日本は不自由だが、それがいい。外国人政策が厳格化されても中国人が日本を選ぶワケ

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「日本は息苦しい国だ」そう語り、日本を離れる選択をした在日中国人のツイートが共感を呼び、バズった。その一方で、「日本はいい国だ。家族で住み続けたい」と語る在日中国人もいる。同じ日本に暮らしながら、なぜここまで評価が分かれるのか。日本で暮らす外国人の数は、10年以上過去最多を更新し続け、2025年には412万人を超えた。日本を離れる人と、日本を選ぶ人――その分岐点にあるものとは何か?(日中福祉プランニング代表 王 青)
「日本は息苦しい」「豊かな国ではなくなった」のに、なぜ在日中国人が増えるのか?
先日、出入国在留管理庁は、2025年末時点の在留外国人が412万5395人となり、4年連続で過去最多を更新したと発表した。400万人を超えたのは初めてで、前年同期に比べ35万6418人、9.5%の増加となった。出身国・地域別では中国が93万428人で最も多く、ベトナム、韓国が続く。

日本に住む外国人の推移。2012年末~2025年末で2倍以上になっている(出典:出入国在留管理庁)

日本に住んでいる外国人を、国籍・地域別に分けると、最も多いのは中国人で22.69%(出典:出入国在留管理庁)
日本経済の先行きには、明るい材料が多いとは言い難い。かつて世界2位だったGDPは順位を落とし、IT・デジタル分野の遅れもたびたび指摘される。少子高齢化と人手不足は深刻で、円安と物価高の中で実質賃金の伸び悩みも続く。「日本は貧しくなった」との見方も珍しくない。
それでも、日本に住む外国人、とりわけ中国人は増え続けている。なぜなのだろうか。
前編では、日本で暮らすうちに「息苦しさ」を覚え、家族でカナダ移住を決めた中国人男性の声を紹介した。だが、その投稿に対し、まったく逆の見方を示した在日中国人もいた。彼にとって、日本の「不自由さ」は欠点ではなく、むしろ暮らしやすさの源だというのだ。
「日本に住みたい」と語る中国人男性
話題になったのは、Yishiというアカウント名の男性による投稿だった。題名は「3年間日本に住み、家族全員を日本に住ませたい理由」。前編で紹介した老沙さんの見解に対する、いわば反論のかたちで注目を集めた。
Yishiさんは、自身についてこう紹介している。
「私たちは中国人の家族で、子どもが3人います。最初は日本に一時的に住むつもりでしたが、暮らしていくうちに、むしろここに長く住みたいと思うようになりました」
老沙さんが「日本は不自由だ」と感じた点を、Yishiさんはむしろ日本の強みだと捉えていた。
「不自由さ」「面倒くささ」が秩序を守っている
Yishiさんがまず評価したのは、日本社会の秩序だった。
たとえば、日本では車を買う際に車庫証明が必要で、警察が実際に駐車スペースを確認する。一見すると面倒な制度だが、そのおかげで違法駐車が少なく、都市部でも道路が整然としている。救急車や消防車が通行しやすい環境が保たれているのも、その延長線上にあるという。
日常生活でも、他人への配慮が制度ではなく習慣として根付いていると感じた。エレベーターで誰かが来ればドアを押さえて待つ。そうした細かな振る舞いが自然に共有されていることに、彼は安心感を覚えた。
つまり、前編で「見えない圧力」として語られたものを、Yishiさんは「社会の秩序を支える共通ルール」と見ていたのである。
お金で扱いが変わらない、平等な社会
Yishiさんは、日本の「平等性」にも強い価値を感じていた。
アメリカのようにチップ文化が強い社会では、より多く支払う人がより良いサービスを受けやすい。一方、日本では、ラーメン店でも役所でもコンビニでも、基本的には誰に対しても同じように丁寧な対応がなされる。お金の多寡で露骨に態度が変わらない。この点に大きな安心感があるという。
前編で紹介したとおり、老沙さんは「お金があっても解決できないことが多い」と日本社会の平等性に窮屈さを感じていた。だがYishiさんは、その同じ性質を「誰もが公平に扱われる社会」として高く評価していた。結局のところ、同じ制度も、人によって意味づけがまったく変わるのだ。
日本は「厳しい同化社会」なのか
外国人に対して日本社会がどれくらい「同化」を求めるのか。これも評価が分かれる論点だ。
Yishiさんは、日本は移民国家ではないものの、「完全に日本人のようになること」を求められているとは感じていないという。ルールを守り、礼儀正しく暮らしていれば、外国人も十分に受け入れられるというのが彼の実感だ。
彼は日本語がほとんど話せない状態で急病になり、救急で病院にかかったことがあるという。その際も翻訳サービスを使いながら丁寧に対応してもらい、入院や治療もスムーズだった。健康保険のおかげで費用負担も大きくはなかった。
「外国人だから排除されたと感じたことはありません。むしろ淡々と、公平に扱われている印象です」
さらに、日本には他の移民国家で見られるような深刻な人種対立や社会の分断が比較的少ない。そのことも日常の安心につながっていると語る。
