中国・韓国のツケが日本漁業に…元水産庁職員が「理不尽」「一方的な不利益を被る」と嘆くワケ

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魚食文化の国でありながら、漁獲量が減少している日本。それにも関わらず、国際的なデータで見ると日本の漁業は「乱獲」状態なのだという。どうしたら我が国は漁業資源を守ることができるのか、専門家が解説する。※本稿は、水産庁出身で元全国漁業共済組合連合会常務理事、元一般社団法人大日本水産会専務理事の内海和彦『海のさかなの正しいトリセツ』(日本評論社)の一部を抜粋・編集したものです。
他国の影響で日本の漁獲量が
半減しても統計には現れない
現在、日本が数量管理している資源の多くは中国、韓国等の他国もこれを利用しています。
他国の公表資料やNPFC(北太平洋漁業委員会)に提出された漁獲データを見ると、全体に占める日本の漁獲量の割合は近年、急速に縮小してきており、例えば、太平洋の系群では全体の漁獲量に占める日本の割合が、マサバ・ゴマサバの場合、2013年までほぼすべて日本だったものが、2022年には40%と62%に、マイワシも2015年まではほとんど日本の漁獲だったものが、2022年に50%にまで落ちてきています。
日本海の系群も同じように2022年における日本の漁獲割合は、すでにマサバで48%、ゴマサバで41%ですが、日本海の資源の場合には、全体の漁獲量の数字の中に韓国のデータは含まれているものの、これら資源の産卵域でもある東シナ海のデータ(中国)は含まれておらず、おそらくこれらのデータを加味して再計算すると実際の日本の漁獲割合ははるかに低いものになると予想されます。
表4-1をみてください。日本政府は、他国も漁獲しているこれらの魚種について、漁獲圧(編集部注/水産資源に対してどれだけ強い力で漁獲を行っているかを示す「漁獲の強度」のこと)を上下させることで資源管理を行おうとしていますが、表4-1は、コントロールすべき漁獲圧が日本漁業によってどれだけ管理できるかを調べたものです。

