せっかく書いた遺言がまさかの無効に?…遺言書の作成で“やってはいけないこと”【終活コンサルタントが解説】

(※画像はイメージです/PIXTA)
生前の遺言作成は、円滑な遺産相続に重要な役割を果たします。しかし、保管方法を間違えて遺言を見つけてもらえないケースや文面上の不備によって無効になってしまうことも。本記事では、終活コンサルタントの長谷川裕雅氏の著書『磯野家の家じまい』(リベラル社)より一部を抜粋・再編集して、多くの方に親しまれている「磯野家」をモデルケースに、遺言の書き方とポイントについて解説します。
遺言でやってはいけないこと、やるべきこと
「お父さん、何を書いているの?」
サザエが顔を覗き込むと、波平は手を止めて答えました。
「遺言を作ろうと思ってな。ワシがいなくなったとき、家族がもめないように。」
フネは波平の横に座りながら、優しく声をかけました。
「お父さん、それはいい考えだわ。でも、その書き方で大丈夫かしら?」
波平は少し不思議そうな顔をして言いました。
「自筆で書けばいいんだろう? これで十分じゃないのか?」
サザエが少し眉をひそめながら答えました。
「それがね、お父さん。自筆証書遺言って、簡単そうに見えて実は問題が多いのよ。たとえば、書き方に不備があったら無効になっちゃうし、保管方法を間違えると見つけてもらえないこともあるの。」
「何だと? せっかくワシが苦労して書いたものが無効になるかもしれないというのか?」波平は驚いた表情を浮かべました。
フネが落ち着いた声で続けました。
「そうですよ、お父さん。自筆証書遺言は基本的に全部自分で書かなきゃいけないし、日付や名前を正確に書かないと認められないのですよ。それに、亡くなった後に家庭裁判所で検認という手続きも必要になるから、家族にとっても手間が増えてしまいますの。」波平は腕を組みながら考え込みました。
「それは面倒だな……では、どうすればいいというのだ?」
サザエはにっこり笑いながら応えました。
「お父さん、公正証書遺言にしたほうがいいわ。公証役場で作成するから、法律のプロが内容を確認してくれるし、不備がなくなるの。それに、原本が公証役場に保管されるから、なくす心配もないのよ。」
フネも頷きながら続けました。
「そうね。それならお父さんが亡くなった後でも、家庭裁判所の検認が必要ないから、私たち家族がすぐに手続きを進められるわ。」
波平は少し驚きながらも納得した様子で言いました。
「なるほどな……公正証書遺言というのが、確実で家族にも負担をかけない方法なのか。だが、手間も費用もかかるのではないのか?」
サザエが答えました。「確かに費用は少しかかるけど、お父さんがせっかく遺言を残しても、それが無効になったりもめ事が起きたりするよりずっとよいと思うの。」
波平は深く頷きながら応えました。
「お前たちの話を聞いていると、公正証書遺言のほうが安心だな。よし早速、公証役場で相談してみることにしよう。」
フネは微笑みながら波平に言いました。「それがいいですわ、お父さん。これで家族みんなが安心できる遺言を残せますね。」
波平は机に向かい直りながら、改めて自分の家族を思い浮かべました。
「ワシの遺言が、家族の平和を守る一助になればそれでいい。よし、きちんと準備を進めるとしよう。」
遺言には大きく分けて、①自筆証書遺言、②公正証書遺言の二種類があります(秘密証書遺言もありますが、一般的ではありませんのでここでは説明しません)。この中で、自筆証書遺言は簡単に作成できる反面、避けた方が良い場合が少なくありません。
やってはいけないこと: 自筆証書遺言のリスク
・形式不備で無効になる可能性:法的な形式を満たしていない場合、無効になるリスクがある
・発見されない可能性: 遺言を発見することができず、遺言の存在が無視されることがある
・改ざんや隠蔽のリスク:他の相続人による改ざんや意図的な隠蔽の恐れ。保管場所には注意が必要
・検認手続き等の相続人の負担:自筆証書遺言は相続手続きの際に家庭裁判所での検認手続きが必要で、相続人にとって負担となる
これらの面倒を避けるためには、公証人が作成に関与し、法的に確実な公正証書遺言を選ぶことが推奨されます。
やるべきこと: 公正証書遺言の活用
公正証書遺言は、公証人が作成に関与し、法的有効性が確保されるため、前述のリスクを回避できます。公正証書遺言を作成すれば、遺言の内容が確実に実行されます。
遺言を確実に有効にするためには、自筆証書遺言は避け、できる限り公正証書遺言を作成することが重要です。これにより、家族の間のトラブルを回避し、被相続人の意思を確実に伝えることができます。
このように公正証書遺言の作成をお勧めしますが、念のため自筆証書遺言を作成する際に気を付けたいポイントについて解説します。
すべて自筆で作成すること
自筆証書遺言は基本的に、全文を自筆で作成する必要があるため、形式に不備があると無効になる可能性が高いのが最大の問題点です。
また、専門知識がない方が遺言を作成すると、内容が不明確になり、相続人間で解釈が分かれ、争いの原因になります。
日付を記入すること
自筆証書遺言では、日付を記入することが法律で求められています。
日付が「〇月吉日」などの不明確な記載をした場合や記入漏れがあると、遺言全体が無効になる危険があります。日付が重要な理由は、複数の遺言が存在する場合、日付が不正確だとどれが最新のものかが判断できず、相続手続きが複雑化する可能性があるからといわれています。
そのため、日付は具体的に「〇年〇月〇日」と記載することが必須であり、これを欠くと遺言の効力が認められない場合があります。
自署・押印をすること
遺言者本人が氏名を自署し、押印することが法律で求められています。
氏名の記載がない場合や、代筆や印刷で作成されたものは無効とされます。
印鑑は実印でなくても構いませんが、認印やシャチハタでは信頼性が低く、相続人間で紛争に発展する原因となる可能性があります。
特に、署名が不完全だったり、押印が省略されていたりすると、遺言自体の法的効力が認められないため、注意が必要です。
正しい方法で加除訂正すること
遺言内容を加除訂正する場合には、法律で定められた正しい方法を守る必要があります。
具体的には、訂正箇所を二重線で消す、二重線の近くに訂正する内容を記載し、さらに訂正箇所に印を押すことが求められます。
また、遺言書末尾に「何字を訂正した」などを記載する必要があります。
これらの手続きが守られていない場合、加除訂正部分は無効となり、遺言全体の効力に影響を及ぼす可能性があります。
たとえば、波平が自筆証書遺言を作成し、相続財産の分け方を変更しようとした際に、正しい処置を行わなかった場合、その部分が無効となり、相続人間の争いになる可能性もあります。
適切な場所に保管すること
自筆証書遺言を適切な場所に保管することが非常に重要です。
そうしないと、遺言書が家族や相続人に発見されず、存在しないものとみなされ、波平が意図した遺産分割が実現しなくなってしまいます。
また、自宅で保管すると、紛失や火災、相続人による改ざんや隠蔽のリスクもあります。
自筆証書遺言を法務局で保管する制度が整備されていますが、この方法を利用すれば、安全性と確実性を高めることができます。家庭裁判所での検認も不要になるため、相続手続きがスムーズに進みます。
正しい保管方法を選ぶことで、遺言が確実に家族に届き、波平の意思が尊重される相続が実現します。
長谷川裕雅
永田町法律税務事務所代表
終活コンサルタント