人生に運命の出会いが訪れる確率は? 数学で導かれたうれしい数字

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人生は良いことと悪いことが半々だと思われがちだ。だが18世紀の数学者モンモールの「出会いの問題」から見えてくるのは、誰の人生にも幸運が6割訪れるという驚きの結論だ。これからの生き方を、ちょっと見直してみよう。※本稿は、サイエンスナビゲーターの桜井 進『人生は数学でできている』(中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです。

2人が出すカードの数字が

一致しない確率から求められるもの

問題 人生、良いことと悪いことの比率はどれだと思いますか。

(1)人生五分五分

(2)人生六分四分

(3)人生四分六分

 人生五分五分。人生、良いことと悪いこと、幸運と不幸が最終的に半々になるということです。人生は十人十色、十人十色の答えが返ってくるようにも思えます。これから示す答えは「(2)人生六分四分」です。そう言ったところでなんの説得力もありません。

「あなたはそうなんでしょうが、私は違う」と思われるのがオチ。ところが、誰の人生でも幸運が六分であることが数学によって示されるとしたら聞く耳を持ってもらえるのではないでしょうか。

 さて、ある問題の確率を考えることで幸運が六分であることが示せます。それが「出会いの問題」です。1708年にフランスの数学者ピエール・モンモール(1678~1719)によって提出されたので「モンモールの出会いの問題」「モンモールの問題」と呼ばれています。

 トランプのA、2、3、……、J、Q、Kの13枚をよく切って一列に並べるとき、並んだ順番が1枚もそのトランプの数字と一致しない確率は?

「出会いの問題」は次のように言い換えることができます。2人がそれぞれAからKまでの13枚のカードを持って、1枚ずつ机の上に出しながら次々に「カード合わせ」を行います。同じ数のカードが一緒に出れば「出会い」が起きたとします。

 13枚を出し尽くしたとき、「出会いが一度も起こらない確率」はいくつでしょうか。

難関大学の入試の定番

「モンモール数」とは?

 これはAさんのカード「1」にはBさんの「1」以外のカードが対応し、Aさんのカード「2」にはBさんの「2」以外のカードが対応するというように、すべてばらばらに対応する順列の数を求めることに帰着します。

 例えば、カードが3枚の場合はAさんの(1、2、3)に対して、Bさんのカードの順番が(2、3、1)、(3、1、2)の2通りのどちらかであればいいということです。

 3枚のカードの並べ方は全部で3×2×1=6通りあるので、出会いが一度も起こらない確率は2/6=1/3となり約33%です。

 カードの並べ方(1、2、3)は順列です。n枚のカードすなわち1、2、3、…、nの数を並べる順列において、i番目がiではない順列のことを攪乱(かくらん)順列(攪乱:かき乱すこと)または完全順列と呼びます。そして攪乱順列の数をD_nで表し、出会い数またはモンモール数と呼びます。出会いが一度も起こらない確率をP_nとします。

 n個の数字を並べる順列の総数はn×(n-1)×…×2×1=n!通りです。これをnの階乗といいます。すると、出会いが一度も起こらない確率P_n=攪乱順列の数D_n/順列の総数n!と表すことができます。nが1から4までの場合、次のようになります。

 n=1のとき(1)の攪乱順列はありません。D_1=0

 n=2のとき攪乱順列は(2、1)、D_2=1、P_1=1/2=0.5

 n=3のとき攪乱順列は(2、3、1)、(3、1、2)、D_3=2、P_3=2/(3×2×1)=1/3=0.333…

 n=4のとき攪乱順列は(2、1、4、3)、(2、3、4、1)、(2、4、1、3)、(3、1、4、2)、(3、4、1、2)、(3、4、2、1)、(4、1、2、3)、(4、3、1、2)、(4、3、2、1)、D_4=9、P_4=9/(4×3×2×1)=0.375

 このように「出会いの問題」は攪乱順列の数D_nを求めることに帰着します。

オイラーによればモンモール数は

ネイピア数eの逆数に収束する

 モンモールとは別に、数学者オイラーは「封筒とりちがえ問題」を研究していました。

 ある人がn通の手紙を書き、宛名を記した封筒をn枚用意した。どの手紙も正当な宛名の封筒に入れない仕方は何通りあるか。

「封筒とりちがえ問題」の答えは攪乱順列の数(出会い数)に他なりません。1740年頃にオイラーは攪乱順列を研究することで出会い数を求める公式(図4-5)を導き出すことに成功しました。その結果は私たちを二度驚かせてくれます。

同書より転載

 第一に、nが無限大のとき確率P_nが e分の1であること!「1/e=1/2.718281828…=0.3678794411714423215955237701…)約37%)」です。

 さて、nが無限大すなわち無限大のカードなんて非現実的です。モンモールの問題はn=13の場合です。P_13を計算してみると「P_13=0.36787/9441160…」。なんと1/eと10桁も合っているではありませんか!

 n=100の場合は「P_100=0.36787944117144233…」と16桁合っています。これが第二の驚きです。

 モンモールの問題の答えはカードの数が13枚でも100枚でも100億枚でも、約37%でほとんど変わらないという驚きの結論!そもそも3枚の場合の確率でさえ、1/3=約33%です。

応用で「運命の人」に

出会える確率もわかる!

