5年目に突入した超円安局面、終止符を打つために最低限必要なのはリフレ思想の撤回と中立金利までの利上げ

最も現実的な円安修正の近道, 高市政権、「ありのまま」を伝えれば良い, 支持率70%超えの高市政権だからできること, 海外金利が上がらないという円安修正の前提はどこまで?

東証の大納会に出席した高市首相。株価は大幅に値上がりしたが、物価高に苦しむ国民は少なくない(写真:つのだよしお/アフロ)

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

 2022年3月に始まった大幅な円安局面は当初、「米国が利下げに転じれば終わる」「日銀が利上げに転じれば終わる」と言われ、円安の構造性については杞憂だと考えられていた。ところが、米国の利下げ、日本の利上げ、いずれも経験したが円安は終息せず、2026年、今回の円安局面は5年目に突入する。

 以下の図表に示すように、結局、ドル安であろうとドル高であろうと、円だけは忌避されてきたのがこの4年間であり、「海外情勢を分析するより、日本固有の分析に着目すべきではないのか」という本コラムや拙著における問題意識は適切だったと考えている。

最も現実的な円安修正の近道, 高市政権、「ありのまま」を伝えれば良い, 支持率70%超えの高市政権だからできること, 海外金利が上がらないという円安修正の前提はどこまで?

 インフレが社会問題化する今日、「5年目の円安」を回避することは日本の政治・経済の最優先課題と言って差し支えない。それでは「5年目の円安」を回避するためには何が必要だろうか。

 問題の回避には、その問題の原因を特定しておく必要がある。もちろん、4年間の円安の原因は1つではなかったし、しかも時々刻々と変容してきた。

 円安局面の前半に相当する2022年や2023年は貿易赤字の膨張に象徴される需給構造の変容が円売りを駆動していたと考えて間違いないだろう。

 2022年は過去最大の貿易赤字(約▲20兆円)、2023年は過去3番目の貿易赤字(約▲9.5兆円)であり、筆者試算のキャッシュフロー(CF)ベースで見ると経常収支は赤字に転落していた疑いもあった(図表)。この状況で円安を警戒するのは、実に自然な話であったと言わざるを得ない。

最も現実的な円安修正の近道, 高市政権、「ありのまま」を伝えれば良い, 支持率70%超えの高市政権だからできること, 海外金利が上がらないという円安修正の前提はどこまで?

 2024年以降は貿易赤字縮小に伴ってCFベース経常収支は黒字に復活した一方、2023年から2024年にかけては日米実質金利差の拡大・高止まりが円安を支えたと見られる(後述)。2025年も貿易赤字は一段と縮小が続き、CFベース経常収支も一段と黒字幅が改善したが、日米実質金利差という意味では縮小しつつも、相応の幅が残っている。やはりこれが円安相場を支えた疑いが強い。

 なお、2025年に限って言えば、年前半は「ドル離れ」相場の中、対米依存度の大きい円も一蓮托生で避けられ、10月以降は高市政権に対するリフレ懸念で円や日本国債の売りが強まったという特殊な側面もあった。

最も現実的な円安修正の近道

 需給構造の変容は円高を示唆しているわけではないものの、円安加速を示しているわけでもなく、2026年は中立的な要因にとどまる公算が大きい。とすれば、やはりカギを握るのは日米実質金利差であり、とりわけ日本側の実質金利である(図表)。

最も現実的な円安修正の近道, 高市政権、「ありのまま」を伝えれば良い, 支持率70%超えの高市政権だからできること, 海外金利が上がらないという円安修正の前提はどこまで?

 皮肉な事実だが、正常化を託された植田体制の方が黒田体制よりも緩和度合いが強まっている以上、この修正なしに円安の修正も実現しない。

 12月29日に公表された同19日の日銀金融政策決定会合「主な意見」では、日本の実質金利について「群を抜いて世界最低水準」との意見が出た。また、中立金利についても「まだかなりの距離がある」との認識が示された。その上で、同じ委員が「当面は数カ月に1回のペースを念頭に」利上げすべきと主張したことが明らかになっている。

 恐らくは高田審議委員か田村審議委員と思われるこうしたタカ派色の強い意見を政策委員会の総意と読み替えることはできないが、「半年に1回」という保守的な金融市場の利上げ織り込みが円安を駆動しているのは間違いない。裏を返せば、この保守的な織り込みを打破することが円安修正の近道となる。

高市政権、「ありのまま」を伝えれば良い

 ただ厄介なのは、保守的な利上げ織り込みは金融市場が政治的な思惑を忖度した結果でもあるということだろう。要は、「どのみち、高市政権下では連続的な利上げは容認されない」と金融市場が高を括っている状況だと見受けられる。

 この点、後述するように、2026年度の予算編成は一応「責任ある」建て付けになっているのだから、堂々と現実の運営を「ありのまま」伝えるのが良いと思われる。

 客観的に見れば、政権発足2カ月弱で金融政策は利上げを実施し、2026年度予算編成は相応に健全な仕上がりに着地している。過去の本コラムでも「高市政権の良い意味での変節を市場にアピールすること」が円安や金利上昇を抑制することにつながると論じてきたが、昨年10月以降の行き過ぎた懸念を誤解だと説くことについては理がある。

