韓国の石油危機「守るべきものを守れなかった」── 緊急備蓄90万バレルがベトナムへ流出した真相とは

<石油の9割をホルムズ経由で輸入する韓国が、深刻なエネルギー危機に。政府の対応は後手に回り続けている>, 26隻が足止め、交渉手段なし, ソウルのガソリンは2000ウォン超え, 公共機関は自動車利用を1日おきに規制, 高齢者の公共交通無料を見直しも?, 政府が八方手を尽くすなか、備蓄原油が海外流出, 補正予算可決も「選挙向けばらまき」の批判, 石油備蓄基地を訪れた李在明大統領

韓国の石油危機「守るべきものを守れなかった」── 緊急備蓄90万バレルがベトナムへ流出した真相とは

備蓄原油が海外流出していた蔚山の石油備蓄基地を訪れた李在明大統領 KBS News / YouTube

<石油の9割をホルムズ経由で輸入する韓国が、深刻なエネルギー危機に。政府の対応は後手に回り続けている>

イラン戦争に伴うホルムズ海峡の封鎖で石油タンカーが足止めされ、世界の原油価格が上昇している。韓国でも石油不足の懸念から価格高騰が続いている。政府が価格規制や消費抑制、原油確保に総力を挙げるなか、緊急用備蓄原油が海外に流出していたことが判明し問題となっている。

26隻が足止め、交渉手段なし

4月6日時点で、韓国の石油精製会社が契約したタンカー7隻を含む韓国関連船舶26隻がホルムズ海峡を通過できず、ペルシャ湾内に留まっている。韓国政府が把握している韓国人船員は173人だ。米国とイランの一時的な停戦合意を受けて出港準備をほぼ終えたが、出航の目処は立っていない。残念ながら韓国政府にはホルムズ海峡通過を交渉する手段がない。

米国主導の経済制裁が続くイランはホルムズ海峡を通過する船舶1隻当たり200万ドルの通行料を課すことを決めたと伝えられるが、韓国政府がこれを支払うことは不可能だ。経済や安全保障の関係が深い西側諸国は海峡封鎖は自由航行と安全保証を原則とする国際法に違反するとしており、米韓関係からも安易な支払いは難しい。対米投資計画に関する米韓協議が終わっていないうえ、米通商代表部(USTR)は通商法第301条に関する調査を進めている。トランプ政権の意に反した行動をすれば、高率関税が賦課されかねない危惧がある。

<石油の9割をホルムズ経由で輸入する韓国が、深刻なエネルギー危機に。政府の対応は後手に回り続けている>, 26隻が足止め、交渉手段なし, ソウルのガソリンは2000ウォン超え, 公共機関は自動車利用を1日おきに規制, 高齢者の公共交通無料を見直しも?, 政府が八方手を尽くすなか、備蓄原油が海外流出, 補正予算可決も「選挙向けばらまき」の批判, 石油備蓄基地を訪れた李在明大統領

ソウル市内のガソリンスタンド(撮影=筆者)

ソウルのガソリンは2000ウォン超え

韓国は石油の7割を中東に依存しており、9割以上がホルムズ海峡を経由する。封鎖前にホルムズ海峡を通過した最後のタンカーが3月20日に入港以後、同海峡を通る原油の供給は完全に止まって石油価格が高騰、一部の石油製品は生産が滞っている。

レギュラーガソリン1リットルの平均価格は3月4日の1834.28ウォン(約198円)から4月7日には1964.7ウォン(約211円)へと上昇、ソウルは2000ウォン(約214円)を超えている。全国平均も近日中に2000ウォンを突破するとみられている。

産業通商資源部は4月9日、「石油最高価格制」を改定し第3次上限価格を発表した。同部は3月13日、石油元売り各社のガソリンスタンドに対する卸価格の規制を開始、同27日の改定に続く2度目の改定だ。政府は元売り各社の損失補償分として4兆2000億ウォンを計上する一方、違反には厳正に対処する方針を示している。

公共機関は自動車利用を1日おきに規制

さらにガソリンの消費抑制策として資源安全保障危機警報を「注意」から「警戒」に引き上げ、公共機関の車両に対するナンバー規制を従来の「5部制」から「2部制」に強化した。5部制は月曜日にはナンバー末尾が1と6の車両は利用できないなど曜日ごとに特定末尾番号の車両運行を制限するもので、「2部制」は奇数日にはナンバー末尾が奇数の車、偶数日は末尾が偶数の車のみ走行を認める規制である。

