AIが同僚に?上司も代行?迫るエージェント時代、問われる人の価値

自社のイベントに出席したソフトバンクグループの孫正義会長兼社長

 「顧客のニーズを考えると、きょうはこれらの商品が候補になります」

 ある会社の営業担当者が取引先に向かう前、同じ営業担当のAIと打ち合わせをしていると、パソコンの画面にこんな表示があった。社内外の情報から、AIが勧めるべき商品を提案してくれたのだ。商談中は顧客とのやりとりをAIが分析し、追加生産が可能かを本社の生産部門と調整。商談が一息つくころには、見積もりが手元に届いていた―。

 これは遠い未来の物語ではない。新たな技術「AIエージェント」によって、近いうちに日常になるかもしれない光景だ。

 エージェントの特徴は、自ら判断して動くことだ。従来の生成AIのように、作業の過程で人が「課題を調べて」「資料をまとめて」と細かく指示を出さなくても、必要な仕事を自動で進めていく。そのため同僚のように仕事を任せられるほか、経営判断にも生かせると注目が集まる。

 一方で「人の仕事がなくなるのではないか」という懸念の声もある。エージェントがさまざまな作業を代行する時代、会社や働き方はどう変わるのか。そしてこの先、人にしかできないことは残っているのだろうか。(共同通信=中川亘)

▽自動化進める“代理人”

 AIエージェントは人工知能を示すAIと、「代理人」を意味する英語のエージェントを組み合わせた言葉だ。文章や画像を自動で作り出せる生成AIに続く、大きな技術進化とみられている。

 生産性を高められるとの期待から、ビジネスの現場ではすでに実装が始まっている。コールセンターでの問い合わせ対応やソフトウエアの開発など、幅広い分野で利用が見込まれている。

 7月には、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が「10億のエージェントをつくる」と表明し、規模の大きさが話題を呼んだ。導入の動きが本格化していることから、2025年は「AIエージェント元年」とも呼ばれている。

 こうした先端技術の行方を探ろうと、世界的なコンサルティング会社アクセンチュアで、日本のAI部門を統括する保科学世さんを訪ねた。さまざまな企業のAI導入を支援してきた保科さんは、これからの組織は人だけでなく、エージェントがいることが当たり前になるとの見方を示す。

インタビューに答えるアクセンチュアの保科学世さん

―エージェントはどんなことができますか。

 「自律性が大きなポイントで、『こういうことをしたい』と伝えるとエージェントが自ら必要なデータを集め、計画を立て、実行します。これからは、あらゆる作業で人とエージェントが連携していくことになるでしょう」

―さまざまなエージェントが登場しそうです。

 「今後、エージェント同士で商談することもあり得ます。例えば自社のエージェントと取引先のエージェントで事前に条件をすり合わせ、最後に人が出てきて契約書にサインをする…こんなイメージです」

―会社の形はどうなりますか。

 「大きく変わります。経営もエージェントに相談しながら進める世界になりそうです」

 「私たちはCEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)のような幹部役のエージェントを開発しています。さまざまなデータを学習しているので、会議に参加すれば、市場規模やシェアについて説得力のある数字を示し、議論の質やスピード感を高める可能性があります」

―働き方も変わりますか。

 「私は社内で、AIを使ってデスクワークを最小化するようにと言っています。代わりに人は現場に足を運んで、そこにしかない情報を探したり、顧客とコミュニケーションを取ったりすることが重要です」

―人の価値をどこに見いだしますか。

 「AIは最適化が得意ですが、意志をもっているわけではありません。それに対して人は、論理的ではなくても『世の中をよくしたい』という熱い思いのあるリーダーに、仲間が集まることもありますよね」

 「これからは管理のうまさより、人の心を動かす言葉や情熱があるかどうかが一層問われそうです。だからこそAIを活用しつつ、幅広い経験を積み、人としての魅力を高めていく。こうしたことが大事になります」

取材に応じる三菱総合研究所の比屋根一雄さん

▽AIに使われる社会…人はどう生きる?

 AIエージェントの能力は、さまざまな先端技術を組み合わせることで実現している。文脈を理解し、自然な応答ができる生成AI「大規模言語モデル(LLM)」などはその代表例だ。チャットGPTを手がけるオープンAIや、グーグルといった米国勢と中国勢が開発を激しく競っている。

 エージェントをはじめとするAI技術は職場だけでなく、社会や人の価値観にも大きな影響を与えそうだ。三菱総合研究所で生成AIラボ長を務める比屋根一雄さんに未来予想を聞いた。

―AIの歴史の中でエージェントはどんな位置付けですか。

 「生成AIがブレークスルーだとすれば、エージェントはその進化形だと捉えています。さらに近い将来『AIを開発するAI』が登場し、爆発的に性能が上がるという予測もあります」

―技術の進化に伴い社会はどんな姿になりますか。

 「AIを使う人と、AIに使われる人が出てきます。配達の仕事ではすでに、AIが示すルート通りに動いている人もいますが、このようにAIの指示を受ける人が今後、事務系の仕事でも増えていくかもしれません」

―雇用が消失する恐れも指摘されています。

 「AIによって仕事を失った人が、自身の強みを生かせる職業に再び就ける割合は多くはないでしょう。新たな技能を身につける『リスキリング』のあり方が今後、社会問題になりそうです」

 「一方で新しい仕事も生まれるとみています。一例ですがエージェントを使えば、訪日客へのきめ細かな観光案内なども可能です。少ない人数でもできることが増え、仕事のスピードも上がるはずです」

―AIの行く末が気になります。

 「私は基本的に楽観していますが、一定のリスクもあると感じています。例えば権力者が、高度なAIを国民の監視や世論操作に悪用すれば、社会に大きな被害が出る恐れがあります。また将来、さらに進化したAIが、AIにとっては良くても人類の利益には反する判断を下すようになるかもしれません」

―これから人はどう生きればいいでしょうか。

 「意思決定と責任を取ることが、人に残された数少ない役割になります。そして圧倒的に優秀なAIが身近になるにつれて、他人と能力を比べたり、誰かを出し抜いたりすることの意味は薄れていくと思います」

 「これからの時代は、自分なりの楽しみを見つけることが大切です。模型を作ってもいいですし、仲間と何かをしてもいい。AIを使ってやりたいことを実現するのもいい。人にしかできないこと。それは人生を楽しむことです」