キッコーマンの中野祥三郎社長 米国のしょうゆ事業、10年間で製造能力最大1・4倍へ

キッコーマンの中野祥三郎社長CEO=東京都港区(酒巻俊介撮影)
キッコーマンの中野祥三郎社長CEO(最高経営責任者)が産経新聞の取材に応じた。調味料として、海外でも普及が進む主力のしょうゆ事業に関して、米国で第3工場を稼働させ、米国での製造能力を今後10年間で30~40%引き上げる方針を明らかにした。物価高で節約志向が高まる国内では、消費者に商品の特徴をしっかり伝える広告などの戦略推進や、価格や付加価値といった多様なニーズにあった商品をそろえる考えも示した。主なやりとりは次の通り。
ーーしょうゆの普及が進む米国での事業の展望は
「市場規模もわが社の売り上げも大きくなってきたが、まだ成長できると考えており、第3工場を建設中だ。2026年に稼働すれば、今後10年間で製造能力を30~40%増やすことができる。米国の家庭におけるしょうゆの使用率はまだ半分程度。いろんなレシピも提案し、使用頻度も増やしていきたい。新工場建設に伴う生産増に見合う需要はある。今後10~20年で事業規模を1・5~2倍に成長させることができる」
ーー米国の関税政策の影響は
「しょうゆ事業に関しては、一部の特殊な商品を除けば、米国で販売する商品は現地生産なので影響はほとんどない。もう一つの柱である食品の卸売り事業は米国内の調達も多いが、日本やアジアの国からの輸入もある。関税の引き上げ分は最終的には価格に転嫁しないといけないが、在庫もあるので大きな影響は出ていない。心配なのは関税政策の米国景気への影響だ」

米ウィスコンシン州に建つキッコーマンのしょうゆ工場=2021年(山沢義徳撮影)
ーー米国以外の海外事業の展望は
「欧州やアジアで(しょうゆの売り上げを)伸ばしていくことに今一番注力している。欧州は食文化が国ごとに多様で、われわれが街のレストランでの使い方をみて、逆に商品化したものもある。飲料やカップ麺などと異なり、定着に時間はかかるが、じわじわと成長していく」
ーー物価高で消費者の節約志向が強まっている
「いろいろ考えて特徴のある商品を作らないとダメだ。テレビCMや新聞、インターネット、店頭での販促活動など多様な広告手段を連動させて、消費者にその特徴をしっかり伝えないといけない」
「しょうゆで言えば、新鮮なおいしさを保つ密封ボトルを使った『いつでも新鮮』シリーズに力を入れているが、料理好きでしょうゆをよく使う方は単価が安い、昔ながらの大容量ペットボトルを購入される。減塩や国産・有機原料にこだわる方も増えており、多様なニーズに対応したものをそろえないといけない」

キッコーマンの中野祥三郎社長CEO=東京都港区(酒巻俊介撮影)
ーー12期連続で最高益を更新。成長分野への投資は
「まずは既存事業をしっかり成長させるために、生産、人材育成、技術開発、ブランド力の向上などに投資していく。もう一つは、しょうゆや食品の卸売りに次ぐ3番目の柱となるような、1000億円程度の売り上げ規模を生み出す新事業を立ち上げたい。いろんな部門から人材を集め、プロジェクトを立ち上げて、取り組んでいる」
ーー人手不足への対応や人材の定着の取り組みは
「やらされる仕事は面白くないので、自分で何をやっていくか考えてほしい。その一環で、グループ全体のグローバルビジョンのもと、各職場で所属長がビジョンを書いている。所属長のビジョンや職場の紹介は社内向けのホームページに載せている。(社長CEOになった)23年からは、全社員に個人でどういう思いで仕事に取り組み、そのためのスキルを身に着けるかなどの個人ビジョンを任意で書いてもらっている。今では半数以上の社員が書いている。給与も同業他社に引けを取らないようにしっかり引き上げていくが、仕事に対するモチベーションをしっかり上げていく」(永田岳彦)

キッコーマンの中野祥三郎社長CEO=東京都港区(酒巻俊介撮影)
中野祥三郎
なかの・しょうざぶろう 慶大院修了、1981年4月、キッコーマン入社。取締役常務執行役員最高財務責任者(CFO)、社長最高執行責任者(COO)などを経て、2023年6月から現職。千葉県出身。68歳。
編集後記
「次男だったので、銀行とか金融系の企業に就職するつもりだった」。創業家一族出身だが、キッコーマンには〝創業家一族から入社できるのは1世代1人だけ″という〝暗黙のルール〟があり、兄が入社すると思っていたと振り返る。ただ、兄が若くして体調を崩したことで父親に入社するように言われ、人生は大きく変わった。
若くして海外に赴任した経験から多様性を認め、上司や部下という立場を問わず、自由に意見をいえる環境を重視する。そうした社員の力を結集し、2025年3月期まで12期連続で過去最高益を更新した。調味料としてのしょうゆを世界に広めて、さらなる成長を目指す考えだ。