生命保険のプロフェッショナルは虚構だったブルデンシャル生命、急増する自営型社員の落とし穴

増加する「自営型社員」に鳴らされた警鐘, 格差拡大、組織との不調和……危惧が現実に, ライフプランナーは本当に「プロ」だったのか?, 再発防止の対策にはメリハリを, 「業界のモデル」となるような規範づくりを

プルデンシャル生命保険本社(東京・千代田区、写真:共同通信社)

 プルデンシャル生命保険の社員ら100人以上が顧客から31億円をだまし取った事件は、「保険のプロフェッショナル」を掲げてきた同社のビジネスモデルそのものに重大な疑問を突きつけた。成果主義と自律型の働き方がもたらした光と影とは何か。急増する「自営型社員」の可能性とリスクについて、同志社大学名誉教授で経済学博士の太田肇氏がレポートする。

増加する「自営型社員」に鳴らされた警鐘

 メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ――。産業界はもとより行政もマスコミも、ジョブ型への移行があたかも既定路線であるかのごとく声高に唱える。

 しかし企業の現場を覗くと、製造業や建設業から営業、販売、事務部門にいたるまで、デジタル化の追い風を受けてジョブ型とは異質な働き方が広がりをみせている。

 雇用されていても半ば自営業のように、ある程度まとまった仕事を一人でこなす「自営型社員」。2023年に行ったウェブ調査では、働く人の51.3%が理想の働き方として「自営型」をあげた。ちなみに「ジョブ型」「メンバーシップ型」はそれぞれ32.2%、16.4%だった(拙著『離職ゼロ。「自営型社員」が会社を変える!』より)。

 AIなど最新技術も活用しながら自律的に働ける「自営型社員」こそ、多くの人材を引きつけ、人手不足や若手の早期離職に悩む日本企業にとって救世主になるのではないかと期待される。それだけに自営型社員の典型ともいえる、プルデンシャル生命保険の営業社員・元社員による大規模な不祥事は、新しい働き方の普及に大きな課題を突きつけた形だ。

増加する「自営型社員」に鳴らされた警鐘, 格差拡大、組織との不調和……危惧が現実に, ライフプランナーは本当に「プロ」だったのか?, 再発防止の対策にはメリハリを, 「業界のモデル」となるような規範づくりを

プルデンシャル生命保険の不祥事を巡る経過(表:共同通信社)

格差拡大、組織との不調和……危惧が現実に

 そもそも自営型社員を普及させていくうえでは、不安や課題も少なくない。拙著ではとくに能力や意欲の格差が広がらないか、個人主導の働き方が組織と調和できるか、といった点を指摘した。今回の不祥事では、図らずもそれが現実の問題としてクローズアップされた。

 とくにプルデンシャル生命の場合、一般企業では見られない極端な業績連動型の報酬制度が取り入れられている。

 主に獲得した新規契約によって報酬が決まるフルコミッション制(完全歩合制)のもとでは、個人の能力や意欲によって報酬の格差が大きくなるのは避けがたい。同社が認めているように、それが金銭への関心が強い人を引きつけると同時に、報酬への過剰な執着を生みやすい。

 また、いくら自営業に近い働き方が認められているとはいえ、組織の一員であり、会社の看板を背負って仕事をしていることに変わりはない。自己責任原則が貫徹される自営業、自由業との違いだ。

 今回の不祥事では、個人の利益を追求した結果、会社の看板に泥を塗り、大きな損害を与えてしまったわけであり、個人と組織の利益が調和していなかったことになる。

ライフプランナーは本当に「プロ」だったのか?

 これらが不祥事を招いた大きな原因だと考えられるが、今回の件では問題の核心に、理念とシステムの矛盾があったことは見逃せない。

 プルデンシャル生命では営業に携わる社員をライフプランナーと呼び、客の一生涯にわたって寄り添う「生命保険のプロフェッショナル」を看板に掲げている。

 では、本当に彼らはプロフェッショナルだったのだろうか?

