「週1出社」規定で出社率8割超──KDDIが“強制しない”オフィス回帰を進める理由

新オフィス移転を機に対面重視にシフトしたKDDI。
通信大手のKDDIが2025年7月のオフィス移転を機に、社員をオフィスへと呼び戻す、出社回帰(RTO:Return to Office)にシフトしている。
同社が打ち出したRTOの特徴は、「週1日以上の出社」という従来通りの極めて緩やかなルールのままである点だ。それにもかかわらず、出社率は8割を超えているという。
リモート化で見えた「管理職の孤立」と「若手の不安」
「規定上の変更はない。週1日以上の出社が必須、リモートワークは月16日までという制度は維持している」
KDDI人事戦略部の小林真理奈エキスパートはそう明言する。高輪オフィスの出社率は約82%(10月時点)。オフィス移転前の約7割から、安定して8割を超えるようになってきた。

コーポレート統括本部 人事本部 人事戦略部 エキスパート 小林 真理奈氏。2012年に新卒で入社後、2018年から人事本部に異動し、新卒採用全般に従事。
一部の企業が社内規定を厳格化したRTOによって反発を招いている中、KDDIはこの「緩やかな規定」と「高い出社率」の共存という独自路線を歩んでいる。
KDDIは新オフィスのコンセプトに「Connectable City」(コネクタブルシティ)を掲げた。小林氏は「パートナー企業を含め社内外の人間が1カ所に集い、イノベーションを生み出そうという狙いがある」と説明。新オフィス移転を機に社員の働き方もアップデートし、対面コミュニケーションを重視するようになったという。
なぜ今、あえて出社なのか。KDDIはコロナ禍を経て2つの課題に直面した。多くが日本企業が抱える悩みと共通しているのではないか。
一つは、マネジメント不全とメンタルヘルスの問題だ。
「『マネジメントがしにくい』という声や、体調面の不調、特に精神的に不安定になる人が増えつつあった」と同社人事戦略部の鈴木創部長は振り返る。特に新入社員は、配属されても部署の人と顔を合わせたことがなく、組織に馴染めないまま孤立していくケースが見られた。

コーポレート統括本部 人事本部 人事戦略部長 鈴木 創氏。2022年から人事企画グループリーダー、2025年から現職。
こうした課題は、KDDIに限った話ではない。
厚生労働省の「テレワークにおけるメンタルヘルス対策のための手引き」では、新入社員や1人暮らしの労働者はテレワーク下でメンタルヘルスが悪化しやすいと指摘されている。
管理職側も苦悩していた。部下の様子が画面越しでしか見えないため「悩みや不調のサインに気づけず、結果として後々のリカバリーが必要な事態に陥ることもあった」と小林氏は語る。
もう一つは、「雑談」の喪失による業務品質への影響だ。
「エレベーターですれ違った時に『あの件どうなってる?』などと立ち話で確認する。WBS(作業分解構成図)には書ききれないような微細なタスクが、対面なら拾える」
鈴木部長はそう語る。リモート環境では、意図的に会議を設定しなければ会話が生まれない。コロナ禍ではコミュニケーション不足の結果、ちょっとした認識のズレや、「念のため」の確認が抜け落ち「業務品質の低下やミスにつながっていた側面は否めない」と小林氏も同調する。
「一律強制」を避けた現実的な理由
それでも、KDDIが「週3日以上必須」といった強制的な一律出社に踏み切らなかった理由は、組織の巨大さと多様性にあると、鈴木部長は答える。
「全社一律で『これが最適』と示すのは難しく、示すべきではない」(鈴木部長)
同社には、通信インフラを守るために現場出社が不可欠なエッセンシャルワーカー(店舗スタッフや運用・保守担当)もいれば、自宅のPC環境の方が生産性が高いエンジニアもいる。システム系のエンジニアからは「出社した方が生産性が落ちる」という声もあり、バグ修正などはオンラインで同時接続しながらの方が効率的な場合もあるという。