「不戦の盾」か「格好の標的」か――日米共同備蓄は本当に日本を救うのか? 現状わずか「7日分」、高市政権が挑む安保戦略の虚実

共同備蓄構想の現実的制約

 高市早苗首相は、先の日米首脳会談で日米による原油の共同備蓄を実現したい考えを示した。これを受け、ネット上では、日本が米国産原油のアジアの拠点となり、その重要性から軍事攻撃を受けにくくなるうえ、原油不足の不安が和らぎ経済面での利点も見込めるとする見方が広がった。

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 しかし、共同備蓄によって

・不戦の盾

・経済的な利点

が実現するかどうかは仮の話にとどまり、いくつもの前提を満たす必要がある。

 なお、共同備蓄はすでに他の産油国とも行われている。日本の民間原油タンクを産油国の国営石油会社に政府の支えのもとで貸し出し、同社が東アジア向けの中継や備蓄の拠点として使う一方、日本への供給が不足した際にはタンク内の在庫を優先して回す仕組みである。

 これは日本の石油備蓄の一部ではあるが、2025年12月末時点では国家備蓄146日分、民間備蓄101日分に対し、産油国との共同備蓄は

「7日分」

にとどまる。日本にとっては、米国産原油の拠点化を進めることで備蓄の余力を高められる利点があるのも事実である。

 当然ながら、日本を供給網の拠点として使うかどうかは日本側ではなく産油国の判断に左右される。また、拠点のあり方も分散型と集中型で性格が異なる。分散型は、日本を複数ある拠点のひとつとする方法であり、産油国はリスクを分けられ、消費国にとっても安定に寄与する。一方で、分散型では備蓄量は限られる。

 これに対し集中型は、日本に大きく集める方法である。日本にとっては十分な備蓄を確保できる反面、産油国にとっては供給が滞るおそれが残る。現時点では「拠点化」という言葉が先に広がっているが、産油国である米国がどのような供給の考えを持つのかははっきりしていない。

拠点整備を支える需要前提

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石油タンカーと港(画像:写真AC)

 分散型であれ集中型であれ、拠点の整備にはいくつかの前提がある。第一は、原油に頼る社会が続くことである。拠点の整備には、施設の建設や維持にかかる費用に加え、防衛の負担もともなうためだ。石油への依存が高い間は、拠点が価格や供給の安定に寄与し、費用に見合う可能性がある。

 ただし、世界は全体として脱化石燃料に向かっている。電動化や代替燃料の広がりにより、長い目で見れば重要性が下がるおそれがある。OPECの2024年版「世界石油見通し」では、2023年から2050年にかけて世界全体ではインドを中心に需要が伸びる一方、OECD加盟国では22.1%減るとされている。拠点整備に投じた資金の回収よりも先にエネルギー転換が進めば、需要の落ち込みにより資産価値が損なわれる可能性がある。現時点での必要性が高くても、長期間にわたり必要かどうかは慎重に見極める必要がある。

 第二の前提は、「優先調達権」が確実に働くことである。原油供給の拠点は、市場取引が機能している間は価格の安定に寄与する。しかし、有事に日本向けの供給が不足した際、備蓄が本当に優先して回されるかは別の問題である。日本は拠点という器を用意する立場にあるが、最終的には産油国との取り決めに左右される。

 赤沢亮正経済産業相は3月24日の記者会見で、サウジアラビアとクウェートの石油会社に貸し出している国内タンクから、共同備蓄分を5日分放出すると明らかにした。これは優先調達が実際に行われた例といえる。一方、韓国では、優先購入の行使前に海外企業との契約が進み、200万バレルのうち90万バレルが国外に売られた例もある。今後も産油国との関係次第では、優先調達が十分に機能しない可能性は残る。その実効性は安定した国際関係に左右され、継続的な外交の積み重ねが欠かせない。

集中型拠点と抑止力の前提

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産油国イメージ(画像:写真AC)

 拠点を「不戦の盾」として働かせるなら、集中型が有力となる。日本に原油を大きく集め、アジアの供給を支える中核とする考え方である。代えのきかない供給拠点として維持する必要が広く認められれば、破壊にともなう損失が利益を上回り、攻撃に踏み切りにくくなる。また、米国産原油の供給網のもとで同盟国間の軍事関与が強まり、攻撃側の負担が増すことで抑止が働く可能性もある。

 ただし、国益を顧みない思想に基づく攻撃であれば、むしろ最大の標的となり、「不戦の盾」が成り立たない場合もある。

 原油備蓄施設である以上、「拠点=攻撃目標」というリスクは避けられない。現代の戦闘では、狙いを絞った攻撃が可能となっており、港湾や備蓄基地といった固定された施設は狙われやすい。米国やイスラエルとイランの緊張でも、エネルギー施設が繰り返し破壊されてきたことがそれを示している。加えて、被害は環境にも及びうる。

 当然ながら、施設の規模に応じた防衛力の強化が欠かせない。集中型では、施設整備に加え、防衛や環境対策まで含めた費用が膨らみ、必ずしも採算が見込めるとは限らない。一方、分散型は備蓄量を抑えられるため初期の負担は軽くなるが、日本の供給拠点としての重みは下がり、「不戦の盾」としての働きは弱まる。

米政権方針と需給構造への影響

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ドナルド・トランプ米大統領(画像:EPA=時事)

 米国のトランプ政権は、もともと地球温暖化に懐疑的な姿勢を取り、化石燃料の活用拡大へとかじを切ってきた。米国産原油の増産や供給網の整備、消費の拡大は、この方針と重なる。原油が安定して、かつ比較的安い水準で供給されれば、移動手段の電動化の流れは鈍る可能性が高い。これは自動車産業の経営判断に大きな影響を及ぼすとみられる。

 日本では、港湾や貯蔵施設、輸送網の整備に向けた投資が進むことが期待される。一方で、米国産原油の増産や供給網の整備が遅れ、さらに米国・イスラエルとイランの緊張によって原油不足が続く場合には、かえってエネルギー源の分散が進む可能性がある。その場合、拠点としての価値は下がる。

 日米による原油の共同備蓄を、短期・中期・長期の時間軸で見ると、評価は次のように分かれる。

 短期(~5年)は、供給の安定という面で見れば妥当性が比較的高い。中期(~10年)は、地政学上の不安定さとエネルギー転換の進み方が重なり、評価は定まりにくい。長期(10年以上)は、石油への依存が下がることで前提が変わる。

 原油不足への懸念が現実味を帯び、今後も不安定な国際情勢が続くと見込まれるなかでは、短い期間で見れば日米共同備蓄の経済面での妥当性は比較的高い。中くらいの期間では、地政学上の不安定さとエネルギー転換の進展が重なり、評価は揺れ動く。長い期間では、石油への依存低下により前提そのものが変わることになる。

エネルギー依存と備蓄の重要性

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日米共同原油備蓄の戦略と課題。

 日本は資源に乏しく、エネルギーの大半を輸入に頼ってきた。過去の教訓を踏まえ、戦略的に備蓄を強化してきた。しかし、米国・イスラエルとイランの軍事的緊張により、状況は新たな段階に入ったといえる。

 この段階では、自国のエネルギー構成の見直し、米国産原油を含む供給網の調整、さらに安全保障と経済の効率を両立させる備蓄の在り方が問われている。石油依存の社会と不安定な国際情勢のもとでは、ひとつひとつの判断が日々の生活に大きな影響を与えるだろう。