近大生が経営するラーメン店「近大をすすらんか。」売上2千万円、1年目で海外出店も 学生が飲食店起業に挑戦しやすい仕組みとは

 教室や研究室を飛び出し、社会の現場へ。起業を通じた実践的な学びが、学生たちの価値観と未来を変え始めている。近畿大学を取材した。AERA 2026年5月25日号より。

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 3月末の日曜日。近畿大学東大阪キャンパスに長い列ができていた。その先にあるのは、学生経営のラーメン屋「近大をすすらんか。」だ。

 看板メニューは「近大まぜそば」。オープンキャンパスが開催されたこの日、約4時間の営業で販売数は800杯にのぼった。大学生対抗フードバトル「キッチンカー甲子園」で優勝するなど、その評判は学内に留まらない。

「お客さんの行列が続いているのを見て感動しました。『これからも頑張っていこう』と仲間と飲みに行ったビールが最高に美味しかった」

 そう語るのは、店主を務める経営学部キャリア・マネジメント学科4年の齊藤玲央さん(22)だ。

 このラーメン店は、近畿大学の学生飲食店起業支援プロジェクト「KINDAI Ramen Venture 近大をすすらんか。」の取り組みとして運営されている。毎年、1年間限定の店主を学生から公募していて、齊藤さんは5代目だ。

 大学側が家賃や設備費、光熱費を援助するので低リスクで飲食店経営を経験できる一方、四半期ごとの決算で2期連続赤字の場合は撤退しなければならないなど、結果もシビアに求められる。

■1年目で海外にも出店

 歴代の店舗は毎年2千万円前後の総売り上げを記録し、食材費や人件費など諸経費を引いた利益は600万~800万円ほどにのぼる。店主経験者の中には、その後実際に起業してラーメン店を経営している者も複数いる。

 実は、齊藤さんは一度苦汁をなめている。3代目の店のスタッフとして腕を磨いてはいたが、4代目店主の選考会であえなく落選。しかしここで諦めず、ワーキングホリデーを利用して、10カ月間オーストラリアの創作ラーメン店で経験を積んだ。そして帰国後、悲願の店主の座を射止めたのである。

「オーストラリアでは器や内装など店の空間づくりが日本より重視されていて、食文化の違いを感じました。焼きトマトで彩りを添える新しいトッピングも考案しましたし、新店舗の立ち上げを一から経験して、自信がついたと感じています」(齊藤さん)

 元から経営者志望で、店主も将来のための経験として志したという齊藤さん。新年度の店主就任から、大学の担当者も驚くほどの行動力を発揮している。

 オリジナルメニューの「汁なし麻辣坦」も加えて学生スタッフとともに学内の店舗を切り盛りする一方、4月末からの2週間は故郷である愛知県のフードフェスに出店。さらに、タイのショッピングモール内でポップアップの店舗を立ち上げるべく、準備を進めている。

「1年目で海外に出店するなんて、店の利益だけを考えたら普通はあり得ない。それでも、今後の経験のためにあえて挑戦しています。学内の店舗の家賃が大学負担であることなど、挑戦しやすい環境をつくっていただいているのはありがたいです」(同) 

■大学側の支援も充実

 店主就任にあたって、自ら代表取締役を務める株式会社ACTIONA(アクショナ)も立ち上げた。フードフェスへの出店など、外部との交渉では学生扱いはしてもらえない。「学園祭気分でやっているんじゃないかとよく言われるので、信用を得るためにも会社を設立した」という。

 法人設立にあたっては、近畿大学が22年から提供する近畿大学発ベンチャー起業支援プログラム「KINCUBA(キンキュバ)」を活用。経営者であるメンターを前に事業計画をアピールし、30万円の法人設立資金を獲得した。

「KINCUBA」は、起業を目指す学生や研究者のための支援プログラムで、ビジネスプランの立案から法人設立までを一貫してサポートする。メンターによる指導やビジネスプランコンテストの実施、24時間利用可能なコワーキングスペースの提供など、さまざまな支援が充実している。「近大をすすらんか。」もその一環だ。これまでに誕生した近畿大学発学生ベンチャー企業は200社以上にのぼる。近畿大学経営戦略本部起業推進室の中村菜摘さんはこう語る。

「大学による起業家支援というと研究分野のイメージが強いかもしれませんが、近畿大学では飲食店やSNS関連など、自分の興味のある分野でスモールビジネスを始める学生の支援にも力を入れています。起業に興味はあっても具体的なプランがない『起業憧れ層』も歓迎で、フードビジネスの体験講座など、様々なプログラムを用意しています」

 齊藤さんも1年生の頃からKINCUBA Basecampを利用。「近大をすすらんか。」の初代店主と交流を持つなど、学内の「起業家コミュニティー」と早くから接していた。

「学生が『起業したい』と言い出したら、世間では『大丈夫か』と不安視される面がまだまだあると思います。KINCUBA Basecampには起業家志向を持つ学生が集まっているので話が合うし、先輩にも相談に乗ってもらえる。こんな環境はなかなかない」(齊藤さん)

 大学でありながら、もはや起業家育成の「虎の穴」。若さと熱気が伝播する環境からどんなビジネスが生み出されていくのか、楽しみだ。

(ライター・小泉耕平)

※AERA 2026年5月25日号

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