「オルカン」は誰がどうやって運用している? 知られざるインデックス運用の舞台裏に迫る

「オルカン」は誰がどうやって運用している? 知られざるインデックス運用の舞台裏に迫る

2024年1月にスタートした新NISAによって資産形成デビューした人々を中心に絶大な支持を集めている「オルカン」こと「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」。同商品に代表されるインデックスファンドは、「指数連動型の投資信託」であることはなんとなくわかっていても、その運用現場の実情はあまり知られていない。「機械で自動的に運用されているのでは」と思っているユーザーも少なくないのではないか。

そこで、オルカンを運用する三菱UFJアセットマネジメントの運用プロフェッショナルにインタビューを敢行。インデックス運用チームの業務内容や、運用者に求められるスキル、エピソードなどを聞いた。

インデックスファンドもアクティブ同様にファンドマネジャーが運用

――投資信託の種類として、アクティブ型とインデックス型という分類があります。アクティブ型はアナリストが個別企業への取材・分析を行い、ファンドマネジャーが運用を指示する、などと説明され、個人投資家もイメージしやすい。一方、インデックス型は指数に連動するといわれますが、実際にはどのように運用しているのか、“現場“の情報が少ないため、イメージしにくい部分が大きいと思います。まず、御社のインデックス運用部の体制について教えてください。

荻野 当社全体の運用資産残高は約48兆円(2025年3月末時点)で、そのうち公募投資信託(除くETF)は24.5兆円になります。eMAXISシリーズの残高はその6割超にあたる15.5兆円にのぼります(同)。

私が率いているインデックス運用部は、現在約30名の体制で、そのうちファンドマネジャーは25名ほど。株式と債券、その中でさらに国内と国外で分かれているので、大別すると4チームになります。また、それと併務する形でバランスファンドの運用を4名ほどでやっています。株式の方がファンド数も多いので、6対4ぐらいで株式チームの方が人員は多い状態です。オルカンの運用としては、外国株式と国内株式で6名ずつ、加えて、バランスファンドの運用の4名で、合計すると16名になります。

インデックス運用部 部長 荻野 太陽氏

――インデックス運用に関わる実際の業務とはどんなものなのでしょうか。

小笠原 私は債券チームに所属すると同時に、国内と海外の資産をミックスした、バランス型ファンドの運用のアロケーション(配分)に関するパートを担当しています。担当するバランス型ファンドは80本弱あり、オルカンはその中の1つです。日々の業務について説明すると、通常夕刻に、当社で運用している全ファンドの資金流出入の金額が確定しますが、私は、その確定前の段階で、バランスファンドへ入ってきた資金の割り振りを計算します。オルカンの場合は、MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスをベンチマークとするバランスファンドの中に、先進国株式(MSCI コクサイ)と国内株式(同ジャパン)、さらに新興国株式(同 エマージング)といった個別のマザーファンドが含まれているため、買付分の資金が入ってきたら、それぞれのマザーファンドへの配分金額を計算して、マザーファンドの担当者へ伝達します。

インデックス運用部 株式グループ兼債券グループ チーフファンドマネジャー 小笠原 弘氏

樫村 私は外国株式のチームに属しており、各ファンドに振り分けられる資金が確定した後、現物株や先物の売買注文を出します。金額を受け取ってから30分以内には発注する感じでしょうか。発注までに少し時間がかかるのは、現物株と先物のどちらを売買するか判断し、その結果をもとに売買案を作成する必要があるためです。さらに、この対応をチームで運用している約40のマザーファンドで行う必要があります。

現物株と先物の選択においては、先物の方が圧倒的にコストが安いという特徴があります。入ってきた資金のうち、何パーセントまで先物を買えるのか、ファンドごとに許容できるポートフォリオに占める先物の比率というのがありますので、そこを判断します。流入してきた資金が許容範囲内に収まっていれば、先物を発注しますが、仮に大口の設定があり、先物の許容範囲を超える場合は、現物株を買いにいく、といった意思決定をする必要があります。

インデックス運用におけるシステムの重要性

――その先物の許容範囲というのは、連動する各指数とのトラッキングエラー(連動乖離)を意味しているのですか。

樫村 基本的にはそうです。許容できるトラッキングエラーに収まるかどうか、過去のデータの分析によって、先物の比率はファンドごとに決めています。

インデックス運用部 株式グループ チーフファンドマネジャー 樫村 洋平氏

荻野 インデックスファンドにおいて、指数とのトラッキングエラーを最小化することは必須の責務です。それを実現するためには、特に、インデックス運用を安定的に行える環境構築と、それを使いこなす取引に関する知識や経験が重要になります。

