なぜ「ランクル」は世界1000万台超選ばれるのか? トヨタがあまり語らない「真の競争優位性」とは

世界に選ばれる車戦略

 トヨタ・ランドクルーザーの原点は、和製ジープである初代モデル(BJシリーズ、1954年にランドクルーザーへ改名)にある。1951(昭和26)年に登場して以来、世界中でクロスカントリー車として親しまれてきた。

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 その耐久性は高く評価され、170か国以上で販売されている。2019年8月には累計販売台数が

「1000万台」

を超え、ロングセラーの地位を確立した。では、なぜランドクルーザーはこれほどまでに世界で選ばれ続けるのか。トヨタ自身は

・耐久性

・信頼性

・悪路走破性

を強調するが、それだけでは説明しきれない要素が存在するはずだ。というわけで、本稿では、ランドクルーザーを取り巻く歴史、制度、市場、技術、文化などの複合的要因を読み解く。公式には触れられない、ランドクルーザーの

「真の競争優位性」

に迫る。

公共性を獲得した車

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オーストラリアで活躍するランドクルーザー(画像:トヨタ自動車)

 ランドクルーザー初代モデルの発売から約4年後の1955(昭和30)年11月、「20系シリーズ」が投入され、本格的な輸出が始まった。当初は年間100台にも満たなかった輸出台数は、1965年に1万台を超え、現在では10万台以上に拡大している。ランドクルーザーは、トヨタブランドの信頼性を世界市場で高めるとともに、輸出事業をけん引する

「外貨獲得車種」

としての役割を果たした。

 卓越した耐久性により、未舗装の悪路でも走行可能なランドクルーザーは、道路インフラが整備されていない国々で格好の輸送手段となる。トヨタのクルマづくりの原点である「世のため、人のため」の思想が、ランドクルーザーにも生かされている。人や物を安全に運び、移動の夢を実現する。行きたい場所に行き、必ず帰って来られる。それがランドクルーザーの基本思想である。

 中東やアフリカの石油輸出国機構(OPEC)加盟国や資源国では、砂漠や山岳地帯を走破できる信頼性の高い車両が求められる。アフリカやウガンダでは、人道支援の患者輸送に活用され、オーストラリアでは鉱山地下や広大な牧場での移動にも使われている。中米コスタリカでは、標高3500mの急斜面で農作物の収穫用として活躍する。ランドクルーザーは、多様なニーズに適応し、国際援助や公共調達を通じて世界中に普及した。

 国際援助(ODA)や国連・NGOによる公的調達でも採用実績は多数ある。国連平和維持活動(PKO)や赤十字では標準車両に指定されており、国際支援の象徴としても扱われる。ランドクルーザーが公共性を冠したブランドとして世界に定着したことは、紛れもない事実である。

需要を支える耐久価値

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ランドクルーザー・40系(画像:みえトヨタコミュニティサイト)

 グローバル市場でランドクルーザーは一強といえるのか。他メーカーのスポーツタイプ多目的車(SUV)との比較で検証する。

 代表的なライバル車はメルセデスベンツ・Gクラスである。ベンツのなかでも高価格帯に位置し、都市型SUVの洗練された印象が強い。ブランド力では圧倒的な存在感を示すものの、悪路走破性ではランドクルーザーが上回る。

 次に米国車の代表格としてフォード・ブロンコを挙げる。日本では馴染みが薄いが、ラダーフレームを備えた本格的なクロスカントリー四駆車である。ランドクルーザーより武骨な印象で、米国国内では古くから人気を集めてきた。購入層は地域や嗜好によって二分されるだろう。

 ランドクルーザーは技術面で「過剰最適化」を避け、整備環境が限られる地域でも稼働できる設計思想を貫いている。シンプルな車両構造と、世界中に張り巡らされた部品供給網が特徴である。部品供給のリードタイムは他社に比べて短く、価格も安定しているため、メンテナンスに不安を感じることは少ない。

