アフリカの邦人投資家が見据える、グローバルサウスの未来

砂塵の下で揺らぐ、三つの支柱, 通貨暴落がスタートアップを直撃したエジプト, グローバルサウス、人口9割の未来へ, 日本はシンプルに「出遅れている」

イベント会場にて、『ゲームを変える:分散する中東アフリカ市場にて投資の冬をどう乗り切るか?』というテーマで行われた鼎談に登壇する才木貞治氏。

2月にカイロ市で開催されたエジプト発の巨大AIカンファレンス「Ai Everything MEA Egypt」。登壇者の多くは欧米、中東の有力層と、勢いのある現地勢ばかりだ。広大な会場を見渡しても日本企業からの出展や視察は見当たらず、日本人の姿は皆無に等しい。

しかし、そんななか、たった一人の日本人が壇上にいた。

エジプト・カイロを拠点とするベンチャーキャピタル、Sunny Side Venture Partners(サニーサイド・ベンチャーパートナーズ)の代表、才木貞治氏だ。

演壇を降りた彼と合流し、話を聞いた。ピラミッドという壮大な歴史を背負いながら、一方でここ数年は外的要因により経済を揺さぶられていたエジプト。その渦中で、なぜ彼はあえて「太陽(Sunny Side)」を掲げ、投資を続けるのか。

Sunny Side Venture Partners創業者

才木貞治

砂塵の下で揺らぐ、三つの支柱, 通貨暴落がスタートアップを直撃したエジプト, グローバルサウス、人口9割の未来へ, 日本はシンプルに「出遅れている」

才木貞治

電通(東京・インド)にてトヨタ自動車等のグローバル支援に従事。ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)にてMBAを成績優秀(Distinction)で取得。在学中はアフリカ等のVCでインターンを経験。マッキンゼーを経て、2022年にSunny Side Venture Partnersを創業。京都大学卒。

砂塵の下で揺らぐ、三つの支柱

砂塵に霞むカイロの街並み。一見すると、市場(スーク)は人々の怒号と物売りの声で溢れ、かつて経済危機にあったようには見えない※1 。

※1 2024年2月以降、UAEがエジプトの北部・地中海沿いのRas El Hekmaという都市への350億ドル投資を行った。また、IMF、世界銀行、EUなどの各国際機関からの総額220億ドルの財政支援が発表され、経済が復活した。

2022年から2024年にかけて、エジプト経済を支えてきた以下の「三大支柱」が、いずれも3つの地政学リスクの直撃を受けてきた。

  1. 観光 外貨獲得の生命線だが、紛争の影により不安定化。
  2. 送金 海外居住者による送金。公定レートを嫌って闇市場へ流れ、外貨不足を加速。
  3. スエズ運河 紅海でのフーシ派攻撃の影響で、2024年の収益は約60億ドルの減収。前年の3分の1という壊滅的な打撃だ。

「船が来ない。送金も公式ルートを通らない。そんな環境下で、実体経済と乖離したインフレだけが加速していました」(才木氏)

才木氏が語る数字には、マッキンゼー出身らしい分析眼が見え隠れする。一時は公定レートの2倍以上にまで闇レート(ブラックマーケット)が跳ね上がったという通貨不安。彼によれば、それはこの国のスタートアップにとっても、生存を賭けた過酷な試練となっていたという。

通貨暴落がスタートアップを直撃したエジプト

通貨の暴落は、そのまま市民の購買力の蒸発を意味した。当然、エジプトのスタートアップシーンも二極化を余儀なくされていた。

「エジプトって小麦が主食なんですけど、世界最大の小麦の輸入国なんですよ。その輸入量の8割が2カ国、つまりロシアとウクライナから来ている。そこで戦争が起きてしまったので、もう大変なんです。日本でいうなら、米騒動のような状態ですね。そうなると、まずいちばんに財布の紐が固くなるのは消費者です」

かつて隆盛を極めたデリバリーやeコマースといった消費者向けサービスは、経済の逆風によって立ち往生した。しかし、その一方で生き残っている勢力がある。B2Bを主戦場とするスタートアップたちだ。

「特に一番苦しかったのがB2Cのスタートアップです。特にマスセグメントをターゲットにしていると、一番経済の影響をダイレクトに受けてしまう。一方でB2Bは、企業を顧客とする分比較的安定して生き残っていましたが、B2Cはかなり大打撃でした」

才木氏率いるSSVPが、セクターアグノスティック(業種不問)を掲げつつも、「『伝統的かつ非公式な既存システム』の非効率性をテクノロジーを活用して削減していくビジネス」、また、「テクノロジーで基盤を築き、インフラ自体になることができるビジネス」という「投資レンズ」をもって投資してきた。

「私たちが投資するのは、単なる便利なサービスではありません。地域に根ざした大きな課題を解決できる企業。そして、この過酷な環境を生き抜き、次の時代の背骨となるような企業です」

SSVPは1号ファンドを通じて、既に24社を超える企業に投資を実行している。そのポートフォリオは、エジプトのカントリーリスクを考慮し、近年ではアフリカ各地へと分散されている。

砂塵の下で揺らぐ、三つの支柱, 通貨暴落がスタートアップを直撃したエジプト, グローバルサウス、人口9割の未来へ, 日本はシンプルに「出遅れている」

賑わいをみせる現地スタートアップ等の出展ブース。「Everything Ai MEA Egypt 2026」にて。

グローバルサウス、人口9割の未来へ

才木氏の1号ファンドは既に24社への投資をほぼ終え、現在は「2号ファンド」の組成という新たなステージに立っている。その射程には、アフリカに加えて「ラテンアメリカ(中南米)」が含まれている。

「2号ファンドではアフリカとラテンアメリカをやりたいと考えています。ラテンアメリカはアフリカに比べて経済規模が2025年時点で2.3倍、2040年時点でも倍近くありますが、対GDP比で見るとスタートアップ投資はアフリカよりも少ない。ここに大きな機会を見ています」

彼らが追求するアディショナリティ(独自の付加価値)のうちの1つが、「スタートアップ投資がもっとも不足する地域に新たな資本の源泉を届ける」だ。資金不足の環境下にいるスタートアップへの投資である。

地域を超えて彼が描き出すのは、巨大なグローバルサウス※2の未来図だ。

※2グローバルサウス:アジア、アフリカ、中南米などの新興国の総称

「あと2、30年もすれば、世界の人口の9割はグローバルサウスと言われる国の人たちになると言われています。そこを無視してビジネスを語ることは、もはや不可能です」

日本はシンプルに「出遅れている」

投資家としての最大の課題は、投資した企業の出口戦略(イグジット)だ。才木氏は、エジプトを拠点とする強みを生かし、サウジアラビアやUAEといった中東諸国の資本市場との連携を強化している。

「日本企業は現在、世界に8万8000もの拠点をもっていますが、アフリカ54カ国で1%、中南米35カ国・地域で3.5%にしか満たない。一方、中国1か国で40%近く、東南アジア11か国には22%以上が集積しています。シンプルに『出遅れている』のが現状です」

こうも続ける。

「私たちの追求する2つめのアディショナリティ(社会的・環境的インパクト)である『日本企業のプレゼンスがもっとも不足している地域に、日本との戦略的なつながりをもたらす』があります。『資本不足』と『日本不足』。この2つを解決し、新興国と共に世界を前進させていくことが、私たちのミッションです」