「現場は疲弊」「廃線も視野」 ローカル鉄道を揺さぶる“脱炭素”というジレンマ! 「非電化区間」に迫るGX投資の現実とは

鉄道GXの現実的課題

 政府は「2050年カーボンニュートラル」と「2030年代にCO2を46%削減」の方針を掲げ、各産業に排出量削減を要請している。鉄道分野でもCO2削減が求められている。国土交通省は「鉄道分野のGXに関する官民研究会」を開き、鉄道事業でCO2削減を実現する方法を検討している。GXとはグリーン・トランスフォーメーションのことである。

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 鉄道のCO2排出量は全体の2%にすぎない。しかし鉄道は人や物の輸送を集約できるため、省エネの象徴的な産業として注目されている。効率性の高さがその理由だ。

 一方で鉄道GXの実現は現場では容易ではない。古い車両や設備が残る現状では、多くの課題がある。とくに

「非電化区間の脱炭素」

は難易度が高い。非電化区間では、化石燃料を使う気動車がほとんどだからだ。

 非電化区間が多いJR北海道や中小私鉄・第三セクターにとって、CO2削減は将来的に必要である。しかし現状で対応できるかは大きな課題となっている。こうした鉄道にとって、ハイブリッド気動車の導入は何をもたらすのかが注目される。

気動車更新の高コスト

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GXイメージ(画像:写真AC)

 日本の鉄道には電化区間と非電化区間がある。電化区間は全体の63.7%、非電化区間は36.3%を占める。北海道、四国、九州など本州以外のJRでは非電化が過半数を占め、第三セクター鉄道でも非電化路線が多い状況だ。

 鉄道のCO2排出の約4.8%は内燃動車によるもので、排出量は48万tに上る。鉄道全体のCO2排出量は993万tで、電車走行による排出は704万t、全体の70.9%を占める。

 既存の気動車は液体式で、

・ディーゼルエンジン

・液体式変速機

を組み合わせて走行する。エンジンの回転が列車の動きに直接反映される仕組みだ。

 既存の気動車は老朽化が進んでいる。更新には1両あたり2億円前後のコストがかかる。特に気動車依存が高く、走行環境の厳しいJR北海道では2024年度決算で鉄道事業の営業損失が約589億円に達しており、設備投資の余力は乏しい。

 電化やVVVF化(全車両の高効率化)は大手鉄道しか実施できない構造だ。電化可能な区間はすでに電化済みである。小規模なJRや地方の私鉄、第三セクターでは、利用者減少に加え、GX投資の負担が新たな経営圧力となっている。

地方鉄道の制度的制約

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国土交通省(画像:写真AC)

 ハイブリッド気動車はクリーンであり、鉄道業界からの期待は高い。しかし導入費用は高額で、液体式ディーゼル気動車の2倍から4倍かかる。

 メンテナンス方法も既存の気動車とは異なるため、新たな技術者や要員が必要になる。蓄電池は定期的に更新しなければならず、ライフサイクルコストの面では逆効果になる場合もある。

 国土交通省鉄道局はハイブリッド気動車への税制優遇を講じている。「低炭素化等に資する旅客用新規鉄道車両」(特急用車両などを除く)は、条件を満たせば取得後5年間、固定資産税の課税標準を中小事業者以外は3分の2、中小事業者は5分の3に軽減する。「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」でも鉄道車両が対象になる。

 だがこうした補助制度は大手鉄道事業者を想定していることが多く、中古車両で対応する地方鉄道には恩恵が届きにくい。現場では

「GXの掛け声だけが先行し、現場が疲弊する」

という声が聞こえる。

 その結果、地方鉄道では車両導入による事業存続より、廃線やバス転換のほうが合理的と判断されるリスクもある。GXと地方鉄道の存続は両立できるのか、課題は大きい。

ハイブリッド導入の制度設計

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GXイメージ(画像:写真AC)

 気動車のGXを進めるには、鉄道会社だけでなく、車両メーカー主導の開発も必要である。日立製作所は高効率モーターや次世代リチウムイオン電池パックの開発を進めている。英国ではバッテリーハイブリッド車両が導入されており、パンタグラフ、バッテリー、ディーゼル発電機の電力を組み合わせて走行する。

 ハイブリッド車両は1両単位で導入できることが望ましい。好例がJR東日本のHB-E220形である。設計を共通化することで、各地でハイブリッド気動車を導入しやすくすることも重要だ。国土交通省が検討する「鉄道GX支援スキーム」では、中小私鉄向けの設備投資助成も議題に上がっている。

 JR九州のBEC819系電車やEV-E801系電車など、蓄電池電車の技術も波及させる必要がある。技術開発を進めると同時に、地域モビリティの制度設計も検討しなければならない。「路線維持」よりも

「地域モビリティ全体の最適化」

を軸とした政策転換、地域交通再構築事業との連携も求められる。技術と制度を組み合わせ、地域モビリティを最適化することが重要だ。

 鉄道GXによる技術革新は、地方鉄道の新たな突破口となりうる。ハイブリッド車両の導入は地方での再エネ活用にもつながる。鉄道車両メーカーにとっては標準化の契機となり、海外展開の足掛かりにもなる。自治体にとっては

「地域モビリティ維持のためのGX投資」

という新しい文脈が生まれる。こうした試みは、地方鉄道の「社会的価値」を再定義する契機ともなる。

ハイブリッド気動車の象徴性

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国土交通省(画像:写真AC)

 現在の地方公共交通では、「鉄道を守る」考えから

「地域輸送を設計する」

考え方に転換する必要がある。そのうえで、鉄道を残す価値がある場合のみ存続させる判断が求められる。ハイブリッド気動車の導入などの技術は手段であり、地域の交通インフラをどう持続させるかが課題だ。

 ハイブリッド気動車はその象徴であり、決して万能薬ではない。人口縮小が前提の時代に、GXを前向きな成長機会として捉え、地方公共交通の維持力として活用する必要がある。ハイブリッド車両の導入には費用がかかり、地方鉄道にとって大きな負担になる。しかし、その負担によって公共交通が

「地域にとって価値あるもの」

になるかは、十分に検討の余地がある。