カナダ人のトランプ氏嫌悪、米スキー産業を直撃-今季の予約大幅減
(ブルームバーグ): トランプ米政権の対カナダ強硬姿勢が、米国観光業に打撃を与えている。全81本の滑走コースを持つ米バーモント州のスキーリゾート「ジェイピーク」は、カナダ・ケベック州との国境から南に車で数分の場所に位置する。平年ならカナダからの訪問客は収益の半分超を占めるほどだが、今年は少し様子が異なっている。
ジェイピークのスティーブ・ライト社長兼総支配人は、昨年の夏ごろ、カナダからの利用者の間で2025-26年向けのシーズンパスの更新率が35%ほど落ち込んでいることに気付いた。危機感を感じたライト氏は約100人のカナダ人保有者に自ら直接電話を掛け、更新しない理由を尋ねたという。
その後、ライト氏はトランプ政権の通商政策を巡る議会公聴会で、この時のエピソードを「多くの人が涙を流し、言葉を詰まらせながら、心情的に米国に行くことにためらいを感じると説明してくれた」と証言した。
同じような事例が、モンタナ州からメーン州まで全米のスキー場で報告されている。米国最大の外国人観光客であるカナダからの旅行者に対し、政治的反感はいったん脇に置いて再びスキー場を訪れてもらおうと、宿泊施設やリゾート運営会社は様々な対応を取っている。予約料金を大幅に割り引いたり、カナダドルを米ドルと同等に扱う決済対応を取り入れたり、フランス語での情報発信を強化したりしている。

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例年、米国のスキー場への訪問者は、カナダの学校が休暇に入る3月にピークを迎える。それまで今シーズンの成否を正式に判断することはできないが、見通しは厳しい。米旅行専門誌トラベル・ウィークリーと米調査会社フォーカスライトが2025年末に旅行会社の経営者や管理職を対象に行った共同調査によると、78%が米国向けの総予約件数が前年の水準を下回ったと回答した。
米業界データ会社イントピアによれば、1月22日時点のデータで、今冬にカナダから米国のリゾートを訪れる予約数は前年同期比で41%減少した。一方で、同じ期間に米国人の予約数は5%しか減少していない。
カナダは「51番目の州」
イントピアでデータ分析を担当するトム・フォーリー氏は、「カナダでは、長年の友人だった米国に裏切られたと感じている人が多い」と話す。実際、イントピアのデータでは、トランプ米大統領が地政学を巡って物議を醸す発言をすると、48時間以内にカナダからの予約が落ち込む傾向が確認されている。
カナダ人の米国回避は、トランプ氏が昨年初めに政権復帰し、「米国第一」を強く打ち出し始めた頃から顕著になった。2月1日にはカナダ製品に25%の一律関税を課す方針を表明し、春にかけてはカナダを「51番目の州」とする発言を繰り返した。こうした動きを受けて、カナダでは米国旅行を控えたり、米国製品をボイコットする草の根運動が広がった。最近のカナダ統計局の調査では、カナダ人が国内旅行を好むようになっていることが明らかになっている。

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カナダ人の米国離れの影響を最も大きく受けているのが、国境に近い米国側の観光地だ。ホテルや観光施設のスタッフは、ワシントンへの反感を和らげようと、通常以上に気を配っているという。観光業が州内総生産(GDP)の約9%を占めるバーモント州では、カナダからの来訪減少により、昨年の収入が約7500万ドル(約115億円)減ったと当局はみている。夏に国境通過や州立公園の利用が落ち込んだ際には、州最大の都市バーリントンでは危機感が強まり、市議会が中心商店街を一時的に「カナダ・ストリート」と改称したほどだ。
州内にあるスキー場施設「キリントン・リゾート」の広報担当、ジョシュ・リード氏は「怒りはバーモント州に対してではなく、米国全体に向けられている」と状況を分析する。米国を訪れるだけで友人から距離を置かれてしまうと感じている観光客もいるという。そのため、リード氏は「(米国のほかの地域とは)バーモントは違うという印象を持ってもらいたい」と語る。
観光需要、短期回復は見込めず
カナダ東部ケベック州モントリオール在住のデータアナリスト、エイマー・オレアリー・バレットさんは、ジェイピークのシーズンパス更新を悩んだ一人だ。2010年以降、2シーズンを除いて常に契約してきた常連だが、今シーズンの更新には「何となく罪悪感があった」という。
最終的に更新を決めたのは、バーモント州がトランプ氏の地盤から離れ、全米でも特にリベラルで、カナダとの結び付きが深いことが理由だった。実際、ゲレンデでは敵意よりも謝罪の言葉を向けられることの方が多かったという。「もしスキーのリフトでMAGA(米国を再び偉大に)帽子の人と話していたら、更新していなかったと思う」と語る。加えて、「米東海岸が『カナダ併合論』の中心になるようなことはないだろうと考えている」という。

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ジェイピークのライト氏は、オレアリー・バレットさんのようなカナダ人スキーヤーが今後もリゾート地の経営を支えてくれると期待を寄せる。シーズン序盤に一時大幅に訪問者数は落ち込んだが、現時点でカナダからの予約減は10-15%減にとどまっている。ライト氏は「カナダ人のなかには気持ちを切り替え始めた人もいるのかもしれない」と楽観的な見方を示す。ただ、実際には積雪に恵まれた影響が大きい可能性が高い。ジェイピークではクリスマス前までに降雪量が5メートルを超えていた。
もっとも、豊富な降雪は常に期待できるものではなく、気候変動で先行きは一段と不透明だ。そして、トランプ氏もまた予測不能な存在である。ここ数週間では、議会の承認を得ないままベネズエラへの軍事介入を実施したほか、グリーンランドの領有を示唆し、北米地図を改変してカナダを米国の一部として描いた画像を自身のSNSに投稿した。
こうした動きを受け、オレアリー・バレットさんは来季のジェイピークのシーズンパス更新を見送ることを決めた。
イントピアのフォーリー氏は「カナダ人の米国への信頼は大きく損なわれており、回復には世代をまたぐほどの長い時間がかかる」と予想する。そのうえで、「カナダから米国への観光需要が近い将来に回復すると期待するのは現実的ではなく、5年や10年といった長期的な視点で戦略を立てるべきだ」と指摘した。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:Canadian Ire Over Trump Taunts Is Spilling Onto US Ski Slopes(抜粋)
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