山積みのホタテ貝殻が「頭と地球」を守る?...大阪万博でも採用、社員11人の町工場発「ホタメット」とは?

山積みのホタテ貝殻が「頭と地球」を守る?...大阪万博でも採用、社員11人の町工場発「ホタメット」とは?
貝殻の構造をデザインに取り入れたホタメット COURTESY OF KOUSHI CHEMICAL INDUSTRY
<日本有数のホタテ産地では年間約4万トンの貝殻が廃棄されて問題に──厄介な貝殻と廃プラでヘルメットを作る「意外な挑戦」が注目を浴びている>
「守るのは、頭と地球」。気になるキャッチコピーが添えられた波打ち際の大きな貝のような物体は、自転車用ヘルメット「ホタメット」だ。廃プラスチックやホタテの貝殻を原料にした新素材「シェルテック」を使ったアップサイクル製品である。
製造しているのは1969年創業の甲子化学工業。社員11人の大阪の町工場で、プラスチック部品の金型製作から成形、塗装、溶着、組み立てまで一貫して行ってきた。
開発に携わった南原徹也は、ゼネコンを経て父が経営する同社に2019年に入社。環境配慮型の製品を求める時代の波を察知し、20年頃から廃プラを原料にした素材開発に着手した。
まずは卵の殻を粉砕して混ぜたエコプラスチックの試作を始めたが、先行企業がいたことから、成分が近いホタテの貝殻に着目した。
ホタテ漁の盛んな土地では、身を取った後に残る大量の貝殻が問題になっている。日本有数のホタテ産地、北海道猿払村を含む宗谷地区の貝殻廃棄量は年間約4万トン。野積みされたままでは、悪臭や景観悪化、環境汚染などのリスクがある。
だが、厄介な貝殻も見方を変えれば、安定して確保できる「資源」になる。南原はここに可能性を感じた。猿払村から貝殻の提供を受け、貝殻1:廃プラ9の割合で混ぜた新素材を、大阪大学の宇山浩教授の知見を得ながら開発。
新品プラを100%利用した際に比べ、最大36%のCO2の排出削減に貢献し、強度(曲げ弾性率)も33%向上するシェルテックが完成した。

北海道猿払村に積み上がっていたホタテの貝殻 COURTESY OF KOUSHI CHEMICAL INDUSTRY
廃プラは「見えない部分に使うか、雑貨など無難な製品に加工するのが常だった」と南原。人目を避けて使われていた廃プラと廃棄された貝殻で、安全性が求められるヘルメットを作るという発想には意外性がある。
ブランドストーリーは広告代理店のTBWA\HAKUHODOと磨き上げた。南原が卵の殻のプラ素材をX(旧ツイッター)で発信したときから意気投合し、企画・開発を協働してきた。
協働がものづくりの肝
デザイン面では、バイオミミクリー(生物模倣)の考えを基に貝殻の構造をエレガントなリブ模様に落とし込んだ。リブ構造を入れることで一般的なヘルメットに比べて強度が約30%向上。表面には粒状にした貝殻をあえて見せ、テクスチャーの魅力にした。
自転車での着用努力義務化や防災対策などヘルメット需要が高まるなか、女性や若い世代の購入を見込み、優しいパステルカラーの色展開にもこだわっている。
22年にクラウドファンディングで先行販売すると、大きな話題に。大阪・関西万博の共創事業プログラムで防災・モビリティー用公式ヘルメットにも採用された。
さらに万博では、清水建設などとシェルテックを活用した貝殻型のベンチも制作。同社とは猿払村でのテトラポッド製作でも協働している。

ホタメット COURTESY OF KOUSHI CHEMICAL INDUSTRY
「社内だけだと小さくまとまってしまうが、同じ目標を持つ仲間と組んで、仮想の会社をつくった気持ちで動くと、大きな事業も運営していける」と語る南原。
協働しながら課題解決を試みる道筋は刺激的で「ものづくりの面白さを再確認している」という。目指すのは、漁師町が世界共通で抱える貝殻問題の解決だ。
中小企業にとって、課題解決の糸口は企業同士の「かけ算」にあるのかもしれない。
POINT(SDGs室長 森田優介)
日本のプラスチックリサイクルは大半が焼却処分で熱エネルギーを回収する方式。廃プラを原材料として再利用する方式を広める必要がありますが、それを実現し魅力ある製品に結実させた好例です。
岩井光子(ライター)
【SDGs 世界の挑戦、日本の貢献】