ずっと大赤字「出前館の新施策」配達員の違和感

ますます争いが激化するフードデリバリー業界。一体どこが勝ち残るのか…(写真はイメージです:xiaosan/PIXTA)
出前館が始めた「お店と同価格デリバリー」正直な感想
フードデリバリー戦国時代において、血で血を洗うような「札束の殴り合い」が加速している。フードデリバリー大手「出前館」は2026年3月1日より、これまで段階的に開始していた『お店価格で出前館』のサービスを、全国47都道府県での提供に拡大した。
【画像】「お店価格+送料無料」という、どう頑張っても赤字にしかならなさそうな料金体系の出前館
このサービスは「フードデリバリーは高い」というユーザーのイメージを払拭し、より多くの人に「デリバリーの日常化」を実現してもらうことを目的としている。イートインとテイクアウト、お店と同価格で料理をデリバリーできる対象店舗は、なんと1万店舗以上になるというから驚きだ。

「お店価格+送料無料」という、どう頑張っても赤字にしかならなさそうな料金体系だ(出所:出前館)
今回のサービス拡大について、出前館の矢野社長は「ナンバー1のシェアを得ることが最終的な戦略」「仮に1件あたりの利益が下がったとて、オーダーがそれ以上に伸びているので、絶対額の利益が増える構造」と述べている(出典:TBS NEWS DIG)。

価格が高いことがフーデリ業界の成長を阻害している…とのこと。店から運んで来てくれるのだから、お店より高くなるのは普通のことに思えるが…(出所:出前館IR資料)
ネットやSNSやには「身を切る戦略」「薄利多売」「デリバリー戦国時代」「めちゃくちゃ助かる」「最近使ってないな」「お会計画面に今まで無かった“サービス料”が新たに請求されてる(怒)」など、賛否両論の意見が目立つようだが……。
筆者はウーバー+出前館+ロケットナウ配達員として働いている。今回の「お店と同じ価格」のサービス拡大を知ったとき、「デリバリー各社が“お金”で殴り合いをしてるなぁ」「そのシワ寄せは配達員に来るのでは?」「日本から撤退したWoltみたいに“限界”を迎える会社が出なければいいけど……」といったネガティブな感想を抱いた。これには明確な“ワケ”がある。
バチバチの価格競争。その“裏側”で起きている「意外な事実」
実は、デリバリーの食事が店舗価格と同じで配達されるのは、今回の出前館のサービスが「業界初の革新的な試み」というわけではない。フードデリバリー業界における低価格戦略の先駆け、ファーストペンギンになったのは、2025年1月から東京でサービスを開始した「ロケットナウ」で決まりだろう。

ロケットナウで届いた吉野家の牛丼。上陸から程なくして、第三勢力になっている(写真:筆者撮影)
ロケットナウは韓国系企業Coupang(クーパン)の日本法人が運営するデリバリーサービスで、現在は13都道府県でサービスを提供している。アプリのダウンロード数は400万を突破した。同社の最大の特徴は「低価格戦略」で、なんとサービス料と配達手数料が無料。さらにバーガーキングなど一部店舗で「お店と同価格」で料理を配送してくれる。
これに遅ればせながら続いたのがウーバーイーツだ。同社は2025年11月に「お店と同価格でお届け!」と書かれたお知らせを、公式サイトに掲載している。私の住むエリアでは現在、大手飲食チェーン「ガスト」の料理がお店価格でデリバリーできるようだ。

ロケットナウに続く形で、ウーバーも「お店と同価格」施策を開始している(画像:ウーバー公式アプリより)
なお出前館が「お店価格」のトライアルを始めたのは2025年9月から。よってウーバーと出前館、どちらが先にサービスを始めたのかは置いておいて……。デリバリー大手2社がロケットナウに脅威を感じた→同質化戦略(ミート戦略)でロケットナウとガチンコバトル→「お店と同価格の配達」が業界に定着しつつあるのだろう。
ちなみに同質化戦略とは、業界で大きなシェアを握るリーダー企業が、新たに参入してきた企業の新製品や新サービスを“模倣(コピー)”することで、相手の差別化ポイントを徹底的に封じ込めることだ。市場での違いを無くすことで、リーダー企業は競争優位を維持できる。強者側は(売り上げが大きいため)利益を上げやすく、消耗戦にも強い。
とはいえ競争が激化するデリバリー戦国時代では、各軍が“総崩れ”になるリスクもある、かもしれない。例えば出前館では、7年連続で最終赤字を記録している。2026年8月期の連結業績予測は、売上高は前期比11%増の441億円。最終損益は40億円の赤字(前期は49億円の赤字)を見込んでいる。

