乗り換え不要で時短、さらに運賃節約も? 身近なのに実は知らない電車の「直通運転」

渋谷駅(東京メトロ副都心線・東急東横線)。ここから元町・中華街方面は東急東横線となる
山手線が大幅値上げ、でも…
今年3月14日、JR東日本が運賃改定を行い、都心部の路線では1割を超える値上げとなった。これまで「東京山手線内」は他の区間より割安に設定されていた。だが、その山手線内の運賃区分を廃止することで運賃の改定率が山手線内では16.4%増となり、きっぷの場合、東京駅から新宿まで旧運賃210円だったものが、新運賃では260円と50円も値上げされた。
「JR東の大幅値上げを回避するためにも大手私鉄との直通運転を活用したい。直通運転とは、複数の路線や鉄道会社、区間をまたいで列車を運行する仕組みのこと。鉄道会社同士が車両を相互に乗り入れさせて運転する形態は『相互直通運転』または『相互乗り入れ』と呼ばれ、都心へ乗り入れる地下鉄と郊外を走るJR・私鉄との接続などがその代表例です。
中央線・総武線の混雑回避のバイパス線として始まった東京メトロ東西線は中野から西船橋を主につなぎます。今年春から直通列車の運行本数が大幅減となりましたが、三鷹から西船橋までJR東のみの運賃であれば、803円。JR東と東西線の直通運転なら533円で、270円もおトクです。首都圏はさまざまな私鉄が乗り入れているのでJR東を回避したり、乗車距離を減らせます。お財布にも優しい経路を見つけましょう」
そう語るのは2月に刊行された『鉄道 直通運転 探究読本』(河出書房新社)著者の新田浩之氏だ。本書には、直通運転の運賃はどのように決まり、どう配分されるのか。異なる会社同士がスムーズに運行するために必要なもの、共同使用駅はどちらの会社が管理するのかなど鉄道ファンの心をくすぐる内容が記されている。鉄道ファン以外の人も直通運転を知るべきだろう。なぜなら、直通運転はわれわれの生活に直結し、便利にしてくれているからだ。
’13年3月、横浜高速鉄道「みなとみらい線」から東急東横線、東京メトロ副都心線を経由し、西武有楽町線、西武池袋線まで結ばれる直通列車の運行がスタートした。相互直通運転によって副都心線を経由し、みなとみらい線の元町・中華街駅から東武東上線・森林公園駅間や西武池袋線・飯能駅間の80km以上の区間が1本の列車で結ばれたのだ。
混雑時に乗り換えでウロウロせずに済む
「東急東横線は現在、横浜高速鉄道みなとみらい線、東京メトロ副都心線、西武池袋線、東武東上線、相鉄線と6事業者にまたがる直通運転を実施しています。運営する東急は、直通運転に前向きな鉄道事業者です。
’13年当初は埼玉から横浜や中華街まで1本で遊びに行けるようになり、飛躍的に利便性が向上し便利だ、という声に満ちていました。ですが、いまではその便利さも当たり前となり、埼玉県内の1区間で起きた遅延が横浜まで影響し、ダイヤ乱れによる『遅れの連鎖』のデメリットがSNSで散見されます。それでも乗り換え不要で、所要時間の短縮となり、デメリットを補うのが直通運転の魅力です」(新田氏、以下同)
乗り換え不要で目的的にまで1本で行ける。時間の短縮にもなる。さらに直通運転には知られざるメリットがある。
「私は関西在住で、東京によく行きますが、山手線の混雑は尋常ではない、と感じています。山手線内の大きな駅は大手私鉄のターミナル駅でもあり、池袋では西武・東武線、新宿では小田急・京王線、品川では京急線と接し、混雑するのは当たり前。近年はインバウンドの方もいて、大きなキャリーケースを持っているケースも多い。東京出張が決まると、山手線にいかに乗らずに目的地を目指すか、と考えています。
一例をあげると、以前は上京して東京メトロ日比谷線の広尾駅に向かう際は、新幹線の品川で下車し、山手線で恵比寿まで移動していました。大きなバッグを持って山手線を移動する際のストレスは筆舌に尽くし難いもの。けれども、’23年3月に東急新横浜線が開業してからは新横浜で新幹線を下車し、新横浜から東急の各路線と日比谷線で広尾まで行けるようになり、山手線を経由しなくてよくなったのです。直通運転には混雑を避けられるメリットもあります」