小笠原 環境構築という点では、そもそもインデックス運用は数千にものぼる指数構成銘柄の膨大なデータを扱うため、システム基盤が盤石でないと成り立たない、という側面があります。MSCIなど指数を算出している指数提供会社から提供される情報を組み合わせて、ベンチマークの再現や、数千銘柄に上るポートフォリオの管理といったことを、国、業種、個別銘柄ごとにベンチマークとの乖離状況を正確に把握しながら、維持することが必要です。そのためのインフラ基盤として当社では独自開発のベンチマークの管理システム、ポートフォリオ管理システム、データベースを整備しています。

業務で使うシステムは、部内のメンバーが保守・メンテナンスを行っており、メンバー全員に一定水準のプログラミングスキルが求められるのです。

荻野 ファンドの設定や解約に応じて、ときには数百の銘柄を一度に売買することもあります。その発注に使用するツールも独自開発しています。そうしたツールを使ってファンドとベンチマークの乖離状況を正確に把握することで、指数へのトラック精度を高めています。

――株式の発注について具体的に聞きたいのですが、オルカンのホームページを見ると、構成銘柄は2500社と書いてあります。一般の個人投資家だと、2500銘柄すべてに投資していると思っている人も多いようですが、実際はどうなんですか?

樫村 はい、ファンドではほぼ全ての銘柄に投資しています。ただし、日々の設定解約に対応するために株式を購入する場合においては、資産運用の世界では「最適化法」と呼ばれている手法を用いて売買する銘柄を決めています。これは、コストコントロールの観点から、2500銘柄全ての銘柄を購入するのではなく、銘柄数を絞ってベンチマークとの連動性を維持するやり方です。具体的には、MSCI社が提供している定量的なシステムを使って、売買の内容を作成しています。その売買案をベースにして、実際の注文を出していくことになります。

――システマティックな取引が基本としつつも、ファンドマネジャーの経験に基づく裁量が反映される取引もあるのでしょうか?

樫村 そうですね。システムが7割ぐらいで、人が3割ぐらいをチェックするというイメージです。イレギュラーなこともたくさんあるので、そこはファンドマネジャーがチェックして手を入れる必要があります。運用はシステムと人の両輪で回っているといえます。

新興国市場ならではの特殊要因に翻弄されることも

――イレギュラーなこととは具体的にはどんな事柄でしょうか。

樫村 マーケットが突然クローズしてしまうことがあります。MSCIエマージング指数には、台湾やフィリピンが組み込まれていますが、例年8月から秋にかけて、大きな台風が発生すると株式市場が閉鎖になるケースもまれに発生します。そうしたタイミングに、台湾市場やフィリピン市場で株式を売却していると、資金の受取が遅延してしまいます。そうするとファンド内の資金繰りに影響が出てきます。資金繰りに余裕を持たせるためには、現金比率を高めることが必要ですが、あまり現金を持ちすぎると今度は指数との連動性が低下し精緻な運用ができなくなります。そのため、資金繰りに余裕を持たせながら、指数との乖離を最小化するといったバランス調整が、運用者の腕の見せどころです。

――気象情報も注視しなければならないんですね。

樫村 このケースは季節性があるので、まだ、ある程度は予測できるのですが、以前、2022年にサッカーのワールドカップでサウジアラビアがアルゼンチンに勝利したとき、その翌日が急遽祝日となって、株式市場がストップしたことがありました。世界のさまざまなイベントにも気を配らなければならないなと痛感したエピソードです。

そして、資金繰りという部分では、指数採用銘柄の入れ替え時も非常に気を使います。オルカンの投資対象国は47カ国あり、国によって株式の約定から決済(着金)までのタイミングが違っていたり、市場慣行による独自の休日があるので、たとえ先進国であっても気を抜けません。また、オルカンは運用残高が大きいので、私たちの売買が市場そのものに影響を及ぼすことがあります。そういったマーケットインパクトを極力抑えるために、銘柄ごとに売買の株数を調整したり、注文形態を引け値にするだけでなく分散させたり、といった工夫をしています。

――運用がシステムと人の両輪で回っている、ということですね。よく、オルカンの比喩として、〝世界経済の箱庭”などと言われますけど、ポートフォリオ自体がまさに世界中で起きているニュースの縮図であり、それに機敏に対応するスタンスがトレーディングにも求められるわけですね。ありがとうございました。

Finasee編集部

「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAや確定拠出年金といった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。

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