「女性であることは、まったく関係ない」──グラフェン、生命の起源、宇宙論。最前線で戦う女性科学者3人が語ったキャリアの新常識

純粋な知的好奇心と確かな専門性で未来を切り拓く, 面白研究者を目指す。稀有な存在をメリットに, 性別は関係ない。後悔しない研究人生を突き進む, NYで勝負。マイノリティを「強み」に変える, ジェンダーギャップを軽やかに越える新世代

画像提供/日本ロレアル

世界国際フォーラムが毎年発表しているジェンダー・ギャップ指数。2025年の日本のランキングは118位であり、依然として歓迎すべき数字ではない。しかし、この停滞した数字の背後で、ジェンダー課題の本質は今、「戦い」から「仕組み(OS)の更新」へと変わりつつある。

なかでも、科学の世界では明るい兆しが見え始めている。令和5年度の調査における女性科学者の割合は18.5%(総務省調査)に留まるものの、そこで働く女性たちはジェンダー課題を「障壁」として捉えていない。むしろ、自身の夢を仕事にし、未来を変える可能性を秘めた職業だと、自らの選択を肯定している。

今回は、そんな女性科学者を企業として支援し続けているロレアルと、日本で20年以上続いているプロジェクト「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を受賞した女性科学者3名にフォーカスを当てる。女性科学者が語る、研究とキャリアの「新しいスタンダード」とは。

純粋な知的好奇心と確かな専門性で未来を切り拓く

純粋な知的好奇心と確かな専門性で未来を切り拓く, 面白研究者を目指す。稀有な存在をメリットに, 性別は関係ない。後悔しない研究人生を突き進む, NYで勝負。マイノリティを「強み」に変える, ジェンダーギャップを軽やかに越える新世代

画像提供:日本ロレアル

「私たちは、女性科学者の『数』を増やすことだけを目的としているわけではありません

そう語るのは、日本ロレアル ヴァイスプレジデント コーポレート・レスポンシビリティ本部長の楠田倫子さんだ。

ロレアル財団は、1988年に「世界は科学を必要とし、科学は女性を必要としている」という理念を礎に、国連ユネスコと共同で女性科学者を支援するプロジェクトを創設した。2005年には、日本ロレアルが「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」創設。20年にわたり、同賞は日本の若手女性科学者のキャリアを支え続けてきた。

楠田さんは、これまでの受賞者たちを、既存の固定観念にとらわれず、純粋な知的好奇心と確かな専門性で未来を切り拓く「新世代のリーダーたち」であると期待を寄せる。

真の目的は、科学界におけるジェンダーバランスを是正し、多様な視点や創造性が尊重される土壌を育むことにあります。現代社会が直面する複雑な課題を解決し、イノベーションを加速させるためには、あらゆる才能が等しく発揮されることが不可欠です」

変化の激しい現代だからこそ、多角的な視点を持つ研究者が主役となり、科学の力でより良い未来を切り拓いていく——。その可能性を信じ、日本ロレアルは若手女性科学者への支援をさらに強化している。

受賞者たちの活躍が次世代のロールモデルとなり、多様な視点が未来を変えていく。今回フォーカスする3名の受賞者は、まさにその先駆者である。

面白研究者を目指す。稀有な存在をメリットに

小野寺 桃子さん 東京大学 生産技術研究所(特任助教)

純粋な知的好奇心と確かな専門性で未来を切り拓く, 面白研究者を目指す。稀有な存在をメリットに, 性別は関係ない。後悔しない研究人生を突き進む, NYで勝負。マイノリティを「強み」に変える, ジェンダーギャップを軽やかに越える新世代

小野寺 桃子さん 現所属:東京大学 生産技術研究所(特任助教)研究内容:グラフェンを用いたテラヘルツ発光・光検出素子の実現と素子品質の向上

2020年の受賞者である小野寺桃子さんは、世界的に注目されている物質「グラフェン」の物質基礎研究を行い、現在は東京大学で特任助教を務める。グラフェンは「原子1層からなる極めて薄い材料」とされる物質で、次世代の半導体素材として期待されている。

「パソコンやスマホの軽量化が進み、たとえば、寝ながらスマホを見ていて、顔に落ちてきても痛くないくらいの軽さ。そんな未来がきたらうれしいですよね」そう微笑む彼女の視線は、人々の日常を変える可能性に向けられている。