 先の図表に見るように、実質金利差は確かに相応に拡大しているものの、円安加速はこれに対してやや行き過ぎているようにも見受けられる。

支持率70%超えの高市政権だからできること

 2026年度予算案を巡る報道は(当初予算案としては)、過去最大に膨らんだ122.3兆円という規模感に焦点を当てたものが多い。ただ、新規国債発行額は20兆円台が維持され、公債依存度(24.2%)も2025年度より抑制されるなど、当初の懸念とは良い意味で乖離した側面もあった。

 予算規模の拡大は積極的な財政拡張の結果というよりも、国債費の上昇、いわゆる積算根拠となる金利を引き上げた結果である。現時点のスナップショットだけを撮れば、リフレ思想からイメージされるような拡張財政への変容がみられたわけではない。

 もちろん、一般会計から特別会計に繰り入れる額を特例で圧縮したことで、見かけ上、公債依存度が抑制されただけであるし、そもそも税収が増えているのに新規国債発行額が増えている時点で規律は維持されていないという指摘も事実ではある。とはいえ、10月以降、総じて野放図な財政運営を警戒していた市場の思惑とは異なっているのも事実だろう。

 にもかかわらず、債券・為替市場の猜疑心は晴れていないのだから、実態をありのまま、効果的に伝えることができれば、市場期待を覆す目はある。

 リフレ政策を喧伝してきた以上、「ありのまま」を伝えてしまうと、従前の情報発信と齟齬が生まれると考えているかもしれないが、そもそも消費者物価指数(CPI)は総合ベースで見て44カ月連続で+2%を超えている。こうした状況下、デフレ脱却を宣言し、それと整合的に財政・金融政策運営が従前対比で引き締め的になっても全くおかしな話ではない。

 社会から物価高対策を要求されながら現状をデフレ的と表現し続けることの方がよほど不可思議である。堂々とデフレ脱却宣言をした上で、「財政政策は『責任ある』編成にしており、金融政策も引き締め的になっている」と強弁すれば良い。支持率70%超えの高市政権にそれができなければ、今後、デフレ脱却宣言は半永久的に封印されてしまう。

 同時に、繰り返し述べている点だが、首相周辺の経済アドバイザーから矢継ぎ早に放たれる拡張的な財政・金融政策を支持する発信も当面、抑制した方が良い。結局、そうしたノイズがある限り、高市政権がいくら良好な旋回を見せても効果が減殺されかねない。現実は、拡張財政でもなければ、金融緩和もしていないのだから、粛々とその事実だけを強調すれば良い。

 ところで、素朴な疑問だが、あれほど拡張的な財政・金融政策を声高に叫んで政権を支持していた識者にとって、最近2カ月間の利上げや予算編成はどう映るのだろうか。率直に興味深い。

海外金利が上がらないという円安修正の前提はどこまで?

 財政政策については当初予算案が健全性を保ち、日銀も相応に利上げを実施しそうだという現実が上手く伝われば、債券・為替市場のヒステリーは収まるだろう。既述の通り、需給構造も徐々に改善に向かっているのだから、2022~2023年よりは円売りを制しやすいはずだ。

 しかし、である。これらはすべて日本国内の事情に関わる議論だ。為替市場において「健全な財政政策とタカ派的な金融政策で円安は修正される」という想定がまかり通るのは「米国を筆頭とする海外金利が現状維持もしくは低下する」という大前提があるためだ。FRBやECBが2026年中に利上げする可能性は極めて低いとしても、利下げ局面の持続可能性はかなり怪しいものになってきているのは事実だろう。

 市場は極端なシナリオしか想像しない。「利下げ停止」と「利上げ開始」は同一視されやすく、少なくとも利下げ停止後の市中金利は上振れが前提となる。

 既にオセアニアの2中銀(オーストラリア、ニュージーランド)が利上げに舵を切り、ECBは利下げ局面の停止を半ば宣言している。FOMC(米連邦公開市場委員会)でも3分の1近くのメンバーが追加利下げに難色を示し始めている中、FRBが2026年下期にタカ派方向に旋回する展開がないとは言えない。

「5年目の円安」を回避するために必要な事実を総括すれば、日銀が少なくとも中立金利の下限と思しき1.25~1.50%までの利上げを行い、高市政権がリフレ色に染まっていない経済政策運営について「ありのまま」を強調することがまず求められる。その上で海外中央銀行がハト派でいてくれることを祈る……ということになるだろう。

 さしずめ人事を尽くして天命を待つという様相である。為替はどこまで行っても「相手がある話」であるため、他力本願になってしまうこと自体は致し方ない。

 円安抑制を望む日本の政策当局が単独で円高反転を実現させることは難しくとも、円安抑制に最善を尽くす姿勢は誇示せねばならない。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2026年1日5日時点の分析です

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中

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