「それでも、鉄路を選びます」――JR貨物は不正危機をどう乗り越え、輸送量7.5%増を実現したのか?
物流網の依存構造
2024年9月に判明したJR貨物の輪軸組み立てデータ不正問題は、保有する貨車のうち最大約7000両の運行停止という異例の事態を招き、国土交通省から事業改善命令が出された。
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しかし、2025年11月10日に発表された第2四半期決算を確認すると、不祥事のなかでも最終損益で黒字を確保している。同四半期の売上高は前年同期比6.5%増の1004億1600万円、営業損益は16億円の赤字(前年同期は1億2400万円の赤字)となったが、最終損益は3億1900万円の黒字(同24億800万円の赤字)と、最終で黒字転換を果たした。これは、経営が危機に直面しても、国内の物流網が鉄路を基盤として切り離せない構造にあることを示している。
物流の2024年問題に直面し、長距離輸送の担い手が不足する状況でも、鉄道は依然として物流を支える柱である。JR貨物が致命的な打撃を免れた背景には、市場の需給バランスが鉄道に有利に働いた側面がある。
しかし、それ以上に、社会から寄せられる期待に応え、脱炭素社会のけん引役として成長を目指す確かな歩みが見える。不祥事を経験として組織を強化し、次世代のグリーン物流を導く存在へと進む道筋が、ここに示されている。
輪軸不正と運行停止

JR貨物のウェブサイト(画像:JR貨物)
鉄道貨物は日本の長距離物流を支える基幹インフラである。輸送力が大幅に低下した今回の事態は、不祥事の影響が個別の企業にとどまらず、日本の物流体制の脆弱さを浮き彫りにした。
問題となったのは、左右の車輪を車軸に固定する輪軸の組み立て工程での測定データ改ざんである。圧入圧力などが基準を外れていても、基準値内に収まるよう数値を書き換えていたことが発覚し、安全性への信頼が揺らいだ。安全に直結する工程での不正だったため、対象車両は緊急点検を受け、多くの貨車が運行できなくなった。
運行停止の対象は最大で約7000両に及び、国内の貨車の相当数が使えなくなる異常事態となった。輸送遅延の規模を超え、日本の貨物鉄道ネットワークが一時的に機能不全に陥ったといえる。
影響は広範囲に及び、特に北海道・東北と本州を結ぶ長距離輸送で混乱が顕著だった。鉄道貨物の強みは大量輸送を安定して行える点にあるが、輸送力が急減したことで物流の安定性そのものが脅かされた。
今回の問題を受け、国土交通省は事業改善命令を出し、安全管理体制の抜本的な見直しを求めた。現場では現在、輪軸組み立て作業不正の再発防止を徹底するとともに、信頼性と輸送力の強化を急ピッチで進めている。現場の経験則に依存してきた古い体制から、センサーやデータを活用した現代的な管理へ移行する契機となる。
モーダルシフトの逆流

高速道路を走るトラック(画像:写真AC)
運行停止により輸送力が急減すると、多くの荷主企業は緊急措置としてトラック輸送へ切り替えざるを得なかった。これは、近年進められてきたモーダルシフトの流れに逆行する動きともいえる。
鉄道輸送はCO2排出が少なく、ドライバーの時間外労働規制が強化される「物流の2024年問題」への対策としても期待されていた。政策的にも長距離輸送の鉄道転換は後押しされてきたが、今回の障害は、鉄道が止まると代替手段の確保が容易でないことを荷主に再認識させた。
SDGs対応として鉄道輸送を選んでいた企業のなかには、不信感を抱いたケースもあるとみられる。鉄道貨物の資産は設備だけでなく、信頼も含まれる。その意味で今回の損失は数字以上に大きい。
一方で、主力の鉄道ロジスティクス事業では、コンテナ輸送量が7.5%増と伸長を見せた。これは、2025年3月のダイヤ改正による直行列車・深夜便の拡充など、輸送力の強化策が一定の成果を上げている証左でもある。さらに、倉庫機能を軸に多様な輸送モードを組み合わせる総合物流提案にも注力しており、千葉レールゲートの新設が控えている。
ただ同時に、荷主側にとって自社の環境目標や事業継続が鉄道網の安定に依存していることを理解する契機ともなった。トラック不足が深刻な今、鉄道の重要性は増しており、荷主と鉄道会社の情報共有と協力関係は強まっている。輸送障害の経験を共有したことで、トラブルに強い物流の仕組みを共に作り上げる動きが始まった。
運賃改定と需要構造

