マニアックなカーペット、グリーン車並みの指定席 思い出尽きない夜行急行「はまなす」廃止から10年
【汐留鉄道倶楽部】「最後の」という枕ことばを多く持つ列車だった。JRが定期運行する急行として、青い定期客車列車として、青函トンネルを通る定期夜行として…。青森―札幌を約8時間で結んだ急行「はまなす」は、開放B寝台や多彩な座席車を連結し、往年の国鉄夜行急行の雰囲気を多く残していた。1988年3月の青函トンネル開業と同時に登場、北海道新幹線開業に伴い2016年3月に廃止された。それからちょうど10年。格安切符で宿代わりにした思い出は尽きない。

函館―札幌は、北斗星色のDD51がけん引を担当=札幌駅
とりわけフェリーの桟敷席に似た「カーペットカー」(4号車)は、寝台料金不要、指定席料金だけで横になれる上に枕と布団が備えてあり、好んで利用した。寝台特急サンライズ出雲・瀬戸の「ノビノビ座席」と似て割安感があるが、みどりの窓口で発券するのが極めて難しいことでも知られていた。一番人気は人目につきにくく居心地が良い2階席の一番奥、28番(女性専用席21番も同様)。都内のある駅で端末操作をのぞいてみたら、「マニアックなはまなすカーペット」のような表示のあるショートカット専用ボタンがあったほどだ。指名買いが多かったのだろう。
発券が困難な理由は、4号車だけ列車名が「はまなすカーペット」と別名で登録されている上に、設備「B寝台」を選択しないとエラーになるなど複雑なためだ。2008年秋、札幌~青森の全区間が乗り降り自由の周遊きっぷ「道南ゾーン」で28番席に4連泊したが、異なる駅のみどりの窓口でも、予約時にこちらから発券の仕組みを説明し、発売と同時にボタンを押してもらうと、あっさり取ることができた。2階席は横幅が約90㌢とA寝台並みで、乗り鉄の筆者が快眠できたのは言うまでもない。

個室に近いカーペットカー28番席には、専用の階段で乗降した
指定席「ドリームカー」も座席が特急グリーン車のものと交換され、シート間隔も広くリクライニング角度も最大145度と大きかった。隣が来ない閑散期にシートを限界まで倒し、足を真っすぐ伸ばせば熟睡できた。6千円を超える寝台料金と比較すると、急行料金プラス指定席料金でも最大1800円以下で車中泊できるこれら2席種は、破格のサービスと言えた。

グリーン車並みの普通車指定席にはミニロビーを併設
1万円でJR北海道、東日本エリアの普通列車や第三セクター鉄道などが5日間乗り放題という「北海道&東日本パス」をよく利用した。当初は簡易リクライニングシートのはまなす自由席は追加料金が不要だった。後に有効期間延長や値上げはあったが、2010年夏季からは急行券を購入すれば指定席や寝台にも乗れるように変更。ラストランの10日余り前にもこのパスで往復し、お別れ乗車は往路がカーペット28番、復路はドリームカー最後列を取り、思い切り背もたれを倒して名残を惜しんだ。青森駅には各自が思いをつづった紙片を自由に張り付けられるコーナーが設置されており、寺山修司を気取って「さよならだけが人生だ」と記入した。

ラストランを控え、思いをつづったメッセージボード=2016年3月、青森駅
B寝台2~3両、2階がA寝台のようなカーペットカー、座席だけグリーン車の指定席2両とバラエティーに富み、増解結が容易な客車の特徴を生かした7~12両の柔軟な編成。函館以北に非電化区間があり、途中の函館では長時間停車して進行方向転換や機関車交換があった。客車列車の楽しみ満載で、深夜の函館か長万部で上りと下りのはまなすを相互に乗り換え、始発駅に戻ることもできた。
乗車時間が短く深夜早朝の運行のため、車窓を味わったり他の乗客と話したりする機会は少なかったが、廃止発表後、B寝台で行商のビジネス客とあいさつを交わしたことがある。早朝から行動でき、特急乗り継ぎ・ホテル前泊より安上がりで重宝したという。夜行列車ではよく聞く話だ。がらがらの自由席に移動し、北国の幸をさかなに気兼ねなくやる一杯も、終電を逃す心配がない。

ヘッドマークの花と文字の色が白になることも=函館駅
JRでは国鉄時代の車両が次々と引退し、地方でも首都圏と変わらないシートのモダンな車両が増えてきた。非日常を味わえる元はまなすの14系客車は、ドリームカーなど一部が東武鉄道に譲渡された。栃木県内を走る「SL大樹」で、今でも乗ることができる。
☆共同通信・寺田正 はまなすの客車のうち4両は静岡県の大井川鉄道にも売却されたが、10年近くたっても運用がない。傷みも進んでおり、行く先がどうなるのか気をもんでいる。