世界的な半導体メモリー不足、影響はあなたにも

最新AIサーバーに搭載されているサムスンの「広帯域メモリー(HBM)」
もしあなたが1年前、貯金をはたいて数パレット分の半導体メモリーに投資していたら、今頃は少なくとも資金が2倍に増えていただろう。そして価格高騰はまだ続く見通しだ。
この資産が世界でも類を見ないスピードで価値が上がる背景には、人工機能(AI)企業の飽くなき需要がある。これらの半導体、主に「RAM」として知られるもののほか、保存用チップ(フラッシュメモリーやソリッドステートメモリーなど)も併せると、地球上のほぼ全てのデジタル機器が必要としている。そして、その90%以上をわずか3社が製造している。韓国のSKハイニックスとサムスン電子、米マイクロン・テクノロジーだ。
カウンターポイント・リサーチによると、メモリー価格は2025年10-12月期に50%上昇し、26年1-3月期末までにさらに40~50%の上昇が見込まれる。主にばく大なプレミアム(上乗せ額)の支払いをいとわないデータセンター建設事業者が加速させている。
AI企業がメモリーの他の買い手を締め出しており、その予期せぬ影響は、無数の業種に及んでいく公算が大きい。例えば、データセンター計画の遅延や、ノートパソコン・テレビといった消費者家電の値上がり、(コロナ下で自動車業界が経験した危機の再来となりかねない)半導体不足による自動車メーカーの生産の遅れといった影響が考えられる。
「メモリー業界を約20年間追ってきたが、今回は本当に違う」。台湾・台北を拠点に世界半導体業界を追跡するトレンドフォースの調査担当シニアバイスプレジデント、アブリル・ウー氏はそう述べた。「かつてないほどクレージーな時期だ」
軽減される兆候なし
アナリストは昨年、限られた電力が2026年以降の新たなAIスーパーコンピューター建設の主な阻害要因だと指摘していた。メモリー不足にはほぼ注意を払っていなかった。
サムスンはわずか2年前、世界的な需要低迷を受け、メモリー生産工場の新設を遅らせていた。だが25年末には工場の完成を急ピッチで進め、現在は既存の半導体工場の生産能力も拡大させている。

韓国・平沢(ピョンテク)にあるサムスンの半導体工場はメモリーチップの生産を拡大させている
メモリー市場をリードするSKハイニックスは10月下旬、26年の在庫全てがすでに売り切れたと発表した。また、新たな生産拠点への大規模な投資も明らかにした。その費用は過去最高を記録した7-9月期売上高によって賄われる見通しだ。
米アイダホ州ボイシに本社を置くマイクロンのスミット・サダナ最高事業責任者は、同社が数カ月前、顧客であるデータセンターによる26年と27年の需要が「かなり大幅に急増している」のを目の当たりにしたと述べている。その上、機器メーカーはこれまで以上に多くのメモリーを詰め込んでおり、他の全ての用途に対する需要もそれほど急激ではないが着実に増えている。マイクロンは最近、AI向け最先端メモリーの供給に注力するため、パソコン向けメモリーの人気ブランドの生産を停止すると発表した。
マイクロンは16日、ニューヨーク州オノンダガ郡で最終的に1000億ドル(約15兆8000億円)規模になる「メガファブ」(巨大半導体製造施設)の起工式を行った。
今後20年間かけて複数の工場を建設し、全てメモリーチップの生産に充てられる予定だ。
残念ながら、こうした新しい生産能力で27年までに稼働するものはほぼなく、供給に明らかな違いが生じるのは28年以降だと、トレンドフォースのウー氏は指摘する。今のところ、メーカーはAIブーム以前の工場をフル稼働させている。「現在行われているウエハー生産は全て、3年か4年前の投資によるものだ」と同氏は言う。
マイクロンのサダナ氏は「近い将来、顧客の需要を満たせるかという点で、困難な状況を予想している」と述べた。