物流の2004年問題(画像:写真AC)
運行停止という厳しい状況でも、JR貨物の経営は一定の堅調さを保った。2025年11月10日に発表された2026年3月期通期の連結業績予想は、売上高が前期比6.1%増の2130億5000万円、営業利益が同2倍の54億4700万円、最終利益が73.4%減の17億9800万円を見込む。記録的雨量による豪雨災害の影響や、物価上昇にともなう想定以上の経費増加のため下方修正を余儀なくされたものの、直近の決算で利益を確保できた背景には、輸送単価の上昇がある。
数年前から段階的に進めてきた運賃改定が実を結び、輸送量が一時的に落ち込んでも収益を維持できる仕組みが整っていた。安全対策の支出増や不祥事による減収も、運賃引き上げによる増収で吸収された。
根本的な要因は、物流業界を取り巻く環境の変化にある。トラック運転手の不足が深刻化し、荷主企業にとって鉄道は代替のない輸送手段となっている。たとえ信頼を損なう問題が起きても需要が途切れないのは、長距離輸送における鉄道の役割が他では補えないほど大きいためだ。
事業の独占性が利益を守ったとの指摘もあるが、旅客会社との線路使用料の仕組みに加え、不動産事業などの収益も影響している。不動産事業は賃貸マンションの竣工・販売が進み、営業利益は24.0%増の59億円と伸長した。負担が一定に抑えられる構造や多角化の成果により、不測の事態でも経営が圧迫されにくい構造がある。この黒字は、不祥事の反省を形にし、将来の安全と効率化に投資するための原資となる。
環境対応と効率化

貨物列車の車体(画像:写真AC)
データ不正は、JR貨物の管理体制に課題があることを浮き彫りにした。しかし、トラック運転手の不足を背景に鉄道輸送の需要が高まっており、経営が致命的な打撃を免れた事実は重い。今後は、トラックの代替としての役割に留まらず、大型コンテナを活用した輸送効率の向上や使い勝手の改善を急ぐ必要がある。
このため同社は、輪軸組み立て作業不正の再発防止を徹底するとともに、ダイヤ改正による直行列車や深夜便の拡充など、信頼性と輸送力の強化を具体化させている。また、その他部門においても、金属原料販売の減少をリース品販売が補うなど、多角化による経営の安定化を図る動きが見える。
鉄道の強みである環境負荷の低さも、客観的な数値で示す仕組みを整え、荷主企業の二酸化炭素排出削減を支援すべきだ。不祥事を経て磨き直された運行データの正確性は、企業の環境経営を支える武器となる。情報の透明性を高め、荷主と共に歩む姿勢を示すことが、信頼の回復と強い物流網の構築につながる。
将来に向けては、デジタル技術を駆使し貨物駅の作業を自動化することで、労働環境の改善と効率化を同時に進められる。鉄道は脱炭素社会を支える重要なインフラだ。この困難を乗り越えることで、JR貨物は日本の物流をより良く変える先導役としての地位を固めるだろう。
黒字を生かす道

貨物鉄道:再生と強靭性。
今回の黒字は、日本の物流網が鉄道というインフラに依存している現実を改めて示した。不祥事は組織の弱点を浮き彫りにしたが、それを契機に古い慣習を見直し、正確なデータに基づく運営へ移行することが求められる。
通期予想については、記録的豪雨や物価高の影響で下方修正されたものの、厳しい外部環境下で黒字を維持する意味は大きい。利益を安全対策や最新技術の導入に充てれば、信頼の回復と効率的な輸送体制の整備につながる。
脱炭素という大きな目標に向け、鉄道の役割は今後さらに重要になる。荷主や他の輸送業者と協力し、使い勝手の良い物流網を築くことが、日本経済の将来を支える力になる。不祥事という苦い経験を成長の糧に変え、物流の新しい姿を示す時期が来ているだろう。