大谷翔平が「テレビで観られなくなる日」。WBCの独占放映権を150億円でとったNetflixと、払えなかったテレビ局

USA TODAY (via Reuters Connect)
ネットフリックスがWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の日本放映権を、前回大会の5倍である約150億円で独占取得したという。日本のテレビ局がネットフリックスに太刀打ちできなかったことは偶然ではなく、欧米で当たり前な「スポーツ配信の有料化」という波が、ついに日本に到達した瞬間だ。
放送権ビジネスに20年以上携わってきた岡部恭英氏に、日本のスポーツビジネスの現状と未来について聞いた。

Business Insider JapanのYouTube番組「インサイダ」に出演した、岡部恭英氏。
イギリスでは1992年から「地上波で見られない」が当たり前
「世界で起こっている潮流が日本にもついに来たのかな、という感じですね」(岡部氏)
岡部氏はWBC中継の有料化をそう表現した。岡部氏が約20年携わってきたヨーロッパサッカーでは、主要放映権が有料放送に移行したのは1990年代初頭のことだ。
例えば、1992年にプレミアリーグがイギリスで創設されたが、放映権を獲得したのは公共テレビのBBCでも民放大手のITVでもなく、メディア王として知られるルパート・マードックの衛星放送「BSkyB」だった。世界でも高い人気を誇るプレミアリーグは、誕生したときから地上波で見られない仕組みとなっていた。
「イギリスで一番人気で一番大事なスポーツリーグは、地上波ではなくて有料テレビで、その頃からもうやっていた」(岡部氏)
日本は先進国の中でも稀で「地上波がものすごく強い国」(岡部氏)だという。しかし、長年続いてきた地上波テレビの独占的地位は、ネットフリックスによるWBC放映権の取得でほころびかける。
30億円から150億円へ。なぜ3年で5倍になったのか

ネットフリックスは2025年8月26日に、WBCの運営会社と「メディアライツにおける独占パートナーシップ」を発表。
放映権料の高騰は目を見張るものだ。WBC創設当初に数億円だった日本の放映権料が、2023年大会で約30億円、今大会では約150億円とされる。わずか3年で5倍に跳ね上がった。「大谷効果」による日本市場への注目が背景にあることは明らかだ。
しかし世界的に見ると、150億円はまだ序の口だということがわかる。
例えば、ネットフリックスはWWE(ワールド・レスリング・エンターテイメント)プロレス番組の10年間の独占放映権を約7500億円で取得した。日本が世界有数の広告・宣伝・テレビ市場の一つであることを考えると、150億はむしろ安いかもしれない。
「こういうのは需要と供給。払う側がいて、観る人がいる限り、それは高い、安いというのはない」(岡部氏)
需要と供給さえ合えば、150億円が高い安いという水準もなく、適切な価格だと言えると岡部氏は強調する。
なぜ地上波テレビは「払えなかった」のか

インサイダ by Business Insider Japan編集部作成
地上波が放映権料を支払えなかった背景には、構造的な理由がある。インターネット広告費がテレビ広告費を超え、年々差が開いている。広告収入が減少する中、地上波テレビ局は、放映権取得のための資金力を失いつつあるのではないだろうか。
地上波テレビは放送免許がなければ参入できない業界であり、ある意味で規制に守られている「殿様商売」だと岡部氏は言う。ネットフリックスやDAZNなど、放送免許を必要としない動画配信サービスが参入するようになると、地上波テレビのビジネスモデルが崩れる。アメリカでも、2025年にYouTubeやNETFLIXなど動画配信サービスの視聴者数がついにテレビの視聴者数を超えた。
「我々はネットというボーダレスなものにいるというのが現状だから、日本の権利を含んだものが世界で取られてしまうと、どうしようもない」(岡部氏)
さらに、静かに迫るのがMLBの放映権契約だ。
現在、MLBの日本における放映権は電通が2028年まで保有している。テレビ局がMLBを放映できているのは、この契約があるからだ。2028年に電通との契約が終了した後、MLBとの新しい契約で合意できなければ、大谷翔平がいよいよ地上波テレビで観られなくなるのだろうか。
「全然、なきにしもあらず」と岡部氏は答えた。「MLBがどこまで日本人の国民的興味なのか」により、市場は自ずと答えを出してくると言う。