小野寺さんの「アップデート」は、研究の進め方そのものにある。

「私が学生の頃は、測定用の素子を100個つくってそのうち10個が成功すればいい、という考え方が根付いていました。私はそれがずっと疑問で、『100個つくるなら90個は成功しないといけないのでは?』と思っていました。だから誰がつかっても成功する素子作製方法を、今は研究しています」

根性論ではなく、再現性の高い「仕組み」を追求する姿勢。それは、非効率な「旧来の科学界」のやり方をロジックで書き換える試みだ。

歴史的に男性が圧倒的に多い「マテリアル工学科」に在籍する小野寺さんだが、その環境を「メリット」として捉え直している。

学会で目立つことができ、存在を知ってもらえるのはメリットでもあります。最近は発表の面白さに注力していて、自分が楽しそうに研究していることを見てもらいたい。『この人の研究発表を見ると元気が出る』と思われる研究者を目指しています」

小野寺さんは自身を「研究室でも変わった存在」だという。

「これまでの価値観を変える存在になっていきたいという思いがあります。私の存在で、少し変わったことをしても大丈夫という人がでてきたらイノベーションがもっと生まれるかもしれません」

プライベートでは生成AIにハマり、母との外出を楽しむ。「研究にはのめり込むタイプなので、ひたすら研究を続けることもあるし、休むのも自由。息切れしたら休む、という感じでしょうか」。彼女のスタイルは、ストイックな科学者像を「しなやかで人間らしいもの」へと更新している。

次世代へのメッセージ:

科学者の魅力のひとつに、自分が研究したテーマが論文として残るということがあります。そして自由に好奇心をつきつめて行ける。今は社会のサポートも増えてきていて、科学者を目指す女性にとってはいい時代。研究者になればジェンダーの違いなど、まったく関係なくなりますから」

性別は関係ない。後悔しない研究人生を突き進む

沖田 ひかりさん 東京科学大学 総合研究院 生体材料工学研究所(助教)

純粋な知的好奇心と確かな専門性で未来を切り拓く, 面白研究者を目指す。稀有な存在をメリットに, 性別は関係ない。後悔しない研究人生を突き進む, NYで勝負。マイノリティを「強み」に変える, ジェンダーギャップを軽やかに越える新世代

沖田 ひかりさん 現所属:東京科学大学 総合研究院 生体材料工学研究所(助教)研究内容: 生命の起源における未知の遺伝物質の可能性を示し、原始地球に倣った人工生命の基盤システムの確立

2025年受賞者の沖田ひかりさんは、「DNA以外の遺伝物質の存在」という生命の起源に迫る壮大なテーマに挑んでいる。今回の受賞で家族や友人にも研究内容を知ってもらえることができ、また世の中に私のような研究者もいることを知ってもらえたことがありがたかったという。

「生命の起源におけるDNA以外の最初の遺伝物質を探す上で、今の研究の原始的な遺伝情報伝達の再現はその解明に大きなインパクトを与えたと考えています。この技術は、人工生命や医薬にも役立つ未来テクノロジーにも応用できるはずで、社会的意義もあると信じています」

彼女の視座は、イギリスへの研究留学で決定的なアップデートを経験した。

「イギリスでは研究者の男女比が半々だったことに驚きました。彼らにとってはいたって普通のことで、日本もこれが当たり前になればと思いました」

沖田さんは、制度の充実は感じつつも、出産とキャリア形成という、女性研究者が直面する日本での構造的な課題も感じている

「博士課程を終え、研究に邁進する時期と出産適齢期が重なるのは、女性が研究者を目指しにくいひとつの理由かもしれません。とはいえ、子育てをされている先輩研究者もいらっしゃるので、相談できるロールモデルの存在は大きいです。どのような選択をするかわかりませんが、研究を続けられる道を私も必ず見つけだしたいです

沖田さんにとって、研究に没頭することは誰かに指示されたことではなく、いかなる困難があっても「自分がそうしたいから」選んだ道だ。「人間の知恵など遠く及ばない科学の面白さに向き合って、自分が想像していたより面白い結果が得られるとのは、とても楽しいです」

一方でアニメや漫画が大好きで、二胡の演奏、競技かるたなど多彩な趣味を持つ。そこは同世代の女性と大きな違いはないと思う、と笑って語ってくれた。

次世代へのメッセージ:

