テレビを持っていなくても、NHKの番組をネットで見られるように ややこしい手続きのどこから、受信料を請求されるのか

NHK放送センター=2025年11月、東京・渋谷

 NHKがテレビ・ラジオに加え、インターネット業務を法律で義務づけられた。これに伴い、テレビを持っていない人も、NHKの番組や情報をネットで視聴できるようになった。ただし、NHKと受信契約を結ぶ必要があり、その手続きがややこしい。何をすると、受信料を請求されるようになるのか―。(共同通信編集委員・原真)

NHKネットサービスの新旧比較(NHKホームページから)

 ▽一つではない「NHK ONE」

 NHKは1995年に公式サイト「NHKオンライン」を開設し、ニュースなどを提供してきた。2008年、過去の番組を有料で配信する「NHKオンデマンド」を開始。2011年にラジオの同時・聴き逃し配信「らじる★らじる」、2020年にはテレビの同時・見逃し配信「NHKプラス」をスタートさせた。

 主力の「NHKプラス」は当初、テレビを所有して、NHKと受信契約を結び、受信料を支払っている人向けのサービスだった。テレビを持たず、受信料を支払っていない人もNHKプラスを利用できれば、支払っている人と不公平になってしまうからだ。

 テレビのない人が、NHKプラスの利用を望んだ場合、テレビを買うよう求められた。放送法上、テレビ受信機を設置した人は、NHKと受信契約を結ばなければならないが、受信機がなければ、契約の対象にならない。

 しかし、NHKがネットに進出するのは、テレビ離れが進む若者らに、NHKの番組や情報に接してもらうためだ。テレビを買わなければネットを利用できないというのは、本末転倒も甚だしかった。

 ネットの普及に対応して、欧州諸国は公共放送の受信料制度を改正している。英国は、テレビを持たなくても、スマートフォンやパソコンで公共放送の動画配信を視聴する世帯は、受信料徴収の対象とした。ドイツは、テレビやスマホなど機器の所有に関係なく、全世帯から受信料を集めるようにした。

 ただ、ドイツ型には抵抗も予想されるため、日本は英国型を選択した。改正放送法により、2025年10月1日から、テレビ・ラジオの放送と同様、通信のネット経由の番組や情報の提供も、NHKの必須業務とされた。テレビを設置した人だけでなく、NHKの番組配信や番組に関連する情報(番組関連情報)をネットで受信し始めた人も、受信契約を義務づけられた。

 その受信料の金額は、BS放送を除く地上放送のみの契約と同じ月1100円だ(2カ月ごとに支払う場合)。

 NHKは、必須業務となったネットのサービス全体を「NHK ONE」と名付けた。パソコンなら、NHK ONEのサイトから、NHKプラスをはじめ各サービスを利用できる。

 ところが、スマホだと、ジャンルごとに次の五つのアプリをダウンロードする必要がある。

・NHKプラス

・報道の「NHK ONEニュース・防災」

・学校教育の「NHK ONE for School」

・語学講座の「NHKゴガク」

・らじる★らじる

 全然、ONE(一つ)になっていない。

 しかも、五つあるアプリのうち、NHKプラス、NHK ONEニュース・防災、NHK ONE for Schoolの三つはリニューアルされ、これまで使っていた人も、ダウンロードし直さなければならない。技術的な理由だというが、面倒なのは否めない。

 ▽4段階

 実際にNHK ONEを利用するには、どうすればよいのか。4段階の手続きが必要になる。

 第1段階は、受信契約の必要性の確認だ。初めてNHK ONEにアクセスしようとすると、「ご利用に当たって」というページが開き、「受信契約を締結されていない方がご利用された場合は、ご契約の手続きをお願いします」との表示が出る。「内容について確認しました」のボックスにチェックを入れ、次のページで用途(「世帯(個人)で」など)と地域(「神奈川県(横浜放送局)」など)を選択した上で、「サービスの利用を開始する」をクリックすると、視聴可能になる。

 第2段階は、「NHK ONEアカウント」の登録になる。メールアドレスを入力し、パスワードを決めて、NHK ONEアカウントを作る。その上で、個人の「プロファイル」を設定すれば、プロファイルごとに、気に入った番組などをリスト化できる。一つのアカウントで、五つまでプロファイルを設定可能で、家族で使い分けられる。

 第3段階は、受信契約情報の登録である。既にテレビを持ち、受信契約をしている人は、氏名、住所、電話番号などを入力して、「受信料アカウント」を登録する。これをNHKが確認すると、メールが送られてくる。一方、受信契約をしていない人は、氏名や住所、さらにクレジットカード番号などを入力して、新たに契約を結び、受信料アカウントを作る必要がある。

 そして、第4段階は、NHK ONEアカウントと受信料アカウントの連携だ。受信料アカウントで設定したIDとパスワードを入力することで、連携が終わる。これで手続きが完了する。

スマホ画面に表示されるメッセージのイメージ(NHK資料から)

 ▽画面にメッセージ

 2025年9月以前にNHKプラスを利用していた人は、比較的簡単な手続きで済むが、それ以外の人は、かなり複雑な作業を強いられる。それは、NHKが公共放送として、受信契約をしていない人にも、番組や情報を全く見せない訳にはいかないからだ。

 スカパー!やWOWOWのような有料放送であれば、契約しておらず、視聴料を支払っていない人は、番組を見られない。電波にスクランブル(暗号)をかけて、視聴料を支払った人だけ、鍵を開けて見られるようにしている。

