巨額損失でBEV戦略を見直すホンダは本当に勝てないのか?「N-ONE e:」の長距離テストで見えた迷走の影

独自モデルの苦戦が映す、ホンダ「撤退判断の連続」という課題, 長距離ドライブでもストレスゼロだったN-ONE e:の「優れた電費性能」, 高出力充電器は不要? 設置数の多い「125アンペア機」で真価を発揮, 寒冷期テストでは航続距離が4割減少! 技術的過渡期を露呈した「アキレス腱」, ホンダの軽BEVが「エコカー」として元を取るための損益分岐点, コスト削減のしわ寄せで失われた「プレミアム軽」の矜持, ひっそり消えた「Honda e」のツケ、今こそ立ち返るべき経営の基本

ホンダ「N-ONE e:」のフロントビュー。雰囲気はオリジナルのN-ONEとだいぶ異なる中、丸目ライトが“血縁”を主張している(筆者撮影)

 BEV(バッテリー式電気自動車)戦略の大規模な見直しと、それに伴う巨額損失(2026年3月期の最終損益は4239億円の赤字)を公表したホンダ。

「0(ゼロ)シリーズ」の一部計画や「Acura(アキュラ)RSX」、ソニー・ホンダモビリティによる「AFEELA(アフィーラ)1」など、新世代BEVプロジェクトの中には発売に向けて開発が進んでいたものも少なくなかった。5月14日に行われた決算発表で三部敏宏社長は、この判断について「将来に負債を付け回さないことを優先させての決断」と強調した。

 BEVの戦線を大幅後退させるのは、アメリカの環境政策がトランプ米大統領の登場によって激変し、メインターゲットである北米市場におけるBEV市場が急激に縮小したためだ。その観点では妥当な判断とも言えるが、中長期的なストラテジーからみれば正しかったかどうか、少なからず疑問が残る。

独自モデルの苦戦が映す、ホンダ「撤退判断の連続」という課題

 ホンダはこれまでBEV、PHEV(プラグインハイブリッドカー)、FCEV(燃料電池式電気自動車)などの新エネルギー車に関しては、十分な市場成果を上げたとは言い難かった。

 米ゼネラルモーターズとの共同開発モデル「プロローグ」が若干売れただけで、独自開発モデルはことごとく不振だった。その上、失敗したモデルの良くない部分を改良して顧客に受け入れられる努力を払わず、ディスコンにするということを繰り返してきた。

 北米向けを中心とする新世代BEV計画を中止・見直した経営判断も、市場環境の変化への対応以前にそれらのモデルが性能目標を達成できておらず、上市したところで競合モデルに負けることが明らかだったからでは? と受け取られかねない。自信があったのなら計画縮小は致し方ないにしても、市場を選んで発売し、ホンダは新エネルギー車でも戦えるのだと証明してみせればよかったのだ。

 ホンダの決断を今さら云々しても仕方のないことだが、ホンダとしてはBEVから完全に手を引くわけにはいかない。環境政策や技術革新でいつBEVに揺り戻しがくるかは未知数で、その時に顧客の信用がなく打つ手がないというのではすまないからだ。

 果たしてホンダはBEVで戦える見込みがあるのか。それを検証するため、同社が2025年秋にリリースした軽規格BEV「N-ONE e:」のロードテストを行ってみた。

 N-ONE e:はエンジン搭載型の軽乗用車「N-ONE」をベースとしたBEV。同じクラスの先発モデル、日産自動車「サクラ」/三菱自動車「eKクロスEV」の1.5倍に相当する総容量29.6kWhの走行用主電池を搭載し、国土交通省の審査値で295kmという航続距離を実現している。

 テストは寒冷期、温暖期の2回。前者は一般道を中心に関東一円を500km走行、後者は東京~鹿児島を3500km周遊する長距離ロードテストだった。走行条件はどちらもエアコン常時AUTO、1~4名乗車。

