【元機関投資家】リクルート好決算なのになぜ株価下落?AI連想ゲームの罠
今後の見通しと投資家が取るべき行動とは

【元機関投資家】リクルート好決算なのになぜ株価下落?AI連想ゲームの罠
YouTubeチャンネル「イズミダイズム」では、元機関投資家の泉田良輔氏が、プロの視点から企業の決算や株式市場の動向を読み解いています。
今回の動画で取り上げられたのは、誰もが知る巨大企業・リクルートホールディングスです。同社は直近の決算で大幅な増益を発表したにもかかわらず、なぜか株価は下落基調が続いています。
好決算と株価下落という矛盾した状況の裏には、一体何が隠されているのでしょうか。
本記事では、泉田氏の解説をもとに、AIの進化がもたらす「連想ゲーム」のメカニズムや、アナリストとマーケット(市場参加者)の視点の違いなど、投資家が知っておくべき株式市場のリアルな反応について分かりやすく紹介します。
ココがポイント
・リクルートの業績は大幅増益で好調であり、稼ぎ頭は「北米のHRテクノロジー事業」である
・株価下落の背景には、AI進化による「SaaSの死」と、それに伴う採用市場縮小への懸念がある
・株式市場は「連想ゲーム」で動いており、実績を重んじるアナリストよりも早くリスクを織り込む
・投資家は「落ちてくるナイフは掴むな」の格言を胸に、次回の決算で定点観測をすることが重要
※編集部注:外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際はLIMO内でご確認ください。
業績は好調、アナリスト予想も上昇中
リクルートの株価が下落している理由を探る前に、まずは足元の業績を確認しておく必要があります。
泉田氏が指摘するのは、リクルートの決算自体は決して悪くなく、むしろ非常に良好であるという事実です。
利益が大幅に伸びた好決算
2026年3月期第3四半期累計の決算データを見ると、売上収益は2兆7367億円(前年同期比+1.5%)と微増にとどまりました。
しかし、利益面を見ると景色が変わります。本業の儲けを示す営業利益は4956億円(同+21.1%)と大幅な増益を達成しており、親会社帰属利益も3949億円(同+15.6%)としっかり伸びています。
泉田氏も動画内で、売上の伸びに対する物足りなさを指摘しつつも、利益が堅調に伸びていることから「立派な決算」と評価しています。

売上は微増、利益は大幅増の好決算
稼ぎ頭は「北米のHRテクノロジー」
リクルートの事業は大きく3つのセグメントに分かれています。
・求人検索エンジン「Indeed」などを展開する『HRテクノロジー』
・リクルートスタッフィングなどの『人材派遣』
・SUUMOやゼクシィなどの『マーケティングマッチングテクノロジー(MMT)』
売上規模が最も大きいのは人材派遣(約1.2兆円)ですが、利益の源泉は全く異なります。
動画内で泉田氏が言及した利益額(※EBITDA+S:営業利益に減価償却費等を加えた利益指標)を見ると、HRテクノロジーが3949億円と圧倒的で、次いでMMTが1392億円、人材派遣は約851億円にとどまります。
つまり、リクルートの業績を左右する最大の柱はHRテクノロジー事業なのです。
さらに、泉田氏はHRテクノロジー事業を分析する上で「地域」に注目します。第3四半期の同事業の売上2342百万米ドルのうち、半分以上を占める1303百万米ドルが「北米」から生み出されています。
泉田氏はこの構造について、次のように解説しています。
「リクルートっていうと日本ですごい大きな会社で頑張ってる会社だって思うかもしれないけど、世界の投資家から見たらそれは大事なパーツではあるんだけど、最初に見るべきポイントではない。」
日本の売上が前年比マイナス5.4%と縮小している一方で、北米は10.1%増としっかり成長しています。世界の投資家にとって、リクルートの成長ドライバーは日本市場ではなく、パイが大きく伸びている北米市場の動向に他ならないのです。