「出会いが一度も起こらない」の反対は「少なくとも一度は出会いがある」です。これを余事象といいます。少なくとも一度は出会いがある場合とは、n=3であれば一度だけの出会いから三度すべて出会うことまでを意味します。

「余事象の確率=1-事象の確率」ですから、「少なくとも一度は出会いがある確率」は1-0.367=0.633(約63%)となります。オイラーは「37%ルール」を導き出しましたが、それは「出会いが一度も起こらない」確率です。そこで、「少なくとも一度は出会いがある」ことを「63%ルール」と呼ぶことにします。

 カードの出会いを人生のパートナーを見つける男女の出会いに置き換えてみましょう。

 私たちは誰か見知らぬ異性と出会ったときにその人と「お付き合い」をしてもいいかどうか判断します。そこにはいくつかのチェックポイントがあるでしょう。例えば、(1)身長、(2)年収、(3)顔の好き嫌い、(4)趣味、(5)食べ物の好き嫌い、などなど。さらに結婚のことを考えるともっと多くのチェックポイントがあるでしょう。

 モンモールの「カード合わせ」―2人がそれぞれAからKまでの13枚のカードを持って、1枚ずつ机の上に出していく―を「チェックポイント合わせ」にしてみます。

 カードには数字の代わりにチェックポイントが書かれていると思えばいいでしょう。

 例えば、身長・年収・趣味の3枚のカードを用意して優先順にカードを並べます。Aさんは(年収>趣味>身長)、Bさんも(年収>趣味>身長)だとして1枚ずつ出していくと「出会い(優先する順序の一致)」は3つ、お似合いの2人となり付き合う可能性が大です。

 Cさんは(趣味>身長>年収)、Dさんは(身長>趣味>年収)であれば、「出会い」は「年収」の1つあるので、付き合う可能性はぎりぎりあります。これがEさん(趣味>年収>身長)とFさん(年収>身長>趣味)であれば「出会い」はなし、優先する順序の一致がないので2人が付き合う可能性は低くなります。

 はたして、「63%ルール」により驚くべき結論が得られます。あなたが100人とお見合いして「チェックポイント合わせ」をすれば「出会い」が少なくとも1つある相手は63人いることになります。63人も!

チェックポイントの

数を減らすことが重要

 カードの数、すなわちチェックポイントの数がどんなに多くてもこの確率はほとんど変わらないということを思い出しましょう。ときにチェックポイントの多さは決断をしにくくさせます。

 筆者にも経験があります、電気製品を選ぶ場合に商品カタログをたくさん集めて自分のチェックポイントを一番満たすものを選ぼうとすると最後まで選びきれず、結局最初にいいと思った商品に決めてしまうことが。結局、時間をかけた品定めは何だったのか……。

 それに対して女性の買い物では、ときに男性からは衝動買いに思えてしまうようなパッと選んでしまう買い方をする人を見ることがあります。それでいて買ったものを後悔することがありません。

『人生は数学でできている』 (桜井 進 中公新書ラクレ 中央公論新社)

 女性はどうしてあんなにすぐに決めることができるのだろうかと疑問に思っていたのですが、オイラーの計算結果に筆者は大きなヒントをもらったような気がします。女性はそんなに多くのチェックポンイトが必要ないことを経験で知っているのではないでしょうか。

 チェックポイントが3つの場合でさえすべて合わないのは約33%なのです。チェックポイントが増えていってもすべて合わない確率は約37%までにしかならないのです。

 人生は出会いの連続。すべての出会いに「63%ルール」が適用されるとしたならば人生捨てたものではなくなります。神様は誰に対しても五分以上の良い出会いを与えてくれているのです。これぞまさしく天の恵み。ちなみにこの確率には神といえども触れることはできません。「63%ルール」は幸運の確率と呼んでもいいでしょう。

 63%:37%は四捨五入すれば60%:40%、人生六分四分と思って生きていくのもいいのではないでしょうか。