当局がペソ買い介入に入ってミレー政権を援護した例もある。トランプ大統領は2月5日、日米首脳会談がワシントンで3月19日に行われると明かし、選挙で高市氏を全面支持と表明した。

米ワシントンでのイベントで話すトランプ大統領(写真:ロイター=共同)

 ベッセント財務長官の真の狙いは、為替を通じて長期金利を抑えることにあったのではないか。底抜けの円安が債券売りを招き米長期債に波及するルートを金融市場の裁定機能を使って遮断する。

「6シグマ」という債券市場のブラックスワンを目の当たりにしてもなすすべのなかった日銀に対し、日米通貨当局が完全な利害の一致のもと、レートチェックを言わば「為替スタビライザー」として使ったのである。

 しかし、こんな手はそう何度も使えるわけではない。財務省シンパのマスコミは盛んに長期金利上昇を煽り立てる。どうも世論工作の匂いがする。

 ある政治ジャーナリストは選挙直前、財務省OBから連絡を受け「自民党が勝とうが負けようが、消費税減税は絶対ない」と言われたそうだ。市場エコノミストは消費減税が長期金利を押し上げると大合唱。

 また、食料品ゼロ税率は一旦やってしまうと元に戻すのが困難なので、本則の税率を12%に上げる、という解説もまことしやかに飛び交っている。

 自民党新人候補者が似たようなことを喋って撤回謝罪に追い込まれたが、火のない所に煙は立たない。高市総理は2年半後に衆参ダブル選挙をやって、消費税の問題を国民に問うことになるかも知れない。安倍内閣と全く同じパターンである。

「積極財政」でも財政に問題はない

 名目長期金利(2.2%程度)<名目成長率(4%程度)という状況で何ら財政に問題はない。財務省が公開している連結バランスシート(図1)からも分かるように、膨大な金融資産を政府は抱えている。現預金・有価証券・貸付金・出資金等、アメリカ合衆国連邦政府よりも巨大である。ちなみに、ネットの赤字は約528兆円だ。2024年度の名目GDPは約642兆円なので、対GDP比は約82%である。

図1:国の連結貸借対照表

 日銀のB/S(図2)は年々縮小している。政府と日銀を合体した統合政府B/S(図3)ではネットの赤字は変わらないが、負債の部にはそれを上回る日銀の現金・当座預金がある。

図2:日銀の貸借対照表

図3:図1と図2の合算

 なぜ、こういう数字で議論しないのだろうか? ちなみに、IMFの集計では金融資産を除いた純債務のGDP比は日本は133%で、巷間言われているグロスの赤字GDP比230%とはだいぶ開きがある。

 減税実現のためには来年度の「骨太方針」の中で今後5年間の名目成長率を4%以上とするなど中期目標を設定するのが良い。当然だが、財政金融一体政策の中で日銀もその目標は共有することになる。英国のトラスショックは財政と金融が反対方向を向いていたことから起きたものだ。

 外国為替特別会計(外為特会)も争点の一つだ。

 中道改革連合は消費税減税の財源として210兆円ある外為特会を国家ファンドに組み込んで足しにしようと主張。主にドル債で運用されている同特会のポートフォリオは非公開だが、直近の剰余金は約5.3兆円ある。

 その70%は一般会計に繰入れられるルールがすでに存在する。ただ、為替相場に影響を与えないよう円転せず3カ月の短期国債を発行して財源にしている。だから、大規模な円買い介入でもしない限り、外為特会は膨らみ続ける。

 おりしも高市総理が「円安で外為特会の運用もホクホク」と円安容認とも取られかねない発言をした、と報じられた。高市氏は円高のメリットにも言及しており、典型的な「切り取り」である。ドル円は円安方向に動き、野党の円安批判が再開された。

 外為特会の埋蔵金(含み益)は今や、40兆円を超えている。160円を防衛ラインとしたいのなら米財務省と話をつけて満期償還になった期間の短いドル債を再投資せず円転すれば良い。次期FRB議長になるウォーシュ氏が利下げと量的引締め(QT)論者であることから案外受け入れやすいかも知れない。

 選挙後、日本の政治・経済には劇的な変化が訪れるであろう。日本が成長を取り戻す転換点になれば良い。

関連記事

『もっと手取りを増やす』国民民主の一丁目一番地「社会保険料還付付き住民税控除」は日本を変えるか、泡と消えるか

【衆院選】どの政党を支持しても「バラマキ」、誰のせい?政治不信・物価高を作った張本人が支持を得る皮肉な構図

消費税減税競争に異議あり!いま必要なのは中所得層の所得税アップと社会保険料負担の削減だ