利益の大部分を稼ぐHRテクノロジー事業
アナリストのコンセンサス予想も切り上がる
足元の業績が好調に推移していることを受けて、証券会社のアナリストたちが算出する「コンセンサス予想(市場の平均的な業績予想)」も徐々に切り上がっています。
会社側が発表している通期の営業利益予想は5906億円ですが、アナリストのコンセンサス予想はそれを上回る水準で推移しており、決算発表の前後でも上方修正の動きが見られました。
つまり、専門家たちもリクルートの業績に対して強気の見方をしているということです。
なぜ株価は下落するのか?AIがもたらす「連想ゲーム」
業績は好調で、利益の柱である北米市場も成長しており、アナリストの予想も上がっている。それにもかかわらず、リクルートの株価は今年に入ってから段階的な下落を続けています。
決算は良いのに株価が下がる矛盾
2月9日の決算発表直後、好業績が好感されて一時的に株価は上昇しました。しかし、全体的なトレンドとしては下落基調が続いています。
インタビュアーから「なぜ株価が下がるのか」という疑問が投げかけられると、泉田氏は企業内部の決算ではなく「外部要因」に目を向けるべきだと語りました。その外部要因の正体こそが、AI(人工知能)の急速な進化です。

チャート
「SaaSの死」とAnthropicの脅威
泉田氏が鍵として挙げたのが、「Anthropic(アンスロピック)」というAI企業です。同社はOpenAIやGoogleと並ぶAI開発のトップランナーであり、「Claude(クロード)」というサービスを展開しています。
今年に入ってから、Anthropicは毎週のように新しい機能をリリースしています。中には、人が開発を行わなくてもAIが自動で機能を作ってくれたり、経理などの業務を自動で処理してくれたりするサービスも含まれています。
泉田氏はこの技術革新がもたらす影響について、次のように指摘します。
「開発しなくてもAIが答え出してくれるんだったらエンジニアもいらなくなる。」「そうした会社のサービスがなくなるのでは?というのが『SaaSの死』と言われてて、そういった関連銘柄が大きく売られるという状況も起きています。」
SaaS(Software as a Service)とは、クラウド経由で提供されるソフトウェアサービスのことです。AIが業務を自動化すれば、これまでSaaS企業が提供してきたサービスが不要になる可能性があります。これが「SaaSの死」と呼ばれる懸念です。
株式市場特有の「連想ゲーム」とは
では、なぜ「SaaSの死」がリクルートの株価下落に繋がるのでしょうか。ここで泉田氏が強調するのが、株式市場における「連想ゲーム」というメカニズムです。
「これ株式市場って『連想ゲーム』だから、ここがダメになる、ここがダメになったら誰が影響を受けるっていうのをどんどん連想していくんですよ。」
SaaSのビジネスモデルが崩壊すれば、これまで引く手あまただった高単価なITエンジニアの採用ニーズが激減します。
アメリカの採用市場が縮小すれば、北米のHRテクノロジー事業を最大の稼ぎ頭とするリクルートの業績が、直接的な打撃を受けることになります。
つまり、「AIが進化する」→「SaaS企業が打撃を受ける」→「エンジニアの採用が減る」→「北米のHR事業を主力とするリクルートの業績が悪化する」という連想が働き、先回りして株が売られているというのが、泉田氏の分析です。