 1960年に発売された「40系シリーズ」の部品は、いまだに新興国市場で流通している。信頼性と耐久性の高さから、製造から50年以上経った40系が現役で活躍する地域も存在する。耐久性と修理のしやすさが重なり、経済性の観点からユーザーに選ばれてきたのである。

 ランドクルーザーは、新興国の中古車市場で値落ち幅が小さい。

「資産価値を保つ商品」

としての側面もある。発売から10年経過しても、リセールバリュー(再販価値)が新車価格の50%以上となるケースもある。政情不安や金融制度が未整備な国々では、新車購入が難しい層にとって、車の所有は

「通貨代替的価値」

を果たす。一部のアフリカ諸国では、ランドクルーザーが土地や金と同等の交換価値を持つ。保険制度やローン制度が脆弱な国々では、耐久消費財の信用が経済的インフラを代替する役割も果たしている。こうした事情から、ランドクルーザーの需要は底堅いといえる。

環境と価格の課題車

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トヨタ・初代ランドクルーザー(BJシリーズ)(画像:トヨタ自動車)

 ランドクルーザーがロングセラーとして成功した背景には、あまり語られない事実もある。武装勢力によって、軍事上の

「テクニカル(即製戦闘車両)」

として利用される例もある。皮肉なことに、ランドクルーザーの耐久性が、紛争地での活用を助長してしまった面も否めない。

 環境性能では後れをとっている。車両の大型化に燃費性能が追随せず、不一致が生じている。最新モデルの300系ガソリン車の燃費(WLTCモード)は約8km/Lにとどまる。先代200系から排気量は3割減となったが、燃費改善は2割程度にとどまっている。

 車両価格も高騰傾向にある。新型300系の日本価格は、ガソリン車(5人乗り)で525万円、ディーゼル車(7人乗り)で774万円となる。北米でも6万ドル(約888万円)前後で販売されている。かつての

「庶民のための耐久SUV」

というイメージとは大きく乖離し、高級車並みの価格帯に達している。高価格化と環境不適合は、今後のモデル存続における顕在リスクとなる。

 一方で、ランドクルーザーは新たな価値の模索も進めている。国内では観光産業や災害対応に活用され、その価値が再評価されつつある。中東では、石油収入依存からの脱却を目指す国々が観光産業への転換を図るなかで、砂漠地帯などでの活用例が増えている。将来的には、

・ハイブリッド化

・電気自動車(EV)化

によるブレークスルーが期待される。EVモデルであれば、災害時に電源供給が可能となる。また、長期稼働車両のリサイクルやリファービッシュ市場を拡大すれば、新車販売に依存せず、持続可能なビジネスモデルの構築も可能だ。

循環型モデルの構築力

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トヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)

 ランドクルーザーの未来に向けた可能性を整理すると、まず環境規制への適合は不可避である。世界的なEVシフトの潮流により、次世代ランドクルーザーの電動化は避けられない段階にある。大型車両の電動化は技術的ハードルが高いが、研究開発を重ねて実現することが求められる。また、

・軍事利用

・不正輸出

の監視体制の強化も必要だ。乗用車として生産されるランドクルーザーが軍事利用される実態を放置することは許されない。加えて、公的調達や国際機関の「グリーン調達要件」への対応も求められる。これを満たせば、販売のさらなる拡大につながるだろう。

 サステナビリティの観点では、既存車両の長寿命性を活かした「循環型輸出モデル」の構築も重要である。耐久性という強みを再生利用に活かし、新車販売に依存しない再生流通プラットフォームをグローバル規模で整備することが求められる。

 ランドクルーザーが世界で選ばれ、競争優位性を持つ理由は、

「ブランド神話」

を超えた制度・市場・経済構造に深く根ざしている。その普遍性を維持するには、環境、安全保障、経済の三つの次元での再定義が不可欠である。

 トヨタが次に示すべきは過去の信頼性ではなく、未来の適応力だろう。電動化の実現が、最初に乗り越えるべきハードルとなるに違いない。