首都圏の鉄道網はJRや各私鉄などとの相互直通運転の見本市のようだが、地方のJRと地方の中小私鉄をまたがる直通運転もまた魅力的なものがある。その一例が京阪神と鳥取倉吉を結ぶ特急『スーパーはくと』。大阪~鳥取間を結ぶ直通運転の特急列車だ。
特急料金なしで乗れる「全席オーシャンビュー」
「兵庫県の上郡駅と鳥取県の智頭駅を結ぶ『智頭(ちず)急行』は兵庫県や岡山県などの沿線自治体が株式を保有する第3セクターの鉄道事業者です。智頭急行は単線非電化路線ながら最高速度時速130kmの高速運転を行い、智頭急行・JR西との直通運転で大阪まで2時間30分で走破します。
ローカル線では高速バスのほうが高速で移動してしまうこともままありますが、大阪~鳥取の高速バスは3時間かかります。鉄道ファンで知られる石破茂元総理(69)をはじめ、鳥取県民が急いで京阪神に向かうには必須といえる列車です。
ところが、JR西は姫路駅での折り返しを鳥取県側に打診しているようで、鳥取県側は否定的な姿勢です。JR西からすると姫路駅で折り返しにすれば智頭急行に乗り入れた分の車両使用料を払わなくて済むからだと思います。
全国的にJRと地方の中小私鉄をまたがる直通運転が減少傾向ですが、鳥取県民のスーパーはくとへの想いを考えれば存続してほしい路線です。JR西と智頭急行のスーパーはくとを巡る議論は続くでしょうが、利用者目線も忘れないでいただきたい」
観光地にもJRと地方私鉄の乗り入れ路線がある。熱海から伊豆急下田に行く際、『リゾート21』という伊豆急行線の豪華な列車がある。全席オーシャンビューの構造で、展望席まであるが、特急料金は発生せずに普通料金のみで乗れるのだ。
「東急グループ傘下の伊豆急行線のリゾート電車で、伊東駅までがJR東海で、伊東駅から先が伊豆急行線になります。リゾート21は車窓が大きく、伊豆の海を大きな窓で楽しむことができます。座席もさまざまな種類があり、展望席・ボックス席・パノラマ席などがあります。特急料金を払わずに乗れるので、初めて乗った人は驚くでしょう。
伊豆急行線では、リゾート気分満点の列車から過去に東急東横線として渋谷で頑張っていた列車までバラエティに富んださまざまな列車が楽しめます」
直通運転は、鉄道ファンにとってもそうでもない人にとっても、なくてはならない便利なものだ。本書では、日本全国にある数多くの直通運転を網羅し、その実態が記されている。さらに直通運転の奥深さと、その背景にある鉄道会社の工夫についても詳しく言及している。直通運転の実態を知れば知るほど列車に乗ってどこかに行きたくなるだろう。

みなとみらい線の元町・中華街駅から東武東上線・森林公園駅間や西武池袋線・飯能駅間の80km以上の区間が’13年に直通に。この路線を走る「Fライナー」は東急線内では「特急」だが、西武線内では「快速急行」になるなど同じ列車でありながら種別が変わる(『鉄道 直通運転 探究読本』より)

三鷹~西船橋間はJRのみの運賃であれば803円だが、東西線の直通運転なら533円と割安になる。だが、今春から運行本数が大幅減となった(『鉄道 直通運転 探究読本』より)

首都圏を走る地下鉄の相互直通運転一覧① かつては東横線も日比谷線に乗り入れていたが’13年に廃止し、副都心乗り入れとなった(『鉄道 直通運転 探究読本』より)

首都圏を走る地下鉄の相互直通運転一覧② 成田と羽田を直結する京成+都営浅草線+京急の相互乗り入れは1968年に開始。総距離は130kmを超える(『鉄道 直通運転 探究読本』より)

千代田線内を走る小田急60000形MSEロマンスカー。北千住や大手町から箱根湯本・片瀬江ノ島を結ぶ

直通運転の仕組みや全国の直通運転について詳細に解説している
取材・文:岩崎大輔