独自モデルの苦戦が映す、ホンダ「撤退判断の連続」という課題, 長距離ドライブでもストレスゼロだったN-ONE e:の「優れた電費性能」, 高出力充電器は不要? 設置数の多い「125アンペア機」で真価を発揮, 寒冷期テストでは航続距離が4割減少! 技術的過渡期を露呈した「アキレス腱」, ホンダの軽BEVが「エコカー」として元を取るための損益分岐点, コスト削減のしわ寄せで失われた「プレミアム軽」の矜持, ひっそり消えた「Honda e」のツケ、今こそ立ち返るべき経営の基本

N-ONE e:のフェイス。電動パワートレインを格納するためエンジンルームは再設計され、エンジン版のN-ONEとはまったく異なる造形に(筆者撮影)

独自モデルの苦戦が映す、ホンダ「撤退判断の連続」という課題, 長距離ドライブでもストレスゼロだったN-ONE e:の「優れた電費性能」, 高出力充電器は不要? 設置数の多い「125アンペア機」で真価を発揮, 寒冷期テストでは航続距離が4割減少! 技術的過渡期を露呈した「アキレス腱」, ホンダの軽BEVが「エコカー」として元を取るための損益分岐点, コスト削減のしわ寄せで失われた「プレミアム軽」の矜持, ひっそり消えた「Honda e」のツケ、今こそ立ち返るべき経営の基本

バックドア上にN-ONE e:のロゴ(筆者撮影)

長距離ドライブでもストレスゼロだったN-ONE e:の「優れた電費性能」

 オンロードにおけるN-ONE e:はどんなクルマだったのか。印象を簡単に表現すると、現時点では弱点を多数抱えながらも、小型BEVの進むべき方向と可能性を指し示すような特性を持つクルマだった。

独自モデルの苦戦が映す、ホンダ「撤退判断の連続」という課題, 長距離ドライブでもストレスゼロだったN-ONE e:の「優れた電費性能」, 高出力充電器は不要? 設置数の多い「125アンペア機」で真価を発揮, 寒冷期テストでは航続距離が4割減少! 技術的過渡期を露呈した「アキレス腱」, ホンダの軽BEVが「エコカー」として元を取るための損益分岐点, コスト削減のしわ寄せで失われた「プレミアム軽」の矜持, ひっそり消えた「Honda e」のツケ、今こそ立ち返るべき経営の基本

N-ONE e:のリアビュー。エンジン版N-ONEに比べて装飾は少なめ(筆者撮影)

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N-ONE e:のサイドビュー。走行抵抗削減のためか、車重増にもかかわらずタイヤサイズはエンジン版よりひと回り小さい(筆者撮影)

 大容量バッテリーを積むといってもしょせんは軽自動車であるため、充電率100%から15%の実航続距離は温暖期でもせいぜい200km前後。遠出の時に必要となる急速充電の受け入れ性能も昨今の高性能BEVに比べればずっと低い。

 ところがである。そのN-ONE e:でのドライブは予想に反してストレスの少ない、至極爽快なものだった。

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N-ONE e:の前席。シートは商用車のようなヘッドレスト一体型となるなどエンジン版N-ONEからグレードダウン。ただしタッチは悪くなかった(筆者撮影)

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電動化の影響でステアリング位置がエンジン版よりかなり後ろ寄りに。運転席をかなり後方に寄せないとタイトだった(筆者撮影)

 その源泉は低・中速域の平均電費(電力量消費率。エンジン車の燃費に相当)が安定的に優れていたことだった。バッテリー容量は29.6kWhだが、充電の繰り返しで実際のドライブで使えるメーター上の100→0%容量を計算してみたところ、24kWh前後とさらに少ない。N-ONE e:はその限られた電力量を効率的に使うことで航続力を稼いでいた。

 この特質により、N-ONE e:は長距離ドライブ、決まった拠点での日常使用の両面で、過去にロードテストを行ったどのBEVとも異なる使い勝手の良いクルマとなっていた。

独自モデルの苦戦が映す、ホンダ「撤退判断の連続」という課題, 長距離ドライブでもストレスゼロだったN-ONE e:の「優れた電費性能」, 高出力充電器は不要? 設置数の多い「125アンペア機」で真価を発揮, 寒冷期テストでは航続距離が4割減少! 技術的過渡期を露呈した「アキレス腱」, ホンダの軽BEVが「エコカー」として元を取るための損益分岐点, コスト削減のしわ寄せで失われた「プレミアム軽」の矜持, ひっそり消えた「Honda e」のツケ、今こそ立ち返るべき経営の基本

