「ミニ国鉄」と呼ばれた地味な私鉄、なぜ3期連続最高益?――463km抱えて利益率15%の異例経営とは
純利益「3期連続最高益更新」
東武鉄道は2026年2月4日、2026年3月期第3四半期の決算短信を公表した。連結ベースの2025年度第1~第3四半期累計の営業収益は4759億円、純利益は476億円となった。通期見通しについては、営業収益6530億円、純利益520億円を見込み、純利益は従来予想の515億円から約3%引き上げた。
【画像】「えぇぇぇ!」 これが36年前の「東武浅草駅」周辺です!(9枚)
セグメント別では、鉄道を中心とする運輸事業が営業収益2180億円、営業利益283億円。旅行・ホテルなどのレジャー事業は営業収益1894億円、営業利益182億円。不動産事業は営業収益582億円、営業利益146億円。百貨店を中心とする流通事業は営業収益1752億円、営業利益55億円を計画している。
鉄道事業は、定期・定期外ともに輸送需要を着実に取り込み増収となった。一方で、設備の維持管理費の増加が重荷となり、営業利益は減少した。旅行業は国内団体旅行の回復や大阪・関西万博関連の業務受託が寄与し増収となった。ホテル業はインバウンド需要の取り込みと客単価の上昇が進み、増収増益を確保した。百貨店業も国内外の来店需要を取り込み、増収増益となった。
純利益は、政策保有株式の縮減を進めたことなどが押し上げ要因となり、3期連続で過去最高を更新する見通しだ。
首都圏の大手私鉄のなかでは従来「地味で堅実」と評されてきた同社だが、足元では各事業の回復がそろい、業績の強さが数字として表れてきた。
広域路線網による内部補助構造

1都4県にまたがる東武鉄道の路線図(画像:東武鉄道)
その好調のなかで、特に注目すべきなのが本業の鉄道事業である。
東武鉄道の総営業キロは463.3km。首都圏の大手私鉄では群を抜く規模を持ち、伊勢崎線と東上線というふたつの幹線を軸に、東京都、埼玉県、千葉県、栃木県、群馬県の1都4県へ路線網を広げている。東京メトロ経由で車両が乗り入れる神奈川県を除けば、関東地方で東武の電車が走っていないのは茨城県のみだ。
この広大なネットワークには、2幹線に加えて野田線や多数のローカル線が含まれ、大都市近郊から人口の少ない地域までをカバーする。かつて「ミニ国鉄」と呼ばれたのも、その守備範囲の広さゆえである。
同社は路線別の収支を公表していないが、東京直結の2幹線と野田線の収益が、その他のローカル線を支える構図にあるとされる。収益力の高い路線が内部で採算を補い、全体のネットワークを維持する形だ。
今回の決算短信による通期見通しでは、運輸事業のうち鉄道業の営業収益は1638億円、営業利益は244億円となる見込みで、単純計算の利益率は14.9%に達する。幹線の収益で多数のローカル線を支える事業構造を踏まえれば、この水準は際立っている。
しかも、栃木県や群馬県といったエリアはJRとの競合区間が多く、自家用車の普及率も全国でも高い。鉄道にとっては厳しい市場環境だ。そうした地域の路線を内部補助で維持しながら、鉄道事業全体で高い収益を確保している点は、同社の収益管理の強さを示している。
低運賃による地域貢献

看板列車のひとつ・特急リバティ(画像:東武鉄道)
もっとも、鉄道事業は幹線だけ、あるいはローカル線だけで成り立つものではない。両者が一体となって初めて収益構造が成立している。
東武鉄道の看板である特急列車は、伊勢崎線の浅草を起点に日光線、鬼怒川線へ直通し、日光や鬼怒川温泉といった観光地へ利用客を運ぶ。長距離を走行し特急料金を上乗せできる観光列車は単価が高く、伊勢崎線単独では成立しない。観光地と接続する日光線・鬼怒川線があってこそ需要が生まれ、仮に路線単体で赤字であっても、直通特急を通じて幹線の収益に相応の貢献をしていると考えられる。
一方、約100kmに及ぶ伊勢崎線と東上線は、一本の路線でありながら性格が大きく異なる。都心に近い区間は通勤輸送を担う都市近郊路線だが、末端に進むにつれてローカル線の色合いが強まる。実際、伊勢崎線は館林、東上線は小川町や森林公園で運行系統がわかれており、末端区間だけを見れば採算は厳しいとみられる。一本の路線のなかで内部補助が働いている構図だ。
運賃体系も特徴的だ。同じ東武線内であればキロ数に応じた運賃がそのまま適用され、JRのようにローカル線が割高になる仕組みは採っていない。末端区間であっても幹線と同じ基準で運賃が設定されている。
その結果、東武のローカル線では一般的な地方私鉄より低い水準の運賃が維持されている。例えば群馬県内を走る上毛電気鉄道の西桐生~中央前橋間25.4kmの片道運賃は690円だが、東武で同程度の距離を移動した場合は380円にとどまる。東武鉄道は路線を維持するだけでなく、低廉な運賃によって地域の移動コストを抑えてきた存在でもある。
沿線自治体の「恩返し」の有無

東武伊勢崎線・佐野線・小泉線が乗り入れる館林駅(画像:写真AC)
もっとも、ローカル線が幹線の黒字に寄与する構図があったとしても、内部補助には自ずと限界がある。
実際、東武鉄道と同様に400km超の路線網を抱える名古屋鉄道は、近年ローカル線や末端区間を相次いで廃止してきた。500km超のネットワークを持つ近鉄も、一部路線を分離し、第三セクターへ移管している。広大な路線網を維持し続けること自体が、私鉄経営にとって重荷になっているのが実情だ。
東武鉄道は現時点で、既存ローカル線の廃止や上下分離方式への移行を打ち出してはいない。ただし、過去を振り返れば、1968(昭和43)年の日光軌道線、1983年の熊谷線を廃止してきた経緯がある。将来にわたり全路線を維持できる保証はなく、「支えきれない」との判断が下される可能性も否定できない。
一方で、沿線自治体も手をこまねいているわけではない。2007(平成19)年には栃木県と群馬県にまたがる7市と地元商工会議所、東武鉄道が両毛地域東武鉄道沿線活性化協議会を設立し、公共交通の利用促進に取り組んできた。毎週金曜日を「公共交通利用デー」と定め、自治体職員らに鉄道通勤を促す施策も実施している。しかし、アンケートでは「車の方が便利」との声が根強く、利用増に結びついているとはいい難い。
群馬県では2018年、東武桐生線で特急料金を県が負担する社会実験も行われたが、本格導入には至っていない。需要喚起策は模索されているものの、決定打は見えていないのが現状だ。
東武鉄道が鉄道事業で一定の収益を確保できている今こそ、ローカル線を持続可能にする有効な打ち手が求められている。