「100年続けていくとすれば…」3世代でケーキ店、生涯現役89歳パティシエ活躍中 地域密着、成功の秘訣は?

「ふらんす菓子屋エミリー」の小野康雄さん(中央)、次男の善秀さん(左)、孫の和樹さん=愛知県尾張旭市

 愛知県尾張旭市の住宅街で半世紀以上続く「ふらんす菓子屋エミリー」は、創業者で89歳の小野康雄さんと56歳の次男善秀さん、25歳の孫和樹さんの3世代で切り盛りする地域密着のケーキ店だ。康雄さんは出身地の新潟から上京してケーキ作りを学んだ後、東京・町田市の最初の店を経て、親戚がいた尾張旭に店を構えた。

 「派手でなくても、喜んでもらえる店でありたい」。物価高でも手頃な価格設定を続け、ケーキ教室開催などで地道に常連客を増やしてきた。お礼状も欠かさず、今では地元になくてはならない店になっている。(共同通信=野本めぐみ)

▽好きだから

 今年7月上旬、桃やマンゴーを使った季節感あふれるケーキや、定番のショートケーキなど約25種類が、手書きのポップとともにショーケースに並んでいた。康雄さんは毎日、午前7時半から調理場に立ち、アップルパイやモンブランなどを作る。

 昨年12月、その姿を89歳の誕生日記念に交流サイト(SNS)にアップすると、700以上の「いいね」が付いた。「生涯現役、すてきですね」といったコメントもあった。康雄さんは「好きだから続けられた」と気負わず振り返る。

チョコレートケーキ「エミリー」

▽覚えやすく、ケーキ屋さんらしく

 1935年、康雄さんは新潟県で生まれた。中学を卒業した後に上京し、知り合いの紹介で、洋菓子などを扱う店に住み込み、働いた。

 それまでケーキを食べたことはなく、材料のバタークリームを味見して「これがケーキっていうものなのか」と思った。一から作り方を学んだ。

 1966年に独立して、東京都町田市で開業した。店名は、妻光子さん(85)とお菓子の本を見るなどして一緒に考え、偶然同じアイデアを持ち寄った「エミリー」に決めた。「覚えやすくてケーキ屋さんらしいから」。店名を冠したチョコレートケーキ「エミリー」も、創業時から作り続けている。

 1972年には、親戚がいたことや、市営団地が立地し集客が見込めたことから尾張旭市に移り住んで店を構えた。当初は、ケーキの売り上げだけでは成り立たず、たばこやジュースを主に販売した。

2000年ごろのエミリー。奥にはたばこの棚が見える

▽進路変更

 2000年ごろ、東京でケーキ作りの修業を終えた次男善秀さんが店主を引き継いだ。「バイク屋をやりたい」と、スズキ二輪でオートバイ整備の仕事をしていたが、ケーキ屋を父親の代で終わらせるのは惜しいと、24歳から菓子作りを学んでいた。

 しかし、たばこを買いに来るお客さんの方が多く、ケーキの売り上げは伸びなかった。目玉商品として、「焼きたてのシュークリーム」を提供しようと、善秀さんは1日に何度も皮を焼き上げ、看板メニューに育てた。当時は冷凍したシューが一般的だったといい、手頃な価格だったこともあり、人気が出た。

小学生向けに開かれたケーキ教室

 さらに、2005年ごろから始めたケーキ教室が「起爆剤になった」。年100回ほど開催し、のべ2万人の小学生らにシュークリームやケーキの作り方を教えた。

 店頭に並べるケーキのデコレーションにも力を入れ、表彰状風のプリントを施したケーキや、プリンセスのドレスに見立てたケーキなど、次々に新作を並べた。

プリントを施したケーキ

▽気軽に楽しめる値段で

 地元の人たちとのつながりも店の強みだ。誕生日のケーキを注文した人には、受け取りに来た際に写真を撮影してはがきに印刷し、お祝いの手書きメッセージを添えて送る。

 物価高の影響で小麦など原材料の値上がりは厳しいが、「気軽に楽しめる値段にしたい」と善秀さん。ロスを防ぐなどして価格を抑える努力をしている。ケーキは一つ400円前後。手に取りやすい価格の焼き菓子も、50種類ほど用意する。

 善秀さんの妻由里さん(54)の実家、山梨市でとれた桃を使うなど、積極的に季節感を取り入れているのもこだわりだ。

「ふらんす菓子屋エミリー」で作業する小野康雄さん=愛知県尾張旭市

▽3代目

 今では、康雄さんらを含めて5人のパティシエが活躍する。2年前に、孫和樹さんが東京の修業から戻ってきた。

 「100年続けていくとすれば、時代に合わせて変わっていく部分もあるだろうけど、みんなが来やすい店にしたい」と和樹さん。

 閉店後は、家族で新商品について話し合う。和樹さんが考案し、今年5月から販売しているレーズンバターサンドも好評だ。康雄さんは「おいしいねと褒めてもらえれば、それが一番。ちょっと疲れたなという時に甘いものを食べてほしい」と笑顔を見せる。

 89歳になった今も、休日にはバスと地下鉄を乗り継ぎ、名古屋市内のデパートを訪れる。ケーキ売り場などをのぞき「新しいものを見るのが楽しみ」。来年迎える開業60周年を前に、家族で協力して店をもり立てていく。