そりゃGDP抜かれるわ…「ドイツ人の働き方」と「日本人の働き方」の決定的な違い

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いまではすっかり有名になった、「ドイツ人は残業しない」というエピソード。定時になると職場から人が消える光景は効率重視の国民性として語られがちだが、現実はそれほど単純ではない。労働時間の短縮を支えているのは、国が長年かけて積み上げてきた社会制度にある。ただでさえ短いドイツの労働時間が年々減少していく背景を、ドイツ在住のジャーナリストが明かす。※本稿は、フリージャーナリストの熊谷 徹、『GDPで日本を超えた!のんびり稼ぐドイツ人の幸せな働き方』(ぱる出版)の一部を抜粋・編集したものです。

残業を一切しないドイツが

モーレツに働く日本のGDPを抜いた

 ドイツは、EUで最もGDPと人口が多い国であり、物づくり大国としての底力もある。欧州で最も重要なマーケットの1つである。このためドイツでは、日本企業から派遣された多くのビジネスパーソンたちが働いている。

 彼らは、日本の自動車、鉄鋼、化学、電機、IT企業、商社、銀行、保険会社などに属する人々だ。

 デュッセルドルフやフランクフルト、ミュンヘンには、日本企業の駐在員たちが加盟する日本人会がある。私は毎年こうした日本人会に依頼されて、ドイツの政治や経済に関わる様々なテーマについて講演を行う。

 ある時私は講演の後に、デュッセルドルフに駐在している日本企業の社員から、「ドイツ人の労働時間はこれほど短いのに、なぜこの国の企業や経済は回っているのでしょうね?」と質問を受けた。

 これはドイツに駐在し、ドイツ人の働き方を見た日本人たちがしばしば抱く疑問である。

 この日本人社員は、「多くのドイツ人社員は、仕事が残っていても、夕方になるとさっさと退社してしまうのです」とこぼしていた。

 確かにこの国の大半の企業や省庁では、18時頃には、オフィスからは人影が消える。夜遅くまで残業をしている人は、ほとんどいない。

 いわんや土曜日や日曜日には、誰もオフィスでは働かない。2020年のコロナ禍以降テレワークを行う人が増えてからは、オフィスで見かける人の数はさらに減った。

 我々日本人は、「成果を生むには長時間働く必要がある」と考えがちだ。だから日本人は、ドイツ人の労働時間が短いのに、経済の歯車が回っていることを不思議に思うのだ。

 労働時間が短いドイツの2023年の名目GDPが、労働時間が長い日本を追い抜いたとなれば、違和感はさらに強まる。

 GDPの順位逆転のニュースを聞いて、「我々日本人の働き方には、どこかおかしい点があるのではないだろうか?」という疑問を持つのは、ごく当たり前のことだ。

ドイツの労働時間は

年を追うごとに短くなっている

 ドイツは世界最大の時短国家である。OECDの統計によると、2023年のドイツの労働者1人当たりの労働時間は1343時間だった。これはOECDに加盟している38カ国の中でいちばん短い。

 ドイツの労働時間は、日本の1611時間に比べて268時間(17%)も短い。日本は労働時間が短い順に数えて、第15位だ。

 1日の労働時間を10時間とすると、ドイツの労働時間は日本よりも約27日分短いことになる。

同書より転載

 OECDの平均労働時間は1742時間だったので、ドイツの労働時間はOECDの平均よりも399時間短い。しかもドイツの労働時間はどんどん短くなっている。

同書より転載

 ドイツ人たちは今から34年前の1990年には、1573時間働いていた。2023年の労働時間は1990年に比べて230時間も減った。14.6%の減少である。

 さらに時代をさかのぼると、ドイツ人は1980年には1746時間働いていた。つまり2023年の労働時間は、1980年に比べて403時間(23%)短くなった。

 ドイツ経済研究所(DIW)も、2024年1月に公表した研究報告書の中で、「ドイツの企業や役所で働いている人の1週間の労働時間は、1991年から2021年までに減る傾向を示した」と指摘している。

コロナ禍のロックダウンが

労働時間減少に大きく寄与

 ドイツ人の労働時間は、コロナ禍が起きた2020年には1316時間となり、前年比で4.2%もしくは57時間短くなった。

 日本でも2020年にはコロナ禍のために、前年比で労働時間が短くなったが、その減少率は2.9%に留まった。

 ドイツの2020年の労働時間の減少率が日本よりも大きい理由は、ドイツ政府が日本政府よりも厳しいロックダウンを実施したためだ。ドイツでのコロナによる被害は、日本よりもはるかに深刻だった。

 2020年11月29日の時点でドイツの累積死者数は1万4159人。日本(1943人)の7.3倍だった。

 欧州で最初にコロナ患者が確認されたのは、イタリア。西欧諸国での初期のコロナ被害は、酸鼻を極めた。イタリア北部のベルガモではコロナによる死者が急激に増えたため火葬場での遺体の焼却が間に合わず、軍が多数のトラックに遺体を積んで他の地域に搬送したほどだ。