後席はエンジン版N-ONEと同様、大人4人の長時間乗車にも耐えるだけのスペースが確保されていた(筆者撮影)

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後席スライド機構を持たないため荷室は狭いが、海外旅行用トランクを積むことはできた(筆者撮影)

 まずは日常使い。買い物や送り迎えなどの用途であれば基本的にどんなクルマでも困ることはないが、クルマを持っていれば休日にちょっぴり遠出をしたくなることもあるだろう。

 N-ONE e:の温暖期テストで鹿児島に滞在している間、二度ほど遠出をしてみた。最初は鹿児島市を起点とする薩摩半島南端エリアの周遊で、走行距離は130kmほど。出発時の充電率は60%と軽BEVで遠出をするには少々心もとない値で、足りなくなったら途中でつぎ足す算段で出かけたのだが、結果的に充電なしに鹿児島市まで悠々と帰着できた。

独自モデルの苦戦が映す、ホンダ「撤退判断の連続」という課題, 長距離ドライブでもストレスゼロだったN-ONE e:の「優れた電費性能」, 高出力充電器は不要? 設置数の多い「125アンペア機」で真価を発揮, 寒冷期テストでは航続距離が4割減少! 技術的過渡期を露呈した「アキレス腱」, ホンダの軽BEVが「エコカー」として元を取るための損益分岐点, コスト削減のしわ寄せで失われた「プレミアム軽」の矜持, ひっそり消えた「Honda e」のツケ、今こそ立ち返るべき経営の基本

薩摩半島南端の火山、開聞岳に向かう。充電残60%から130kmのドライブを無充電でこなせたのは軽BEVとしては非常に優秀(筆者撮影)

 次は充電率70%からの110kmドライブ。この時はさらに余裕があり、帰着後も充電なしに鹿児島市内の知人宅訪問や買い物を何度もこなせそうな勢いだった。郊外路では電力量1kWhあたり12km前後走行可能で、バッテリーの充電残への依存度が少なかったため余裕だった。

 筆者は過去にHonda e、eKクロスEVでも鹿児島滞在を実践してみたことがあるが、その時は不意の遠出に備えて常に充電率を気にしている感じだったが、N-ONE e:は半分を切ったら考えればいいと気楽に構えていられた。このプレッシャーの軽さは小型BEVを所有・運用する上で大きなアドバンテージと思われた。

高出力充電器は不要? 設置数の多い「125アンペア機」で真価を発揮

 ではワンデードライブを超えるようなロングドライブはどうか。使用可能電力量が最大で24kWh前後と少ないので、もちろんすぐに限界がくる。だが、バッテリー容量の大きさではなく電費の良さで航続を稼ぐという特性は、そうしたドライブでも威力を発揮した。

 帰路、鹿児島から埼玉・和光市まで山陰経由で1524km走行する間に要した中継充電時間は合計で235分。山陰ルートを取った過去の記録と照合すると、49kWhという大型・高性能バッテリーを積むヒョンデ「インスター」の170分には65分負けるものの、Honda e、日産の第2世代「リーフ」の390分、eKクロスEVの375分、ステランティス「フィアット500eオープン」の300分に対しては大幅なアドバンテージである。

 N-ONE e:が好スコアをマークできたのは、絶対的な充電受け入れ性は軽・小型車の域を出ないものの、開始後15分まではそこそこ良いペースで充電できるという特質によるところが大きい。その間の充電電力量は約10kWh。電費の良いN-ONE e:の場合、暖房がかかるような気温だったり高速道路を一気通貫で走ったりしなければ、平均100km以上を走れる。30分充電で200km走れるBEVと対等に渡り合えるのだ。

 充電後、最も長く走れたのは京都市北東部の森林地帯、京北で15分充電後、険路で知られる国道477号の百井峠を越えて琵琶湖に到達、さらに石榑峠を越えて濃尾平野に入り、名古屋湾岸部の名四町まで走った161.0km区間。平均電費計値は13.6km/kWhで充電率の変化は56%→7%。この区間に限れば100%換算で300km以上を軽く走れた計算になる。