 プロフェッショナル(プロフェッション)とは本来、医師、弁護士、科学者などの職種を指す。これらの職種では自律性や社会的地位、相対的に恵まれた報酬が与えられている一方で、大きな社会的責任や要件が課されている。

 具体的には高度な専門的知識・技術を有していることに加え、倫理的規範に従うことや、能力的・倫理的基準を維持するための職業団体が存在することなどがプロの要件とされる。そして倫理的規範の中には、個人の利益よりクライアントの利益を優先することが含まれている(拙著『プロフェッショナルと組織』より)。

 実際に医師や弁護士が、患者や依頼人の利益より自分の利益を優先して仕事をしたらどうなるか容易に想像がつくだろう。本人が法的、社会的な制裁を受けるだけでなく、医師や弁護士という職業そのものの信頼も大きく揺らぐに違いない。

 それと同じように、ライフプランナーをプロフェッショナルと呼ぶ以上、法令を順守させることはもとより、顧客の利益を第一に考えて営業活動を行わせなければならない。

 今回の件では、もしかすると社員がプロフェッショナルと称されていたため、顧客は無条件に彼らの言葉を信じ、気を許してしまったかもしれない。だとしたら責任はいっそう重大だ。

 それはライフプランナーという職種に限った話ではない。最近はプロフェッショナルという言葉が乱用され気味で、単にその道一筋でキャリアを積んだ者や、専門知識、問題解決力が優れている者をプロと呼ぶような風潮がある。中には組織の看板を利用してお金を稼ぐだけの「プロ」もいる。

 少なくとも社会的責任を担う企業は、そうした世間の風潮とは一線を画す必要がある。プロフェッショナルの原点に戻ることによってはじめて、社会的な信頼とプロとしての社会的地位が得られるのだ。

再発防止の対策にはメリハリを

 今回の件でプルデンシャル生命は記者会見を開き、不祥事の原因について説明するとともに、制度の見直しを含めて再発防止に取り組む決意を示した。これだけ多くの社員や元社員が不正を働いていたのだから、組織やマネジメントの抜本的な改革が必要なのは当然である。

増加する「自営型社員」に鳴らされた警鐘, 格差拡大、組織との不調和……危惧が現実に, ライフプランナーは本当に「プロ」だったのか?, 再発防止の対策にはメリハリを, 「業界のモデル」となるような規範づくりを

記者会見を開き謝罪するプルデンシャル生命保険の間原寛社長(右)とプルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパンのブラッドフォード・オー・ハーン社長(2026年1月23日、写真:共同通信社)

 同社に期待したい点は、何が不正につながったかをしっかりと解明し、対策にメリハリをつけることだ。

「たらいの水と一緒に赤子を流すな」という西洋のことわざがある。同社でも大多数の社員は顧客の信頼に応えて真面目に働いてきたはずだし、自由度の高い環境で能力を発揮して成果をあげられる職場に魅力を感じて転職してきた社員も多いに違いない。世間の厳しい目を意識するあまりに過剰な管理強化に走っては、会社にとっても社員にとっても不幸である。

 会見で同社は営業社員(ライフプランナー)の報酬制度にも触れ、変動が大きく、短期間で多額の報酬を手に入れられる制度に問題があるとの認識を示した。

 仕事の成果が報酬に直結する制度はシンプルで納得性があり、モチベーションを引き出す効果が大きい半面、顧客の利益より自分の利益を優先する姿勢に陥りやすいことは事実だろう。

 とくに顧客との間に極端な情報の非対称性が存在し、専門的な知識や情報を持たない一般の客を相手にする以上、個人的な利益を追求する動機は極力抑える必要がある。その意味でフルコミッションのような報酬制度の見直しは不可避だといえよう。

「業界のモデル」となるような規範づくりを

 それと並行して、社員の自律性を尊重しながら、コンプライアンスを徹底することが求められる。

 少なくとも「生命保険のプロフェッショナル」を標榜するなら、プロにふさわしい倫理観を身につけさせなければならない。それには教育・研修や社内の意識改革だけでは限界があり、正しい行動を担保する制度の枠組みが欠かせない。しかもプロを名乗る以上、社内だけでなく社外でも通用する能力と行動基準を身につけさせることが必要だ。

 保険業界にはプルデンシャル生命と同じような働き方を取り入れている企業がほかにもあるし、今後それが業界に広がっていく可能性もある。だからこそ同社には、他社に先駆けて業界の指針となるような行動規範とチェック体制を構築してもらいたい。

 さまざまな業種で増加しつつある自営型社員の行く末を考えるうえで、プルデンシャル生命の不祥事が残した教訓は大きい。

 自営業の世界では、商道徳や職人の矜持など目先の利益より高い倫理観と仕事の質を優先する志や姿勢が重んじられてきた。社員といえども自分の名前と裁量で働く以上、評判はどこまでもついて回る。

 近江商人の哲学ではないが「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」こそが長期的な利益と社会的な尊敬の獲得につながることを、企業も社員も忘れてはいけない。

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