同書より転載。神戸チャートとは資源量と漁獲圧を、MSY[最大持続生産量]を基準に色分けして評価したグラフのことを指す
新たな資源管理の目標実現には
日本の漁業の完全禁止が必要!?
資源評価の結果で示された全体の漁獲圧(日本を含むすべての漁獲国による漁獲圧)とMSY水準の漁獲圧との比(F/Fmsy)を計算した際、これが1を上回る(灰色のコラム)場合は「乱獲」とされますが、この全体の漁獲圧から計算された数字を、全体の漁獲量に占める日本の漁獲量の比で案分すると、この比率(F/Fmsy)における日本漁業の貢献度(寄与率)が計算される、という仕組みです。
表4-1からみてとれるように、他国の漁獲を含む全体の漁業の漁獲圧(最も左のコラム)は多くの系群でMSY水準を超えています(灰色のコラム)。しかし、日本だけの漁獲量でこれを補正すると、数字が1を下回るものが多く、多くの系群で灰色のコラムが消えていることがわかります。
この結果が意味するところは、現在進められている「新たな資源管理」では、資源管理目標がMSY水準に置かれ、それを実現するためにしきりと漁獲圧の削減が必要だと水産庁は力説するものの、すでに日本だけの漁獲圧で見るとその漁獲圧はMSY水準以下の数値に下がっており、日本だけなら目的とする資源管理は実行できているという事実です。
逆に言うと、日本の科学者がしきりに言う漁獲圧の削減は、他国も含めて実施しないと目的は達成できず、このまま毎年の資源量計算を進めていくと、他国は規制のないまま獲りたいだけ獲り、そのぶん日本の漁獲圧の削減分にしわ寄せがきて、最終的には日本の漁獲圧をゼローーすなわち日本の漁業をまったく禁止することでようやく目標に到達するというモデルを実施し続けてしまうことになるのです。
中国や韓国の漁獲のツケを
日本漁業が払い続けている
とくに、この傾向は日本海の系群に顕著で、マサバもゴマサバも対馬暖流系群はすでに10年近く前から日本漁業の漁獲圧だけならMSY水準を下回るものとなっていることから、単純に他国を含む漁獲量全体で計算される漁獲圧の削減を日本漁業だけに求めてきても、他国が同じ漁獲圧の削減を行わないかぎり、その間、中国や韓国など他国の漁獲のツケを日本漁業が払い続けることになるのです。
この他国の影響は「新たな資源管理」を実施していく過程で漁業者から再三再四、指摘されていたのですが、政府は外交努力に努めるとはいうものの、いまだなんらの手を打っていません。
おそらく現在の国際環境からみれば、日本の資源管理と同じ目標設定が同意され、そこから算出されるような規制措置に中国、韓国等が素直に服するとは到底考え難いものの、だからといって、日本と同等の規制がかかっているとは思えない他国漁業の影響を「日本漁業だけで補って資源回復しろ」というのは理不尽です。
実は、このような他国の影響は今回の漁業法改正前においても同じような状況下にあり、このため改正漁業法以前に資源管理を法律で規定していた「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」では、「中国や韓国など同じ海域で漁業を行う他国が、日本の漁業者と同じレベルで資源管理は行えない」ことを理由に、マアジ、マイワシ、マサバ、ゴマサバ、スルメイカ、ズワイガニの6種について「採捕の停止」や「罰則」などを含む多くの条文を、日本漁業者に対し「適用除外」としていました。
表4-1からもあきらかなように、他国による漁獲は改善されるどころか、ますます日本の漁業者を追い込むような状況(日本の漁獲割合の急落)になってきています。せめてこの「適用除外」の規定を復活させるなどの措置を講じ、厳しすぎる資源管理によって国内漁業者が一方的な不利益を被ることがないようにすることが重要です。
資源管理の定義が各国で違うため
日本は乱獲状態と誤解され続ける
さて、「新たな資源管理」ではMSYが資源管理の目標とされたものの、この目標は多くの魚種が共存する日本周辺の資源にとって高すぎるものであることをお話しましたが、水産庁は依然、このMSY水準以下の資源量あるいはMSY水準以上の高い漁獲圧は「乱獲状態」であるとの判断基準を維持しています。
先ほど見ていただいた神戸チャートでは、主要魚種のほとんどでそのプロットが「濃い灰色(実際は赤)」の領域に集まっていることがおわかりいただけたと思いますが、このチャートを公表しつつ、「このチャートの『白』の範囲にないものは乱獲なのだ」と発言することは、すなわち「日本漁業は過去から現在に至るまでほぼ乱獲を繰り返している」と、世界に向かって公言しているのと同じことになります。
そもそも、今回の「新たな資源管理」でにわかに持ち出されてきた「神戸チャート」なるものも、たまたまマグロ類を対象とした地域漁業管理機関が漁業と資源の現状を見るために作ったものであり、あくまで彼らが彼らの中で作った「作業シート」にすぎず、これが全世界の水産資源の「乱獲状態」を洗い出すツールとして機能しているわけではありません。なぜならそれは、神戸チャートが“MSYを基準として作成されている”からです。
水産資源管理の世界でMSYは観念としては存在するが「科学」としては存在せず、実務的には各国が独自にMSYなるものを定義して用いている状況です。もし、そのようななかで、他国のMSYの基準に従って自国の漁業が「乱獲」に該当する、などと位置づけられたら、その国が黙っているでしょうか?
つまり、「神戸チャート」なるものを、汎用性のある道具として全世界のあらゆる漁業で使おうとすれば、チャートが基準とするMSYについて、世界で共通する統一基準を求めるための科学議論を行わねばならず、そのことは封印したはずの「パンドラの箱」を再び開けることにほかならないのです。実際、MSYの定義は米国とEUですら異なっています。
保護色の強い米国と保護色はあるもののたくさんの漁業を加盟国において抱えたEUとでは、マグロ類では妥協できても、スケソウダラやサバ類など米国やEUにとって肝となる重要資源ではおそらく100年議論してもMSYの具体的定義について合意は得られないと考えられます。
環境問題の関心が高まるにつれて
「乱獲」で日本は追い詰められる
このように日本だけが、すべての魚種の資源管理で神戸チャートを無批判に使ってしまったため、多くの漁業が「乱獲」と位置づけられてしまい、この結果、あちこちで「日本漁業は乱獲を行っている」との発言が平気で行われるようになってしまいました。
世界で統一された「乱獲」の定義というものはありません。しかし、今の世の中は、この「乱獲」という言葉に非常に敏感で、とくに環境問題にかつてないほど関心が高まり、国連でもSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)が採択され、世界中の人間がこの目標を意識しているなかにあっては、「乱獲」という言葉は、漁業分野では「〇〇は犯罪者だ」というのに匹敵するぐらいの効果・印象を与えます。

『海のさかなの正しいトリセツ』 (内海和彦、日本評論社)
「日本漁業は乱獲をしている」旨の発信は、例えば、北太平洋の資源管理を議論するNPFCなどで他国が聞けばどうなるでしょうか?
当然、「資源管理を行う上ではIUU漁業(違法・無報告・無秩序漁業)の排除等多くの課題があるものの、そんななかで日本国政府は、自国漁業は乱獲を行っていると自発的に情報を提供してくれた。我々が管理する資源への影響に鑑みても、最も効果のある当面の資源管理措置は『日本の乱獲状態の是正』にある。すべての国が日本のこれからの行動を支持するので、速やかに漁獲量や漁船隻数の削減を報告してほしい」と他国に言われるでしょう。
資源をめぐって熾烈な戦いを繰り広げる国際交渉の場では、日本国内から起こる「乱獲」の発言は絶好の材料です。結果、日本はこの「乱獲」を是正した証拠を各国に示さなければならなくなりますが、ご想像どおり、このことは我が国漁業に壊滅的な打撃を与えることはいうまでもありません。