イラン攻撃で原油高騰も、経済失速のロシアにとって「恵みの雨」とならない理由 危機の日本がロシアからの輸入を拡大する可能性は?

3月8日、イラン首都テヘランで、米イスラエルの攻撃後に炎上する石油貯蔵施設(ゲッティ=共同)

 5年目に入り泥沼化するウクライナ戦争。2022年の開戦時を除き好調な経済を維持してきたロシアだが最近になり失速。そこに米国・イスラエルのイラン攻撃が始まり、原油高騰などにより息を吹き返すとの指摘も出ている。今後の見通しについてロシア経済に詳しいシンクタンク「ロシアNIS経済研究所」の中居孝文所長に聞いた。(共同通信=太田清) 

中居孝文氏(共同)

▽暗雲

―ロシア経済の最新の状況は。

 「ロシアの国内総生産(GDP)は、22年こそマイナス1・4%を記録したが翌年からプラスに転換。24、25年とプラス成長を続けたものの、今年1月に入り、マイナス2・1%と暗雲が漂い始めた」

 「鉱業・製造業の動向を示す指標、鉱工業生産もマイナスで部門別に見ると、軍需産業を軸とする『機械工業』を除き軒並みマイナスとなってしまった」

 「財政赤字も拡大している。26年通年での赤字見通しが3兆7860億ルーブル(約7兆4000億円)に対し、今年1、2月の2カ月だけで3兆4500億ルーブルに達した。石油などに対する課税歳入を積み立てた『国民福祉基金』残高も戦費などに充てているため減少が続き、今年中に枯渇する可能性が指摘されている」

ホルムズ海峡が封鎖状態となり、ドバイ沖に停泊する船舶=2日(ゲッティ=共同)

▽制裁などで大きく落ち込んだ石油・ガス税収

―経済不振の原因は。

 「これまでGDPを押し上げてきた軍需支出が息切れし、インフラなど、ほかの部門に予算を充てられないことの弊害が出てきた。軍への兵員補充や若者の国外脱出などによる労働力不足に加え、インフレに対応するため高い水準で政策金利を維持してきたことも景気の足を引っ張っている」

 「さらに政府歳入の2割を占めると言われる石油・ガス税収が、西側の制裁や、世界的な供給過剰による油価低迷で大きく落ち込んだ。今年1、2月の同歳入は前年同期から47%減るなどほぼ半減した」

▽イラン攻撃後も制裁は解除されず

―そこに2月末、イランへの攻撃が始まりホルムズ海峡封鎖などにより世界的に油価が高騰した。産油国ロシアにとりプラスになるのではないか。

 「ロシアにとり恵みの雨になるとの期待は国内にある。しかしロシアの石油歳入を抑える制裁は解除されていない」

 「一つは、ロシア産原油価格に対する上限設定(プライスキャップ)だ。一定の価格以上で購入する場合は、海上保険などが使えずタンカーを運航できない。また、米国などは上限を超えた価格で取引する企業や国家に対し、関税など2次制裁を科すと警告している」

 「二つ目は、米国財務省が科しているロシア石油会社への制裁だ。同省はロシアの主要5石油会社を最も厳しい『SDN制裁リスト』に含めている。資産凍結、取引・ドル決済禁止、違反した場合の2次制裁など厳しい措置を定めており、多くの国がこれを恐れて取引できない」

握手するロシアのプーチン大統領(右)とベトナムのファム・ミン・チン首相=3月25日、モスクワ(タス=共同)

▽背に腹は代えられない国々が動き出す可能性も

―米国は原油高騰に対応するため、インドなどがロシア産原油を購入することを一時的に認めた。

 「1カ月の時限措置だ。計1億バレルのロシア産原油を積みインドに向かったものの、制裁強化のためインドの港に入港できずに海上で行き場を失っていた多数のタンカーが、この発表を受け一斉に入港したとの話もある」

 「しかし、二つの制裁が機能している限り、ロシアの石油歳入が大きく増えることはないとみている。ホルムズ海峡封鎖が短期間で解除されれば、1カ月の時限措置も終わり、これまでのようにロシアの原油輸出は伸び悩むだろう」

 「また、この機に乗じてウクライナがバルト海のプリモルスク港などロシアの複数の石油輸出拠点をドローン攻撃し、輸出能力にダメージを与えた。最も原油が高騰している時期にロシアが適時に石油を輸出できない可能性がでてきた」

 「しかし、封鎖が長期化し、油価の高止まりが続けば、二つの制裁を緩和するよう圧力がかかるかもしれない。タイやベトナムなど、石油備蓄が少ない国が『背に腹は代えられない』と2次制裁のリスクを冒してロシア産原油の輸入に踏み切る可能性も拭い切れない」

 「もう一つの懸念材料がロシアによる欧州諸国の切り崩しだ。ロシアのプーチン大統領はエネルギー価格が高騰する中、欧州市場へのガス供給を即時停止し、別の市場へ振り向けることを検討するよう政府に指示した」

 「欧州連合(EU)はロシア産石油禁輸で合意、侵攻前まで依存度が高かったロシア産天然ガスについても2027年中に全面的に輸入を停止する方針だが、発言はエネルギー危機に陥った欧州を逆に揺さぶるものだ。欧州内の亀裂を生み、ロシア産石油・ガス輸入の再開・拡大を引き出そうとの狙いがある」

サハリン2の液化天然ガス(LNG)加工施設=2009年2月、ロシア・サハリン州(共同)

▽日本はどうする?

―日本も中東以外からのエネルギー確保は喫緊の課題だ。サハリンプロジェクトなどからの輸入拡大を図る可能性は。

 「日本は、ロシア極東サハリンでの石油・天然ガス開発事業『サハリン2』から、国内で消費する液化天然ガス(LNG)の約9%を輸入している。さらに『サハリン1』や、パイプラインを通じて極東ナホトカから積み出される石油の輸入も理論的には可能だが、米国の制裁解除が条件となる。また輸出先の中国やインドなどを差し置いて、ロシアが『非友好国』の日本に石油を回してくれるかどうかという問題もあり簡単ではない」

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 なかい・たかふみ 1992年、社団法人ソ連東欧貿易会(現在のROTOBO)入社、モスクワ事務所長、ロシアNIS経済研究所調査部長などを経て、2022年から現職。