 当時ドイツ人たちは、イタリアと同じような惨事が自分たちの国でも起きるのではないかと戦々恐々としていた。

 このためドイツ政府はロックダウンを実施し、大部分の商店、全ての飲食店やホテル、劇場、映画館などの営業を法律で禁止した。多くの市民が職場で働けなくなった。ミュンヘンの商店街でも人影が絶えて、ゴーストタウンのようになった。工場などではリモート・ワークができないため、生産ラインの稼働時間が短縮され、生産額が減った。

 さらに学校や幼稚園も一時閉鎖されたために、多くの労働者が自宅で子どもの世話をしなくてはならなくなった。このため勤め人の中には、フルタイムからパートタイムに切り替えた人も多かった。

 これに対し日本では飲食店などの「営業自粛」は行われたものの、当時の安倍政権は、ドイツ政府が行ったような、法律で営業を禁止するロックダウンには踏み切らなかった。このため2020年のドイツの労働時間は、日本よりも大きく減ったのだ。

コロナ禍が落ち着いても

ドイツの労働時間は短いまま

 だがその後の日独間の労働時間の傾向には違いが見られる。ドイツでは2021年にはコロナ禍の影響が前年に比べると弱まり、労働時間が1348時間となり前年よりも2.4%または32時間増えた。しかし2022年には1347時間、2023年には1343時間と徐々に減る傾向を見せている。

 日本でも2021年の労働時間(1607時間)は前年比で0.6%または10時間長くなった。しかし日本の労働時間はドイツと対照的に、2022年には1607時間で横ばい、2023年には1611時間と増加した。

 コロナ禍の影響が収まって日本では徐々に労働時間が増えているのに対し、ドイツでは労働時間が少しずつ短くなっている。

同書より転載

EU諸国の平均的な働き方は

朝8時出社・16時退勤

 ちなみにドイツの労働時間が2022年の日本とほぼ同じ水準だったのは、1988年(1619時間)である。つまり日本の労働時間は、ドイツで言えば36年前の状態にある。

 我々は労働時間の短縮という意味では、ドイツに比べて36年遅れている。

 ドイツ連邦統計局によると、2022年にドイツ人が1週間に働いた平均労働時間は34.7時間で、欧州ではオランダ、デンマーク、ノルウェーに次いで4番目に短かかった。

 EUの平均労働時間37時間よりも、6.2%短い。

同書より転載

 34.7時間を5日で割ると、1日の平均労働時間は6.9時間になる。単純に計算すると、朝8時に仕事を始めれば、1時間の昼休みを挟んで、16時頃には退社することになる。

 ただし経営者と労働組合が賃金協定で決める「所定労働時間」は業種によって異なる。たとえば金属・電子・機械メーカーなど製造業界では、1週間の所定労働時間は35時間だ。

 厚生労働省の就労条件総合調査によると、2023年の日本企業の所定労働時間は平均39時間4分、1日当たりの所定労働時間は平均7時間47分だった。つまりドイツの製造業界の労働者の1週間の所定労働時間も、日本人より約4時間短い。

20年以上前から法を整備し

働きすぎの防止に尽力

 なぜドイツの労働時間は、日本よりも大幅に短いのだろうか。理由は2つある。労働時間に関する、法律による規制・監督が日本よりもはるかに厳しいことと、効率性を重視しムダを嫌う国民性だ。

 企業や省庁、商店などで働く市民の労働時間は、1994年に施行された「労働時間法(ArbZG)」によって制限されている。

 この法律によると、平日つまり月曜日から土曜日のオフィスや商店などでの1日当たりの労働時間は、8時間を超えてはならない。1日当たりの最長労働時間は10時間まで延長することができるが、その場合にも6カ月間の1日当たりの平均労働時間は、8時間を超えてはならない。

 つまりドイツの企業や役所、商店などでは、1日当たり10時間を超える労働は、原則として禁止されている。

 例外が認められているのは管理職、病院の医長やパイロットなどごく一部の就業者だけである。

『 GDPで日本を超えた!のんびり稼ぐドイツ人の幸せな働き方 』(熊谷 徹、ぱる出版)

 さらに、企業は社員に1日当たり最低30分の休憩時間を与えなくてはならないほか、1日9時間を超えて働く場合には、最低45分の休憩時間が必要になる。1日の労働と次の日の労働の間には、最低11時間の間隔を置かなくてはならない。

 また労働時間法は、日曜日と祝日の労働を原則として禁止している(医師、看護師、救急隊員、消防隊員、ジャーナリストなどを除く)。

 労働時間が厳しく制限されている理由は、働く者の健康を守るためだ。これをドイツ語でArbeitsschutz(労働の悪影響から人間を守ること)と呼ぶ。この背景には、「長時間労働は、身体や精神に悪い」という基本的な合意がある。

 もちろん日本でも「働き過ぎは身体に悪い」と思われているが、ドイツではこの考えが日本以上に社会に浸透しており、働き過ぎを防ぐメカニズムが実践されている。