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京都~滋賀をまたぐ国道477号百井峠付近にて。高性能充電器がなくとも十分な航続力を発揮できるため、充電器過疎地帯も恐るるに足らずだった(筆者撮影)

 この15分刻み作戦は充電の面倒さを感じにくいというのもメリット。道の駅などで充電開始後、お手洗いに行ってからコーヒーを飲む、あるいは店内で販売中の物産品をちょっと眺めるなどしている間にもう終わりの時間がやってくる。食事をするには短く、小休止だと手持ち無沙汰になる30分充電とは大違いだった。

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充電時間課金ではなく充電電力量単位の従量課金で運用される充電網FLASH。バッテリー容量が小さく急速充電受け入れ性が限られる軽BEVには嬉しいサービスだ(筆者撮影)

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従量課金による充電サービス、FLASHを使って充電中。0.1kWh刻みで課金されるため止めるタイミングを気にしなくて済む(筆者撮影)

 充電電力量の多さではなく電費の良さで航続距離を伸ばすという特性が生きたもうひとつの要素は、充電器の性能を選ばないということだ。

 今どきの大容量バッテリー車の航続性能は5年前とは比較にならないくらい素晴らしいものがあり、急速充電1回で300km以上走れるものもあるほどだが、その性能を発揮するには最大電流200アンペア、350アンペアといった大出力充電器が必須だ。充電スポットは限られるし、2台同時に充電できるタイプの場合は2台目がやってくると電力がシェアされてしまい、思惑通りの充電量が得られなかったりする。

 N-ONE e:の場合、設置数の多い最大電流125アンペアの低出力充電器で性能上限に達する。BEV黎明期にはそれよりさらに電流値の低いものも多数設置されていたが、それらが耐用年数を迎えてどんどん125アンペア機に置き換えられている。

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充電電流はMAXで125アンペア。119アンペアはそのリミット近くで、このペースだと15分間くらいはバンバン充電できる(筆者撮影)

 実際のドライブにおいても、「EV QUICK」の青い看板があればどこでも充電OKという感覚だった。高速型充電器で2台目と電力をシェアすることになってもパフォーマンスはほとんど同じなので、イライラすることもない。充電が遅いBEVでの長旅がストレスフルとは限らないという実感を持った初めてのクルマだった。

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兵庫の日本海沿岸、浜坂の充電スポットにて。高性能充電器にこだわらずとも航続を稼げるのは電費の良いN-ONE e:の美点(筆者撮影)

寒冷期テストでは航続距離が4割減少! 技術的過渡期を露呈した「アキレス腱」

 といって、N-ONE e:が完全無欠な軽BEVというわけではない。現時点では寒さに極端に弱いという重大な弱点がある。

 寒冷期に行った500kmテストではその弱点を露呈した。充電率100%で出発後、気温1桁台の中を134.8km走行した時の充電率は6%。100%換算で143km。温暖期は山口・長門市から福岡・八女市までの192.9km区間を100→18%で走破しているので、それに比べると4割近い減少率である。

 東京~鹿児島3500kmテストは温暖期ではあったが、それを行ったゴールデンウィークは低温な日も少なからずあり、先に述べた帰路でも夜間の山陰道で気温が1桁となって暖房がかかるや、その途端にペースが落ちた。それがなければ中継充電時間は200ないし210分で済んだだろう。

 寒さに弱い最大の理由は暖房を熱効率の悪いセラミックヒーターに依存していること。エンジンの排熱を利用できないBEVにとって暖房による消費電力量の増大は頭の痛い問題で、今日では高効率なヒートポンプを搭載するモデルが増えている。

 ヒートポンプ自体は今どき家庭用の洗濯乾燥機にも広く使われているくらいコモディティ化しているのだから搭載すればいいのにと思ったが、帰着後にホンダの技術広報担当者に聞いたところ、30kWh近い大型バッテリーを搭載したことでスペースに余裕がなくなり、省かざるを得なかったという。