かつては投資家に期待されたが、ずっと赤字が続く出前館(画像:2026年3月8日・楽天証券スクショ)
つい先日は水色の配達用バッグ「Wolt」の日本撤退が話題になったが、デリバリー各社は本当に今のままで経営的に大丈夫なのか⋯⋯。不安が尽きないのは、私が現役配達員だからこそかもしれない。今フードデリバリーの最前線では、一般の人が知らないヤバイ事態になりつつある。
配達遅延&配達報酬の増加という「ボディーブロー」
今現場では、配達員のモチベーションダウンによる「配達員不足」+「配達報酬(コスト)の増加」のダブルパンチに見舞われている。
SNSには配達員が書き込んだと思われる、良くも悪くも「正直な投稿」を数多く見つけることができる。具体的には「単価が完全にゴミ化した」「報酬上げるために注文を取らないようにしている」「店で10分20分と待たされたら割に合わなくなるので、安請け合いはできない」などの投稿だ。
コロナが落ち着いて以降、配達報酬と配送依頼数は右肩下がり。フードデリバリーの仕事は「割のいい仕事」から「時給換算すると最低時給を下回ることもある仕事」へと大きく色を変えた。働いても稼げない状況に嫌気が差し、他業種に移っていた配達員は少なくない。けれど配達員にだって生活がある。
今、一部の配達員の間では、配達遅延を覚悟して配送依頼を拒否→報酬単価を引き上げ、タイミングを見て受託することが“普通”になりつつある。
順を追って説明しよう。デリバリーを利用する側はお会計後、当たり前だが、新たな追加請求をされることはない。けれど私たち配達員の報酬は違う。時間の経過と共に配達報酬が変化(右肩上がり)する。具体的には、このような流れになる。
お客様のオーダーが配達員Aに届く→「3キロの仕事で報酬は450円? これじゃあ割に合わないよ」と拒否する→配達員B、配達員Cに仕事が振られるが、こちらも同じように拒否→配達員に仕事を受けてもらうため、配達報酬が微増(480円など)→配達員Aに再度仕事が振られる→配達員が決まるまで、このやり取りを繰り返す。
※報酬の上がり方やタイミングは、デリバリー各社によって大きな違いがある。
私は1週間前の雨の日、配達用アプリを稼働させた瞬間、「往復5キロ・1件配送・報酬1700円」の仕事が舞い込んできた。これはつまりそれだけ長い時間、配送オーダーが“たらい回し”にされたことを予感させる(実際、私が迅速に料理をお届けしたとき、到着予定時刻を30分オーバーしていた)。
ただしこれほど好条件の仕事が、意図的に放置されているとは考えにくい。よってこの日は「配達員不足」が深刻だったと考える方が自然だが……。
これだけの好条件の仕事が転がっていても、誰も配達する人がいないのが今のデリバリー業界の実態であり、この高額報酬と配達遅延によるサービス低下(とどのつまり顧客満足度の低下)は、デリバリー各社に“ボディーブロー”のようなダメージを与えるのではないか。
激化する「配達員の奪い合い」も「お金」が物を言う?
その一方で、今配達員はウハウハなのか(稼げるのか)と聞かれたら、残念ながら答えはNOだ。
私が活動する神戸エリアでは、悪天候時以外は閑古鳥が大声で鳴いている。日によっては配達員同士で、割のよくない仕事でも「奪い合い」が起きるなど、デリバリー最前線の情勢は非常に不安定だ。注文数という名の“需要”と、配達員という名の“供給”。この“ミスマッチ”が続いている。
3月2日には出前館から配達員へ「重要」と書かれたメールが配信された。そこには「送料無料」および「お店価格」の影響により、注文数が想定を上回っており、配達遅延が発生しやすい状況となっている。遅れが生じても、可能な限りオファーを受けていただき、1件でも多くお客様にお届けできるようご協力をお願いします、といった内容が書かれていた。
SNSには出前館の新サービス以降、「注文数がかなり増えた」という喜びの声もあれば、私と同じように「ほとんど変わらない」「全然仕事がこない」といった声が混在している。
このような状況下で、デリバリー企業間での「配達員の奪い合い」も激化している。右肩下がりだった配達報酬を、改善する動きが少しずつ見られるのだ。例えばウーバーでは、報酬単価そのものに変化は感じないが、ここ最近は「インセンティブの増設」に力を入れている印象がある。
先日の雨の日は「クエスト」と呼ばれる追加報酬が、1回目の配達のみ+600円で設定された。ここに通常の配達報酬が加わる。私はこの日、実働約15分で920円の報酬を得た。さらに全部で3回の配達をしたら+400円、さらに3回配達したら+500円など、アフターコロナ後のトホホな状況から考えると、大盤振る舞いのような報酬が支払われている。
価格競争の先にあるのは“希望”なのか、それとも“絶望”なのか
地域や天候、その日のイベント(WBCを見たいから今日は料理を作りたくない)などによって、需要と供給が大きく変化するフードデリバリー市場。気まぐれに変化する特殊な業界において古今東西、揺るぎない傾向としてハッキリしているのは、この業界は取り扱っている飲食店も配達員の質も“ほぼ同じ”ということだ。

ポーランドのワルシャワ。マック前で待機していた配達員(写真:筆者撮影)

人混みを縫うように走行する配達員(写真:筆者撮影)
値段以外に差別化できる要素が乏しいからこそ、デリバリー各社は札束で殴り合うしか「勝ち残る方法」がないのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
お店と同価格のサービス拡大により、今後は利用者数や売り上げが多少増えるかもしれない。しかし、その先に待っているのは“希望”なのだろうか、それとも“絶望”なのだろうか……。そもそも物価高で生活が苦しい今、私たち庶民がデリバリー(仮に店舗価格と同じだったとしても)を利用する光景は本当に“日常”になるのだろうか……。
デリバリー業界の最新情報をデリバリーするためにも、これからも私は「スーパーに買いに行った方が安いのになぁ」「経済的に余裕がある人が実は多いってことなのかなぁ」と首をかしげながら、現役配達員として引き続き、全力でママチャリのペダルを回していきます。