BYDのグローバル展開を、ガソリン価格高騰が後押し。「試乗するだけで1週間待ち」など、早くも需要が供給を上回る兆し

BYDをはじめ中国の自動車メーカーが低価格EVを世界に出荷しようとしている、まさにそのタイミングで、原油価格が急騰している。
- BYDの幹部らは2026年、中国国外で150万台の電気自動車(EV)の販売を見込んでいることを明らかにした。
- 中東情勢の緊迫化を背景に原油価格が上昇を続け、国際指標となるブレント原油は1バレル100ドルの大台を突破している。
- 低価格かつ最新テクノロジーを搭載したBYDのEVが一部市場に投入される前から、EVへの関心はすでに急激な高まりを見せていた。
BYDのグローバル展開はすでに加速しつつあったが、ここへ来て新たな起爆剤を手に入れた。「ガソリン価格の世界的高騰」という追い風だ。
2025年、BYDはテスラを抜いて世界最大の販売台数を誇るEVメーカーとなった。この中国自動車大手の幹部たちは3月30日、海外における販売目標150万台の達成、あるいはそれを上回ることに「非常に自信を持っている」と語った。また、関係者がロイター通信に明かしたところによると、長期的には海外市場がBYDの自動車事業の半分を占めるようになる可能性があるという。
これは、BYDがいかに急速に「中国国内の巨大企業」から「世界の有力企業」へと変貌を遂げているかを示す兆候であり、その過程で既存の自動車メーカーを価格と技術の両面で追い詰めている。
「多くの自動車メーカーが深刻な危機感を抱いているのは、それなりの理由がある」。自動車業界のコンサルティングを手掛けるオートパースペクティブズ(AutoPerspectives)の創設者でGM(ゼネラルモーターズ)元幹部のアダム・バーナード(Adam Bernard)氏は、Business Insiderの取材にそう語った。
「BYDは真の意味で、フルラインアップを揃える自動車メーカーになりつつある。彼らに唯一欠けているのは完全なグローバル展開だが、それも時間の問題だ」(バーナード氏)
それと時を同じくして、イラン戦争勃発後、世界の原油価格は上昇を続けている。原油市場の国際指標であるブレント原油は1バレルあたり100ドル(約1万5950円)を上回っており、開戦前と比べて40%以上も値上がりした。
その結果、世界各地のガソリンスタンドで価格が高騰しており、複数の国が燃料消費の削減を促す優遇措置を設ける事態となっている。世界各国の首脳たちは、国民にリモートワークの実施や、一時的に無料化された公共交通機関の利用を呼びかけている。
「試乗するだけで最大1週間待たされた」

BYDによると「仰望(Yangwang)U9 Xtreme」の最高速度は時速308マイル(約495km/h)。これは、最高時速310マイル(約499km/h)を誇るスウェーデンのスーパーカー「ケーニグセグ・イェスコ・アブソリュート(Koenigsegg Jesko Absolut)」に次ぐ、世界で2番目に速い車だという。
BYD——社名は「Build Your Dreams(夢を築く)」の頭文字をとって命名された——は、極めて幅広い車種のラインナップを取り揃えている。低価格帯のハッチバック「Seagull(シーガル)」や8人乗りの高級ミニバン「Xia(シア)」から、世界で2番目に速いスポーツカー「仰望(Yangwang) U9 Xtreme」に至るまで多岐にわたる。
ラインナップには、プラグインハイブリッド車(PHEV)と完全な電気自動車(BEV)の両方が含まれる。
現在、これらの車は中南米、ヨーロッパ、オーストラリアの販売店に続々と到着しているほか、カナダでの販売も間もなくスタートする予定だ。
複数の市場で一斉に展開を強めるBYDだが、各地で早くも需要が供給を上回る兆候が現れ始めている。オーストラリアでは、一部モデルで「試乗するだけで最大1週間待たされた」とXで報告するユーザーが数十人に上っている。
自動車情報サイトのオージーモーター(AussieMotor)によると、オーストラリアにおけるトヨタ、フォード、ヒョンデの平均価格は4万4000〜6万2000豪ドル(492万8000〜694万4000円、1豪ドル=112円)だという。一方、Business Insiderが調査したところ、BYDのハッチバック「Atto 1」は2万5000豪ドル(280万円)未満で注文できるオファーもあった。
だが、アメリカの消費者にとって、 BYDは依然として「手の届かない存在」のままだ。中国製EVには、法外な関税やソフトウェア・アップデートの制限に関する規制といった参入障壁が設けられており、アメリカ市場への大規模な参入は事実上ブロックされているからだ。
中国の進化に、日米欧のライバルは危機感

中国の自動車技術は猛スピードで進化し続けている。その点について、アメリカの自動車メーカー幹部らも懸念を隠さない。
アメリカ市場からシャットアウトされている間にも、BYDの技術は既存の自動車メーカーのそれを猛烈な勢いで引き離し続けている。
BYDは4月、新型バッテリー「Blade 2.0」を発表した。同社によると、このバッテリーはわずか5分で充電量10%から70%まで充電でき、1回の充電で620マイル(約998km)以上の走行が可能だという。
その充電スピードは、現在アメリカ市場に出回っている最も充電が速いEVの3倍に達する。
しかも、そうした進化を見せているのはBYDだけではない。シャオミ(Xiaomi)、ニオ(NIO)、理想汽車(Li Auto)、シャオペン(XPeng)など複数の中国メーカーが、BYDと同等の低価格、そして競争力のあるバッテリー技術を備えているのだ。
既存自動車メーカーの幹部たちも、この現実を直視し始めている。2025年6月、フォードのジム・ファーリー(Jim Farley)CEOは、アメリカ製のEVより中国製のEVのほうが「はるかに優れている」と発言。同年11月にも、自社のエンジニアが中国の競合メーカーのEV製造プロセスを分析した結果、「謙虚にならざるを得なかった」と述べている。
自動車専門メディアのAutomotive Newsによると、トヨタ自動車の佐藤恒治(Koji Sato)社長は最近、自動車部品サプライヤーとの会議で「いまのままでは生き残れない」と語ったという。「我々自動車産業は、生き残りをかけた戦いのさなかにいるのだ」と。
とはいえ、「中国のEVメーカーにとってすべてがバラ色というわけではない」と、オートパースペクティブズのバーナード氏はBusiness Insiderに指摘する。彼によれば、中国の自動車メーカーは依然として、長期的な収益性の確保や、中国国内でさえ起きている政府の支援策縮小、そして(仮にアメリカ市場に参入できたとしても待ち受けているであろう)アメリカのドライバーたちが抱く潜在的な拒絶反応といった課題に直面しているという。
加えて、現在起きているガソリン価格の変動が、EV需要を持続的に牽引するような「安定した原動力」になるとは考えにくい。
「一過性のブームに終わる可能性がある」とバーナード氏は言う。「ガソリン価格が変動すれば消費者の行動も変わる。だが、それがいつまでも続くとは限らないからだ」。
Business InsiderはBYDにコメントを求めたが、期限までに回答は得られなかった。