 N-ONE e:は技術的には過渡的商品であり、現状では電気モーター、出力制御ユニット、減速ギアボックスなどを別体で搭載しているためスペース効率が悪い。

 ボンネットを延長して軽枠をはみ出したりせずに大型バッテリーとヒートポンプを両方搭載するには、それらを1パッケージに収める「X-in-1」という今どきのBEVのアーキテクチャーに変えていく必要がある。それは次世代商品作りの課題であろう。

 もうひとつの弱点は平均車速が90km/h以上の高速域になると電費が大きく落ちること。

 高速走行中に充電器のあるサービスエリア間で計測したトップスピード100km/h(メーター読み104km/h)クルーズ時の電費は温暖期で7.0km/kWh、寒冷期で6.7km/kWh。軽自動車は車体が短い分、後方への風の巻き込みが強く、空気抵抗の削減では不利なので、ここは仕方のないところかもしれない。

 そういう弱点を抱えてはいるものの、電費向上で航続を稼ぐことが小容量バッテリーを搭載する小型BEVの商品性向上にいかに貢献するかということを実際にモノで示したという点で、N-ONE e:は意義深いモデルだ。

 高速巡航や寒冷環境も含めた3500kmテストのオーバーオール電費は9.3km/kWh。コンディションが悪くなかった時に限ればほぼ全区間で10km/kWhを超えた。筆者は忍耐力が不足しているので好き放題に走るクチだが、それでも好スコアが勝手に出るのだ。省エネに気を配ればさらに少ない電力で走ることも十分に可能だろう。

独自モデルの苦戦が映す、ホンダ「撤退判断の連続」という課題, 長距離ドライブでもストレスゼロだったN-ONE e:の「優れた電費性能」, 高出力充電器は不要? 設置数の多い「125アンペア機」で真価を発揮, 寒冷期テストでは航続距離が4割減少! 技術的過渡期を露呈した「アキレス腱」, ホンダの軽BEVが「エコカー」として元を取るための損益分岐点, コスト削減のしわ寄せで失われた「プレミアム軽」の矜持, ひっそり消えた「Honda e」のツケ、今こそ立ち返るべき経営の基本

山口・豊北の海岸段丘上に立つ小さな喫茶店にて響灘をバックに(筆者撮影)

ホンダの軽BEVが「エコカー」として元を取るための損益分岐点

 使い勝手の良さだけではない。電費が良いことはBEVの最大のタスクである環境負荷の低減に関しても、貢献度がぐっと高くなる。

 現状、車載バッテリーの製造においては資源採掘から製品化までのトータルで1kWhあたり100kg前後のCO2を排出するとされている。バッテリー容量29.6kWhのN-ONE e:の場合、おおむね3トンといったところだ。

 バッテリー製造に負けずCO2を大量に排出するアルミダイカスト部品はBEVの方がエンジン車より少ないといった要素はあるが、とりあえずバッテリー製造分を丸ごと上乗せした上でペイバックを試算してみよう。

 国際エネルギー機関によれば、昨年の日本の電力部門の排出原単位(資源採掘から配電までのCO2排出量)は1kWhあたり416g。充電器の電力量消費、充電に伴うエネルギーロスなどをかなり厳しめに見積もって、ざっくりとBEVが消費する電力量1kWhあたりのCO2排出量を500gと仮定する。

 年平均で1kWhあたり10km走行可能である場合、1kmあたりのCO2排出量は50g。一方、ガソリンは1リットルを完全燃焼させると2320gのCO2を出す。これには資源採掘から輸送、精油、デリバリーなどのCO2は含まれていないが、その燃焼分だけをみて、通年の平均燃費が20km/リットルの軽自動車が1km走行ごとに出すCO2は116gだ。

 その差66gでバッテリー製造で排出される3トン=300万gのCO2を取り返すのに必要な走行距離は4万5455km。その後は2320÷50=46.4km/リットル相当の環境負荷で走るエコカーとして機能することになる。

 ここで重要なのは年間走行距離。1年に1万km走るユーザーは4年半でペイバックタイムを迎える。長距離通勤などで2万kmのユーザーならその半分。まさにあっという間である。