AIサーバーはHBMを必要とする(写真はマイクロンが製造したHBM)
AIスタートアップ企業もテック企業もこぞってAIスーパーコンピューターの開発でしのぎを削る中――実業家イーロン・マスク氏の「xAI」は最近、ミシシッピ州の巨大なデータセンター施設に200億ドル以上を投じると発表した――アナリストはメモリー価格が1~2年は安定しないと予測している。
だからと言ってアップル、アルファベット傘下のグーグル、エヌビディア、アマゾンといった巨大テック企業のメモリーが底を突くわけではない。多くは相当早くからメモリーを事前購入し、それによって価格の固定と供給保証を実現している。それでも野心的なAIデータセンターを新設する場合、最初はメモリーの数を少なくして建設し、その後にアップグレード(増設)する必要があるかもしれないと、ウー氏は指摘する。
家電の分野では、利益率はすでにかなり低い。より小規模なメーカーは値上げせざるを得なくなり、需要が落ち込む可能性がある。こうした状況は過去2カ月で急速に悪化している。価格高騰が消費者需要を抑える見通しとなったため、調査会社IDCはそれを織り込んだスマートフォンとパソコンの販売台数の最新予想を公表した。新たな最悪シナリオでは、大幅値上げの結果として、2026年のスマホ販売台数は5%減少し、パソコン販売台数は約9%減少する可能性がある。
自動車用電子機器、通信機器などの部品をつくるメーカーは、また別の(しかし関連する)問題に直面している。これらの企業は大抵、より古いタイプのメモリーを必要とするが、メーカーは製造中止に向かっている。もしこのような部品メーカーを経営しているなら、「今すぐ航空券を買い、メーカーからその割り当て分を受け取る必要がある」。半導体メモリー業界に30年以上いるカウンターポイント・リサーチの調査責任者MSホワン氏はこう述べた。「彼らは今、26年だけでなく、27年と28年の生産分も販売している」
状況は非常に深刻で、一部の企業は、米議員が懸念を示しているにもかかわらず、半導体メモリーで中国最大手の長鑫存儲技術(CXMT)からの購入を検討している。中古の半導体メモリーを探している機器メーカーもある。廃棄されたパソコン向けサーバーから古いメモリーを取り出し再生する企業、カラモンはその恩恵を受けている。同社の売上高はわずか数カ月で、月約50万ドルから同90万ドル近くに増加したと、同社幹部のポール・コロナド氏は述べた。
AI需要は続く
IDCのアナリストは、今目にしているのは、サプライヤーの生産能力のAI企業に対する「恒久的な再配分」であり、同時に他の機器から奪うものだと指摘する。
トレンドフォースによると、従来型データセンターとAIデータセンターの双方で、26年に全メーカーが生産する最先端メモリーチップの70%以上を消費し、さらに多くを占める可能性もあるという。
メモリーチップは、それらを搭載したCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理半導体)に比べ、業界では注目度が低い傾向にある。とはいえ、ジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)が率いるエヌビディアや、その製造パートナーで半導体受託製造の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)に利益をもたらしている最先端技術の多くを必要とし、かつて無敵の存在だったインテルに打撃を与えている。

SKハイニックスの親会社SKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長から半導体ウエハーを受け取るジェンスン・フアン氏
次世代技術の「広帯域メモリー(HBM)」が1平方センチメートルを占めるごとに、他の機器向けのメモリー製造に使える1平方センチメートルが減ることになる。「HBMを1ビット余分に製造すると、従来型DRAMの供給を3ビット分失う」と、サダナ氏は述べた。
AIはさらに要求が厳しい。エヌビディアの最新システムは、電子機器の「頭脳」にあたるロジック半導体1個につき最大288ギガバイトのHBMに対応する。スマホの場合は通常8ギガバイト、ノートパソコンは16ギガバイトだ。HBMはよりもうかるビジネスのため、家電メーカーは残りを奪い合わなければならない。
価格高騰は当面続くものの、27年半ば以降のメモリー価格を測るのは難しいと、カウンターポイント・リサーチのホワン氏は言う。同氏の予想では、メモリーチップは間もなく高価な部品の一つと見なされるようになり、スマホなどの電子機器のコスト全体に占める割合が10%未満から30%にまで上昇するという。
AI企業が生産枠を一段と主張する中、問題は、他のメーカーがメモリーにいくら支払う必要があるかということだ。「限界はない」とホワン氏は言う。
***
――筆者のクリストファー・ミムズはWSJハイテク担当コラムニスト