未来的な「全翼機」を巨大な貨物スペースを備えた収益性の高い機体に再設計

アメリカのスタートアップ企業であるナティラスは、現在主流のナローボディ機では実現できない、収益性の高い貨物スペースを売りにしようとしている。
- アメリカのスタートアップ企業ナティラスは、客室用と貨物用のデッキを分けた「2階建て構造」の翼胴一体型ジェット機の計画を公開した。
- 「上が客室、下が貨物室」というのは飛行機ではおなじみの構造だが、この飛行機は機体の幅が極めて広いため、一般的な小型機よりもはるかに多くの荷物を積むことができる。
- この貨物輸送に強い小型機は、貨物専用機として製造される可能性もあり、ボーイング757のような機体に取って代わる存在になるかもしれない。
エアバス(Airbus)のギヨーム・フォーリィ(Guillaume Faury)CEOは2024年2月、「飛行機の未来は、B-2爆撃機のような形状をした『ブレンデッド・ウィング・ボディ(BWB、翼胴一体型機)にある」と語っている。彼がいうその形状は、効率を最大限に高めるため、巨大な翼そのものの中に客室を配置し設計されたものを指す。
アメリカの航空宇宙スタートアップ企業のナティラス(Natilus)のアレクセイ・マチュシェフ(Aleksey Matyushev)CEOは、エアバスが開発案として出していた翼胴一体型の機体「ホライゾン(Horizon)」を再設計し、同社が描いた構想をさらに一歩先へと進めたと話している。この新しい計画では、エアバスが以前から掲げていた目標の「運航コストの50%削減」や「最大250の座席数」を維持したまま、より多くの荷物を積んで稼げる広大な貨物スペースを提供できるようになった。
当初計画されていた単層(1階建て)の座席配置に代わり、新たに公開された「ホライゾン・エボ(Horizon Evo)」は、「デュアル・デッキ(2階建て)」構造を採用している。同社が2030年代初頭にも就航予定としているこの機体は、貨物輸送を重視した旅客機のあり方を新たな発想で描き直したものだ。
現在のところ、ナティラスが描く翼胴一体型の構想は、紙の上の設計図と、すでに飛行試験を行っている小型の試作機にとどまっている。この新型機を実際に開発し、国からの認証(型式証明)を取得して実用化するまでには、まだまだ時間がかかるだろう。

ホライゾン・エボの断面図。この2階建ての飛行機の設計は、従来の飛行機と同じように客席デッキの下に貨物を収容する構造となっており、一般的に飛行機で使われているLD3コンテナを積み込むことができる。
しかし、「2階建て」という案は規制当局や航空会社にとって馴染み深いはずだ。なぜなら、客室の下に貨物室があるという構成は、我々が普段目にしている一般的な飛行機(筒型の胴体に翼がついた形)と同じだからだ。この作りを極めて横幅が広い「翼胴一体型」の機体に採用すると、非常に多くの貨物を積める飛行機が誕生することになる。
ホライゾン・エボは、機体の下層部に2600立方フィート(約74立方メートル)もの専用貨物スペースを備える予定だ。これがいかに画期的かを説明するために比較すると、一般的な機体ボーイング(Boeing)737やエアバスA320の場合、機体下部の貨物スペースはおよそ1300~1800立方フィート(約37~51立方メートル)にとどまっている。
このように貨物を重視する姿勢が生まれたのは、旅客機の下部にある貨物室での輸送が、航空業界で最も信頼できる収益源の一つとなった時期と重なっている。新型コロナウイルスによるパンデミックの間には、ネット通販などの荷物輸送が航空会社の経営を支えていたのだ。この貨物による高い収益性は、エアバスとボーイングによる2社独占状態を打ち破るきっかけになるかもしれない。それと同時に、今後20年間で約1万5000機が不足すると予測されている「ナローボディ機(通路が1本の機体)」の需要を補うという役割もホライゾン・エボは期待されている。
「市場は単層の翼胴一体型の設計に惹かれてきた。それは多くの点で設計や製造が簡単だからだ。しかし、私にはそれが運航面で優れているとは思えない」とマチュシェフは語った。

ナティラスによると、未来的なジェット機ホライゾン・エボは、世界中の既存の空港設備をそのまま利用でき、約4000マイル(約6437km)をノンストップで飛行できるという。また翼を機体の上部に配置する「高翼式」の設計を採用しており、これによって客室に窓を設置しやすくなっている。
カリフォルニア州を拠点する航空宇宙スタートアップ企業のジェットゼロ(JetZero)は、単層モデルの翼胴一体型機を開発中だ。同社幹部によると、着陸装置や貨物コンテナを収容する下層デッキは存在するので、床の位置を上げてより広い貨物スペースを確保することも可能だという。ジェットゼロの公式サイトによると、同社はアメリカ空軍と協力してプロトタイプを製作しているという。
翼胴一体型の機体で「2階建て」構造を実現するのは、決して簡単なことではない。なぜなら、従来の細長いジェット機とは違い、この機体の容積が、垂直方向ではなく、水平方向へと広がっているからだ。この独特な「三角形の機体」の中で、貨物スペースの上に客席を積み重ねるには、機体の強度や設計において極めて高度な技術力が求められる。
マチュシェフによると、ホライゾン・エボは2つの階層を貨物スペースにすれば、合計約1万1000立方フィート(約311立方m)の広さになるという。これによって「貨物専用機」としても十分に機能し、将来的にはボーイング757のような機体に取って代わる存在になるかもしれない。
「ボーイング757が引退したことで、市場には巨大な空白が残されている。UPSやFedExのような企業は、まさにあの機体の構成に大きく依存している」とマチュシェフは話している。さらに彼は、「ホライゾン・エボはボーイング757と同じ容積の貨物積載能力がありながら、より小型な機体でそれを実現している」と続けた。
マチュシェフは、貨物輸送以外でも、この機体独特の形状は、顧客体験を同様に向上させると語っている。横幅の広い上層階(客室デッキ)を自由にレイアウトできれば、航空会社はプレイルームや、小さなオフィスなどのこれまでにない特別な空間を作ることができるだろう。

ナティラスは、エコノミークラスで横に12人が座れるほど幅の広い客室を構想している。この広さを活かせば、これまでの飛行機ではスペースが足りずあきらめていた「特別な空間」を機内に作ることも可能になるという。
さらにマチュシェフは、エコノミークラスの客室にはより多くの頭上収納棚が備わり、3本の通路が設置されると付け加えた。これによって快適性やドアへのアクセス、避難時の安全性が向上する。「3つ1組の座席が4セット並ぶ配置になる予定だ。これは総2階建ての超大型機エアバスA380で検討されていた『1列11席』の配置に近い」と彼は話している。