 一方、年間4500kmしか走らないユーザーの場合は10年以上かかる。つまりBEVはクルマに乗る頻度が少ない、近所しか走らないという人に普及させても、CO2削減効果を早期に得るという観点では利点が出にくく、走行距離が長いユーザーに使われて初めて意味があるのだ。その点でも遠出を思いのほか快適にこなせるというN-ONE e:は、小型BEVのあるべき姿を示しているといえよう。

独自モデルの苦戦が映す、ホンダ「撤退判断の連続」という課題, 長距離ドライブでもストレスゼロだったN-ONE e:の「優れた電費性能」, 高出力充電器は不要? 設置数の多い「125アンペア機」で真価を発揮, 寒冷期テストでは航続距離が4割減少! 技術的過渡期を露呈した「アキレス腱」, ホンダの軽BEVが「エコカー」として元を取るための損益分岐点, コスト削減のしわ寄せで失われた「プレミアム軽」の矜持, ひっそり消えた「Honda e」のツケ、今こそ立ち返るべき経営の基本

島根県益田市西部の持石海岸にて。航続距離は短いが、思いのほか旅向きの軽BEVだった(筆者撮影)

コスト削減のしわ寄せで失われた「プレミアム軽」の矜持

 そんな商品特性を持つN-ONE e:だが、市場の反応は芳しくないという。なぜ販売が伸び悩んでいるのか。最大の要因はここまで延々と述べてきたN-ONE e:の美点がBEVに乗ったことのない平均的なユーザーにとって極めて難解ということだろう。

 筆者は熟成が進んだエンジン車に比べて技術進化途中のBEVの進歩ぶりが面白く感じられたことから、さまざまなモデルを合計10万km以上テストしてきたというバックボーンがある。

 それでも温暖期限定とはいえ電費の良さや安定した充電特性などが大いなる美点だという確信を抱き始めたのは、さまざまな走行パターンや充電を繰り返し、ロードテストの距離が1000kmを超えたあたりからだった。短時間の試乗でこういう特性を察知するのは筆者はもちろんのこと、相当にBEVで走り込んだプロの自動車評論家であっても到底無理だ。

 それを解決する手段として最も手軽なのは、BEVとしての使い勝手以外にひとつ、ふたつでもいい、ユーザーを強烈に吸引する何らかの魅力ポイントを持たせることだ。

 例えば前出の日産サクラと三菱eKクロスEVをみると、販売実績では前者が後者を常に10倍ないしそれ以上の大差をつけてリードしていた。eKクロスEVが電動パワートレインであること以外、エンジンモデルとの違いを極力少なくして違和感を持たせないという方針だったのに対し、サクラは外観から差別化、内装に至っては4ランクくらい格上の中型BEV「アリア」のミニバージョンかと思うような麗しい仕立てにした。

 販売実績からみて、サクラの手法の方がエンジン車より価格が高いというネガをユーザーに納得させるのに効いたのは間違いないだろう。

 N-ONE e:はどうか。エンジン車のN-ONEは軽プレミアムという位置付けで、2012年に登場した第1世代は造形といい色使いといい、軽の輸入車かというような内装センスだった。2020年デビューの第2世代はそのカラーを少し弱めたが、乗り心地や静粛性が大幅に進化し、素晴らしいロングツアラーとなった。

 それに対してN-ONE e:は遮音・防振性、内装の質感などさまざまな部分が劣っており、N-ONEのブランドアイデンティティとの齟齬は大きい。30kWh近い大型バッテリーを搭載しながらライバルのサクラと同価格帯で売るためにその他のコストを削れるだけ削る必要があったであろうことは分かるが、素材が質素でもそれをセンスでカバーするような気概が欲しかったところだ。

独自モデルの苦戦が映す、ホンダ「撤退判断の連続」という課題, 長距離ドライブでもストレスゼロだったN-ONE e:の「優れた電費性能」, 高出力充電器は不要? 設置数の多い「125アンペア機」で真価を発揮, 寒冷期テストでは航続距離が4割減少! 技術的過渡期を露呈した「アキレス腱」, ホンダの軽BEVが「エコカー」として元を取るための損益分岐点, コスト削減のしわ寄せで失われた「プレミアム軽」の矜持, ひっそり消えた「Honda e」のツケ、今こそ立ち返るべき経営の基本