子育て世帯にとっての教育の安心感
Yishiさんが特に高く評価していたのは、子育ての環境だった。
日本の教育は画一的だと批判されることもあるが、幼児教育の段階では学力偏重ではなく、生活習慣や他者との協調を重視している。子どもが自分で食事をし、服を着て、礼儀正しく振る舞うことを、日常のなかで自然に身につけていく。過度な競争に追い立てられにくい点も、親としては安心材料だという。
また、日本の基礎教育は安定しており、私立校や国際学校など選択肢もある。同じ系列の国際学校でも、中国の北京や上海と比べて学費が安いケースがあることも魅力に映った。
老沙さんは、「子どもを同質性の強い社会で育てたくない」と語っていた。だがYishiさんは、その同じ社会に「過度な競争から子どもを守る安定」を見ている。
圧倒的な価値としての「安全」
日本に住みたい最大の理由は何か。Yishiさんは迷わず「安全」と答える。
小さな子どもが近所の公園で遊べる。女性が夜に一人で帰宅しても、大きな不安を抱かずに済む。自転車のかごに荷物を置いていても盗まれにくい。こうした日常の安全は、監視カメラの多さや警察の存在感だけで生まれるものではなく、社会全体に共有された規範意識によって支えられていると感じるという。
特に子育て世帯にとって、この「日常の安心」は何ものにも代えがたい価値だ。経済成長率やGDPの順位では測れない、日本の強みがそこにある。
税金は高いが、見返りが分かりやすい
税負担についても、Yishiさんは比較的前向きに受け止めている。Yishiさんは昨年、税金として476万円を納めている高額納税者だ。
日本では税金が高いのは事実だが、その分、医療、教育、インフラといった公共サービスの水準が高い。たとえば出産育児一時金が支給されるし、子どもは中学校を卒業するまで医療費もほとんどかからない。公立の小中学校は無償で、高校や大学には各種の奨学金制度がある。幼保無償化によって、3歳から5歳の幼稚園・保育園の負担も抑えられている。
電車は時刻通りに走り、道路は整備され、水道水はそのまま飲める。ごみの分別も徹底されており、厳しい分、街は清潔に保たれている。Yishiさんにとって、日本は「支払った税金が、生活の安心として目に見えるかたちで返ってくる国」だった。
同じ日本を見ても、評価が分かれる理由
興味深いのは、日本に対して真逆の評価を示した老沙さんとYishiさんが、実は友人同士だという点だ。
同じ中国出身者で、同じ日本社会を見ていながら、一方は「自由が少なく息苦しい」と感じ、もう一方は「秩序があり安心できる」と感じる。見ている現実が違うというより、重視する価値観が違うのである。
自由度の高さを重視する人にとって、日本の細かなルールや同調圧力は窮屈に映る。だが、安定、安全、予測可能性を重んじる人にとっては、その同じ特徴が魅力になる。秩序、安全、清潔さ、公共サービスの安定は際立っている。
さらにいえば、同じ中国人でも独身の働き手と、子育て世帯でも見え方は違うだろうし、富裕層か中間層か、起業しているか会社勤めなのかといった立場の違いによっても、税や制度の感じ方は異なるだろう。
つまり、日本は「良い国」でも「悪い国」でもない。その人が何を求めるかによって、合うか合わないかが変わってくるのだ。
外国人政策の厳格化が映し出すもの
こうした中、日本政府は昨年秋ごろから外国人政策を相次いで厳格化している。
外国人起業家向けの「経営・管理ビザ」取得要件の見直しでは、必要資本金の額を従来の500万円から3000万円へ引き上げる案が示され、複数の要件も厳格化された。在留資格の更新・変更や永住許可に関する手数料も大幅に引き上げられた。
さらに3月27日、法務省は4月1日から、日本国籍取得のための「帰化」について、居住要件を現行の「5年以上」から「原則10年以上」に引き上げるなど、審査を厳格化する方針を示した。税や社会保険料の滞納の有無を確認する対象期間も長くするという。
これらの制度見直しの背景には、一部の外国人による制度悪用を防ぐ狙いがあるとされる。だが、日本社会で排外的な声が強まりつつある今こそ、単に「外国人の問題」として片づけるのではなく、外国人の目に日本がどう映っているのかに耳を傾ける必要があるのではないか。
「自分に合う場所」を選ぶ時代
Yishiさんは投稿の最後で、こう書いている。
「日本は決して完璧な国ではありません。言語の壁や自然災害、細かいルールの多さなど、不便に感じる点もあります。しかし、私たちのように『安定した日常』を大切にする家族にとって、日本は理想に近い環境です。この世界に完璧な国はなく、あるのは『自分に合う場所』だけです」
その言葉は、前編で老沙さんが語った内容と、どこか重なっている。
国境を越えて暮らし方を選べる時代において、大切なのは「どの国が優れているか」よりも、「どこが自分に合っているのか」なのだろう。日本を離れる中国人もいれば、日本に住みたい中国人もいる。その両方が増えていることこそ、今の日本の姿をいちばんよく表しているのかもしれない。