規制対象は公共機関の車両だが、民間にも5部制への参加を要請、全国3万カ所の公営駐車場でも5部制を実施する。気候エネルギー環境部は規制によって石油消費量が37.5%減少すると試算するが、実質的な効果は限定的との指摘もある。

<石油の9割をホルムズ経由で輸入する韓国が、深刻なエネルギー危機に。政府の対応は後手に回り続けている>, 26隻が足止め、交渉手段なし, ソウルのガソリンは2000ウォン超え, 公共機関は自動車利用を1日おきに規制, 高齢者の公共交通無料を見直しも?, 政府が八方手を尽くすなか、備蓄原油が海外流出, 補正予算可決も「選挙向けばらまき」の批判, 石油備蓄基地を訪れた李在明大統領

ソウル近郊のベッドタウン議政府市回龍駅のラッシュ時の様子(撮影=筆者)

高齢者の公共交通無料を見直しも?

こうしたガソリン価格高騰に伴う自家用車の利用自粛とナンバー規制で、地下鉄をはじめ鉄道利用者の増加が見込まれ、出退勤時間は相当な混雑が予想される。

李在明(イ・ジェミョン)大統領は高齢者の無料乗車制限を含む混雑緩和策を国土交通部に指示した。韓国は「老人福祉法」に基づいて65歳以上の地下鉄無料乗車が認められているが(利用には身分証や優待用交通カードの発行が必要)、少子高齢化の進展で無料利用が増えている。

ソウルの地下鉄を無料で利用した高齢者は2021年の約1億7077万人から2025年には2億4234万人へと倍増。午前7時〜9時までと午後6時〜8時の通勤時間帯の年間地下鉄利用者数10億3051万9269人のうち8519万2978人が65歳以上の高齢者で、全体の8.3%を占めており、なかでも朝7時〜8時の時間帯は10人に1人が無料利用者だ。無料利用制度による損失は年間4488億ウォンに達し、ソウル交通公社の年間損失8255億ウォンの54.4%を占めるなど、無料対象年齢を70歳以上に引き上げるべきという声もある。

政府が八方手を尽くすなか、備蓄原油が海外流出

こうしたなか、具潤哲(ク・ユンチョル)経済副首相が産油国6カ国の駐韓大使と4月3日に面会して安定的な供給を要請した。同日、産業通商資源部もアラブ首長国連邦(UAE)と行ったオンライン会談で原油関税の段階的撤廃を含む包括的経済連携協定(CEPA)について協議し、合わせて資源の安定供給支援を要請。7日には姜勳植(カン・フンシク)大統領秘書室長が中東に向けて出国するなど政府は八方手を尽くして原油確保に奔走するなか、国際共同備蓄原油が海外に売却されていたことが判明した。

国際共同備蓄原油は日本や韓国など石油を輸入に依存する国が産油国企業等に自国の原油タンクを貸与し、平常時は産油国企業等が国外の供給・備蓄拠点として活用、緊急時には原油タンクの貸与国が優先的に購入できる仕組みだ。韓国はサウジアラビア、UAE、クウェートなど8カ国の企業と契約を結んでいる。

産業通商資源部が優先購入権の行使を検討するなか、蔚山の石油備蓄基地に保管されていた原油90万バレルが海外に流出していたことが確認された。同部の傘下である韓国石油公社が優先購入権を行使しなかったことから、原油を所有するクウェート国営石油会社(KPC)がベトナムのギソン精油化学(NSRP)と販売契約を締結していたのだ。売却された90万バレルは韓国の半日分の消費量に相当する。

補正予算可決も「選挙向けばらまき」の批判

こうした失態を国民の目から逸らそうとするように4月10日、国会で「原油高被害支援金」を柱とする補正予算案が可決した。所得下位70%の国民約3580万人に、1人当たり10万~60万ウォンを給付する内容で、政府与党は中東情勢の悪化による原油と物価高に対する支援金と説明するが、6月3日の統一地方選挙に向けた「ばらまき」と批判する声が上がっている。

ホルムズ海峡の封鎖が続き、出口の見えないエネルギー危機の中、韓国政府の対応は後手に回っている感は否めない。緊急備蓄の流出という「守るべきものを守れなかった」失態と、選挙を意識した現金給付への批判。国民の負担が増し続けるなか、政府に求められているのは小手先の対応ではなく、中東依存という構造的な脆弱性を直視した中長期のエネルギー戦略ではないだろうか。

石油備蓄基地を訪れた李在明大統領

KBS News / YouTube

佐々木和義