AI進化が引き起こす「連想ゲーム」の罠
アナリストとマーケットの視点の違い
自分たちは着実に成長しているのに、外部のテクノロジー進化という要因で売られてしまうのは、企業側からすれば理不尽に思えるかもしれません。しかし、泉田氏はこれを投資における重要なリスク管理だと語ります。
「これを『テクノロジーの脅威』と言うんです。だから株式を見るときには、今やってるビジネスが新しい技術で競争のルールが変わっちゃうのでは?と、常にリスク要因として見とかないといけないんですよね。」
アナリストは予想を下げにくい
ここで1つの疑問が生じます。AIの脅威があるのなら、なぜアナリストたちはリクルートの業績予想を上方修正しているのでしょうか。泉田氏は、アナリストという職業の性質からこの矛盾を解説します。
「アナリストはやっぱり足元の業績を見て予想するっていうのが仕事だから、ここで一気に予想を下げるって実は難しい。」
アナリストは、来期に本当にAIの影響で業績が下がるという確たる証拠(データ)がない限り、現在好調な足元の数字を無視して予想を大きく下げることはできません。
マーケットはリスクを先取りする
一方で、実際に株を売買するマーケット(市場参加者や機関投資家)の動きは異なります。彼らは、業績が悪化するという証拠が揃うのを待つことはしません。
AIによって競争のルールが変わるリスクを感じ取れば、将来の業績悪化を「先取り(織り込み)」していち早く株を売却します。
根拠を重んじるアナリストよりも、リスク回避を優先するマーケットの方が動きが早い。これが、好決算とコンセンサス上昇の中で株価が下落するという現象の正体なのです。
今後の見通しと投資家が取るべき行動
AI企業が新サービスを出すたびに「また人がいらなくなる」という連想が働き、株が売られるサイクルが続く可能性があります。このような不透明な状況下で、投資家はどう立ち回るべきなのでしょうか。
次回決算での定点チェックが鍵
泉田氏は、AIの脅威がどこまでリクルートの業績に波及するかを見極めるのは難しいとしつつも、明確な対応策を提示しています。
それは、3ヶ月後の次回決算で、HRテクノロジー事業の売上や利益が実際にどう変化したかを「定点的にチェックする」ことです。
市場は今、懸念という「期待値」で株を売っています。しかし、実際に時間が経ってみて「心配したほど業績にインパクトはなかった」「なんならまだ伸びている」となれば、再び買われるシナリオも十分にあり得ます。
落ちてくるナイフは掴むな
株価が大きく下がったのを見て、「今が割安で買い時ではないか」と考える投資家もいるかもしれません。しかし、泉田氏は有名な投資の格言を用いて警鐘を鳴らします。
「『マーケットに落ちてくるナイフは掴むな』っていう格言もある。ナイフが落ちてきたところをガッて掴めば、血まみれになる。だからそういうのは掴まない方がいいよっていう格言もあります。」
下落トレンドの最中にある銘柄を安易に買いに向かうのは、非常にリスクが高い行為です。まずは次回の決算で業績の推移を確認し、会社側がAIの脅威に対してどのようなメッセージ(対策)を出してくるかを見極めることが重要です。
連想ゲームを鍛えるトレーニング方法
最後に泉田氏は、今回のリクルートの事例から学べる「連想ゲーム」の重要性について触れました。ニュースが出た際に「風が吹けば桶屋が儲かる」のように、どの企業に影響が及ぶかを想像する力は、株式投資において強力な武器になります。
「株式市場でニュースが起きた時に、このニュースが意味するとこはこうだよね、このニュースが意味するとこはこうだよね、と連想ゲームをしていくと、投資のアイデアにもつながるものです。」
泉田氏は、この連想ゲームを鍛えるトレーニング方法として、「関連銘柄」を検索することを勧めています。特定のテーマ(今回であればAIやSaaS)が出てきた際に、それを事業としている上場企業をピックアップし、実際の決算説明会資料を読んで売上比率などを確認する。
このパズルのような作業を繰り返すことで、ニュースの裏側にある投資のヒントをいち早く見つけ出すことができるようになります。
まとめ
リクルートの株価下落は、企業自身の業績不振ではなく、AnthropicなどのAI進化がもたらす「連想ゲーム」によるものと考えられます。
株式市場は、アナリストの予想よりも早く将来のリスクを織り込んで動きます。投資家としては、焦って落ちてくるナイフを掴むのではなく、次回の決算で北米のHRテクノロジー事業の動向を冷静に定点観測することが求められます。
参考資料
・リクルートホールディングス「2026年3月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕」(2026年2月9日)
・リクルートホールディングス「2026年3月期 第3四半期決算説明会資料」(2026年2月9日)
・リクルートホールディングス「2026年3月期 第3四半期決算電話会議要旨」(2026年2月9日)
・Youtubeチャンネル「イズミダイズム」
※リンクは記事作成時点のものです。
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