習近平が「中東ショック」に危機感を募らせている理由…統計が語る、原油・ガス輸入“急減”の実態

中国山東省青島港の原油ターミナルにて、タグボートに曳航されて横付けしている石油タンカー(2025年8月撮影)。

4月12日、パキスタンの首都イスラマバードで開かれたイランとアメリカの停戦交渉は物別れに終わった。もっとも、停戦交渉は長期化するのが常だ。双方が高い球を投げ、そこから現実的な落としどころが探られるものだ。

交渉が決裂した翌日の4月13日、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、アメリカがホルムズ海峡を封鎖すると発表をした。イランに通行料を支払い、ホルムズ海峡を航行した船舶を、アメリカ海軍が追い返す計画のようだ。イランによる原油の輸出を防ぐことが主な狙いとみられるが、同時に中国を狙い打ちにしている可能性が意識される。

【図表1】原油とガスの輸入量。

中国を含めた友好国の船籍あるいは友好国に向かうタンカーに関して、イランはホルムズ海峡の通行を許可している。これを締め付け、中国がイラン産原油を輸入できなくしたいようだ。ただしトランプ大統領による発表の後でも、アメリカの制裁対象である中国船籍の複数のタンカーが、ホルムズ海峡を無事に通行したという報道もある。

中国は当然、アメリカの対応に反発している。中国は原油の6割近くを中東に依存している。天然ガスは1割程度だが、液化天然ガス(LNG)に限定すれば2割程度が中東産だ。ホルムズ海峡の封鎖という物流経路の遮断のみならず、湾岸諸国の産油・精油施設が破壊された結果、中国が中東から輸入するエネルギーの量は激減した。

データを確認するとその様子は明らかだ。中国の3月の原油の輸入量は4822万トンと前年から3%、天然ガスは951万トンと前年から11%、それぞれ減少する事態となっている(図表1)。こうした動きは4月以降、さらに強まるだろう。なぜなら、3月の輸入分には、ホルムズ海峡が封鎖される前に中東から出港したタンカーによる輸入が計上されているためだ。

中国内のエネルギーインフレが顕著に

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席。

中東からの供給が途絶えた結果、中国国内では原油や天然ガスの価格の上昇が鮮明となっている。例えば3月の生産者物価の内容を確認すると、石油製品および天然ガスの価格は前年比で5%、前月比だと16%も上昇した(図表2)。前月比での伸び率はロシア発のエネルギーショックの直後の2022年3月(14%)を上回るレベルである。

【図表2】石油製品および天然ガスの価格(生産者物価)。

消費者物価ベースのガソリン価格も、3月は前年比で3.8%上昇している。これは前月比だと10%以上の上げ幅だから、まさに急上昇だ。中国のガソリン小売価格は、10営業日ごとに、国際原油価格を参考に、政府によって見直しがなされる。政府は激変緩和措置を取りつつ、3月に2回、そして4月上旬にも1回、価格を引き上げている。

原油や天然ガスの輸入は、長期契約と短期契約を組み合わせて行われる。中国の中東産原油は、基本的に複数年の長期契約による。しかしホルムズ海峡の封鎖のため、供給そのものが停滞してしまったことから、中国は短期契約による非中東産の原油の調達を余儀なくされている。短期契約は、需給がひっ迫すると価格が上昇しやすいという特徴を持つ。

こうした構図は、日本を含めたアジア各国も共通するところだ。しかし中国の場合、アメリカ産の原油や天然ガスにアクセスできないが、ロシア産の原油や天然ガスにはアクセスできる。ロシアがかつてヨーロッパに輸出していた原油や天然ガスを中国に回しているためだ。

とはいえ、パイプライン経由で送られてくる原油や天然ガスの量は、パイプラインの容積に制約される。増やしたいからといって増えるものではないわけだ。そうなると、やはりタンカーによる輸入を増やす必要に迫られるが、タンカーの数も限られ、短期契約となるから、中国はロシアからも高値で原油や天然ガスを輸入せざるを得ない。

以前の記事でも指摘した通り、中国はロシア産原油の価格支配力を弱めたくないから、その点でも好ましくない展開と言える。

中国が抱える「エネルギーショック」の危機感

ホルムズ海峡が閉鎖状態にあり、石油タンカーなどの往来が滞っている。

中国が基本的に供給過剰の経済だとはいえ、エネルギーの価格が急上昇すると、中国でもインフレは加速する。政府は補助金や減税で小売価格の上昇を抑制しようとしているが、一方で国民に対してエネルギーの節約を呼び掛けてもいるようだ。中国の今般のイラン発のエネルギーショックに対する危機感は、かなり強いものである。

グローバルに原油や天然ガスの需給がひっ迫している折、代替ルートの開拓はどの国にとっても簡単ではない。それに、短期契約と長期契約を適切に組み合わせないと、将来に渡って割高なコストで原油や天然ガスを輸入することになりかねない。中国は国内に油田やガス田を持っているが、不足する原油や天然ガスを賄う程の生産量はまだない。

パキスタンから中国にパイプラインを通し、中東産の原油を輸送するプランもあるが、実現はかなり先だ。紅海から輸出される原油の量にも限界があるため、当面の最優先事項は、やはりホルムズ海峡の封鎖を撤回させることになる。中国はイランに強く働きかけていると考えられるが、アメリカとの交渉カードだけにイランは簡単に応じない。

ただしイランとしても、ホルムズ海峡の封鎖を長期化すれば、中国という最大の顧客の機嫌を大いに損ねてしまうことになる。他の中東の産油国との関係もますます拗(こじ)れることにもつながる。

時間が経つほどに代替ルートの開拓が進み、それこそホルムズ海峡を封鎖することの意味合いが薄れることにもなりかねない。イランにとっても瀬戸際だと言える。

中国への追い風も吹くが……

中国のガソリンスタンドの風景。2026年3月撮影。

他方で、このイラン発のエネルギーショックが中国にとって、以下の意味では追い風になる可能性が意識される。

一つが、中国メーカー製の廉価な電気自動車(EV)の普及が、東南アジア市場で進む可能性だ。とりわけ石炭火力を主力とするインドネシアの場合、プラボウォ・スビアント大統領が中国製EVへの期待を隠そうとしない。

インドネシアの主力電源は自国産の石炭だ。ゆえに国内での発電に関しては、中東発のエネルギーショックの影響は軽微で済む。一方、ガソリン価格のグローバルな価格上昇の影響は直撃を免れないから、ガソリン車よりも中国製のEVにスビアント大統領は期待を寄せている。もっとも、充電スタンドといったインフラ不足は全く解消していない。

もう一つが、中国製の再エネ設備、具体的には太陽光パネルや風力発電タービンなどへの需要が高まる可能性だ。再エネ設備の普及が遅れている東南アジアの国では、今回エネルギーショックを機に、再エネシフトが加速する展開が意識される。その際に、価格優位性が高い中国製の再エネ設備が一気に普及するかもしれない。

とはいえ、東南アジア市場でのプレゼンスを高めたところで、中国国内のエネルギー高への対処が不十分なら、中国の国民の不満が爆発するため、中国政府の足元がガタつくことになる。

中国にとってのベストシナリオは、やはり「ホルムズ海峡の封鎖が早期に解かれること」。これはもちろん、日本を含めた他のアジア諸国にとっても共通することだ。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です