「中古EV」ブームの裏で進む資源流出――実は「中古ハイブリッド車」こそが日本の守るべき宝の山だった?
8兆円規模の中古EV市場
昨今、中古電気自動車(EV)への関心が急速に高まっている。『日経トレンディ』2025年12月号の「2026年ヒット予測100品目」では、中古EVがベスト30の第2位に選ばれた。注目される理由は、新車より安く購入できる利便性だけではない。車載バッテリーに含まれる希少金属を、再利用可能な資源として経済的価値に換える観点が、産業界でも重視されているのだ。
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日本総合研究所がまとめた「EV電池サーキュラーエコノミー白書」によると、この市場規模は2030年に約6000億円、2050年には約8兆円に達すると見込まれている。ただし、中古EVの価値を正確に評価するには、電池の劣化状況を可視化する情報の透明性が欠かせない。
しかし現実は異なる。日本総研の試算では、2024年までに国内で発生した約11万台の中古EVのうち、約8割が輸出されている。国内で資源を回収する仕組みが整わないまま、貴重な資産が国外へ流出してしまっている状況が続く。
見過ごされる200万台の資源

自動車(画像:写真AC)
中古EVへの期待が膨らむなかで、国内に流通する中古ハイブリッド車(HV)の存在感は軽視できない。
軽自動車を含む国内の新車市場では、HVが半数を超えるシェアを維持している。中古車市場を流れる車両の数も、EVとは比較にならない規模だ。HVは走行性能に加え、搭載されるモーターや部品に含まれる鉱物資源の価値という点でも、国内で循環させるべき重要な対象である。
2024年には国内で200万台を超える新車HVが販売されたが、同年の中古HVの輸出台数は約34万台に達し、中古車輸出全体の約2割を占めた。これに対して中古EVの輸出は2万台程度にとどまっている。国内で培われたHVの技術は、新興国で非常に高い信頼を獲得しており、需要の拡大に伴って国外への流出は加速している。
HVを次世代車への過渡的な技術と見るだけではなく、国内に蓄積された精密な電動コンポーネントの集合体として捉え直す必要がある。長年培われた高度な整備技術を背景に、中古HVを資源として再評価する時期が来ている。
中古車の国内資源化の欠如

国内で発生した中古EV台数と輸出台数の累積値の推移(画像:日本総合研究所)
これまでの自動車政策や報道の多くは、EVシフトを前提に新車の普及促進を中心に据えてきた。その結果、国内にすでに蓄積された膨大な中古車を、資源として有効活用する視点が不足している。輸出される中古車の需要は増え続け、2025年の輸出台数は2024年の約157万台を上回る勢いで推移している。
海外での需要拡大や中古車価格の上昇に加え、円安の影響も重なり、国内で再利用するよりも国外へ売却する方が経済的に有利な状況が生まれている。この構造は、希少資源を自ら手放し、将来的な原材料の調達コストを押し上げるリスクを含んでいる。
HVにはレアアースやニッケル、リチウム、コバルトといった輸入依存度の高い鉱物が含まれる。しかし現状では、モーターなどの部材を回収し、再資源化する前提の仕組みや制度は整っていない。新車を販売するだけで完結するモデルから脱し、中古車の国内循環を持続可能な形で仕組み化する必要がある。
年間157万台輸出が示す制度の空白

サプライチェーンのイメージ(画像:Pexels)
課題の本質は、走行方式の違いではなく、国内にある電動車のストックをいかに資源として扱うかにある。年間157万台にも上る中古車の輸出は、現状の市場が車両を単なる移動手段として再流通させる機能に偏っていることを示している。
私たちは今、中古車市場を移動の再配分の場として見るのか、それとも「鉱物資源の供給源」として位置づけるのかという判断を迫られている。
輸入依存のレアアースなどを国内で循環させる制度の構築は、国家戦略の観点から避けられない課題だ。流通量と資源含有量を掛け合わせれば、中古HVが持つ経済的価値は、まだ普及途上にある中古EVを大きく上回る。それにもかかわらず、リサイクル議論はEVに偏っており、市場の実態や回収効率を十分に反映しているとはいえない。
国内にはHVの分解や再資源化に関する技術がすでに確立されている。この強みを活かさない手はない。今後の10年間の戦略は、新車EVの普及だけに焦点を当てるのではなく、圧倒的な量を誇る中古HVを中心に据えた資源循環の形を確立することに置かれるべきだ。
圧倒的な流通量という現実解

電動化に必要な鉱物資源(画像:経済産業省製造産業局)
経済産業省のデータによれば、HV1台あたりのレアアース使用量は約0.5kgで、EVの約0.8kgに比べると6割程度にあたる。1台ごとの含有量は小さいが、圧倒的な流通台数を考慮すると、その潜在的価値を無視することはできない。
HVが搭載する駆動用モーターやインバータは、すでに国内のリサイクル現場で扱われてきた実績があり、技術的な確実性が高い。開発途上の技術を必要とするEV部材の処理に比べ、既存のインフラを活用できるHVの資源化は、現実的な選択肢として成立する。
加えて、バッテリー劣化による価格変動が激しいEVに比べ、HVは中古車としての市場価値が比較的安定している。そのため、資源回収の仕組みを長期的に維持しやすい利点もある。
将来のEV移行を理由にHVを軽視する議論も見られるが、それは新車販売の数値だけに基づいた議論にすぎない。車両の保有から廃車までの長い期間を考えれば、中古HVは国内に長期間残り続けることになる。重要なのは、社会全体でどれだけ多くの資源を確実に回収できるかという実効性だろう。
補助金と解体選択の制度化

自動車(画像:写真AC)
中古HVを国内で循環させるには、実効性のある制度を整備することが欠かせない。たとえば、国内での再利用を前提とした購入補助金を設ければ、消費者の選択を国外流出から国内保持へと誘導できる可能性がある。
加えて、輸出前に車両を解体し、特定の資源のみを抽出できる仕組みを制度化すれば、車両全体の輸出を抑えつつ重要資源を確保できる。こうした仕組みは、国内の資源循環を実効的に進めるうえで有効だ。
産業界には、製品のライフサイクル全体に責任を持つ意識が求められる。メーカーがモーターやインバータの保証期間を延長し、回収を義務づければ、開発段階から再資源化の容易さを意識する動機となる。市場面でも、国内流通を促す価格体系の整備が欠かせない。
輸出による短期的利益よりも、国内での流通に十分なメリットをもたせることで、手頃な車両を求める国内ユーザーへの供給を安定させ、資源の国外流出に歯止めをかけることができる。自動車の製造・販売にとどまらず、資源の循環までを見据えた企業の取り組みが、これからの競争力の源泉となるだろう。
10年後、統合される資源循環産業

自動車(画像:写真AC)
今後を展望すると、5年後には中古HVの解体と再資源化が独立したビジネスとして成立し、国内のレアアース回収率も着実に改善していくと考えられる。さらに10年後には、EVのバッテリー回収とHVのモーター回収が統合され、電動車全体の資源管理を担う産業構造が形成されるだろう。
この変革期に、消費者の価値観も大きく変わりつつある。車を選ぶ基準は走行性能やデザインにとどまらず、その車がどのような資源循環の仕組みに組み込まれているか、企業の姿勢や社会的貢献度にまで及ぶようになる。
環境負荷低減の取り組みが日常的に意識されるなかで、中古HV市場は単なる車両売買の場を超え、日本の産業構造を支える資源供給の拠点としての役割を強めていくはずだ。今、私たちは自動車という資産をどう活用し、どう還元するかという、新しい産業の幕開けを目の当たりにしている。