なぜ問題社員をクビにできないのか?→弁護士「会社側は弱者」「辞めていただけたら本当にありがたい、という気持ちで」

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日本では解雇をめぐるトラブルが後を絶たず、企業側が敗訴するケースも少なくない。その背景には、単なる法律の問題では片づけられない複雑な事情があるという。弁護士の上野俊夫氏が、裁判所の判断基準や日本的雇用の慣行に注目しながら解雇の難しさを解説する。※本稿は、弁護士の上野俊夫『職場の問題社員に困ったら読む本』(自由国民社)一部を抜粋・編集したものです。
就業違反だけでは解雇できない
日本で解雇が難しい本当の理由
日本では適法な解雇をするのが難しいと言われています。解雇をしてもそれが適法な解雇でないと後で裁判を起こされて解雇が無効とされてしまい会社が返り討ちに遭う羽目になります。
適法な解雇と認められるためには、(1)合理的な理由と(2)相当性というものが要求されています。この(1)合理的な理由と(2)相当性のうち、特に(2)相当性の基準が厳しくなっています。
(2)相当性が認められるのは
〈1〉 解雇の事由が重大な程度に達していること(例えば、「横領をしそれを反省していない」)
〈2〉 他に解雇回避の手段がない(例えば「反省していないのでまた横領するかもしれず辞めさせるしかない」)
〈3〉 労働者の側に酌(く)むべき事情がほとんどない(例えば、「横領したお金をギャンブルに使った」)場合のみです。

同書より転載
単に就業規則違反があるだけ等では有効に解雇できないのです。
労働者が路頭に迷わないために
日本の解雇は厳しく制限されている
解雇がこれほど厳しく制限されている理由は実はあまり明確ではありません。解雇が厳しく制限されていることについての労働法学者の理由付けも色々あるのですが、大きくは2つです。
1つ目の理由は、経済的耐久力のない労働者へ与える打撃が大きいことです。要するに解雇されたら労働者は路頭に迷うということですね。
もう1つの理由は、昭和30年代以降の高度経済成長のなかで、正社員の長期雇用慣行を中心とする日本的雇用システムが徐々に定着・浸透し、キャリアの途中での解雇による打撃がより大きなものとなってきた、ということです。これは要するに、日本的な長期雇用システムの下ではキャリアの途中で解雇されると転職が容易でないということです。
ただし、この2つ目の理由(長期雇用システムに基づく解雇制限)については、現在は昭和30年代以降の高度経済成長期から70年近く経過しており、時代背景が大きく異なります。長期雇用慣行は完全に消えたわけではありませんが、昭和の時代に比べるとかなり薄れてきています。高度経済成長期という数十年も前の話を未だに持ち出して解雇を厳しく制限するというのは説得力に欠けます。
結局、現代でも解雇を厳しく制限することの正当な理由付けは、経済的に耐久力のない労働者に与える打撃の大きさに尽きるのではないかと思います。
確かに、経済的に耐久力のない労働者を保護するという視点は理解できますが、日本には手厚い失業手当の制度があり、会社都合で退職すればすぐに失業手当が支給され、労働者に一定の生活保障があります。さらに、現在は空前の人手不足であり、今後もこの傾向は続くと予測されるため、社員側にとって職探しは以前よりもずっと容易になっています。
他方、会社側を見ると、物価高や人件費の上昇で中小企業の経営は以前にも増して苦しく、少ない利益の中でぎりぎりの経営を強いられていることも多いです。社長が会社から役員報酬をもらっていないとか、むしろ社長が自身の財産を会社の赤字の穴埋めに使っているという会社も珍しくありません。
このような厳しい経営環境の中で、問題社員であっても雇い続けなければならないという会社の負担は、経済的にも精神的にも非常に大きなものです。
この負担を会社側に一方的に押し付けるのが妥当なのか筆者は疑問を持っています。
ある法律事務所のウェブサイトに、裁判所の解雇に対する考え方の厳しさをうまく表した川柳が掲載されています。
「鳴くように 教育しなさい ホトトギス」
「鳴く場所に 移せばいいでしょ ホトトギス」
「鳴かぬのは 会社が悪い ホトトギス」というものです(*1)。
解雇に関する裁判所の基本的な考え方は、成果を上げられないなら会社が教育したり配置転換したりしなければならないというものです。それでも成果を上げられないのであれば、雇った会社が悪く、会社が何とかしなさいというのが裁判所の立場です。
大企業であればそれでも会社を維持できるかもしれませんが、中小企業に「鳴かない社員でも会社で何とかしろ」と言われても困るのが実情です。特に配置転換については、中小企業ではそもそも配置転換する場所がなかったり、配置転換先が問題社員の扱いに困ったりして難しい場合も多いです。
解雇を厳しく制限する理由が「労働者の経済的耐久力が弱いから」だとすれば、中小企業も経済的耐久力が強くないところが多いのが現実です。本来、中小企業の利益額や規模も解雇の有効性を判断する際に考慮されるべきだと思いますが、問題社員の解雇に関しては、中小企業の経済的耐久力についてほとんど考慮されておらず、この点でも実務に疑問を持っています(*2)。
社員は会社の知らないところで
弁護士のアドバイスを得ている
現在、多くの法律事務所が、労働者から無料で法律相談を引き受け、トラブルを抱えた方と早いうちに接点を持つという囲い込み戦略を行っています。無料法律相談は、相談者側は無料で弁護士からのアドバイスが得られ、弁護士側も相談者と接点を持ち、将来的にその事案を受任するきっかけを得ることができるため、Win-Winの側面があります。問題社員側はこれらのサービスを利用して、インターネットで得た知識をさらに強化していることもよく見られます。
(*1)…弁護士法人横浜パートナー法律事務所(https://ypartner.com/)
(*2)…整理解雇の際には会社の経営状況も問題にされますが、この整理解雇は問題社員の解雇とは違うものです。
一方で、大企業はともかく、中小企業では顧問弁護士がいないことも少なくありません。中小企業向けの無料法律相談もあるのですが(*3)、中小企業側がこれらを積極的に利用しているケースは少なく、弁護士からの助言を受けた上で解雇をしているということは多くないと感じます。
現に、私の事務所では解雇をした後に社員から不当解雇だと訴えられたがどうすればよいかという相談を相当数受けており、これらの会社が予め弁護士に相談したという形跡はありませんでした。
社員側と会社側で、弁護士から助言を受ける、または弁護士をうまく活用するという点においても格差が生じていると感じます。
問題社員でも有利なのは社員側
甘く見ずに社員対応を行うべき
もともと法律面で社員側が手厚く保護されているのに、インターネットやSNSでの情報収集も社員側は積極的に行っておりさらに社員側は弁護士の無料法律相談も使いこなしている等で、会社側は情報面でも劣位していることが多く、あらゆる面で社員側が有利な状況になっています(図2)。

同書より転載

『 職場の問題社員に困ったら読む本 』(上野俊夫、自由国民社)
「雇ってやった」、「今まで賃金を支払ってやった」等ということから会社側が強者だと勘違いして社員側を甘く見て問題社員対応を行うと、手痛いカウンターパンチを受けることになります。
会社側は自身が法律面でも情報面でも弱者だという現実を知った上で問題社員対策をしていかないといけません。はっきり現実を言えば、会社は問題社員であっても簡単には辞めてもらえないので、「何とかして辞めていただく」、「辞めていただけたら本当にありがたい」という気持ちで臨むべきだと思います。
(*3)…日本弁護士連合会の「ひまわりホットダイヤル」では、中小企業が利用できる30分の無料法律相談を行っています。全国各地で弁護士の無料法律相談を受けることができます。