「研究に限った話ではないですが、選択に迫られたとき『上手くいかなくても自分の責任』と思える方を選ぶと、後悔がありません。上手くいかなかったときに、誰かのせいにしてしまう方は選ばない。自分の人生に責任が持てるなら、後悔は生まれないと思っています。私は死ぬ瞬間まで研究を続けたい。面白い現象を解明して、ワクワクする技術を生み出し続けるのが私の夢です」

NYで勝負。マイノリティを「強み」に変える

仲里 佑利奈さん Center for Computational Astrophysics, Flatiron Institute(Flatiron Research Fellow)

純粋な知的好奇心と確かな専門性で未来を切り拓く, 面白研究者を目指す。稀有な存在をメリットに, 性別は関係ない。後悔しない研究人生を突き進む, NYで勝負。マイノリティを「強み」に変える, ジェンダーギャップを軽やかに越える新世代

仲里 佑利奈さん 現所属:Center for Computational Astrophysics, Flatiron Institute(Flatiron Research Fellow)研究内容:大規模数値シミュレーションを用いた宇宙初期の星団と銀河の研究

仲里佑利奈さんも2025年の受賞者のひとり。現在はニューヨークの計算科学研究所(Flatiron Institute)で理論宇宙物理学、銀河天文学を研究している。

「私の研究は宇宙で初めて誕生した星や銀河の形成過程を探るというもので、純粋な基礎科学の研究です。近い将来に社会実装できるものではありませんが、酸素や炭素といった『元素の起源』がわかり、根本的には社会に役立つと考えています

受賞後、同世代で素晴らしい研究をされている仲間と交流できたことは大きな刺激になったという。女性研究者のコミュニティの存在は、科学者としてやはり心強いようだ。

「『宇宙は本当にひとつなのか』(村山斉著 講談社刊)という本を読んで衝撃を受け、宇宙の始まりを研究したいと思ったのが中学3年生の冬。沖縄から上京し東大へ進学後、現在はニューヨークを拠点に活動する仲里さん。研究所の環境は、女性研究者が3割以上を占め、ボスも女性だ。

ここではマイノリティはジェンダーではなく、国のバックグラウンドです。価値観や研究の進め方の違いは、ネガティブな要素ではなく、単なる『違い』であり『発見』なんです。さまざまな視点が入ることで創造性が上がるのは間違いないと思います。思いがけないところで知識がつながり、新しい研究が始まることもあります」

大学の頃はクラス40人中女子が2人で、同性の相談相手がいないという小さな悩みを抱えていた仲里さん。しかし科学者となった今は、その希少性を「覚えてもらいやすい」という最大のメリットに変換している。

ワークライフバランスは重視していきたいと考えています。ただ、研究が好きなので、没頭する時間はまったく苦になりません。欧米の研究者のように長期の休みをきちんと取るスタイルも学びました。今後のライフイベントのことはまだ考えていませんが、今、ニューヨークにいるこの3年間で集中して結果を出したいと頑張っています」

多様な働き方を自身のスタイルに取り入れる彼女の姿は、場所や性別に縛られない「自由な知性」を体現している。

次世代へのメッセージ:

「ひとことで言うと、科学は本当に面白い。好奇心があれば、そして研究を楽しむことができたら誰でも目指せる職業です。そしてマイノリティであることは強みに変えられるということ。自分が知りたいことを自由につきつめて行ける毎日は、本当に充実しています」

ジェンダーギャップを軽やかに越える新世代

3名の女性科学者が語る言葉に共通しているのは、「好奇心」という純粋なエネルギーが、既存のジェンダーギャップを軽やかに越えていく様子だ。

日本ロレアルが20年以上にわたり続けてきた「日本奨励賞」は、こうした「新OSを搭載したリーダー」たちが次々と生まれるエコシステムへと進化している。

彼女たちは「ジェンダーのために戦う」必要のない世界を、その卓越した成果としなやかな生き方で、今まさに創り続けている。

「彼女たちが生み出すインパクトは、ビジネスシーンや社会全体に波及していくはず。企業の力を使って、彼女たちの情熱やキャリアを広く発信することで、科学者として生きる未来の魅力を伝え、性別という壁を取り払うことが私たちの重要な役割だと考えています」と楠田氏は力強く語る。

自由に軽やかに未来に進む女性科学者たちの姿は、これからの理想を見せてくれているようだ。