 これに対し、NHKは公共放送であり、放送法上、豊かで良い番組を放送し、日本全国であまねく受信できるようにしなければならない。受信機を設置した人は、受信契約を義務づけられるとはいえ、契約しなくても罰則はない(ただし、割増金を課される可能性はある)。NHKの存在意義を視聴者に理解してもらい、自主的に支払ってもらうのが原則なのだ。受信料は放送サービスの対価でなく、「特殊な負担金」と言われるゆえんである。

 事実、地上放送は、受信料を支払っていなくても、テレビがあれば視聴できる。衛星(BS)放送は、受信契約をしていないと、契約を促すメッセージが画面に表示される。では、ネットはどうなるのか。

 第1段階で受信契約の必要性を確認し、NHK ONEを利用し始めながら、第2段階のNHK ONEアカウントを登録していない人や、第3段階の受信契約情報の登録、第4段階のアカウントの連携を行っていない人には、登録・連携を求めるメッセージがスマホやパソコンの画面に大きく表示される。このメッセージは「×」ボタンを押せば消せる。つまり、番組や情報は視聴できる。NHKは「サービスの利用そのものを阻害するような形は取れない。使いたい方には、いったん利用してもらえるようにする」と説明する。

 その後も登録・連携をしない人には、画面の3分の1程度の大きさで、メッセージが表示される。×ボタンはなくなり、消すことはできない。番組などの一部が見られなくなる。受信料を支払わずに視聴するフリーライドを抑止しつつ、スクランブルにならないようにする工夫だ。このメッセージは、大災害時などには消える。

NHK ONEをアピールするNHKのアナウンサー=2025年7月、東京・渋谷のNHK

 ▽情報を大幅に削除

 では、受信契約の締結を義務づけられるのは、どの段階なのか。放送法は、受信契約の対象を、放送ではテレビを設置した人、ネットでは番組配信や番組関連情報の受信を開始した人、と定めている。NHKは、第1段階で受信契約の必要性を確認し、サービスの利用を始めたときに、契約義務が発生し、受信料を支払うことになると解釈している。

 この段階では、視聴者の氏名や住所はまだNHKに知られていない。それでも、ネット上の住所に相当するIPアドレスは、NHKに伝わる。NHKが受信料を徴収するため、発信者情報の開示請求などの法的手続きを取れば、インターネット・サービス・プロバイダーと契約している人の氏名・住所などを把握できる可能性がある。その人を相手に、支払い督促や民事訴訟を起こして、受信料を請求することも不可能ではない。

 だが、受信契約の必要性を確認した人が、プロバイダー契約者と同一人物とは限らず、特定は難しい。このため、NHKは「自主的に届け出てもらうのが基本」として、発信者情報の開示請求は当面行わない方針だ。

 現実的には、例えば第3段階で氏名、住所などの受信契約情報を登録した後、長期間にわたって受信料を支払わなかったような場合に、支払い督促など法的手続きの対象になるのではないか。

 NHKは、テレビを持たず、新たに受信契約を結ぶ人は、年に1~2万件と予測している。テレビを持つ人が減る中、受信料収入を確保したいNHKにとって、ネットでも受信料を徴収できるようになったのは悲願成就といえる。

 しかし、テレビの受信契約が2025年3月末、4067万件に上るのと比べると、ネットの受信契約は、ごく少数にとどまる。そして、それが急増する可能性は低い。

 なぜなら、ネット必須業務化に合わせて、NHKは番組以外のネット上の情報を大幅に削除したからだ。

 NHKがネットに本格進出することについては、民放や新聞社など競合するマスメディアが「民業圧迫になりかねない」と懸念を表明していた。このため、改正放送法はNHKに対し、番組と番組関連情報以外の提供を禁じた。NHK自身も、放送とネットで「同一の価値」を提供すると表明し、番組の同時・見逃し配信を除き、ホームページに載せるのはニュースの原稿や広報資料などに限定した。そのニュース原稿も以前は長期間掲載していたが、2025年10月以降、NHKプラスの見逃し配信と同じく、原則1週間までとした。

 ネットオリジナルのコンテンツは一掃した。「政治マガジン」などの連載はもちろん、性暴力の実態や被害者の声を伝える「性暴力を考える」や、神奈川県相模原市の障害者殺傷事件の被害者を描いた「19のいのち」といった特設サイトも廃止。「性暴力を考えるに」ついては、存続を求める署名活動が起きた。

 視聴者からすれば、サービス低下にほかならず、不満が出るのも無理はない。

新登場のキャラクター「NHK ONE どーもくん」=2025年9月、東京・渋谷のNHK

 ▽パンドラの箱を開けた?

 さらに、原理的な問題もある。前述の通り、放送法が受信契約を義務づけたのは、テレビを設置するか、ネットでNHKの受信を開始した人だ。ネットの場合、スマホやパソコンを持っただけで、受信契約を義務づけられることがないのは、それらの端末がNHKの視聴以外にも利用されるからである。つまり、ネットでは、自ら進んでNHKを見るという選択をした人だけが、受信料を支払うことになる。

 一方、テレビでは、NHKを見る・見ないに関係なく、全ての人が受信料を支払うことになっている。とはいえ、最近のテレビは、ほとんどがネットに接続可能で、「ユーチューブ」の動画などを楽しんでいる人も多い。今やテレビも、スマホやパソコンと同様の多機能端末になっているのだ。それなら、テレビでも、NHKを見る人だけが受信料を支払い、見ない人は支払わなくてもよいように、制度を変えるべきではないのか―。そんな疑問が生じて当然だろう。

 ネット必須業務化は、NHKに新たな収入をもたらすと同時に、受信料制度の根幹を揺るがす「パンドラの箱」を開けることになったのかもしれない。