前席を助手席側から俯瞰。ダッシュボードは素材、色使いとも低コスト化が顕著に出ている。それをクールに見せるようなセンスを盛り込んでほしかったところ(筆者撮影)

 それでも今までホンダが他社を蹴散らすような素晴らしいBEVを世に問うてきたという実績があれば、N-ONE e:もまた素晴らしいところがあるのだろうとユーザーが使用過程で美点に気づき、口コミを発信するという流れができていたかもしれない。だが、現実にはホンダが今までやってきたのはそれと真逆だった。

ひっそり消えた「Honda e」のツケ、今こそ立ち返るべき経営の基本

 その象徴的なクルマが、2020年に発売した「Honda e」だ。メイン市場の欧州では、当初、世界的なモータージャーナリストたちから、その素晴らしい走り味とレトロモダンなデザインに「こんなBEVを待っていた」と称賛を浴び、またBEV嫌いのアメリカ人をして「Honda eがアメリカに来ないなんて悲劇だ」などと言わしめた。

 しかし、ホンダが事前に「急速充電30分で200kmぶん充電可能」と喧伝していたにもかかわらず、実車の性能はかけ離れていたことなど高価格に見合う性能が見られず、期待を裏切った。結局、Honda eは投入した日欧で敗北を喫した。それでも、人を燃え立たせる部分は確かにあったのだから、弱点を解消し、失地回復を図るべきだった。

 ブランドの信頼度とはそういうことの積み重ねによって生成されるものなのだが、三部社長はHonda eに何の改良も加えず、ひっそりと廃止するという道を選んだ。今、N-ONE e:がそこまで注目されていないのは、Honda eのツケを負わされているようなものだと言っても過言ではないだろう。

 ゼロシリーズやアフィーラを出す前に中止し、なかったことにしてしまったことはもう取り返せない。ホンダに残された巻き返し策はゼロシリーズの中で唯一、中止が明言されていない新興国向けクロスオーバー「Honda 0 α(ゼロアルファ)」を世界のライバルに打ち勝つ性能、機能を持つモデルに仕立てて出すことだろう。

 そして2026年5月に発売されたN-ONE e:の拡張版スポーツハッチバック「Super-ONE(スーパーワン)」についても、今後ユーザーの声をしっかり受け止め、弱点解消のための改良を継続的に行うことが求められる。その成果をN-ONE e:や2028年に発売するという軽スーパーハイトワゴン「N-BOX」のBEV版に余すところなく投入することだ。

 三部社長は2021年の就任直後、クルマのオール電化宣言のみならずヒューマノイドロボットもやる、有人ドローンもやる、宇宙開発もやる、ホンダは四次元企業になる……と、まるでテスラのイーロン・マスク氏を意識したかのような大風呂敷を広げた。だが、その後のホンダの姿勢を見る限り、いばらの道を歩む覚悟を持ってそれを言ったとは思えない。

 BEVプロジェクト失敗による巨額損失を出しても経営責任を担い続ける以上、三部社長は他企業や株主にも増して、顧客と向き合い信頼を一つずつ積み上げるという経営の基本に立ち返るべきだろう。

独自モデルの苦戦が映す、ホンダ「撤退判断の連続」という課題, 長距離ドライブでもストレスゼロだったN-ONE e:の「優れた電費性能」, 高出力充電器は不要? 設置数の多い「125アンペア機」で真価を発揮, 寒冷期テストでは航続距離が4割減少! 技術的過渡期を露呈した「アキレス腱」, ホンダの軽BEVが「エコカー」として元を取るための損益分岐点, コスト削減のしわ寄せで失われた「プレミアム軽」の矜持, ひっそり消えた「Honda e」のツケ、今こそ立ち返るべき経営の基本

ホンダ「N-ONE e:」(島根県出雲市西方の多伎海岸にて日没を望む/筆者撮影)

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